METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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一難去ってまた一難

 呼び出されたエルダーブレインのご機嫌をとり、押し付けられた仕事を全てこなし、シーカー不在のせいで回ってきた雑用もこなし、最後には仲間であるジャッジに残った仕事の全てを丸投げしてドリーマーは悠々収容エリアへと足を運ぶのだ。他人の仕事を押し付けられたジャッジはもちろん切れたが、ドリーマーの話術によって言いくるめられて渋々仕事を引き受ける…。

 

「さて、久しぶりの拷問ね~。今日は何をして遊ぼうかしら? この間は電気ショックだったから…そうだわ、爪の間に針を刺して遊んであげましょうね」

 

 収容エリアに一人収監されているMSFの司令官、スネークを拷問し痛めつけるのがここ最近のドリーマーの楽しみである。シーカーが鉄血の領域を去る前に、くれぐれも捕虜への虐待はしないようにと通告していたが、ドリーマーは彼女との約束を破りスネークに対し容赦のない拷問を仕掛けた。

 人を痛めつける才能はアルケミストには及ばないが、ドリーマーの残忍性もなかなかのもの…アルケミストが残した拷問の記録から面白そうな方法を選択し、捕虜を痛めつけるのだ。

 

 さて、意気揚々と収容エリアにやってきたドリーマーであったが、道端で機能停止している配膳係のロボットを見つけ不審に思う。毎日独房まで食事を運ぶ程度の知能しか持っていない、下級ロボットであるため大して気にも留めなかったドリーマーであったが、スネークが収監されているはずの牢の檻が開いているのを見て走りだす。

 駆けつけた牢はもぬけの殻…少しの間呆然と独房を見ていたドリーマーであったが、愛らしい彼女の形相が徐々に歪んでいき、そした爆発した…。

 

「あんのクソ野郎がッ!」

 

 拳を叩きつけた壁に亀裂が入り、地下収容エリアにドリーマーの怒気を孕んだ叫び声が響き渡る。

 異変を察して警備の鉄血人形が駆けつけるが、ドリーマーはそのうちの一体を壁に叩き付けて破壊…ドリーマーの凄まじい怒りを目の当たりにした下級人形たちは震えあがり硬直する。

 血が滲むほど拳を握り固め、額に青筋を浮かべるドリーマー…。

 

「このエリアと、隣接するエリア全部の戦力をかき集めろ…」

 

「は…ですが、それでは…」

 

「下級人形の分際で口答えしてんじゃねえよ! ごちゃごちゃ言ってねえでとっとと動け、スクラップにされてぇのか!?」

 

「は、はい! 今すぐに!」

 

 怒鳴りつけられた人形たちは逃げるようにしてその場を走り去る。

 

「あのクソ肉袋が調子に乗りやがって…! 絶対にぶっ殺してやるからなぁ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは何の前触れもなく起こった。

 代理人が訪れてからおそらく数日経ったある日、突然作動音が鳴ると独房のロックが解除され脱走を防ぐためのあらゆる装置が機能を停止した。拷問で痛めつけられていたスネークだが、それが代理人の言っていた唯一の脱出の機会であることを察し、すぐさま独房を脱出する。

 武器や装備品の全ては没収されていたために途中、鉄血兵が使うような武器を手にしてみたがどうやらIDか何かがかみ合わないと使えない仕組みらしく、仕方なく小型のナイフ一本のみを手にスネークは収容所の出口を目指す。

 途中、警戒のための監視カメラや代理人が言っていたガス噴射機や放射能散布機らしき装置を見かけるも、全て停止している。これまでスネークは何度か敵の手に捕まったことがあったが、ここまで障害もなく脱出できることは無かった。

 完璧と思われた収容所であるが、唯一にして最大の弱点…電子制御の弱点を突かれたことで、脱獄防止のあらゆる障壁は沈黙してしまっていたのだ。ただしそれはあくまで脱出を防ぐための装置に限る…それ以外、具体的にはドリーマーのような戦術人形はいつか脱出に感付くだろう。

 

