数機のハインドに吊られて戦場に現われた巨大な兵器に、度肝を抜かれた鉄血兵たちは攻撃の手を止めた。
攻撃の手を止めた鉄血兵を不審に思い、奴らの視線の先を辿ったMSFの兵士たちが見たのは、ワイヤーから切り離され着地と共に地面を揺らした鋼鉄の守護神の姿だった。
二つの巨大な脚で地面に降り立った巨大な兵器はピクリとも動かず、ただならぬ雰囲気をまとったまま鎮座する…。
やがて巨大兵器の頭部部分に光が灯ると、その巨大な脚を動かしはじめる。
地面を踏みしめるたびに地響きがなり鉄血兵に動揺が広がっていく。
「ZEKEだ……動いたんだ、直ったんだ!」
鉄血の攻勢で疲弊していたMSFの兵士たちは、戦場に降り立った巨大兵器…メタルギアZEKEの登場に歓声をあげた。
『みんな待たせたね! なんとかZEKEの修理が間に合った!』
戦場の兵士たちの無線に、マザーベースからヒューイの通信が入った。
マザーベースがこの世界に来てからずっとメタルギアZEKEの損傷を修理し続けてきた、数に限りがある資源の中で、メタルギアZEKEへ回される資材の優先は低かった。
マザーベース自体の修理、兵士たちの生活を維持するための生活基盤を整えるために優先的に資材が使われていくなかで、ヒューイは少ない資源で最善を尽くしていたのだ。
MSFの活動が拡大するようになって安定した資源の供給ができてからメタルギアの修復は加速し、ついに、この日を迎えたのだ。
『修復したZEKEだけど、以前のモデルと比べると重装甲化に成功したんだ。それに伴いブースターにも改良を加えてね、機体の重量化に伴う機動性の悪化を相殺している。それから機銃を20mm機関砲に取り換えてある、その他にもピースウォーカーに装備していたSマインを装着、それと殲滅戦に備えてヘッドをクリサリスヘッドに変えて高威力のミサイルを――――』
『能書きはいいからさっさと戦闘させろ! 事態は一刻を争っているんだ!』
『そ、そんなに怒らなくてもいいじゃないかミラー…!』
ミラーに叱られまだ何か語りたかった様子のヒューイは渋々ZEKEの戦闘行動を実行する。
「メタルギアZEKE起動…任務、敵部隊ノ殲滅…任務開始」
合成音声が流され終えると、ZEKEはその身体の向きを鉄血兵たちに向ける。
攻撃命令が下された瞬間、ZEKEは機敏な動作で鉄血兵の前にまで走ると一発目に、その巨大な脚を振り上げて固まっていた鉄血兵をまとめて踏みつぶし、そのまま引きずるように動かし周りにいた鉄血兵をもすり潰す。
動揺しながらも反撃を開始した鉄血兵…。
だが小口径の弾はZEKEの装甲の前では何の意味もなさず、すべての銃撃は弾かれる。
逆にZEKEから返されたのは、対人として使われることのない20㎜機関砲だ……12.7㎜弾を遥かに上回る威力を持った弾は、鉄血兵を文字通り木端微塵に吹き飛ばす。
その時、鉄血側より放たれた砲撃がZEKEの巨体を直撃した。
爆発の黒煙で一瞬ZEKEの上体が一瞬隠れたが、ZEKEは砲撃をものともせずに、砲撃を放った陣地を睨むように身構える。
「レールガンチャージ…」
ZEKEの右肩に装着された巨大な兵装に青白い電流が走る。
ただならぬ様子に鉄血兵は砲台を放棄し後退、遮蔽物に飛び込み身を隠す。
「チャージ完了…レールガン発射」
電流の力で極限まで加速された弾頭は発射したその瞬間には目標へと着弾。
加速された弾頭は凄まじい威力をもって遮蔽物に隠れた鉄血兵を吹き飛ばす、その威力たるや強固な遮蔽物をも破壊し数メートルにわたって地面が深々と抉られる。
離れた敵にはミサイルを発射し陣地もろとも破壊…鉄血兵は対抗策としてマンティコアを前面に出すが、機関砲の掃射、レールガンとミサイルの攻撃、あるいはその巨大な脚で踏みつぶしあっという間に駆逐する。
鉄血兵は命令とあらば小勢であろうが大軍に突っ込むことができるが、ZEKEの登場で乱れた指揮系統によって個々の判断で後退を行う。
だが鉄血兵以上に無慈悲なマシンと化したZEKEは一兵たりとも見逃さない。
逃げる鉄血兵の前に、その巨体で高々と跳躍し彼女たちの前に着地し逃げ場を塞ぐ。
半ばやけくそに引き金を引く鉄血兵を撃ち、潰し、薙ぎ払う。
かつて鉄血勢力をこうも一方的に殺戮する存在があっただろうか?
