METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:男と女の戦い

 南部軍管区からユーゴ連邦領内にて1日滞在、その後飛行機を乗りかえてマザーベースへの空の旅。拡大に拡大を重ねたマザーベースは海上プラントをベースにしながら今では立派な海上都市と化しており、その中には大型貨物機の離着陸を行えるだけの大型滑走路を持つにまで成長と遂げた。

 スネークがマザーベースを離れたのはアメリカでの任務を含め数か月に及ぶ、かつてこれほどまでに長期にマザーベースを留守にしたことは無く、さすがのスネークも家であるマザーベースを想い少しばかりホームシックな気分になっていた。普段は葉巻をふかして落ち着いて基地に帰るスネークも、この時ばかりは嬉しそうだ。窓から見えるマザーベースを眺め、嬉しそうににやけているスネークに、機内に同席するWA2000ら他の人形たちもクスクスと笑っていた。

 高度を落とし着陸の体勢に入った航空機、甲板上には既に出迎えのためのスタッフや人形たちが集まっているのが見える。滑走路上をバイクで走り回っているのはエグゼ…危険だからやめてもらいたい。

 

「お疲れさま、そしてお帰りなさいスネーク。みんな待ってると思うから、早く行ってあげてね」

 

「助かったぞワルサー、それにみんなも。おかげで無事に帰って来れた」

 

「どういたしまして」

 

 改めて救出部隊の彼女たちに礼を言って、スネークは飛行機に据え付けられたタラップを降りていく。

 きっと出迎えのみんなが勢いよく駆けつけてくるのが想像出来る、元気すぎる人形たちや暑苦しい男性スタッフたち…出迎えの熱狂を予想しタラップを降りきったスネークであったが、いつまで経っても出迎えの者たちが突っ込んでこない。代わりに聞こえてきたのは、男女の激しい喚き声であった。

 スネークが見たのは、数十メートル先で取っ組み合いのケンカをし乱闘状態になっている戦術人形とMSFの男性スタッフたちの姿だ。

 呆気にとられるスネークであったが、ぶちのめされて伸びている男性スタッフや弾き飛ばされて泣いている戦術人形の姿を見て慌てて駆けつける。

 

「どうしたんだお前たち! とりあえずケンカを止めろ!」

 

「あ! ボス、おかえりなさい!」

「スネークおかえり!」

「お帰りなさいボス!」

「司令官さん、おかえりなさい!」

 

 声をかけると、それまで乱闘状態にあった人形とスタッフたちは途端にケンカを止めて笑顔で出迎えの言葉を言ってきた。顔面を殴られて流血したり、鼻血を流している者もいるが揃って笑顔だ…しかしマシンガン・キッドがスネークに歩み寄って握手をしようとすると、いきり立つスコーピオンが彼の横顔に跳び蹴りを仕掛けて阻止する。

 そして再び勃発する男女の激しい乱闘……罵詈雑言、時折血や吹っ飛ばされる者、双方のパンツが辺りに飛び交う。

 収拾がつかなくなって一旦距離を置いたスネークに、副司令のミラーが歩み寄る。この騒動の原因を問い詰めると、彼は困ったように笑いながらその理由を説明する。

 

「どうもうちの男性スタッフと、戦術人形とで誰が最初にスネークを出迎えるかで争いになっているみたいなんだ。いつもはうちのスタッフも一歩引くんだが、今回はどうしようもなくてな…スコーピオンやエグゼらがそれに怒って乱闘を起こしてるんだよ」

 

「なんだってそんな…まあ仕方がないが…」

 

 理由は微笑ましいのだが、この乱闘にかこつけて喧嘩っ早い連中が混ざって争いを拡大させているのでたまったものではない。アルケミストなどはこの乱闘を煽っているようだ…。

 

「まあ何はともあれボス、無事で良かったよ。お疲れさん、ボス」

「させっかコラァッ!」

「ゲボァッ!!??」

 

 こっそり一人で再開の握手を交わそうとしたミラーであったが、それを見逃さなかったエグゼが彼の顔面に鉄拳を叩き込んで吹っ飛ばす。殴られたミラーは甲板上を何度も転がって、最後にはぴくぴくけいれんを起こして気絶した…一応、97式が慌てて駆けつけてミラーはトラの蘭々に乗せられて医務室に運ばれていった。

 いよいよ手がつけられなくなった乱闘であったが、オセロットに率いられる治安維持部隊が到着し、高圧放水とゴム弾の連射で乱闘を起こす連中はことごとく鎮圧される…頭に血が上ったスタッフや人形の何人かがオセロットを倒そうとしたが、彼の無言の圧力を受けて尻尾を巻いて逃げていった…。

 

「まったくバカどもが…すまんなボス、あいつらには後で厳しく言っておく。何はともあれ無事で良かった、まあアンタがくたばるとは微塵も思っていなかったがな」

 

「留守の間色々面倒を見てくれていたらしいな、礼を言う」

 

「大したことはやっていない」

 

