テキサス沿岸の上陸地点、ニューメキシコ州との州境近くに設営されたMSFの仮設駐屯地。
上陸地点から目的地となるフーバーダムまでの距離は直線距離でおよそ2000㎞、陸路で行こうが空路で行こうが果てしない距離がある…大型航空機によって移動をするにしても、米国にあるほとんどの滑走路は使い物にならず、また補給も行うことが出来ない。
そこで目的地までの間にいくつかの補給基地を設営することとし、移動に使用するヘリの給油や物資の補給を行えるようにする。
ニューメキシコから今度はアリゾナ州の最大都市フェニックスの郊外、そこに第三の補給基地を設営している最中であった。
大戦前は栄えていたフェニックス市も、管理する人がいなくなったことで荒廃しいくつかの建物は砂に飲まれて埋まっている。
フーバーダムに繋がるコロラド川の支流近くに補給基地を設営し、貴重な水源を確保するとともに高台には監視所を設け周囲への警戒も怠らない。
野戦服に身を包むスネークは手元のガイガーカウンターが示す指標を確認する。
どうやらこの辺一帯は放射能汚染の影響も少なく、川を流れる水も放射性物質は含まれていない。
放射能に耐性のある人形たちと違い、被ばくした経験があるとはいえ生身の人間であるスネークは汚染については注意を払わなければならない。
「スネーク、準備できたよ!」
背後からかけられたその声に、スネークは振りかえる。
スネークに声をかけたのはスコーピオンだ、彼女はいつもの格好に大きめのリュックサックを背負い愛用のスコップや給水タンクを備え付けている。
「少し荷物を持ち過ぎじゃないか?」
「うーんそうかな? キャンプセットでしょ、調味料でしょ、お鍋に缶詰に裁縫セット!」
指折り数えているスコーピオンであるが、いくらなんでも荷物が多すぎる。
あって困ることは無いが、大量の荷物によって機動性が失われ重い荷物を運ぶことによる体力の消費も懸念されるのだ。
スコーピオンのリュックサックを預かり、持ってきた荷物を厳選し最終的にバッグパック一つにおさまる程度の荷物にまとめる…缶詰は二つ、あとは最低限の医療キットと水があればいい。
現地調達が基本だと教えられるスコーピオンは文句を言いながらも、最終的には納得してくれた。
しかし愛用のスコップは手放さない、自分の半身とも言うべき銃より大事にしているのだからこの戦術人形は本当に烙印システムが施されているのか疑問に思える時がある。
準備も整ったところで出発しようとした矢先、二人をエグゼが呼び止めた。
エグゼは車両の列の間に置いてある一台のバイクを、二人に貸し与える。
「オレ様のバイク貸してやるよ。ただし壊すんじゃねえぞ?」
「へえ、気がきくじゃん! ありがたく拝借するよ!」
「おいサソリ、これはあくまで任務だからとやかく言うつもりはねえがよ…オレがいないすきにスネークにちょっかいかけやがったらただじゃおかねえからな?」
「うっさいな、あんたは45とイチャイチャしてなってば!」
あいにくUMP45含めた404小隊はまだアメリカ本土には上陸せず、テキサスの沿岸に停泊する揚陸艦の中だ。
ハンター率いる降下猟兵大隊と無人兵器が分散し各拠点の警護を行っているが、いまだ南部連合との接触はない…404小隊は情報収集のため、独自に動く予定だ。
「気をつけろよスネーク。それとスコーピオン、頼んだぜ?」
「もちろん」
スネークの後ろにまたがるスコーピオンは、エグゼとハイタッチしスネークの護衛という大役を引き受ける。
以前は守られてばかりだった人形たちも、自分のことはもちろんスネークの背をカバーできるだけの力は身に付けてある……翻弄され、踏みにじられてばかりのか弱い人形はもうここにはいないのだ。
スネークが愛用の葉巻をくわえると、エグゼよりライターの火が近付けられる……彼女の厚意を受けて葉巻に火をつけ、煙を口内に含む。