 収容所とはいえ、元々捕虜の収容のためではない施設を改造したものに過ぎず、階段を駆け上がるだけで地上へと近付いていく。途中何度か鉄血兵を見かけるが、どうやらまだスネークの脱走に気付いていないようで動きもせずにじっと同じ方向を見て警備する。

 わざわざ倒す理由もメリットもなく、それら警備の人形を避けて、スネークはようやく外へと出ることが出来た。

 

 久しぶりの外気はとても新鮮で、それまで気を張り詰めていたスネークも足を止めて肺に空気を吸い込んだ。久しぶりに見た太陽の光は地下の蛍光灯よりはるかにまぶしく、しかし暖かい。拷問と地下空間に収容されていたストレスが緩和されていく、少し足を止めていたスネークであったが、突如エリア一帯に響き渡る警報音鳴り響く…どうやらスネークの脱出にドリーマーが気がついたらしい。

 ここは鉄血領域内、周囲にいるのは敵ばかり…だがこんな状況を既に経験しているスネークは冷静に周囲の状況を確認した。

 スネークが最初に発見したのは、朽ち果てた古いトラックだ。

 中を素早く物色するとちょうど良いサイズの上着を見つける…どうやら軍のものだったらしく、都市迷彩パターンの野戦服を見つけそれに袖を通す。武器はそのトラックになかったが仕方ない。

 

 現在地も方角も分からない状況ではあったが、朽ちた電柱の影と太陽の位置からおおよその方角を理解し、次にスネークは同様に朽ちて残る道路の標識から現在地を割り出した。

 

「ここからなら南に真っ直ぐ向かった方が早いな」

 

 以前、エグゼやアルケミストらの会話で聞いた鉄血領域内の都市跡の名を聞いていたことが役に立った。

 そこから領域外へ出るのに近い方角、南の方へ向けてスネークは走る…武器も装備もない中、敵に遭遇すれば窮地に陥ってしまうだろう。警告音が鳴らされて、既にスカウトやドラグーンといった鉄血の捜索隊が動きだしている。

 スネークは瓦礫や廃墟の中に身をひそめることでそれら追手の目を欺いていくが、スネーク一人に対し捜索隊は次々に投入されていき、スネークといえども逃走が難しくなってくる。

 

 追手を避け南へ真っ直ぐに向かうと、最近大規模な戦闘が起こったと思われる場所へとたどり着く。

 そこにはほとんど無傷のまま機能停止した大量の軍用人形、戦車などがある…以前オセロットが正規軍の情報を入手した際に見た兵器類と同じものがそこで朽ちていた。最近正規軍と鉄血が激しくぶつかり合ったのだと察したスネークは、ふと足下に落ちていた"M60汎用機関銃"を拾い上げた。

 状態も良く、ベルトリンクもそのまま置かれていたM60……スネークは周囲を探るがその近辺に見知った戦術人形の姿はなく、この銃の持ち主は無事逃げおおせたのだと判断する。

 何はともあれ武器は手に入れた、万が一敵に遭遇した場合の対処はできる。

 そう思った矢先、建物の影から駆動音を響かせながら鉄血のプロウラーが姿を現した。

 

 即座にM60を腰だめに構えて撃ち破壊するが、そのプロウラーたちを乗り越えて現われた大量のダイナゲートを見た瞬間、スネークは舌打ちをしてその場を走りだす。

 走りながら背後を見れば、恐ろしい数のダイナゲートが徒党を組んで追いかけてくる…一体一体は脆いが集まれば厄介な相手、スネークは細い路地裏に入り込むとそこで立ち止まり、銃を構える。

 

 簡単なAIを搭載する程度のダイナゲートは狭い通りに雪崩れ込み、ほとんど身動きが取れないほど窮屈になってまで追いかけてくる。それがスネークの狙いだ…狭い路地に群がるダイナゲートに対し、スネークのM60機関銃が火を吹いた。

 猛烈な連射力で放たれる7.62mm弾がダイナゲートの薄い装甲を引き裂き、貫通し残骸を乗り越えて来ようとするものも撃ち抜いていく。単調なAIのダイナゲートは罠であるとも知らずに狭い路地に密集し、破壊されていく……ベルトリンクを撃ち尽くす頃になると、ダイナゲートは全滅し路地の入り口には残骸の山ができていた。

