~素直になれないこの想い~
無人島のバカンス……当初それはエグゼとスネークだけによるハネムーンになるはずだったが、とある人形の策略により阻止された。
おかげでMSFの主だったメンバーが無人島内に集まってお祭り騒ぎ、別な意味で楽しい思い出ができるのであった……が、その恩恵にあずかれない者も何人かはいる。
当初の目的であるラブラブハネムーンを達成できなかったエグゼでさえ楽しんでいたというのに、一体誰がそのような損な目にあったというのだろうか?
その人物は、他のみんなが砂浜でワイワイ楽しく遊んでいるあいだ、宿舎のベッドの上で顔面の痛みに呻っていた。
その哀れな人物というのはFALの事で、
アルケミスト渾身のオーバーヘッドキックから放たれた高威力のボールは吸い込まれるようにFALの顔面に命中、彼女は一撃で退場することになったのだった…。
「うぅ……痛い……」
鼻先に保冷剤を当てながら、幾度となく呟くその言葉。
すっかりやられ役が定着してしまった感のあるFAL、ビキニスタイルの水着はとても色気があるはずなのだがそんなわけで誰もナンパをしにやってくることもない……独身の呪いがかけられているかのような不幸な体質を恨めしく思う彼女だった。
そんなFALの傍には、友人のVectorが一人、うちわを手に風を送っていた。
「くそ……アルケミストのやつ、後で仕返ししてやる…」
「あんたが大人げなくデストロイヤーを狙うからでしょ? ほんとバカなんだから」
「うっさいわね……というか、あんたも一緒にデストロイヤー狙ってたわよね?」
「そうだっけ? まあ、アンタが私の身代わりになってくれたって考えると感謝の気持ちも出てくるよ。代わりに痛い目にあってくれてありがとね」
「どういたしまして、今度からはアンタを盾にするわ」
Vectorの軽口に即座に言い返す……それからまた静けさが戻ってくる。
ベッドに身体を横たえたまま、FALは窓の外から聞こえてくる楽し気な声を苛立たそうに聞いていた。
常日頃エグゼの軍拡にともなう部隊訓練と戦車の整備に明け暮れていた、油や煤まみれで仕事を終えた日も幾度もある……そんな過酷な仕事から解放されて南の島でのんびり楽しくやれると思ったらこれだ、まあ自分が悪いのだが。
ため息を一つこぼしたFALは、傍でうちわを扇ぐVectorをジト目で見つめる。
「なに?」
「別に……あんたも私に構ってないで、外でみんなと遊んだらどう? 退屈でしょ?」
「そうだね、あんたが面白いこと言わないからとても退屈だよ」
「こんな具合で面白いことも言えるはずないでしょ。で、ずっとここでうちわを扇いでるつもり?」
「あんたは嫌なの?」
「嫌ってわけじゃないけど……あんたまで損な役引き受ける必要ないって思っただけよ」
「別に損な役だと思ってないよ。それに、私までいなくなったら独女どころかあんた本当に一人になっちゃうでしょ?」
「なにそれ? まったく、相変わらずアンタはよく分からないわ………でも、ありがとね」
「もっと感謝しなさいよ、FAL」
「はいはい、ありがとうございましたね」
「フフ、あんたやっぱり独女が相応しいよ」
「だーかーら、意味わからないって……痛っ……」
再びFALは顔の痛みに呻き声をあげはじめる…そんな彼女にVectorは静かに風を送り続ける。
静かな宿舎で、二人だけの空間……それっきり会話もなくなってしまったが、vectorはどこか満足げな表情であった。
~白百合の純潔~
月明かりが照らし出す夜の砂浜。
砂浜に打ちつける波の音に混じるのはギターの音色だ。
ヤシの木に腰をかけたMG5は一人、手にするギターのペグを調整し一つ一つの音を確かめていく。
頭に思い浮かぶ、というより記憶の中にあるスコアを思い浮かべそれを繋ぎ合わせて音を奏でる……最初こそ滅茶苦茶な音色であったが、だんだんと音が馴染み一つの曲として成り立って行くのであった。
観衆は誰もいない、静かな海に向けて彼女はギターを奏でていた……いや、聴衆には一人キャリコの姿があった。
キャリコは、ギターを奏でるMG5から少し離れたところに腰掛け静かにその音色に耳を傾けていた。
波の音に混じるギターの優し気な音色がなんとも心地よい。
マザーベースで普段MG5が奏でるギターはロック調の激しいものだが、この時の演奏は静かな夜の海に相応しい落ち着いた音色であった。
夜の砂浜で奏でられる演奏が終わると、キャリコは立ち上がりMG5のそばへと歩み寄る。
「綺麗な音だったよリーダー」
「む、聴いていたのか……思いつきで演奏してたから恥ずかしいな」
