METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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旧世界の亡霊たち

 赤く錆びついた果てしない荒野、炭化した木々と枯れ果てた木々、白骨化したオオカミの死骸が地面に横たわる……目の前に広がるなじみのないその光景に、デストロイヤーは困惑していた。

 自分の意思で動こうにも動けず、足を動かしているわけでもないのに景色は移り変わっていく。

 地平線の果てまで伸びるひび割れたフリーウェイ、道路わきの鋭利な棘を生やしたサボテン……ここ最近そんな風景を見た記憶がないデストロイヤーであったが、それがなんであるかを徐々に思いだす。

 仲間の部隊を連れ、単独で海を渡り向かった今は滅んでしまった大陸の大地だ。

 

 自分が今なぜこんな光景を目にしているのか、全く想像もつかない。

 考えられるとすれば、これは夢……いや、だが人形は夢を見ないはずだ。

 考えれば考えるほど混乱していく……そうしていると目の前の景色が暗転し、今度は別な風景が目に映る。

 小高い丘の上から見る景色は、先ほどと同じように茶色い荒野が存在するがとりわけ目を引く存在がある……とても大きな湖で、それをせき止める巨大な建造物のダムが見える。

 

(ダム? 知らない、こんなの知らないよ……なんなのこれ?)

 

 これがあの大陸の風景であるのならば、自分はダムなど一度も見たことなどないはずだった。

 これは自分の記憶の回想なのか、不必要と判断し意図的に消した記憶の断片を見ているのか…それともこれは、他の誰かの記憶?

 そう考えた時、デストロイヤーは恐ろしさと不安を一気に感じ取る。

 

(怖い…なんなの、これ!? アルケミスト、助けて…起こして…!)

 

 自分が今寝ているのか起きているのかすらも分からない感覚にパニックに陥る。

 しかしダムを見下ろす視点はいつまでも変わることなく、時間が止まっているかのようにダムの風景がデストロイヤーの目に映り続ける。

 

 どれくらい経った頃か、ダムを見下ろす視点がわずかに動く……その頃になるとデストロイヤーも比較的落ち着きを取り戻しており、視界の中で動く小さな人型を気にするだけの余裕ができる。

 ダムのコンクリート場を歩くのは見覚えのある装甲人形たち……MSFの装甲人形ジョニーと酷似した姿から、彼らが恩人である"南部連合"の軍隊であることが伺える。

 掲げている旗も、実際に南軍旗のものだった。

 

 

『いかれた人形どもめ、連中のせいで我々は近付けない』

 

『制御を外れたとはいえ、自軍の人形と敵対してしまうとはね。大尉殿、どうするんです?』

 

海兵(マリンコ)どもに手を借りるのも癪だ……やはり外部の者を使う必要がある』

 

『ではそのように……既にあのワームは仕込んでありますよ。調べたところ、あのPMCは使えそうです……過去にも一度来たことがある。連中と接触したこともね』

 

『いいだろう、計画をすすめるんだ。これが最初で最後のチャンスかもしれん…ぬかるなよ』

 

『了解です、大尉殿……おっと、私としたことが接続を切り忘れていたようです。まあ、この会話は記憶には残らないでしょう……最低限の情報だけを、あの子に植え付けておきます』

 

『あれを人間扱いするな、ただの人形…機械に過ぎない』

 

『了解です、大尉殿――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝のマザーベースでは、ミラーと97式が率先して朝の体操を行っている。

 いつの頃からか始まったのか、強制参加ではないが一日の始まりに準備運動をすることで寝ぼけた身体を覚醒させられるため、自発的に参加する者は案外多い。

 戦術人形などは目覚めればすぐにいつもの調子で動ける者がほとんどなため、一部の…具体的には404小隊のG11以外ではノリで参加している者ばかりだ。

 

 準備運動が終わった後は各自、食堂に行くなり任務に向かうなり様々だ。

 寝坊助を指摘されて強制参加させられているG11は未だ眠そうな調子で、食堂への道をふらふらと歩いていく。

 歩きながら寝てしまいそうな状態のG11は、案の定通路の角を曲がって来たデストロイヤーと正面衝突し弾き飛ばされてしまった……額の鈍痛に呻いていると、不運にもその現場をエグゼに見られてしまった。

 

「朝っぱらから何やってんだお前は?」

 

「うーん…痛いよぉ……ごめんね、デストロイヤー……って、あれ?」

 

 正面衝突したデストロイヤーを気遣うように見ると、なんと彼女は床にぐったりと倒れたままだ。

 打ちどころでも悪かったのかと不安に思って駆け寄ろうとするが、デストロイヤーはむくりと起き上がる…ただしその足取りはふらふらとしていて、異変を感じたエグゼが咄嗟に駆け寄っていった。

 

