METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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狂笑

「ふあ~…んん……ふぅ」

 

 最新鋭主力戦車M10A1マクスウェルの砲塔部にあぐらをかいて座るFAL、彼女の大きなあくびを間近で見ていたVectorは読んでいた本を閉じると呆れたようにFALを見つめるのだ。

 そこで何か言おうと口を開きかけるも、かける言葉が浮かばないのか結局何も言わずに再び読書に戻る。

 

「あー……暇だわ」

 

「そう思うならなんかやってよ。あんたは暇で欠伸が出るだけかもしれないけれど、私は暇すぎてメンタルモデルが崩壊しそうだよ」

 

「この程度で壊れるメンタルならとっとと見切りつけた方がいいと思うわよ?」

 

「独女に相応しい冷徹な暴言だね。あんたがパートナーを見つけてもきっと5秒で破局するよ」

 

「うっさいわね、あんたに私の何が分かるって言うの?」

 

「分かるよ。昨日寝た時間も今朝何を食べたかもここにきて誰と何をしゃべったとか、あと今日のアンタのパンツの色は赤だよね?」

 

「あんたが時々恐ろしくなるわ…」

 

 涼しい顔で言っているが内容はとても酷いものだ。

 まあ、アメリカに渡ってからもFALとVectorは同じ部屋で寝泊りをしているのでプライバシーなどあってないようなものであるが。

 補給基地が完成した後は、ハンター率いる空挺大隊も分散し各補給基地の防衛と周辺パトロールを行うため各所に配属されている。FALとVectorは本来上陸地点である港に配属されていたのだが、アルケミストとデストロイヤーがフーバーダムの方へと移動してしまったため、FAL専用のマクスウェル戦車一台と装甲車や輸送トラックのみを引き連れてコロラド州に設けられた補給基地にやって来たのだった。

 見渡す限り茶色い荒野が続く…。

 来た当初はどこまでも続く地平線に感動したものだが、そんなもの2日で飽きてしまう…今は暇つぶしのネタを考える以外にすることは無い。

 

「んん?」

 

「どうしたの独女?」

 

「ねえ、あっち…誰かこっちに向かってきていない?」

 

 読んでいた本を足元に置き、Vectorは即座に双眼鏡を手に取るとFALが指さした方角を伺う。

 強風で巻き起こされる砂塵で良く見えないが、確かに何者かが補給基地に向けて近付いてきていた…FALはすぐさま部隊内の通信機能を用い戦闘態勢を取らせ、自身は砲塔の蓋を開きマクスウェル戦車に乗り込んでいった。

 

「Vector、まだ相手ははっきりしない?」

 

「砂塵が酷くて見えないよ……あ、待って……FAL、警戒を解除しても大丈夫だよ」

 

「報告しなさい、相手はだれ?」

 

「UMP9とG11だ」

 

 二人の名を聞いたFALは戦車内でほっと一息つく、先ほどの倦怠感から急な緊張を持たせるとたとえ何もなくても疲れるもの。ここはアメリカ、いつ襲撃があってもおかしくはない場所である…変化のない毎日の中でどうしても危機意識が薄れていく状況にFALは少し不安を覚える。

 砲塔の蓋を開けて顔を出すと既にそこにVectorの姿はなく、補給基地を囲む土嚢の傍でUMP9とG11の出迎えに行っていた。

 すかさず、FALも二人の出迎えに向かう…普段あまり接点のない404小隊だが、変化のない毎日に少しの刺激を求めて挨拶を交わす。

 

「やあ二人とも、元気そうね。45と416は一緒じゃないの?」

 

「45姉はジョニーを連れて探索に出てるんだ」

 

「そうなの。二人は何をしてたわけ?」

 

「一応私たちも同じように探索だよ。米軍の秘密基地を探してたんだけど、見つからなかったの。それで、ここで一旦休んでいこうって」

 

「お疲れさま、G11も珍しく…寝坊助になってないのね?」

 

 普段の気だるそうな様子とは打って変わり、今のG11はしっかりと目を開き周囲に目を向けている。

 ただ少し警戒感が見える様子にFALもVectorも違和感を覚える。

 

「どうしたのG11? 珍しくやる気だしてるのかしら?」

 

「うん……だってここじゃ一瞬も油断できないから。それに、たぶん今も見られてる」

 

「見られてる? 一体誰に?」

 

「それが分からないんだよ。罠を仕掛けて待ち伏せしたしやり過ごそうともしたんだけど、全然かからなかったし。45と416の代わりに私たちが追手を引きつけたんだよ」

 