「そんなことないよ、凄く心に響いたよ」
「そうか、君がそう言ってくれると嬉しいよ、ありがとう」
「ど、どういたしまして…」
銀髪の髪と白い肌が月明かりに照らされて、いつも以上に凛々しくキャリコの目に映る。
前髪から覗かせる瞳に見つめられると、キャリコは気恥ずかしそうに俯いた。
そんな姿がたまらなく愛おしく、MG5はそっとキャリコのあごに指をやって振り向かせて唇を重ね合わせた…。
「……ん………リーダー……」
甘美な感覚を受け入れようとするキャリコであったが、不意にMG5の唇が離れキャリコは切なそうな声をあげた。
キャリコの頬を愛おしそうに撫でながら、MG5は微笑む……至近距離で見つめ合う構図にキャリコは恥ずかしさに顔を赤らめた。
「そんな見ないで、リーダー……恥ずかしい……」
「かわいいぞ、キャリコ…君の全てが欲しくなる」
耳元でささやくその声と、MG5の吐息を感じたキャリコは全身が熱くなるのを感じた。
彼女の舌が耳元を舐めた時、キャリコは微かにその身を震わせた。
MG5の唇が再びキャリコの口を塞ぐ……一方的に責められるキャリコは両手でMG5の肩を掴み抵抗しているようにも見えるが、力はほとんど入れられておらず、次第にその手はMG5の背中に回されていく。
「はぁ……はぁ……リーダー…」
「またそんな顔をして……どうしてほしいか、言ってごらん…?」
「いつもみたいに、お願い…」
「フフ……甘えん坊だな、君は…」
そっと、キャリコの身体を砂浜に寝そべらせると、MG5はそれまで以上に濃厚なキスを……そしてそれをキャリコも求める。
人気のなくなった砂浜で行われる二人の行為は誰に目にも止まらない、ただ唯一……空に浮かぶ月が二人の情事を眺めているのであった。
~ちび人形とタフガイの恋愛模様~
「キッドさーん! どう、わたしの水着姿! とってもセクシーでしょ!」
黒色のビキニスタイルのBARは炎天下の砂浜の中、マシンガン大好き兵士ことマシンガン・キッドに対し色仕掛けで誘惑していた。
普段は"適当"が口癖で、決して男を誘惑するような女性ではないのだがその時のBARは少々アルコールが入りやや開放的になっている様子。
BARの水着姿は本人が堂々と自慢するだけあって、とても魅惑的…たわわに実った豊満なバストと引き締まったウェストのくびれ、程よい肉付きのヒップはMSF所属の戦術人形の中でもとりわけ目を引く存在だ。
実際、その場にいたMSFのスタッフの何人かは不自然な姿勢で固まっている。
「うむ、いいと思うぞ」
「もー! キッドさん反応薄いってば!」
大してキッドは豪快に笑ってサムズアップで応えるだけ…思っていたような反応がないために、BARは口をとがらせて不満を口にした。
そんな姿を見てほっと安堵のため息をこぼすのは、同じくキッドのことが好きなロリネゲヴである。
「この私が何度もアピールして少しも動じないキッド兄さんだもの、あの程度の水着姿じゃ少しもぐらつかないわよ」
「ネゲヴ、それ自分で言ってて哀しくなりませんか?」
「う、うるさい…!」
MG4の言葉に即座に怒鳴り返す……ネゲヴからしたら一応MG4もライバルの一人、おそらく彼女はまだキッドの事が気になる程度なのだろうが油断はできない。
それに対しBARともう一人のマシンガン人形、M1919はキッドへの好意を明らかにしているので明確なライバルであった。
「うーん……やっぱり男の人って、胸が大きい方が好きなのかな?」
M1919は自身の控えめな胸をふにふに揉みつつ、少々気を落としていた。
「安心してM1919、たぶんキッドにはそこ重要じゃないと思いますから」
「うん、そうだね」
今もBARの誘惑を笑って受け流しているキッドを見て、M1919は自分の些細な悩みを即座に忘れ去る。
「でもこうなるとますます疑惑が深まりますよね…キッドのホモ疑惑が」
「いや、そんなはずは…」
「でもMSFってホモ多いらしいですよね?」
「どこの情報よそれ…」
MG4がどこからそん情報を入手したのか知らないが、おそらく眉唾物の話だろう……というより、そう信じておきたい。
自分が好意を抱くキッドに限ってそんな疑惑があるはずない、というのは願望であるのだが……もしもその疑惑が本当なら女性モデルの自分は到底願いを叶えられないではないか。
「でも確かにMSFってホモ疑惑の人多いよね」
「M1919、あんたも言うの?」
「聞いた話しなんだけど、スネークさんとミラーさんが裸でサウナと甲板で殴り合ったり、デートしたりしてたって聞いたよ? MSFのボスがそうなんだから、下の人も…」