それからエンジンを起動させると同時に、紫煙を吐きだした。
「行ってくる、ここは任せたぞ」
「ああ、オレに任せろ」
砂漠を通るハイウェイを、スネークが運転するバイクが走りぬける。
周囲には遮るものもなくどこまでも続く砂漠とたくましくのびるサボテンがある…照りつける太陽の日差しは暑いが、湿度はほとんどなく風も吹いているために体感的にはそこまでの暑さは感じられない。
管理されず十年以上も放置された路面はところどころ陥没しひびが割れている、エグゼから貸してもらったバイクを壊さないようできるだけ平面を選び走りぬける。
ハイウェイのなかに、一軒だけぽつりとあるガソリンスタンドを見つけると少しの休息を求めてスネークはバイクを停めた。
バイクを降りたスコーピオンは片手にスコップ、もう片方の手に自身の銃を持ち店内を伺う…。
店内は荒れ果てており、陳列棚が倒れ割れたガラス片が辺り一面に散乱している…毛皮と骨だけになった動物の死体が一つ、それから人間の白骨化した死体が二つある。
カウンターを見ればこのガソリンスタンドを運営していたと思われる夫婦とペットの愛犬が映る写真がある。
遺体はおそらく……立てかけられていた写真を伏せると、スコーピオンは奥の倉庫まで隅々探索し、そこに敵がいないことを確認するのであった。
「クリアだよスネーク」
「ああ。少し休憩をしていこう」
日暮れまでにはまだ時間があるが、補給基地から出てバイクを走らせてから何も食べていない。
バイクに乗っているだけとはいえ、直射日光をと外気をまともに受けているだけでも空腹感は生まれるもの…すっかり腹ペコなスコーピオンはさっそく缶詰を用意するのだが、スネークが待ったをかけた。
「それはいざという時のためにとっておけ。食糧確保は現地調達が基本だ」
「現地調達って言ったって…こんな砂だらけのところになんかいる?」
そういえばサバイバル術はあまりスコーピオンに教えていなかったなと、スネークは思う。
というより戦術人形たちは基本的に補給面で恵まれた環境で任務につくことが多いため、このような事態を想定することは無かったと言っていい……唯一、狩人の名を冠するハンターがスネークに近いサバイバル術を体得しているくらいだろうか?
獲物が逃げてしまうため、スコーピオンにはそこで待ってもらいスネークは一人ガソリンスタンド周辺に生息する動物を探し求める…長年の経験と勘からスネークは獲物がいそうな場所に目星をつける、食べることができそうな獲物はすぐに見つかった。
捕まえた獲物は二種類、北米の砂漠に広く生息するサソリとヘビだ。
意気揚々とサソリとヘビを持ってきたスネークに対し、さすがのスコーピオンも微妙な表情を浮かべるのであった。
「スネーク、それ狙って捕まえたの?」
「そんなことはない。こっちのサソリは確か毒があったはず…こっちのヘビは、"キングスネーク"という名だったか? ガラガラヘビも捕食する大型のヘビだ」
「それ、美味いの?」
「なんだって?」
「美味いのそれ?」
「それをこれから確かめるんじゃないか」
「えぇ……」
ノリノリでサソリとヘビを捌き始めるとスコーピオンも諦める…。
最初火も通さずに食べようとするのを全力で阻止し、慌てて火をつけてサソリとヘビを焼く……生理的には受け付けられないが、こんな環境の中ではどちらも貴重なたんぱく源だ。
何度か躊躇したスコーピオンは、まず蛇肉に食らいつく。
「どうだ?」
「悔しいな……なんか意外に美味いや」
「だろう! サソリも食べてみろ」
「さすがに共食いは無理ッ!」
毒針をもいだサソリを勧められるがさすがに食べられない…やや残念そうなスネークが代わりにそのサソリを食べたのだが、微妙な表情を浮かべる、あまり美味くなかったのかもしれない。
結局、二人で残ったヘビを仲良く食べることになる…食べている間スコーピオンは共食いをネタにスネークを弄る。
