METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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メンタルモデルの深層へ…

グレートブリテン島 沿岸部

 

 

 太陽の沈まぬ国、と言われたのは今は昔…かつての栄華を失い衰退の一途を辿って入るが、いまだ世界に対しその影響力を残している大英帝国。だがその歴史は、かつて自分たちの植民地から独立した強大な国家の手によって幕を閉じようとしている。

 島の沿岸より、身体の大部分を機械化された兵士たちがマスクの下でぎらついた闘争心と復讐心を燃やし、かつて宗主国として君臨していた王国の島を見据える。長い眠りから覚めたサイボーグ兵士たちの願いは一つ、祖国と同胞たちを燃やし尽くした国々に対しての報復だ。

 彼らが望むのは、血の報復なのだ。

 ぎらついた闘争心を燃やす兵士たちに対し、彼らの上官は狂ったように声を張り上げて叫ぶ。

 

「見ろ! あれが忌まわしき英国本土だ! 諸君、奴らは一時期我々の同盟国の一つであっかもしれないが、あの国もまた我々の国土を焼いた連中の一つだ! 忌まわしき大英帝国…我々の戦争の歴史は、奴らとの戦争から始まったのだ! オレたちの祖先が勝ち取った自由が今、再び奴らの手によって奪われようとしている! だが! そうはいかない!」

 

 兵士たちと同じように機械化された上官は、船上で拳を振り上げあらん限りの声で叫ぶ。

 そんな様子が、別の船舶でも見受けられあちこちで兵士たちが雄たけびをあげて闘志を奮い立たせる様子が伺える。

 

「奴らはこの大戦が終わったと思っているが、何も終わってなどいない! 奴らに分からせてやれ、一体誰にその拳を振り上げたのかをな!  この栄えある反撃の機会を一番に与えられたオレたちは一体何者だ!?」

 

「「「「合衆国海兵隊ッ!!」」」」

 

「そうだ! オレたちは最強無敵の海兵隊だ! オレたちは誰よりも先に戦場にたどり着きッ!」

 

「「「「誰よりも最後に戦場を立ち去るッ!!」」」」

 

「うすのろ陸軍がやってくる頃には!」

 

「「「「次の次の戦場へ!!」」」」

 

「よく聞け勇猛果敢な海兵ども! 今日からオレたちが数えるのは過ぎ去った日々じゃない、殺した敵の数だ! 卑怯者の敵を殺せ、これは奴らに殺された同胞たちの祈りだ! クソッたれどもをぶち殺せ、これは灰にまみれた祖国の叫び! 撃て、撃ちまくれ! 一発も余すことなく奴らに叩き込め!」

 

「「「「Sir, Yes, Sir!」」」」

 

「なんだその声は、少しも聞こえんぞ! ガキの子守歌にすらならん!」

 

「「「「Sir, Yes, Sir!!

 

「復讐の時だ! オレたちはジャップ、ベトコン殺しの第1海兵師団! 勝利を、遥かなる勝利を我らの星条旗にもたらせ! 忌まわしいユニオンジャックを焼き払え! 行くぞ海兵ども、上陸開始だッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三次世界大戦はまだ終わってなどいない。

 幾多の戦闘と多大な犠牲者を生み出したあの大戦は多くの者にとって、忌まわしい過去の記憶としてとらえられていた。だが報復心に燃えるあの超大国が甦った…怒りに満ちた復讐鬼は英国本土に上陸し、破壊の限りを尽くそうとしている。

 しかし世界的に大きなはずのこのニュースは、意外にも市民などの一般層には浸透していない。

 終わったはずの大戦が再び起こり滅んだはずの国が復活し攻勢をかけようとしている、そんなことをどう一般国民に伝えればいいだろうか。思い悩んだ末に各国政府が行ったのは情報統制による事実の隠ぺい…市民の混乱を避けようとするためであった。

 一部ジャーナリストはこの異常事態に気付くが、国家主導の警察組織に逮捕され投獄、今日も家庭のテレビにはありふれたニュースだけが流される。

 

 事実を知っているのは政府上層部の人間や、軍の高級士官のみ。

 あとは法や秩序の外側にいる存在である組織やPMCなどはいち早くこの事態に気付く…MSFもまたその中の一つだ。

 その日、アメリカ合衆国復活を知る人物の一人である新ユーゴスラビア連邦建国立役者の一人であるイリーナが、MSFを訪れていた。

 彼女がMSFを訪れた理由はやはり米軍の侵攻部隊についてだ。前大戦時に、ユーゴ構成国のほとんどは局地的な戦闘のみで大規模戦闘には参加せずアメリカの報復対象とみなされていないだろうが、どちらかというとクロアチアは親米、セルビアは親露といった関係であった。

 今の汎ヨーロッパ連合にも、ルクセト連盟にも属さない意向を示す新ユーゴとしては今回の戦争は静観を決め込もうとしているが周辺諸国はそれを許さない。

 