「気のせい、だったりはしない?」

 

「そうだといいんだけどね。人形の私たちが言うのもなんだけどさ、こういう仕事してるとなんとなく気付いちゃうんだよね。45姉と416が真っ先に気付いたんだけど」

 

「ニートでも腕は少しも鈍ってないんだね。でも姿の一つも見れないなんて、厄介だね。ところで45はなんでまた米軍基地を探してるわけ?」

 

「45は、別にフーバーダムが一番重要なわけじゃないって言ってたんだ。えっとなんだっけな…ジャイアン基地だっけ?」

 

「違うよG11、シャイアン・マウンテン基地だよ! 北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)の地下司令部があった場所! 別にそこは戦前結構知られてた場所らしいんだけど、本来の入り口が崩れちゃってて別な入り口を45姉が探してるんだよ」

 

 シャイアン・マウンテン空軍基地。

 冷戦期に建造されたこの巨大な基地は核の攻撃による破壊からの守りが高く、電磁パルスの影響も受けにくい構造とされている。

 冷戦終結後、司令部は他の地上基地に移されることもあったが第三次世界大戦の脅威が近付くと再びこの地下基地が注目され、NORADが置かれたというが20年近くもアメリカが沈黙していた辺り何らかの原因によりこの基地も機能不全に陥ったのだろう。

 

「あーもう、旧米軍とかシーカーとか正規軍とか! なんなのみんなして裏でこそこそやっちゃってさ! 分かりにくいったらありゃしないわ!」

 

 いまだ敵の姿も見えず、というより誰が敵で果たしてこのアメリカの地に戦いに来ているのかさえ分からない日々。フーバーダムが重要かと思えばUMP45の考えでは違うといったり、決してシンプルとは言えない状況にFALは砲塔の上に身を横たえ不満を露わにした。

 諜報や腹の探り合いならMSFの優秀な諜報班やオセロットに任せればいい、自分は明確な敵に対しぶち当たるのみ…そう自負するFALにとって自分たちが置かれている状況に苛立ちを覚えていた。

 

「それでG11、今は謎のストーカーの気配は感じるの?」

 

「確信はないけど、今は離れたと思う」

 

「人形が第六感を当てにしたらいよいよお終いね」

 

「こら独女、イラついてるからって他の人にあたらないの」

 

「はいはい、分かりましたよッと…」

 

 面倒くさそうに身体を起こしたFALはそのまま戦車を降りてテントの中に入って行ってしまった、仲間の損な態度にVectorは小さなため息をこぼす。ひとまずここは補給基地、何がしたいのか分からないがあちこち探索に出ていたUMP9とG11のためにVectorは補給品と休息のための場所を提供する。

 念のため、周辺パトロールの数を増やし脅威となるであろう敵勢力の捜索にあたらせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…ここらへんだと思うんだけど、全然検討がつかないわね」

 

 端末に、古いデータをダウンロードしたものを見つめながら416は荒野と岩山のあちこちを探索する。

 北方のトンネルは大量の瓦礫で埋没してしまっているために基地内部には入れない、重機などを用いればなんとかできそうだが生憎そのような便利な機械はこの場にない。他の搬送路も同じように塞がれてしまっているので、今は他に入り口がないかを探索しているところだ。

 

「ねえジョニー」

 

「なんだ巨乳」

 

「あのね、今度またそんなふざけた名前で呼んだら…はぁ、まあいいわ。45はどこ行ったの?」

 

「45姉ならあっちの農場に向かったぞ」

 

「農場? なんだってそんな…まったく、みんな好き勝手動いて」

 

 愚痴をこぼしながら、ジョニーに案内をさせて農場を目指す。

 木造建築の二階建てと納屋のある農場もまた人の管理がなくなったことで荒れ果て、柵の内側には白骨化した牛の死骸が放置されている。農場のどこにいるのか探そうとした矢先、UMP45が納屋の方から姿を現す。

 声をかけようとしたその時だ、突然農場一帯に銃声が鳴り響く。

 撃ったのは416でもUMP45でもない、咄嗟に身をかがめたUMP45は走りだし家屋の窓ガラスを突き破って家屋内に逃げ込んだ。

 

「風車の上よ!」

 

「おのれ! 45姉を襲うとはどこのどいつだ!?」

 