狩られる側に追い立てられた鉄血兵たちは上位の指揮者に指示を仰ぐが、その指揮者である処刑人はZEKEによる破壊を呆然と見つめていることしかできない。
既に東側の部隊はZEKE単機で壊滅させられている。
撤退する間もなく他の部隊も追い詰められ、息を吹き返したMSFの兵士たちとの挟撃によって多くの部隊が包囲殲滅され、数的優位はみるみる失われていく。
「ふざけんな…こんな事、あってたまるかよ…! おい、早くあのデカブツを仕留めろ!」
激高し命令を出す処刑人、だが、周囲にいた鉄血兵は顔を見合わせるばかりで冷ややかな反応であった。
それに苛立つ処刑人は近くに居た鉄血兵の胸倉を掴みあげる。
「やれって言ってんのが聞こえないのか!」
「命令は聞けません…!」
「なんだとテメェ、恐怖心でAIが故障したのかクソが!」
「命令は…聞けません…!」
同じ言葉を繰り返す鉄血兵を地面に叩き付け、すかさず剣で叩ききる。
息を荒げ他の鉄血兵を睨みつけるが、恐怖に怯えつつも彼女たちは変わらず微動だにしない…。
『止めなさい処刑人』
「代理人…そうか、やりやがったなお前」
『ええ、あなたの指揮権をはく奪いたしましたわ。もう兵たちはあなたの命令には従わない、これ以上の損害は我々に大きな影響が出ますわ。この戦いはあなたの負け、早く戻りなさい』
「戻ったらAIを初期化するんだろ?」
『当然ですわ』
「だったらクソくらえだよ代理人。どうせこいつらはもう使えない、逃げ腰になった兵士なんか…何千も何万もいても同じだ。後は好きなようにやるさ」
『不利と分かって、死ぬと分かってまだ戦いますの? 理解できませんわ』
「あんたには理解できないだろうさ…おそらく一生な。あばよ代理人、もう二度と会いたくもないがね。あぁそれと…今まで世話になったな、アンタに恨みはねえよ。少しでもオレを想ってくれるならバカな女だと思って見送ってくれよ、じゃあな、代理人」
「攻撃のチャンスだ、敵を追い詰めろ!」
退却を始めた鉄血兵をZEKEと共に追撃をかける。
歩兵、戦車、戦闘ヘリ、それらと連携したZEKEはますます手のつけられない脅威となり敗走する鉄血兵はなすがままだ。
処刑人にぶちのめされ気絶していたスコーピオン達も今や復活し、積年の恨みを発散させるかのように鉄血兵を撃破していく。
「ようスコーピオン、随分撃ちまくってるじゃないか!」
そこへ砲撃陣地の破壊任務を行っていたキッドやエイハヴらも合流、キッドは見せ場をZEKEに奪われて悔しがっているが、そもそも砲撃陣地を破壊していなければZEKE登場の前に全滅していた可能性もあるのだ。
さらにそこへ現れたWA2000を見たスコーピオンは彼女を捕まえ怒鳴る。
「あんた今まで何やってたんだよ!」
「はぁ!? 狙撃役なんだから前線にいたら駄目でしょ!?」
「スプリングフィールドなんて大けがしたって言うのに、このポンコツめ!」
「あんたに言われたくないわ毒サソリ! あんたにはサボってたように見えるかもしれないけど、わたしは敵を50は仕留めてるわ!」
「へん、アタシなんて60は仕留めたもんねー! 安全圏で引き籠ってる芋スナじゃ無理な戦果だね!」
「な、なんですって!? 突撃バカのくせにッ!」
「もう止めてください! 敵に逃げられます!」
仲介に入ったM4のおかげで戦場でケンカをするのは止めてくれたが、こんどは逃げる鉄血兵を仕留めた数で競い合い始めた。
困惑するM4であったが、彼女は逃げる鉄血兵たちの中に一人、凄まじい速さで逆走する存在を見逃さなかった。
「処刑人…!」
剣を肩に担ぎ、猛然と突っ込んでくる処刑人。
真っ向から放たれる銃弾をものともせず、彼女は穴だらけの地面を走破し、鉄条網を飛び越え
処刑人は得意とする接近戦を仕掛け、ZEKEの動きを封殺すると手近な兵士を倒しスコーピオンらにも襲い掛かる。
「こいつが処刑人か! なるほど、凶暴な女だぜ!」
迫る処刑人にマシンガンを乱射するが、機敏な動きで銃弾を躱し処刑人はキッドに斬りかかる。
寸でのところでマシンガンを盾にしたが、処刑人の剣はそのマシンガンを真っ二つに両断しキッドの胴体を斬りつける。