「前政府の軍部を引き継いだ我々はこの時代にあって十分な戦力を持つ国家の一つだ。精強な連邦軍は健在、連邦成立以前のクロアチアはアメリカと親しい関係にあったからな。衛星軌道上の超兵器"アルキメデス"の開発も、当時アメリカの技術者を招いての産物だった」

 

「逆に、親露のセルビアとしては今回の大戦…心情的には正規軍を応援したいということか」

 

「今のところ平穏を保っているが、いまだ内戦の火種はくすぶったままだ。もしも余計な連中が余計な真似をしてくれたら、バルカンは再び内戦の危機に晒される。欧州ではルクセト主義があちこちで受け入れられている、今のユーゴのような非同盟運動は浮いているんだろうな」

 

 差し出されたコーヒーをすすりながら、イリーナはMSF副司令カズヒラ・ミラーと現在の世界情勢とユーゴの立場を明かす。司令官であるスネークが行方不明となり、副司令として忙しい毎日を送る彼がわざわざ時間をとってくれたことにイリーナは感謝する。

 イリーナの空いたマグカップに、今やすっかりミラーの秘書としての立ち振る舞いが身についた97式がコーヒーを注ぐ。

 

「ありがとう97式」

 

 第一印象は怖いが根は優しいイリーナの事は、97式もすぐに懐いて様子。一緒にやって来たスオミとは再会を喜びあい、スオミは今席を外して9A91と久しぶりに会って遊んでいるようすだ。

 

「スネークの居所はまだわからないのか?」

 

「ああ。何人かが鉄血の領域に捜索に向かっていたが、あの衝突と今はパルスフィールドのせいで近付けなくなってしまった。侵入路を探ろうにも周囲をぐるりと正規軍が囲んだ状態ではな……そんな時だ、内務省の役人がオレたちに接触を求めてきたのはな」

 

「ほう? 今までMSFを認めてこなかった連中が動いたというわけか、それで?」

 

「いや、会談は断ったよ。ボス不在の今、連中と接触するのは危険だ。今はスネークの救出が最優先なんだ」

 

「MSFの弱みを奴らに知られない方がいい、懸命な判断だと思うよ。実はこちらにも接触があったという情報もある、連邦からセルビアを離反させるつもりなのか、あるいは連邦の参戦を促しているのかは知らんがな。まったく、平穏に暮らそうと思っていても、戦争の方が近付いてくるからたまったものじゃないな」

 

 崩壊液の浄化研究に励んでいたイリーナであったが、この世界情勢のため旧知の間柄であった革命仲間たちに懇願され、渋々政治の舞台に引き戻されたというわけだ。今のイリーナは政治家兼軍人、オフでは崩壊液の研究者と言うよく分からない立場になっている。

 しかし、愚痴をこぼしても仕方がないので今は真面目に仕事をこなしているようだが…。

 

「ところでここにはどれくらい滞在するつもりだ? あんたはユーゴでの戦友だ、いつまでもいてくれて構わないが」

 

「そうだな、MSFの好意に甘えるよ。休みは貰っているが、家にいてもめんどくさい連中が押しかけてくるんだ。休みいっぱいここで過ごすのも悪くない」

 

「そうしてくれて構わない。あんたやスオミに会いたがってた奴らも多い、ゆっくりしていってくれ」

 

 日頃の重圧や激務から解放されるのはきっと素晴らしいことだろう。イリーナはありがたく休暇をマザーベースで過ごすことを決めるのだった。

 

 

 

 

 その頃、マザーベースの研究開発棟では研究者たちの戦いが繰り広げられていた。

 研究者たちの戦いとは、デストロイヤーのAIを犯した未知のウイルスについてだ。先日、FALよりもたらされた情報からストレンジラブはそれまでの調査を一旦白紙に戻し、新しい視点からデストロイヤーの症状を見つめ直す。

 一応他の人形への感染の危険性がないことは判明したため、隔離エリアを除いてマザーベースへの帰還は許されている。

 そしてこの日、ついにストレンジラブは解決の糸口を見つけだすのであった。

 ふらふらと研究所を出てきたストレンジラブがガッツポーズを決めたのを見て、日夜デストロイヤーに付き添っていたアルケミストは急いで駆け寄っていく。

 

「博士、何か見つかったんだな!?」

 

「FALの話からジャンクヤード組の修復記録を見直した結果、デストロイヤーと彼女たちの症状に似たパターンがあったのに気がついたんだ。おそらくジャンクヤード組の挙動をおかしくしていたバグプログラムは、今のデストロイヤーを苦しめるウイルスのプロトタイプだったんだ」

 

「能書きはいいからさっさと教えろよ。対処法があるんだろ?」

 

 営倉から出されたばかりのエグゼは今日も機嫌が悪い…まあ大半はスネークがいないことによるストレスからくる機嫌の悪さなのだが。それはともかく、ギロリと睨まれたストレンジラブは咳払いを一つすると導きだした対処法のいくつかを提案する。

 