 416が指さした先の風車、そこの足場には黒の装甲服に身を包む兵士が一人いた。

 UMP45を襲われて激高したジョニーは怒りの声をあげると、肩に取りつけていた迫撃砲の砲口を風車に向けると容赦なく砲弾を撃ちこんだ。迫撃砲の一撃で風車は一撃で吹き飛ぶが、敵の兵士は着弾の寸前で風車から飛び降りていた。

 風車から地上まで高度はあったが、着地した兵士は何ごともなかったかのように動きだす。

 

「虫けらがッ!」

 

 そこへ、家屋内に退避していたUMP45が襲撃者に対し銃撃を浴びせかける…が、襲撃者の黒色の装甲服はUMP45の銃撃をことごとく跳ね返す。悠然と歩を進める襲撃者に対し舌打ちをする。

 

「ようやくお出ましね、米軍の残党め!」

 

 襲撃者は南部連合などの軍用人形とは明らかに違う外見、相手の正体は生身の人間…つまりアフリカでエグゼらを襲った特殊部隊と同じような兵士と推測する。戦術人形と同等かそれ以上の身体能力を持つサイボーグの兵士、ハイエンドモデルと張り合う彼ら相手に正攻法では分が悪いと判断したUMP45は、この場で唯一襲撃者を破壊できるであろうジョニーに命令を下す。

 

「ジョニー、奴を仕留めなさい!」

 

「承知したッ!」

 

 ジョニーの持つ主兵装の一つ、30mmリボルバーカノンが主の命令により起動する。強すぎるジョニーのスペックにかけられた制限、UMP45の命令によってのみ解放される兵器が今襲撃者に対し向けられる。 反動制御のため連射速度は抑えられているが、30㎜弾による威力はケタ違いであり着弾箇所は抉られるかあるいは爆ぜる。

 だが襲撃者も負けてはいない。

 人外じみた反応速度で砲弾を躱しながら、ジョニーに撃ち返す。襲撃者が用いる兵器は炸薬弾ではなく、エネルギー兵器…青い光弾の直撃を受けたジョニーの身体が揺れる、着弾時に爆発的なエネルギーを炸裂させる兵器を見たジョニーは空いたもう片方の手に重厚なシールドを装備し光弾を防ぐ。

 

「ジョニー!」

 

「手出し無用! この愚か者は、この私が倒す!」

 

 416が加勢しようとするがジョニーは拒否する…ジョニーの猛攻をスピードでしのいでいる襲撃者、襲撃者の攻撃をシールドで防ぐジョニー。互角に見える戦いだが押されているのはジョニーだ。襲撃者のエネルギー兵器を弾いていたシールドであるが、幾度も受けるたびにその装甲は破壊されていく。

 強がるジョニーに416は舌打ちし、グレネードランチャーに弾を込める。

 小口径の銃弾が無意味なら、より破壊力のある榴弾で吹き飛ばす。

 

「45!」

 

「分かってる!」

 

 416に呼応し、UMP45も動きだす。

 二人が動いたのを見た襲撃者は一瞬動きが鈍る、そこへUMP45が牽制射撃を行った。銃撃は装甲服を撃ち破れずほとんど無意味だが、襲撃者の気を引かせるのが狙い…同時に足下に転がされた発煙弾より煙幕が張られる。

 煙幕に紛れて一気に接近した416であるが、襲撃者はほとんど真後ろより接近した416を迎撃する。

 襲撃者の後ろ回し蹴りを腹部に受けた416は苦痛に呻き身をかがめた。

 とどめをさそうと銃口を向ける襲撃者、しかし不敵に笑みを浮かべた416に襲撃者は疑念を抱く…次の瞬間、煙幕の中からジョニーが飛び出し全体重を乗せた体当たりをぶち当てた。

 ジョニーの体当たりを受けた襲撃者は吹き飛ばされ、すかさず416が先ほど込めたグレネードランチャーの引き金を引く。グレネードが炸裂し、煙幕が爆風でかき消される…。

 

 

「間一髪ね!」

 

「ええ、そうね…何者かしら?」

 

 

 駆けつけたUMP45の肩を借りて立ち上がった416は、襲撃者が吹き飛ばされた方向を睨む…ジョニーの体当たりとグレネードの直撃を受けたのだ、無事ではすまないはずだ。ジョニーを先頭に仕留めた襲撃者の確認に向かう…瓦礫の中に横たわる襲撃者は装甲服が破壊され、サイボーグ化された肉体も損壊し火花をあげていた。

 

 

「こいつら、本当に人間? 機械そのものじゃない…」

 

「さあね、アメリカ脅威の技術力だもの何が来てもおかしくないわ」

 

 