「おいチビ助、大丈夫かよ? なんかその、顔色悪いぞ?」

 

「うるさいな……なんでもないってば」

 

「なんでもないわけないだろ?」

 

「本当に何でもないってば…ちょっと寝不足なだけ…」

 

 それ以上かまうな、そう言わんばかりにデストロイヤーはエグゼの手を振りはらってどこかへ歩いていくが、誰がどう見ても体調不良なのは明らかだ。

 ちょうどそこへアルケミストがやって来たのだが、彼女は一目でデストロイヤーの異変に気付いたらしい。

 神妙な面持ちでデストロイヤーへと歩み寄ると、しゃがみ込んで肩を抱く…。

 

「姉貴には言えるだろデストロイヤー? なんか悩み事でもあるのか?」

 

「何度も言うぞデストロイヤー、どうかしたのか?」

 

「悩み事って言うか………あのさ、アルケミスト……私らって一度でもダムに行ったことってあったっけ?」

 

「ダム? なんだってそんなことを…?」

 

「ここ最近、いつも寝て起きると記憶にないダムが頭に浮かぶの。それに起きた後はいつも頭が痛いし…」

 

「ダムなんて、行ったことは無いはずだが……一度ストレンジラブに診てもらおうか?」

 

「別に、私おかしくなんてなってないよ…! ちょっと、疲れてるだけかも」

 

「じゃあ疲れを取りに行こう。あたしもたまに疲れが取れない時があるからね」

 

 アルケミストに言われればデストロイヤーも素直に聞き入れる。

 G11とはその場で別れて3人は研究開発棟内のストレンジラブ博士のラボへと向かう……そこで事情を説明し一応検査を受ける。

 デストロイヤーの様子から博士も何かを察したらしく、真面目に彼女の検査を執り行うのであった。

 

 

 

 三日後、デストロイヤーは調子を取り戻したようで顔色も良く、軽快な足取りで食堂へと向かっていた。

 あれからアルケミストが寝る時以外にも付き添ってあげているのだが、今のところ異変はない。

 本人が言う通りただ疲れていただけなのかと思いたかったが、あの時デストロイヤーが口にした"記憶にないダム"のことが引っ掛かっていた。

 

 

「よお姉貴、今日も元気か?」

 

「おはようエグゼ、今日は朝から元気だな」

 

「オレはいつでも元気だろ? ところで、あれからデストロイヤーの調子はどうだ?」

 

「ご覧の通りさ。さて、どうしたもんかね? ストレンジラブの検査結果が出るまでなんとも言えないな」

 

 

 検査結果は三日もあれば出るというが今日がその三日目だ。

 人形関連の緊急事態については常に全力で取り組むストレンジラブのこと、おそらく入念に検査結果を分析しているのだろう。

 朝食を食べ終える頃になってストレンジラブから連絡が届いたために、アルケミストは一人彼女のラボへと向かい、検査の報告を聞くのであった…。

 

 

「……異常なし…か」

 

「細かい部分まで調べたがどれも正常そのものだった。本人の言うところの疲労の蓄積もあり得るのかもしれないが」

 

「そうか、ありがとう博士。安心したわけじゃないが…」

 

「また何かあったら遠慮なく言ってくれ。ああそれとデストロイヤーに後で伝えて欲しいんだ」

 

「なんて伝えるんだい?」

 

「あの子が以前欲しがってた新しい義体についてだ。とびっきりかわいくて、とんでもなく強くて、最高に華麗な義体…が注文内容でな」

 

「何を注文してるんだあいつは?」

 

「背伸びしたい年頃なんだろう。それでその義体データが鉄血から持ち帰ったデータにあってな、本家に比べると性能は落ちるが作り上げることが出来たんだよ」

 

「へえ、大したもんじゃないか。どこにあるんだそれは?」

 

 そう聞くと、ストレンジラブは誇らし気に彼女を案内するのだ。

 AIの専門家であり、AIに関しては他に並び立つ者がいないと言われるほどの研究者な彼女のわがままはほとんど通ってしまう…今やMSFには欠かせない無人機と戦術人形の運用は、彼女なくしてありえないからだ。

 さて、ラボの奥に安置されているデストロイヤーの新規ボディーを見つけた時、アルケミストはおもわず顔を引きつらせる…。

 

 容姿はまさにデストロイヤーをそのまま大きくしたもので、それと同時にある部分も大きくなっている…。

 背丈はアルケミストとほとんど同じか、若干大きいだろうか?