「以前ジャンクヤード組にやったようにバグを起こしたプログラムを片っ端から修復していく」

 

「それって根本的な解決にはならないよな?」

 

「そうだな、ジャンクヤード組のバグプログラムはただAIを破壊するだけだったからな。だが今デストロイヤーを犯しているウイルスは、プログラムを書き換えていきそこでウイルスは増殖していく」

 

「あーちくしょう、難しい話は分からねえぜ…」

 

「傘ウイルスに似ているな」

 

「傘ウイルスが何なのかは知らんが、彼女を犯すウイルスは…いや、AIに取りつく寄生虫と言っていい。それはデストロイヤーのAIとほとんど同化してしまっているんだ…つまり、彼女を犯す原因である寄生虫を攻撃すれば彼女自身をも傷つけてしまうことになってしまう。

 

「ようするに打つ手なしって、そう言いたいのか? ふざけんじゃねえぞこのサングラス女、デストロイヤーを助けるために毎日研究してたんだろ!? 一体今まで何やってたんだ!」

 

 苛立つエグゼであったが比較的冷静なアルケミストが彼女を押しとどめる。

 だが苛立っているのはアルケミストも同じ…解決策を出せ、そんな意味を込めて見据えるアルケミストに対しストレンジラブは頷く。

 

「最後の方法は一つだ……デストロイヤーのオーガスネットワークにダイブし、デストロイヤーのメンタルモデルにこびり付いたウイルスを引き剥がすんだ」

 

「あー分からねえ、姉貴翻訳してくれ」

 

「同じオーガスプロトコルを持つあたしらがデストロイヤーの中に入り、ウイルスを死滅させる。リスクはウイルスの間近に近寄るために、あたしらも感染のリスクが生まれる…そういうことか?」

 

「そうだ…私もここで研究するまで、電子戦の知識はなかったんだが、彼女がそれを教えてくれたよ。この方法を一緒に考えてくれたのも彼女だ」

 

 そう言ってストレンジラブが紹介したのはなんとUMP45だ。

 前哨基地の手伝いだけでなく、ストレンジラブの研究まで彼女は手伝っていた…常日頃スネーク失踪を自分のせいにするなと言い続けてきたエグゼは、どうして自分を責め続けるんだと詰め寄るが、UMP45は首を横に振る。

 

「確かにスネークの事は責任を感じてる、感じるななんて言うのは無理だよ。それと、デストロイヤーのことはそうじゃない…私もMSFの家族の一員のつもり、家族を助けるのに理由なんて必要ないでしょ?」

 

「お前な……ったく、分かったよ好きにやれよ。それにしても、よくオレたちのネットワークを理解できたな。お前らI.O.P製の人形が簡単に理解できるもんじゃないと思うけどよ」

 

「そこはほら、長年の経験と勘よ」

 

「なんか怪しいな。お前がある日突然、わたし実は鉄血人形ですなんて言わないか心配だぜ」

 

「な、なな…なんのことか、さっぱりね! 私はUMP45、他の何者でもないわよ…!」

 

「あぁ?」

 

 話を逸らして逃げたことを不審に思うが、ひとまず最優先はデストロイヤーの救助だ。

 だが解決策を見出したとはいえ、強力なウイルスに感染するリスクを考えると躊躇が生じる…が、仲間のためなら危険をかえりみない覚悟のエグゼが名乗りをあげるが…。

 

「あたしが行こう。こいつのことは、あたしが一番よく知ってる」

 

「よっしゃ、じゃあ一緒に行こうぜ姉貴!」

 

「あたし一人で行くよ。感染するリスクを犯すのは、少ない方がいい…エグゼ、お前がここでリスクを犯す必要はないよ」

 

「だけどよ姉貴…」

 

 食い下がるエグゼであったが、アルケミストにデコピンを受けて弾き飛ばされる…姉の強烈なデコピンを受け、痛みに涙目になりながら睨む。

 

「危険な目に合うのは姉貴分のあたしだけで十分だよ。妹分を危険にさらせるわけないだろう?」

 

「姉貴……分かったよ、だけど自分がやられていいって理由にはならねえからな? 無事に成功させろよ、そしたらまたみんなでデストロイヤーの奴をからかってやろうぜ」

 

「フフ、そうだな…博士、じゃあ準備を頼むよ。待ってなよデストロイヤー、すぐに良くなるからな…」

 

 眠りにつかされているデストロイヤーの髪を、アルケミストはそっと撫でる。

 姉として、そして今は亡き恩師より妹分たちのことを託された彼女は強い決意をもって彼女の中に巣食う病魔に立ち向かうのであった。




次話はアルケミストが主人公するお話?
深層映写inアルケミスト

もしもウイルスが触手っぽい何かな形状で感染(敗北)したら薄い本なんて妄想した奴はそこに並びなさい、アルケミストが笑顔でファラリスの雄牛に押し込んでくれると思うよ(ニッコリ)


最近、アルケミストのナチス親衛隊スキンを妄想するわけよ…。

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