「あーもうやめて! 万が一キッド兄さんがホモだったら男性モデルの義体を用意して条件満たしてやるわよ! とにかくキッド兄さんはわたしの――――」
「なになに? オレがなんだって?」
「ぴゃーーーっ!?」
突然のキッドの登場にネゲヴは驚き、奇声をあげて飛び上がる。
「お疲れさまですキッド、BARは撒いたんですか?」
「はは、BARはストレンジラブに…ほれ、あの通り」
キッドが笑いながら指し示した先には、ストレンジラブに捕まりオイルを全身に塗りたくられるBARの姿があった…いつの間にか現われたストレンジラブは、どうやら片っ端から戦術人形に対しオイルを塗っているようで、放心状態で倒れる人形があちこちで見受けられる。
「これは退散した方がいいですね…!」
「そ、そうだね!」
ストレンジラブに狙われる前に、MG4とM1919はその場から静かに退散していった。
ライバルが消えたのはいいが、相変わらずキッドとの距離感は変わらず……わざとらしくため息をこぼすと、案の定キッドの気を引いた。
「どうしたネゲヴ、退屈か?」
「おかげさまでね」
「そっか、じゃあ少し散歩に行こうぜ」
「散歩?」
疑問を浮かべつつも、好奇心からキッドの後をついて行くことにするネゲヴ。
だが少しして後悔することになる…散歩と聞いてネゲヴは砂浜とか磯部を歩くだけだと思っていたのが、キッドはなんと島の内陸部に向かって、道なき道を歩いていくのであった。
島の中心は岩石質の山があり、どうやらその頂上を目指しているようなのだが、道と言えば獣道……ビーチサンダルのままで来たネゲヴにとっては歩きにくく、また低い背丈が災いして度々キッドの姿を見失いそうになる。
自分の背丈より長く伸びる雑草をかきわけていると、足下の斜面に気付かず足をとられてしまう。
岩肌が剥き出しになった斜面は落ちればひとたまりもない……咄嗟に伸ばしたネゲヴの手を、キッドが即座に掴み寸でのところで滑落するのを防いだがもうネゲヴには限界だった。
「もう! どこまで散歩する気なの!?」
「悪い悪い、もう少しだからさ」
「まったく……足すりむいちゃったじゃない…」
ぎりぎり助かったとはいえ、岩肌で足を少しすりむいてしまった。
文句を言おうと振りかえろうとした時、ネゲヴの小柄な身体がひょいとキッドに持ちあげられてしまった。
「ちょっと、なにすんのよ!」
「足痛いんだろ、オレがこうして連れてってやるよ」
「まったく、どこまで連れてく気よ………いつもいつも子ども扱いするし…」
「なんだって?」
「あんたはいつも私を子ども扱いするって言ったの! まったくもう…」
「お前を子どもだと思ったことなんか、一度もないよ。見た目がどうとかじゃない、お前は立派な大人だろう?」
「な、なによ…キッド兄さんの癖に……朴念仁のくせに…」
思わぬ不意打ちの言葉に心を乱されたネゲヴは急にしおらしくなる。
それに今の状態はいわゆるお姫様抱っこ、キッドの普段の鈍感っぷりから自分が思うような行為によるものではないだろうなと分かってはいても、ネゲヴはそれを拒絶することは出来なかった。
その後は素直にキッドの腕に抱かれたまま、島の道なき道を進む。
そして鬱蒼と生い茂る森に太陽の光が差し込んで来た時、ネゲヴは森の暗さになれた目を咄嗟に閉じた。
太陽の貧しさに慣れて来た時、ネゲヴがその目で見たのはこの島の絶景であった。
どこまでも続くスカイブルーの海、白く輝く砂浜、極彩色の花々、自然に形作られたなだらかな海岸線……南国のこの島を一望することが出来る絶景スポットであった。
「どうだネゲヴ、いい見晴らしだろう!」
「そ、そうね……わざわざこれを見せに?」
「ああ! ミラーさんに教えてもらってな、ネゲヴに絶対見せてあげようと思ってな!」
「わたしにだけ? それって、どういう……」
期待の眼差しでキッドを見上げようとしたが、彼が視線の先…砂浜で遊び回るMSFの仲間たちに手を振って叫んだのを見て口を閉ざす。
小さく映る砂浜の人影はこちらに気付いたようで手を振り返す…。
一応ネゲヴも軽く手を振っていると、キッドに肩車されてしまった。
「おー見ろよネゲヴ、みんな手を振ってるぞ!」
「まったく、どっちが子ども何だか……まあいいわ。キッド兄さん?」
「んん?」
「大好きだよ」
「おう、オレも好きだぞ!」
「はぁ……絶対勘違いしてるわね、これ…」
ジャンクヤード人形の詰め合わせセットやで~!
さーて、そろそろシリアスに行こうか。
ゲームだったらここがセーブポイントだ。
第6章長編【