 

「ん?」

 

 そんな残骸の山から一体のダイナゲートが飛び降り、スネークの前まで駆け寄ってくるとその身体を震わせる。どうやら攻撃しているつもりらしいが、背部の火器が破壊されているため、身を震わせるたびに火花が飛び散るだけだ。

 ほとんど無害なダイナゲートにスネークは銃口を向けていたが、やがて彼は銃を下ろしその場を走り去る…そんな彼を、無害化されたダイナゲートは後を追いかけていく…。

 

 

 

「これは?」

 

 

 再び南にまで走って行った時、スネークは地面にちりばめられた青い閃光を見た。

 その周囲には先ほどと同じように正規軍の兵器が大量にうち捨てられている…本能的にそこが危険な場所だと判断したスネークはそこを迂回、何もない空白の場所を横断した。

 

「スネークさん!?」

 

 ふと、かけられた声にスネークは咄嗟に銃を構えるが、その先にいた見覚えのある戦術人形を見て銃を下ろす。そこにいたのは79式とリベルタドール、WA2000が小隊長を務める部隊の隊員だ。

 すぐに二人と合流したスネークが何故ここにいるのか問いただせば、79式は困ったように首をかしげる。

 

「スネークさんが救難信号を出したんじゃなかったんですか? 私たちはそれを確認してここに来たわけですが…」

 

(代理人か…)

 

 救難信号も、もしかしたら代理人の手引きかもしれない。

 

 いつかエルダーブレインに訪れるであろう危機…その時に助けになってもらうために、下級人形を生贄にしてまでスネークを鉄血領域内から逃がす。もし仲間たちにばれれば代理人もその立場を危うくさせる、それだけの覚悟が彼女にはあるのだろう。

 二人と合流したスネークは79式の手引きで、すぐにWA2000とカラビーナとの合流も果たしたのだが、そこで彼女たちの通信回線に割り込むようにしてドリーマーが声をかけてきた。

 

『やっと見つけたわよ虫けらども…! くそ虫みたいにひとの庭を這い回りやがって……まとめて殺してやるから、覚悟しなさいよ?』

 

「こいつドリーマー? 面倒な奴につけ狙われてるのね、スネーク」

 

『その声……久しぶりねMSFのWA2000。前回は世話になったわね、邪魔すなら容赦しないわ。死にたくなかったらお家に帰りなさい?』

 

「ふん…余計なお世話よドリーマー。それになに勘違いしてるか知らないけれど、あんたに私は殺せないわよ」

 

『あぁ?』

 

「よく聞きなさいルーキー、狙撃手というのは常にクールじゃなくちゃいけないの。今のアンタみたいに熱くなってたら周りなんか気にしちゃいられないし、照準の中の景色しか見えなくなるもんなのよ。アンタが得意げに私を見つける頃には、私は引き金を引いてるわね……死にたくなかったらお家に帰りなさい(・・・・・・)お嬢ちゃん。あと忙しいしアンタに構ってる暇はないから、この通信は切るわね」

 

 そう言って、通信回線を遮断したWA2000は気持ちを切り替えて仲間たちに振りかえるが、仲間たちの妙な視線に狼狽える。カラビーナは感心した様に頷き、79式は羨望の眼差しを向け、リベルタドールは目を輝かせている。

 

「な、なによ…」

 

「さすがですマイスター。ハイエンドモデル相手にあんな啖呵きれる者はそう多くはいませんよ?」

 

「センパイ、凄くかっこよかったです…!」

 

かっこいい……

 

「さすがオセロットの一番弟子だな。大したもんだ」

 

「もう、スネークまで…! ほら、さっさとこんなとこ脱出するわよ!」

 

 仲間たちの称賛の声が気恥ずかしいのか、しかしどこかまんざらでもない様子のWA2000。だが悠長にもしてはいられない、今のWA2000の言葉で完全にキレたのかドリーマーは大規模な部隊を投入してくる。

 スネークやWA2000がいくら精鋭とは言っても、相手は数百あるいは数千もの規模でやってくる…おまけにここは敵地であり敵は際限なく支援を受けることが出来るのだ。

 大部隊と真っ向からぶつかり合う危険性をその身で知ったWA2000は反撃しつつも撤退…彼女と同意見のスネークも迫りくる敵を撃破しながら後方へと下がっていく。

 