 

「どうだ、かわいいだろう?」

 

「これにあいつが入り込むことは考えたくないね……見慣れた姿の方がずっといい」

 

「ははは、本当は妹分に見下ろされたくないだけなんじゃないか?」

 

「あぁ? 殺すよお前?」

 

「うっ…すまない、口が過ぎたようだ」

 

「まったくデストロイヤーの奴め……まあ、あいつもいつまでも守られる立場でいたくないってことか」

 

 自分に黙ってこんな注文していたのは少し頂けないが、デストロイヤーなりに考えてのことだろうと結論付ける。

 

「アルケミストも注文があれば強い義体を開発してみるが?」

 

「いや、あたしはこの体がいいんだ。生まれてこのかた一度も壊したことは無いからね…」

 

「そうか、そうだったな。まあ何かあればまた言ってくれ」

 

 自分自身はここに世話になることは無いだろうが、何かと怪我してくるエグゼやデストロイヤーには重要な設備だろう…アルケミストはストレンジラブに手を振りながらその場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ416、私のパンツまたなくなったんだけど知らない?」

 

「私が知るわけないじゃない、ジョニーにでも聞きなさいよ」

 

 ところ変わって宿舎エリアの甲板にて、日陰で読書する416に最近手に入れたばかりのパンツ紛失の件を相談するUMP45。

 最近はなりをひそめていたのだが、忘れた頃にパンツがなくなるから困ったものだ。

 

「まったく、私は小隊のリーダーなのよ? 少しは敬意を払って仕事をしなさい、それじゃG11と一緒よ?」

 

「少なくとも私の仕事はアンタのパンツを探すことじゃないわ」

 

「まあいいわ、ジョニー出てらっしゃい」

 

 UMP45がそう言うと、甲板の排気ダクトが勢いよく開かれてちょうどその真上にいた416が吹き飛ばされる。

 排気ダクトから這い上がって来たのは装甲を纏った紳士ことジョニーである。

 最近は404小隊が任務に出ないせいで彼もニート化しているが、一応本人曰く45姉のために働いているとのこと…。

 

「ご命令を! 45姉!」

 

「こらジョニー! いきなり私を吹き飛ばすんじゃないわよ!」

 

「む、416かよ……運が良かったな巨乳のおかげクッションになったようだ」

 

「頭から壁にぶつかったわ、死ね鉄くず」

 

 相変わらず犬猿の仲な416とジョニー、まあジョニーに言わせれば巨乳の416は眼中にないのだが。

 かといって貧乳なら誰でもいいというわけでもなく、スコーピオンやデストロイヤーなどにも見向きもしない…要するにジョニーはUMP45とUMP9だけを気に入っているというわけだ。

 敬礼を向けるジョニーに対しUMP45は指示を下す。

 

「ジョニー出番よ、私のパンツを探して見つけてきなさい。もし犯人がいるならぶちのめしてもいいから」

 

「了解! これより45姉のパンツを探しだす任務を開始します! 嗅覚センサー作動……スキャン中……」

 

「ちょっと待って45、こいつ匂いで探すつもりよ…それでいいの?」

 

「うっ、ちょっと待ってジョニー…それ以外の方法で――――」

 

 さすがに匂いを辿られてパンツを探されては困る…見つかるのはいいが、社会的な問題が大きい。

 慌ててジョニーを引き留めようとしたUMP45であったが、突然ジョニーは直立不動の姿勢をとる…ジョニーの急な動作に驚いていると、彼のスピーカーよりなにやら音楽が流れてきたではないか。

 その音楽は最初分からなかったが、古き良き時代の歌……アメリカ合衆国の愛国賛歌だと気付く。

 

「ちょっと、ジョニー? どうしたの?」

 

「この鉄くず、ついに壊れたのかしら?」

 

 二人の声に一切反応せず、ただアメリカの愛国賛歌"星条旗よ永遠なれ"が流れ続ける。

 そして…。

 

 

『第1機甲師団司令部より第2旅団戦闘団アイアン・ブリッジ所属の全兵士へ。この通信を傍受した者はネバダ州"フーバーダム"へと急行せよ、繰り返すフーバーダムへと急行せよ』

 

 

 スピーカーからの声が鳴り止むと同時に、愛国賛歌の音も止む。

 すると、ジョニーは何ごともなかったかのように先ほどUMP45より受けた任務を実行に移すのであった…。

 

 

「45…今のは…」

 

「フフ、動いたようね……416、みんなに伝えなさい。ニート期間は終了、準備をしなさいってね」

 

 

 




デストロイヤー・ガイアのフラグがたちましたね…。
過剰戦力という意見もありそうですが、これでも戦力が足りないくらいですよ…。


というわけで、この第6章もいよいよ終盤へと近付いてきましたね。

合衆国対正規軍、という基本的な対立構造に加え鉄血、MSF、グリフィンが絡んでいくでしょう……この日のために備え続けてきた優しいヘビのお姉ちゃんも動くことでしょう。
鉄血のシーカーも暗躍しますね…。


では、いよいよ始まります……Civil War。

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