血を流し倒れたキッドにとどめをさそうとした処刑人の横顔に、スコーピオンは全体重をかけて飛び蹴りを放つ…だが、処刑人は数歩よろけたのみで、すぐに反撃を行う。
処刑人のパンチを顔に受けてスコーピオンは吹き飛び、なおも追い打ちをかけようと倒れる彼女を掴みあげる処刑人。
だがもうここにいるのは処刑人にとって敵ばかり、スコーピオンの危機にWA2000は躊躇いなく引き金を引く。
肩を撃たれた処刑人はおもわずスコーピオンを離す…。
「いいかげんくたばれ、もううんざりなんだ…!」
あの日処刑人に目をつけられてから、スコーピオンは散々な目に合い続けてきた。
スネークのためにも、仲間のためにも、自分自身のためにもその日を待ち望んでいた…苦痛に表情を歪める処刑人の姿をどんなに思い描いてきたことか。
やられっぱなしは性に合わない。
スコーピオンは処刑人に銃を向け、引き金を引いた…。
「ぐぁッ…!」
「まだまだッ!」
弾倉の弾を撃ち尽くすまで撃ち止めるものか、銃声と彼女の叫び声と共に弾丸が処刑人の身体を撃ち抜く。
彼女の銃が弾切れになった時、処刑人は腹部からおびただしい出血を流し、吐血する…。
数歩後ろによろめき、処刑人はそこで踏みとどまる…息を荒げ、なおも攻撃せんと剣を肩に担いだ処刑人であったが、ついには力尽き前のめりに倒れ込む。
「やった…やったよ、みんな…! あたしたちの、勝ちだ…」
途端に湧き上がる歓声。
敵の親玉である処刑人が倒れ、鉄血の部隊は敗走し姿を消していった。
あちこちで勝利を喜ぶ雄たけびがあがり、処刑人打倒の功労者であるスコーピオンとWA2000は兵士たちに捕まりもてはやされる。
「お、おい…喜ぶのはいいが、誰か助けてくれ」
処刑人に斬られていたキッドはすっかり忘れられていた。
慌てて駆け付けた医療班に運ばれていくキッド、胃腸炎が再発したようで別な痛みを訴える彼の姿にみんな笑い声をあげる。
ZEKEのスピーカーからも、勝利の凱歌が流される。
絶対に負けると思われていたMSFの勝利には、グリフィン救援部隊も言葉が出ない様子だ…勝利を喜ぶ気持ちはM4も一緒だったが、彼女は鉄血に勝利したMSF、そして勝利の最大要因メタルギアZEKEを離れた位置で眺めていた…。
「みんな、よくやってくれたな」
「スネーク!」
その場に現われたスネークに、スコーピオンは真っ先飛びかかる。
飛びついてきた彼女をスネークはしっかりと受け止め、その頭をがしがしと撫でる…少し痛そうだが、スネークの大きな手で撫でられて嬉しいのか笑顔を浮かべる。
一緒に現われたスプリングフィールドも物欲しそうに見つめているのに気付き、彼女も同じように抱きしめる…。
「9A91お前もよくやってくれた、ありがとう」
少し離れたところでじっと見つめていた9A91にも、スネークはねぎらいの言葉をかける。
彼女は少しためらうようなそぶりを見せていたが、やがて微笑みスネークのもとへ近寄っていった。
「こちらこそ、
「もー、痛いってばスネーク…!」
言葉とは裏腹に、スコーピオンたちは嬉しそうに笑った。
そんな微笑ましい様子を兵士たちと共に、WA2000は遠巻きに眺めていた。
「お前はいかなくていいのか?」
「オセロット…その怪我、どうしたの?」
隣に立ったオセロット、その袖が赤く染まっているのに気付いたWA2000は布きれを取り出すとシャツの袖をまくり上げ傷の周りをキレイに拭き治療する。
「大した傷じゃない」
「ダメよ、ばい菌が入ったら化膿するのよ? ちゃんと治療しなきゃ…」
「余計なお世話だ。ほら、お前も言ってボスに褒めてもらえ」
「いいのよ、アタシはここで…」
「…?」
ひとしきり撫でられたスコーピオンは相変わらずの笑顔を浮かべたまま、上機嫌に勝利の余韻を味わっていた。
「いやーなんか一生分の緊張感味わったね」
「そうですね、やっと戦いも終わりましたし、しばらくはお休みしたいですね」
「いや、まだ終わっていない」
「スネーク…?」
彼の言葉に首を傾げるスコーピオン。
スネークがじっと見据えている先に、彼女も視線を移す…。