 容姿は違えど、内部構造は他の軍用人形と酷似している。

 損壊したか所から見える体内に生身の臓器はなく、体表を覆う皮膚と筋肉があるのみ…それすらも人間に擬態するためだけのものに見える。

 

 

「見事見事、数人がかりとはいえよくうちの兵士を倒せたもんだ」

 

「あんたは…エグゼたちを襲ったデルタ・フォースの兵士かしら?」

 

「デルタだと? 冗談でも止めてくれ、陸軍の腰抜けどもと一緒にされては困る。オレは海兵武装偵察隊所属(フォース・リーコン)所属…マーカス少佐とでも名乗っておこうか」

 

 マーカス少佐と名乗ったその男は、先ほどの襲撃者と同様の黒ずくめの装甲服に身を包んでいた。武器は腰にさげた拳銃一丁のみ、両手を見える位置に置き敵対する意思がないことを表明しているようにも思えるが、対峙するUMP45や416は片時も気を抜くことは無かった。

 

「よろしく、やりたくはないわね。ようやく生き残りの米兵に遭遇したと思ったら悪名高い殴り込み部隊こと、海兵(ジャーヘッド)に出くわすなんてね。乗り込む船がないから国内の虱潰しをしてるわけね」

 

「口の悪いお嬢さんだ、気に入ったぜ。堅物のデルタはお前らを機械に過ぎないと思ってるようだが…オレはそうは思わん。誰が好き好んで物言わない鉄塊みたいな人形と任務をしたがる? 20年近く同隊以外の奴に会ってなかった、レディーに会うのも久しぶりさ」

 

「あら、口説いてるわけ? お生憎、機械なのか人間なのか分かったもんじゃない得体の知れない奴に気を許すわけないでしょ」

 

「気の強い女は好きだ、ますます気に入った。オレたちはれっきとした人間だ、少なくとも自分の脳で考えて動いている。お前たちのように人工知能(AI)で思考を制御されてるわけじゃない」

 

「なんだっていいわ。重要なのは、アンタが私たちに襲い掛かって来た敵だということよ。5分無駄にした」

 

「落ち着けよハニー。お前らがこそこそ嗅ぎまわってるから少しからかっただけだ。オレとしてはこれ以上子ネズミ狩り程度の仕事で時間を潰したくない……それよりどこかでゆっくり話でもしないか?」

 

Fuck You(くそくらえ)よ、ヤンキーの海兵さん。あんたと話すことなんてこれっぽっちもないわよ」

 

 どぎつい言葉を返した416にマーカスは声をあげて笑う。不愉快そうに顔をしかめる416は自然と引き金にあてた指に力を込めるが、UMP45がそれを制する。

 

「久しぶりに笑わせてもらったよ。お礼にお前たちが知りたかった情報を教えてやる…ほら」

 

 マーカスはおもむろに取り出した端末を、UMP45に投げ手渡す。端末には何かの地形データが記されているようであるが、UMP45はそれが探していたシャイアン・マウンテン基地の入り口であることに感付く。

 敵であるはずの彼が何故このようなことをわざわざ教えてくるのか、これが罠だと疑うのは当たり前だ。

 UMP45の疑念に、マーカスは答える…。

 

「今更行ったところで手遅れだと思うがな。まったく、栄光ある合衆国軍の全てが小娘に握られるとはな…」

 

「何を言ってるの?」

 

「じきに分かることだ。オレとしては、クソッたれの卑怯者どもに報復できる機会さえもらえればそれでいいのさ。さて、オレたちは準備をしなくちゃならないのでな…そろそろお別れだ。おいおい、そう身構えるな、お別れと言っても殺そうとするわけじゃない。お前らは傭兵だろう、わざわざ殺す理由もないさ。じゃあなお嬢さん方、今度会った時は味方だったらいいな」

 

 マーカスは踵を返し立ち去っていく、無防備な背を晒す彼にしばらく銃口を向けていた416であったが結局引き金を引くことは無かった。それよりも彼の言葉で気掛かりなことがある、それを確かめに行かねばならない、416とUMP45は互いに頷き合うと端末に示された位置情報に向けて走って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃーっ! ダム修復完了、長かった~!」

 

 数週間に及ぶフーバーダムの修復作業に従事していたアーキテクトは、最後の動作テストをクリアすると大声で叫び疲労が蓄積していた身体をそばに置いてあったパイプ椅子に預けるが、ぼろくなった椅子に座った瞬間パイプ椅子は壊れてアーキテクトの後頭部が固い床に叩き付けられた。

