METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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終章:The Final Frontier
揺れ動く世界


 廃墟と化した地上には命の息吹はなく、灰色の世界がどこまでも続く。

 戦争で荒れ果てた地上を歩く生き物はおらず、電気と歯車の力で動く機械が赤い光を宿して単調な動きを取り続ける。時折何かに反応して機敏な動きを見せるが、結局何もせずに通常の動作に移る。

 廃墟の中に、妖しく光る建造物が見える。

 赤い非常灯が灯るその建造物は分厚いゲートによって閉ざされ、地下深くに続く長い回廊への道を塞いでいる。通気口も窓もなく、人ひとり入る隙間すらもない。そのゲートを抜けた先、地下100メートル以上もある地下の施設にはここの守備を任された鉄血製の人形や戦闘マシンが日夜警備を続けている。

 その中でも特に厳重な警備が施されている地下収容所、そこにビッグボス…スネークの姿があった。

 

 重厚な鉄の檻に入れられたスネークは捕らえられてからというもの、鉄の牢獄に入れられたままだ。明かりは青白い蛍光灯の明かりのみで、昼も夜も区別がつかず、捕らえられてから一体何日が経過したのかすらも把握できなくなっていた。

 スネークが今のように捕らえられるのは今回が初めてではない。

 捕まった時に激しい拷問を受けたこともある、事実、スネークが片目を失明したのはその時の出来事による。

 しかし今回はいつもとは事情が違う…捕らえられてからというもの、スネークを尋問しに来る者も拷問官も一向に姿を見せないのだ。訪れるのは一日に二回、おそらく朝食と夕食を運びにくる鉄血のロボットだけだ。味気のないペースト状の食べ物と酷い消毒臭のする水のみが渡される…。

 

 静寂が、死のような静寂と言ってもいい…それがこの収容施設を包み込む。

 変わり映えしない毎日、音すらも聞こえてこない、訪れる者もいない…なにもしないという拷問は確立されている。人を完全に隔離し何もすることもなく数日、数週間、数ヶ月と過ごさせ人間の精神に恐怖を植え付けるのだ。人との関わりを遮断されることで、精神的に安定していた人間も鬱や不安症を患うようになる。

 諜報機関に在籍していた際、訓練により様々な拷問に対する耐性を習得していたスネークであるが、このような長期に及ぶ拷問はほとんど経験がない。それでも、彼は正気を保っていた…逃げ道の見えないこの状況で、彼の目は未だ死んではいなかった。

 

 

「やはりあなたはたくましいな。別に拷問のためではなかったのだが、こんな状況に置かれれば通常気が狂うだろうが…フフ、ビッグボス…実に興味深い」

 

 

 いつからそこにいたのか、ここしばらく聞いていなかった人の声に反応し顔をあげると、鉄格子の向こうにいたのはシーカーであった。

 

 

「ちょうど誰かと話をしたかったところだ」

 

「それはなにより」

 

 シーカーはクスッと笑い、床に腰掛けるスネークと鉄格子を挟み向かい合うようにして座った。そこでシーカーはポーチを開き、小包を一つとりだすとそれを鉄格子の隙間から牢屋の中にいれてきた。スネークは警戒しそれに近付きもしなかったが…。

 

「危険なものではないよスネーク。たぶんいつも味気ないものを食べているだろうと思ってな、栄養食のクッキーがある。美味いかどうかは知らんが、確かカロリー…なんだったか? 忘れてしまったが、戦前流行った栄養食らしい」

 

「なんのためにそんなことを?」

 

「言っただろう、拷問のためにあなたをここにいれているわけではない。そうだな、この沈黙は鉄血内の風紀だと思ってくれていい。おしゃべりなハイエンドモデルと違って、ロウモデルの戦術人形たちは寡黙なのだ。そこが気に入っているのだがな」

 

「ありがたい気遣いだ。ついでにここを開けて外を散歩させてくれたらいいんだがな」

 