「ワルサー、脱出経路は!?」

 

「準備してあるわ! 奴らのパルスフィールドが何故だか一部止まってる今がチャンスよ、早くしないといつあの電磁パルスで焼き尽くされるか分かったもんじゃない!」

 

 既にパルスフィールドの中間辺りにまで退いてはいるが、万が一ここで電磁パルスが起動されれば全滅は避けられない。生身のスネークにすらも甚大な被害を与えるほどだ…ここもおそらくは代理人が絡んでいる、彼女の気が変わらないうちに脱出しなければならない。

 ようやくパルスフィールドを越えることができたスネークたちは一息つこうとしたが、なんと鉄血の部隊もまたパルスフィールドを越えて追いかけてくるではないか。止めていた足を再び動かし、全速力で走る…怒り狂ったドリーマーの命令を受けた鉄血の部隊がパルスフィールドを越え、彼女たちの領域の外へと出て来た時……突如、彼女たちの頭上に砲弾の雨が降り注ぎ爆風が鉄血の部隊を木端微塵に吹き飛ばした。

 

「砲兵部隊も連れてきたのか?」

 

「いいえ、私たちじゃないわ……おそらく、正規軍よ」

 

 領域の外は正規軍及びグリフィンの合同部隊が展開している…どうやら領域内の騒ぎを正規軍が嗅ぎつけたらしい。多数の軍用人形が姿を現し、パルスフィールドを越えて来た鉄血を駆逐していく…。パルスフィールドという予想外の罠にしてやられたが、単純な強さでは正規軍がまだまだ鉄血を凌駕している…あっという間に鉄血の大部隊を殲滅して見せた正規軍を見て、WA2000は改めて彼らの脅威を感じ取る。

 

 鉄血を殲滅すると砲撃音はなり止み、鉄血を倒した軍用人形たちがスネークらを取り囲む…一難去ってまた一難とはまさにこのことだ。

 言葉を発しない人形たちを警戒するが、不意に人形たちは銃を下ろしスネークたちから離れていく…。

 

 

 代わりにやって来たのは二人組の女性だ。

 

 

「これはこれは…こんなところで会えるとは、MSFの司令官さん? 間違っていないわよね?」

 

「お前は…?」

 

「AK-12、よろしく。こっちは相棒のAN-94よ……さてと、政府の人間があなたと話したがってるから一緒に来てもらうわね」

 

「お生憎、私たちの司令官は疲れてるのよ。さっさと私たちの基地に帰らせてほしいんだけど」

 

「あらそう? その場合、遺体収容袋の中に入って帰ることになるけど構わない?」

 

 不敵に微笑むAK-12に対し、WA2000は苛立たし気に眉をひそめた。

 先ほどはドリーマーをあしらったが、このAK-12という戦術人形は別な意味で厄介な相手だとWA2000は思う。交渉が決裂してこの場で殺したとしても、おそらくこの場にいる二人はダミーに過ぎないだろう…。

 判断をスネークに任せるWA2000…スネークが銃を下ろした時、彼女もまたそれに従った。

 

「賢い選択ね、素直でいいわ。それじゃあ、一緒に来てもらうわね」

 

「おて柔らかに頼む、こっちは鉄血でずいぶん痛めつけられたんでな」

 

「フフ、それ以上の痛みを味わうかもしれないわよ? 冗談……になるかどうかは、あなたの態度次第よビッグボス?」

 

 笑みを浮かべたまま、彼女は相棒のAN-94を連れてその場を去っていく。スネークたちを連行するのは軍用人形の役目、無機質な人形たちに監視されながらスネークたちは移動を強いられるのであった…。




※スネークとAK-12との会話中の出来事…

ダイナゲート「フルフルフル……!」(スネークの背後で必死の威嚇)

AK-12(なんかいる…)
AN-94(かわいい…)


はい……(憤怒)
めんどくさい連中にまた捕まったでやんす!
こんどはわーちゃん小隊もセットや!

この二人、いつか…!

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