 

「なにやってんのあんたは?」

 

「うーイタタ……あ、スコピッピじゃん!」

 

「だれがスコピッピだよ。ダムが治ったみたいだね、それでアンタ次は何を企んでるわけ?」

 

「ぶっちゃけると、ここまでしか指示貰ってないんだけど…ゲーガー知ってる?」

 

「私が知るか」

 

 隣で不機嫌そうに腕を組むゲーガーに問いかけてみれば即答される。

 ダムの修復を律儀に行ってくれたアーキテクトに対し南部連合兵士たちは恩赦を与え、ゲーガーは拘束を解かれある程度の自由が約束された。二人を疑うアルケミストは面白くなかったが、二人を拘束していたのは南部連合兵士たちであり二人をどうするか決めるのは彼らの自由であった。

 

「お疲れさまですアーキテクトさん。おかげで我々の悲願がついに叶います…このダムで生み出す電力によってこの国の復興が進むことでしょう。お礼を言わせてください」

 

「えへへへ、どういたしまして~!」

 

 南部連合兵士のお礼を聞いてまんざらでもない様子のアーキテクトであったが、呑気に緩んだ笑みを浮かべている彼女を不機嫌なオーラを放つゲーガーが物陰の方に引きずっていく。周囲に人の目がなくなったところで、ゲーガーはアーキテクトに詰め寄る。

 

「おい、本当にこの後どうするか聞いていないのかお前は!?」

 

「何回もそう言ってるじゃん。私が聞いたのはダムの修復までで、後のことはグレイ・フォックスに任せろってこと」

 

「くそ…! グレイ・フォックスといい、ウロボロスといい一体何を考えているんだ!? 何の音さたもないじゃないか!」

 

「まーまー気楽に行こうよゲーガー?」

 

 相変わらず呑気な笑顔を見せるアーキテクトに、ゲーガーは腹を立てる。しかしそこへアルケミストが通りかかると途端にアーキテクトは怯えた様子でゲーガーの背後に隠れた。

 

「任務ご苦労だったな。お前らのアホ面見る限り、本当にここまでしかやるつもりがなかったんだな?」

 

「アルケミスト…うちの上司がずいぶん世話になったみたいだな。拷問好きのサディスト人形め、もしまたアーキテクトを苛めてみろ。お前が二度と拷問なんて出来ないようその腕をへし折ってやる」

 

「やってみなよゲーガー」

 

 互いに睨みあい、火花を散らす。一触即発の空気はたまたま通りがかったスネークとスコーピオンの仲裁でなんとか事なきを得る。ゲーガーとアーキテクトとはそこで別れ、スネークらはダムの制御室へと向かう。

 

「ところでスコーピオン、デストロイヤーの奴を見なかったか? さっきから呼びかけているんだが応答しないんだ」

 

「うーん見てないな。南部連合の人形たちには聞いてみた? このダム入り組んだとこあるし迷っちゃうし、おまけに通信障害が起きやすいし」

 

 不安定なデストロイヤーがそばにいないことでアルケミストは不安を覚えていた。ほんの少し目を離したすきにいなくなってしまったデストロイヤーを捜しているが見つからない、スコーピオンの言う通り南部連合の人形に聞いて見ようと思った時、ちょうど制御室手前のところでデストロイヤーを見つけた。

 

「デストロイヤー! まったく、どこに行っていたんだ!?」

 

「ごめんごめん、ちょっと道に迷っちゃって」

 

「もう、ドジなんだから。ちゃんと道を覚えなきゃ」

 

 お詫びの言葉を口にするデストロイヤーをそれ以上咎めず、ひとまず制御室内へと入る。そこでは南部連合の指揮人形がおりダムの再稼働のための作業を行っていた。どうやらすべての調整はアーキテクトがほとんどやってくれたようで、あとは簡単な作業を残すのみらしい。

 

「ここで生み出す電力は周辺都市へ回します。既に周辺都市の確保は我々の部隊が行っています。MSFの皆さんには是非都市部の復興の手助けをしていただきたいのです」

 

「それは分かったが…この国には住民は他にいないのか? いるのは暴徒化した人間だけだ、秩序を維持している人間たちの集まりは存在しないのか?」

 

「核攻撃後まもなく、全米で深刻な放射能とコーラップス液の汚染がありましたからね。E.L.I.Dに犯されて人ならざる者に成り果てた者が多くいました。ほとんどがメタリック・アーキアによる浄化と、我々の掃討作戦によって駆除はされました。おそらく善良なアメリカ国民の営みは残っていないかもしれません」