そんな時だ、荒野の遥か彼方より爆音を響かせる一団が現れたのは。
咄嗟に焚火を消し、バイクをガソリンスタンド内に隠し入れて二人は銃を構えて外を伺う…。
荒野の向こうから数台ものバイクとバギーに乗って現われたのは、全身にタトゥーを施し素顔をマスクで覆い隠す奇抜な格好の人間たち…喚き散らす彼らの後方からは銃座を取りつけた装甲車が追跡し、前方を走る彼らに容赦のない銃撃をくわえている。
爆音と銃声に混じり、空を切る甲高い音が響く。
咄嗟に空を見上げたスネークが見たのは、上空から勢いよく滑空してくる航空機のような兵器…航空機はほぼ垂直に急降下してくると、逃げるチンピラの一団にミサイルを撃ちこみまとめて吹き飛ばしたではないか。
ミサイルを撃ちこんだ航空機は地面すれすれをかすめて再び上昇、後続として飛来してきた航空機は進行方向とは逆に推進剤を噴射させて速度を落とすと、それまでの航空機のような形態から4足歩行の昆虫のような形態へ変形し地面に降り立った。
「なんだあれは…!?」
「わ、わかんない! 前に見た時はあんなのいなかったはず…!」
変形可能な航空機など正規軍の中にも存在しない。
地上に降り立ったその変形式の兵器は、器用に4脚を動かし、生き残ったチンピラを見かけると至近距離からレーザーを撃ちこむか踏みつけてその息の音を止める。
その間、装甲車より降り立つ軍用人形たち…ジョニーに酷似したその人形たちはスコーピオンも見覚えがあるもの、掲げられた
「付近に生体反応あり。生存者かもしれん…捜索を開始する」
一体の人形がそう言うと、可変兵器と軍用人形はガソリンスタンドの方を向いた。
「そこに隠れているのは分かっている。抵抗は無意味だ、今すぐ投降せよ」
スネークとスコーピオンがそこに隠れていることはばれていた。
二人は知る由もなかったが、軍用人形は生体反応センサーを用いることでいかに高度な偽装を施そうとも一発で索敵を可能とする……不利を悟ったスネークは銃をしまい、両手をあげてゆっくりとガソリンスタンドを出ていった。
「撃つな、オレは敵じゃない」
「敵かどうか決めるのはお前ではない。所属を明らかにせよ」
「
「MSF…? 聞き覚えがあるぞ……確認中」
「やあ、えっと南部連合の人形さんたち。スコーピオンだよ、いつだかはお世話になったよね!」
「君も見覚えがある…スキャン中…認証完了。思いだした、君は以前テキサスであった戦術人形の一人だね?」
スコーピオンを認識したことで南部連合の兵士たちは一斉に警戒を解除、可変兵器もスネークらから遠ざかるとその場を飛び立ち遥か彼方へと飛び立って行ってしまった。
「ようこそアメリカへ。再びこのように会えるのを楽しみにしておりました、我々の忍耐強い作戦行動により祖国
「
「えっとね、何かこの人形たちAIがバグってアメリカ合衆国じゃなくて自分たちを南部連合って言ってるんだ。一応無害だから話を合わせてあげて?」
そっとスコーピオンに耳元でささやかれ、スネークは不可思議に思いながらも頷いた。
旧軍の生き残りである彼らが掲げるのは何故だかかつてこの北米大陸に存在したアメリカ連合国、南軍旗の旗だ……奴隷制排除を掲げた合衆国と、奴隷制維持を掲げた連合国、戦術人形である彼らが南軍旗を掲げているのには皮肉なことだ。
再会を喜ぶ南部連合兵士をじっと観察するスネークであるが、彼らは心からこの邂逅を喜んでいるようだ…戦術人形のみんなの言う通り、祖国の復興を願うまともな勢力に見える。
ひとしきり再会を喜びあったところで、南部連合の人形は態度を改めあるお願いをスネークらに依頼するのであった…。
「実は協力して貰いたいことがあるのです。我々は最近ネバダのフーバーダムを制圧しましたが、稼働できる状態にないのです。もしあのダムを稼働することができれば、周辺地域に電力を送ることができ、復興活動を促進させることができます」