そこには、ボロボロの姿になりながらも、剣を支えに立ちあがる処刑人の姿があった。
よろよろと歩く処刑人はただ一人、スネークを見据えながら真っ直ぐに向かってくる。
「アイツ、まだくたばって…!」
「止せ」
スコーピオンが構えた銃に手を置き下げさせる。
疑問の声を漏らすスコーピオンに何も答えず、スネークは処刑人の前にゆっくりと歩を進めた…。
兵士たちがスネークに道を開き、兵士が並ぶ道の間で二人は立ち止まる…。
「まだだ、まだ終わってない……!」
腹と口から血を流し、苦痛に歪めた顔に、処刑人は無理矢理笑みをつくる。
「オレたちの、負けだ…でもな、オレとお前…個人的な決着はまだだよな…?」
支えにしていた剣から手を離し、自力で立つ処刑人。
大けがを負った腹部からも手を離し、拳を固めて身構える…スネークもそれに倣うように、武器を捨てて構える。
そんなスネークの姿に処刑人は一度目を見開き、そしてその瞳を潤ませる。
「やっと…オレを見てくれたな、スネーク…。サンキューなスネーク、お前に会えて…オレは生きてることを実感できた…。もっと、もっとオレを見てくれスネーク…これが、オレだ、ありのままのオレを見て欲しいんだ!」
処刑人の振り上げたこぶしを、スネークは真正面から受ける。
数歩後ずさりしたスネークであったが、倒れることなく踏みとどまる…。
再び処刑人はスネークの頬を殴りつけ、大きくよろめいたスネークは片膝をつく。
致命傷を負っているはずの処刑人の身体のどこにそんな力が残されているのか、彼の危機にスコーピオンらは助けようとしたが、それをエイハヴが止めた。
処刑人に仲間を殺された恨みは確かにある。
だが、スネークに惚れて集まったMSFの兵士たちにとって、ぼろぼろになってもなおスネークに挑んできた処刑人の姿に言葉には出来ない何かを感じていたのだ。
「どうした…来いよ、スネーク…!」
煽る処刑人をじっと見据え、血の混じった唾を吐き身構える。
処刑人の強烈な拳を傷を負った左腕で受け止め、放たれたスネークの右ストレートをもろに受けたて処刑人は吹き飛ぶ。
「立て処刑人、戦士なら…まだ立ち上がって戦え」
「ハァ…ハァ…当たり前だろ…!」
立ち上がり、すかさずスネークを殴りつける処刑人。
負けじとスネークも彼女を殴り、そこからは二人とも激しく殴り合う…お互いの返り血を浴び既に二人の身体は真っ赤に染まっている。
言葉ではなく、拳を交わしあう処刑人の顔はどこか喜びに満ちている。
そこは二人だけの聖域だ、他の何者にも邪魔することは許されない。
どれだけ殴り合っただろう…。
お互い身体はあざだらけ、骨も何本か折れただろう。
いつ死んでもおかしくない身体で、なおも剥き出しの闘志で殴りかかる処刑人にスネークの肉体も限界に近い。
しかし処刑人が倒れないように、スネークも倒れることは無かった。
「オラァァッ!」
「ウオオオッ!」
渾身の力を込めた拳は交差し、互いの頬を撃ち抜く。
よろめく二人はついに倒れ地面に横たわる…そのまま寝ていられればどんなに楽であろうか、それだというのにスネークは痛む身体にムチを打ち立ち上がる。
先に立ったのはスネークだ、処刑人は腹部を抑え力の入らない膝を叩きなんとか立ち上がったが…。
限界を越えて立ち続けた処刑人は、殴りかかろうと前に歩きだした拍子に前のめりに崩れ落ちる。
そんな処刑人を、スネークは倒れる寸前で受け止める。
「ヘヘ…ずいぶん、優しいんだな……」
もう処刑人に立つ余力は残されていなかった。
だが満足のいくまでスネークと
「一人で勝手に気が済んで、悪いな…あんたの勝ちだよ、スネーク…ありがとう」
それを望んでいたかのように、処刑人はスネークの服をギュッと掴み目を閉じる。
腕の中で力を無くしていく処刑人を、スネークは何も言わず見つめ続ける……。
こうして、この世界に来てMSFが初めて経験する大規模な戦闘はMSFの勝利に終わった。
束の間の勝利に喜ぶ兵士たち。
だがこれはまだ、この世界の序章に過ぎないのである…。
殺し愛からの殴り愛、青春ですね(白目)
とりあえず、ここらで1章として区切ろうと思います。
2章で唐突に終わってもいいでしょうか?