 

「そうか…いくら復興を掲げたとしても、人がいなければどうしようもない。お前たちが攻撃する野盗を捕まえて、復興に協力するよう説得してみるのはどうなんだ?」

 

「残念ながらE.L.I.D感染者との対話は不可能です。哀れですが、殺すしかないのです」

 

「E.L.I.D感染者? どういうことだ?」

 

 南部連合兵士が放った言葉に不可解なものを感じたスネーク、どうやらその場にいたスコーピオンとアルケミストも兵士の言葉に同じ疑念を抱いたようだ。だがその話題はダムの稼働操作のために途切れることとなる。

 20年近く停止していたフーバーダムがようやく稼働を再開する。

 制御室の操作によりダムの放水弁が動きだし、大量の水が流れ出る。流水の力によって水車はまわり、それを動力として発電所タービンが回され電力が生み出されていく。

 

「成功です! 素晴らしい、これで不足していた電力が補えますね! MSFの皆さん、改めてお礼を言わせてください!」

 

「どういたしまして。ねえスネーク、本当にこれでいいのかな? あたしら、何か見落としてたりしない?」

 

「分からん。さっきUMP45から連絡があった、NORADの基地に潜入したらしいが…」

 

 ここまで米軍その他の勢力で大きな行動を起こしたという情報はない。つい先ほどUMP45より海兵隊兵士と接触があったという情報が寄せられるが、ほとんど何も起こさず立ち去ったとのことだ。何も起こらないことがかえって不気味だ、スネークもスコーピオンも何か見落としがないかを何度も考えるのだが…。

 その時、制御室がざわめき始める。何ごとかといぶかしむスネークに、南部連合兵士たちは困惑した様子で戸惑う理由を口にした。

 

「我々が想定していたルートに電力が送られていません。誰かがダムの再稼働前にルートの変更をしたとしか…」

 

「そんなことを一体誰が?」

 

「分かりません。ダムには他のいかなる者もいれていませんが」

 

 だとしたらダム内部の誰かが意図的に操作をしたとしか考えられない。

 南部連合の人形たちは一つの意思のもと動いているために一つの個体が勝手に動くことは考えられない、必然的にスネークらMSFかゲーガーとアーキテクトに疑いが向けられるが、誰も心当たりはない。

 

「なあデストロイヤー、お前本当に道に迷っていただけなのか?」

 

「アルケミスト? え、そういったじゃん」

 

「本当なんだな? 聞くが、少しの時間記憶に抜けがあったりはしないか? 自分がどこをどう歩いていたか思いだせるのか?」

 

「ちょっとやめてよ、私を疑ってるの!? この間からおかしいよアルケミスト!」

 

「おかしくなっているのはお前だデストロイヤー! もうダメだ、帰って精密検査をしてもらうべきだ!」

 

「いい加減にしてよアルケミスト! 私をそんな風に見ないでよ!」

 

 腕を掴んだアルケミストの手をデストロイヤーが振りはらう。いつも仲の良い二人の滅多に見ることのない口論にスコーピオンとスネークは動揺する。

 口論があまりにも激しくなるので二人を引き離した時だ…デストロイヤーは突然声をあげて笑いだす。彼女の異様な姿にみんな驚きを隠すことが出来ずにいた。狂ったように笑い続けるデストロイヤーを前にアルケミストはどうすることもできず呆然としている…。

 

 

「電力の送電ルートが判明しました。どうやら、地下送電線を通じて各軍事基地に送られているようです――――」

 

 

 




あっ(察し)





第二弾、たぶん本編で語られない裏設定

大戦後の指揮命令系統の混乱により、放射能汚染やコーラップス液の対応に遅れが生じる…命令に忠実な軍用人形(南部連合)たちはE.L.I.Dにより変異していく人々に対し、感染者といえどアメリカ国民と認識していたため攻撃することが出来なかった。
当時の指揮官がプログラムを修正し攻撃を可能としたが、電磁パルス等の影響で命令に狂いが生じ、変異に至らない極めて軽微なコーラップス液粒子を受けたアメリカ国民をも感染者と認識…攻撃の対象としてしまった。

その結果、汚染に加え軍用人形たちの一方的な攻撃に晒されて生存していたアメリカ国民は全滅していくことになる。
現代の米軍特殊部隊が南部連合と敵対しているのは、彼らもまた感染者と認識されているから…。

スネークのことをアメリカ国民と認識できたのは、コーラップス液を受けていないためだった。

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