「はははは、そんなことしたらあなたはMSFまで歩いて帰ってしまうだろう? 別に拷問で痛めつけようとかそんな気はない、少しゆっくりしていけ。そうだこれ、欲しいか?」

 

 そう言って次にシーカーが取り出したものを見てスネークは明らかに態度を変える。それは紛れもなき葉巻…独房に入れられてから色々と不満点はあるが何より渇望していたのは、やはり葉巻のあの芳醇な味と香りに他ならない。差し出された葉巻を受け取ろうと手を伸ばしたスネークに対し、シーカーは不意に取り上げる。

 見上げたシーカーは、愉快気に笑みを浮かべている……焦らして楽しんでいるらしい。

 

「欲しいか?」

 

「はぁ……からかってるのか?」

 

「ここは本来禁煙なのだ。ばれたら代理人に叱咤を受ける…そのリスクを犯して持ってきてやったんだ、少しは礼の言葉くらい聞きたいものだ」

 

「分かった……全く、礼を言う…」

 

「どういたしまして」

 

 お望みの言葉を聞けて、シーカーは満足したのか素直に葉巻を手渡す。受け取ったはいいが今度は葉巻に火をつけるものがない…ため息を一つこぼし再びシーカーを見れば、やはり悪戯っぽく微笑むシーカーがいる。しかし今度は焦らすことなく、ライターの火を近づける。

 火をともした葉巻の煙を口に含んだスネークは、じっくりとその味と香りを嗜み煙を吐きだす。

 

「そんなものがどうして美味いのかよく分からんよ。酒といい煙草といい、人間は自分の身体を壊して楽しむ生き物なのか?」

 

「分かる人間にしか分からんだろうな」

 

「そういうものか? まあいい、別にそこは興味ない。ところで………」

 

 何かを切りだそうとしたシーカーであったが、そこで誰かの通信が入ったようでスネークより目を逸らす。

 

「正規軍め動いたか、それにグリフィンも。まあ今が最後のチャンスだと思ったのだろうな…」

 

「なにをするつもりだ?」

 

「あなたには教えても差し支えはないだろう。正規軍とグリフィンの合同部隊が我々を掃討しようと動いたらしい…米軍戦力が未だ海を渡らず戦力が集結する前にエリザさまを捕らえようとしているのかもな」

 

「エリザ?」

 

「我々の主だ。正規軍、奴らの傲慢さが破滅を招くとは思うまいな。さてスネーク、今度またじっくり話をしよう…聞きたいこともいくつかある。ではなスネーク、また会おう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏が終わり秋が過ぎ、冬を迎えようとしている。

 夜間は氷点下をまわり、吐く息も白くなるほどの寒さの中……冬用の防寒着に身を包むUMP9は仲間たちと共にせっせと前哨基地に搬入される弾薬類を倉庫に運び入れる作業を行っていた。木箱はともかく、寒さで金属製の外箱の弾薬箱はふれるだけで手がかじかむのだ。

 夏は暑いくせに冬は極寒の寒さ、地理上の問題で仕方のないことであるのだが…UMP9は穴の開いた手袋をとり、吐息をかけて冷えた指先を温める。ちょっと前までなら、ニートの404小隊が働いていると驚かれただろうが、今はあのG11でさえ働いている。

 なにより率先して働いているのはUMP45であった…。

 

「45姉、そろそろ休憩しよ!」

 

 遠くで作業を続ける姉に声をかけるが、彼女は手を挙げて返したのみで再び作業に戻っていった。深夜に近付きいよいよ雪でも降りそうなほど寒くなっている、姉が凍死してしまうのではと危惧しUMP9がそっと姉のもとへと歩いていく。

 

「45姉、そろそろ休もうよ」

 

「これが終わったらね…!」

 

「そう言ったって、さっきこれ始めたばかりでしょ?」

 

「私はいいから、9は先に休んでなさい」

 