「何故自分たちでやらないんだ? 君らほどの技術があるならできそうなものだが…」
「もどかしいことに、我々は秩序を取り戻すことは出来てもそれ以上の行動を起こせるプログラムが入れられてないのです。我々に本来許されているのは部隊の展開と治安維持活動のみなのです」
「つまり、君らが願う本当の意味での復興を成し遂げるには、第三者…具体的には主人であるアメリカ人が必要だと?」
「ええその通りです。我々は長く待ち続けました、主人の帰還を……それも今日で終わりです、我々はあなたを歓迎します。失礼ながら、先ほどあなたをスキャンさせていただいた際
「あんな一瞬で分かることなの? アメリカってすごいなぁ…」
「以前、我々に接触した勢力にアメリカ軍と称する者たちがいましたが、我々のプログラムは彼らを敵対勢力と認識しました。よって彼らを遠ざけました、これ以上我々の祖国を滅茶苦茶にさせるわけにはいきません。出来るだけ早く復興を進めなければならないのです」
彼のその言葉に、スネークとスコーピオンは互いに顔を見合わせる。
もしも予想が正しければ、彼ら南部連合に接触した勢力というのは正真正銘の……。
「ところで道中、不審な人物を二人ほど捕らえたのですが心当たりはあるでしょうか?」
「不審な人物? いや、ここにはオレたちだけ…ここからテキサスの間にオレたちの仲間がいるが。どんな奴だ?」
「はい、カリフォルニアの方角よりやって来た二人です。自転車をこいで怪しい身なりでしたので逮捕しました…確か一人は自らを"アーキテクト"と名乗っていました」
「そいつは今どこに?」
「はい、逮捕した時から大騒ぎするものでしたので、フーバーダムに用意した野営地の収容所に送られたはずです。我々には捕虜を裁く権限はありませんので、いまも存命かと。それにしてもあの二人は運がいいですね、もしも
「アーキテクト……あぁ、あのアホそうな鉄血ハイエンドモデルか…」
「知ってるのかスコーピオン?」
「うん、至近距離からRPG-7撃ちこんでぶっ殺したはずなんだけどね。たぶんダミーだったのかな?」
以前、鉄血と無人地帯を挟み死闘を繰り広げた際、スコーピオンはアーキテクトと戦っていた。
そういえば、エグゼがウロボロス邸で出会ったとか言っていたのを今更ながらスコーピオンは思いだしたが、すぐにどうでもいいことだと頭の隅に追いやった。
「ではお二人とも、是非ともフーバーダムにいらしてください。あのダムを稼働させるのに、是非とも力を貸していただきたいのです」
「はいはーい!」
元気よく返事を返しつつ、スコーピオンは一瞬だけスネークに真剣なまなざしを送る。
さっきまでの会話から、自分たち以外の勢力も動き始めたことを二人は察する……他の勢力が狙おうとしているのは何か、それを確かめにフーバーダムに赴くのだ。
早々に捕まえられるハイエンドモデルの鏡()
あとこれ注意なんですが、作中の展開次第では未実装の戦術人形の登場もあり得ますのでご了承ください。
正規軍側にもネームドキャラが必要だ。
今回登場したアメリカ軍の無人機の解説です
・可変翼式自己推進型作戦支援機 ドラゴンフライ
昆虫のフォルムに似たこの無人機は、飛行形態と歩行形態とに変形することが出来る他に類を見ない米軍独自の航空戦力。
パイロットを必要としないこの無人機は、搭載されたAIによって制御され高度な作戦立案には不向きながら、ターゲットされた目標を無慈悲に破壊する恐ろしい性能を持つ。
追尾式ミサイルや連射式レーザー砲を有し、攻撃機や爆撃機、迎撃機などのタイプが存在する。
従来の兵器カテゴリーに含まれない新たな兵器であるドラゴンフライは、優れた量産性により大量運用を想定しているが、南部連合はごく少数の運用をするのみ……全体の90%以上は、地下基地で眠りについている。
※イメージ的にはスター・ウォーズのヴァルチャー・ドロイド・スターファイターです。