 油と泥の汚れにまみれながらUMP45は戦車の修理に励む。戦術人形の彼女が本来やるべきことではないのだが、彼女は進んでこの仕事を引き受け、寝る間も惜しんでMSFの作業を手伝っている。そんな隊のリーダーにならって隊員たちも作業に励む、全てはあの日から始まったことだ…。

 

「あーもう、いつまでやってるつもり?」

 

 そこへ、戦車大隊を率いる立場にいるFALがやってくる。彼女はやってくるなりUMP45が手掛けた戦車を一瞥すると、あちこちダメ出しをしてみせた。熱心に修理をしてくれたUMP45に対し酷に思えるが、それはFALなりに考えがあってのことだった。

 

「45、あんた最近まともに休んでないでしょ? そんな状態で大した手伝いもできないでしょ? 気持ちはありがたいけど、今は休みなさいよ」

 

「だけど……いえ、分かったわ」

 

 FALの強い口調に折れて、UMP45は工具をしまいその場を後にする。妹のUMP9は、ぺこりとFALに頭を下げると姉の後を追いかけていく。

 

「責任感が強いんだかなんなんだか、まったく…」

 

 立ち去る姉妹をながめつつ、FALは肩をすくめ先ほどまでUMP45が手にかけていた戦車の修理を引き継ぐ。重厚でタフな戦車も内部の構造は繊細、素人が手を出して修理できるような簡単なものじゃない。FALが戦車を一人で修理していると、ちょうど通りがかったスコーピオンとWA2000の二人に声をかけられる。

 

「あら、おかえり。調子はどう?」

 

「正規軍とグリフィンのアホどものせいで近付けなくなったわ。まったく…あいつら」

 

「鉄血領域でドンパチ始まったせいでたまったもんじゃないよ! でも正規軍の戦闘力ってやっぱ凄いよね、あの鉄血人形が薙ぎ倒されてるんだもん!」

 

 つい先日始まった正規軍とグリフィンによる合同作戦、鉄血支配地域に対し正規軍は部隊を派遣し攻勢をかけグリフィンの部隊もまた攻撃をかけている。ちょうどスネーク捜索のために現地に潜入していたスコーピオンとWA2000は危うく巻き込まれかけ、やむなく撤退をしてきたところであった。

 

「ところでFALが戦車の修理なんて珍しいね」

 

「45が手を出してたから、手直ししてるところ」

 

「45、まだそんなことを……45一人のせいじゃないのに…」

 

「まったくよ、あれだけエグゼが気にするなって言ったのに」

 

 UMP45が急にMSFの仕事を手伝うようになったのは、アメリカから帰ってきた後のことだ。スネークがシーカーに捕まった原因が自分にあると考えて、罪の意識からニートを止めて熱心に働き始める…働くのは良いことだが、自分の身体が壊れそうになるまで働くとなると話は別だ。

 あの場にいた多くの者がUMP45を擁護するが、いまや大所帯となっているMSFの中にはやはりスネークが捕まった一因はUMP45のせいでもあると考えてしまうものはいた。

 ある日、事情を聞いたMSFのスタッフがこの件についてUMP45を責める場面があったのだが、それをそばで聞いていたエグゼが激高し、UMP45を非難したスタッフを危うく殺しかける場面があったのだ。仲間を半殺しにしたエグゼは営倉入りの処分が下され、以来MSF内でぎくしゃくした空気が流れている。

 

 それまでスネークのおかげで表ざたになっていなかったが、人間のスタッフと戦術人形との確執が浮き彫りになってきた。古くからいる古参のスタッフのとりなしでなんとか争いは避けているが、深刻な事態になるのも時間の問題だろう。

 

「MSFの士気が目に見えて落ちてるわ。ミラーやオセロットがなんとか規律を保とうとしてるけど…」

 

「やっぱスネークの存在が大きいんだね。スネークのカリスマに惹かれてMSFに参加した経緯もあるし」

 

「このくらいで根をあげるような兵士なら消えてくれた方がいいわよ。トラブルメーカーは邪魔なだけよ」

 

「ちょっとわーちゃん、いくらなんでも言い過ぎだよ」

 

「組織において外敵よりも、内側の争いごとの方が怖いことがあるのよ。あんただって、つまらない内輪もめでMSFを潰したくないでしょ?」

 

「そりゃそうだけどさ…まあ、あたしもみんなに注意してまわるよ。ミラーのおっさんは働き詰めだし、オセロットは諜報と規律維持で忙しいし、エイハヴは戦闘任務でいない。マザーベースが恋しいよ」

 

「今はデストロイヤーの集中治療でマザーベースに人形は立ち入れないからね。仕方ないわ…まあ立ち入り禁止に意味があるのか分からないけど」

 

 深刻なウイルスに感染した疑いのあるデストロイヤーは今、マザーベースに隔離されてストレンジラブたち優秀なスタッフに治療を受け続けている。未知のウイルスが他の戦術人形にも感染することを恐れ、人形や無人機は全てマザーベースを退去している。

 唯一、アルケミストだけがデストロイヤーに付き添ってはいるが…。

 

「でもさ、デストロイヤーの症状って似てるのよね…」

 

「何が?」

 

 ふと、FALが口にした言葉に興味を引かれたスコーピオン。

 

「私たちジャンクヤード組とよ。私たちの初期症状も、あんな感じだったから…まあ錯乱状態になってただけなんだけどね」

 

「ちょっとそれ、結構重要そうじゃない? ストレンジラブには教えたの?」

 

「まあ後で教えてみようかしら」

 

 今は少しの情報が役に立つこともある。

 思い返せばジャンクヤードでスネークはアメリカ空軍機の残骸を見つけていたし、FALたちは錯乱前に奇妙なブラックボックスを見ていた。もしかしたら何らかの関係があるのかもしれない。

 それは明日にでもストレンジラブに教えよう、そう思い空を見上げると空からふわふわと白い粉が降ってくる。いよいよ本格的な冬の到来だ、これ以上寒くなる前に宿舎に戻ろうとしたところ、あるスタッフたちが大騒ぎをしているのを見つけた。

 またスネーク失踪のことで騒いでいるのかと思ったが事情が違った。

 

 ちょうどその集団の中にいたキッドが、何やら興奮した様子で彼女たちに話す…。

 

 

「おい聞いたか、鉄血領内に入った正規軍が撤退したらしいぞ」

 

「なんだって!? あたしが見た時は物凄い勢いで鉄血をぶちのめしてたのに!」

 

「なんでも軍用人形とか戦車が一瞬で破壊されたらしいぞ……噂じゃ強力な電磁兵器が使われたとか」

 

「そう言えば以前アメリカの技術の中に"パルスフィールド"とかいうものがあったわね。もしそんなものをシーカーが持ちだしていたら…」

 

 正規軍の敗走にスコーピオン達が憶測を重ねている最中、血相を変えた一人のスタッフが駆け寄ってくる。何ごとかと詰め寄ると、彼は息も絶え絶えにラジオをつけて周波数を合わせる。ラジオから聞こえてきたのは、緊急の放送。

 機械の音声で淡々と読まれるそのニュースは衝撃的なものであった…。

 

 

 英国本土、グレートブリテン島に対し大規模な軍団が強襲上陸を敢行した。

 

 第三次世界大戦が、再び開始されたのだと…その場にいる誰もが確信するのだった。




最終章や、気合を入れていこう。



※ 新兵器解説"パルスフィールド"
戦術兵器として開発されたこの兵器は、強力な電磁パルスを発生させる機械を地面に設置する地雷のようなものとして開発された。電磁パルスを受けた機械は一瞬で回路を焼き込がされ無力化される。
米軍の戦術ドクトリンの中でこれらパルス兵器を広範囲に埋設することで、そこを通過する戦術人形や戦車といった機械を破壊するというものがあった。
戦前の米軍が大量に備蓄していたものをシーカーが接収し、領域を守護するために利用するが、鉄血にとっては諸刃の剣でもある。
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