 互いを認め合い、握手を交わす両者…これには古参スタッフも悔しそうにしているが、スコーピオンやエグゼなどは発狂してオセロットに襲い掛かろうとするが月光に蹴飛ばされて排除された。

 

「落ち着いたらスタッフや人形たちとコミュニケーションをとってやってくれ、見ての通り…寂しがっているようだからな」

 

「ああもちろんだ、しばらくは骨を休めたい」

 

「そうしてくれ、ボス」

 

 あまり焦らすと別な問題が起こる、狂信的なスタッフやスコーピオンなどの人形が次にどんなトラブルを起こすかも分かったものじゃない。彼らのたまったストレスを抜いてやるのも、組織の長としてスネークがやらなければならない義務でもある。

 後のことは治安維持部隊に任せオセロットは通常の任務に戻ろうとするが、ふと見かけたWA2000を呼び止めた。

 

「よくやったな、ワルサー」

 

「別に、大したことはやってないわ。いつも通りやっただけ」

 

「実戦でいつも通りやることはそう簡単なことじゃない。また腕をあげたな」

 

「そうなるだけの訓練と経験はしてるつもりよ。でもこれで満足するつもりはない、もっと力をつけなきゃね」

 

「殊勝な心掛けだ。これなら次からもっと大事な任務を任せられるだろう、期待しているぞ」

 

 去り際に、オセロットはWA2000の肩をたたく…それに対しWA2000はいつも通り、片手をあげてクールに応えてみせる。去っていくオセロットの背を軽く一瞥し、彼女は一人誰もいない物陰に移動すると……ポッと顔を赤らめ何度も深呼吸を繰り返す、そして彼が触れていった肩に手を添えて空を見上げ微笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後日…なんと男性スタッフと戦術人形の不毛ないがみ合いはまだ続いていた。

 アメリカに向かうまではあんなに仲が良かったというのに、今では食堂エリアを二分し男性スタッフ勢力と戦術人形のスネークLOVE勢+その他が睨み合っているではないか。両勢力の真ん中で食事をとるスネークであったが、両者の睨みあいに挟まれてせっかくの食事が台無しであった。

 

「ボス、なんというかその…すまないな」

 

「謝るなエイハヴ、何も問題ない」

 

「皆さん困ったものですね、せっかくスネークさんが帰ってきてくれたのにこれじゃあ…」

 

 スネーク、エイハブと相席で食事をとるスプリングフィールドもこんな状況を悲観してみせる。ついこの間まではスネークを助けるためにと一丸になっていたはずだというのに、帰ってきたら来たでこれだ。いっそスネークが帰って来ない方が良かったのでは、と思うのは決してないがどうにかしてこの諍いを鎮めなければならないだろう。

 ちなみにエイハヴとスプリングフィールドがスネークと相席しているのに文句を言われないのは何故なのか…最近よくエイハヴとスプリングフィールドがカフェで仲良く話しているというが、察しのいいものならなんとなく分かるだろう…。

 

「ボス、この後はどうするんですか?」

 

「腹も満たしたことだし、風呂にでも―――」

 

 

 ガタンッ、と食堂内のスタッフと人形たちが一斉に立ち上がる。

 呆気にとられていると暑苦しい男性スタッフたちが勢いよく集まってきたではないか。

 

 

「ボス、お風呂に行くんですか!? 良かったらオレが背中を流しますが!」

「今からサウナの用意しておきますよボス!」

「肩を揉みましょうか!? それとも全身マッサージを!」

 

「お、お前ら…!」

 

 暑苦しい男たちの勢いに飲まれかけるスネークであるが、それをスコーピオンとエグゼ、9A91らが阻止するのだ。

 

「お前ら暑苦しいんだよ筋肉ダルマども! スネーク、オレが背中を流してやるよ? オレとヴェルとスネークで、家族水入らずでよ」

「させっか! 先にツバ付けたのあたしだもん、スネークはあたしと一緒にお風呂入りたいよね?」

「司令官は私と一緒に入りたいに決まってます」

 

 対するエグゼとスコーピオン、そして9A91は暑苦しい男どもでは到底出来そうもない色仕掛けでスネークを誘惑するが、それで黙っている野郎どもではなかった。暑苦しい男どもは唐突に上半身の服を脱ぎ棄てると鍛え抜かれた見事な肉体を堂々と晒す。

 先頭に立つのはマシンガン・キッドだ。

 

「男と男には裸の付き合いってものがあるんだ! お前たち女性陣にはできまい、一糸まとわず己をさらけ出して語り合う男の生きざまをな!」

 

「キッド兄さん…」

「キッドさん、頭大丈夫かな?」

「やっぱホモじゃんこの人」

「だから言ったでしょ、ホモだって」

 

 上からロリネゲヴ、M1919、BAR、MG4…マシンガン人形たちの好感度がガクッと落ちた気もするが彼は一切気にせず、普段のマシンガントークさながらに筋肉について熱く語り始めるのであった。

 

「うっせえぞ脳筋野郎ども! 古今東西、男は女の方が好きだって決まってんだよ! スネークをてめえらホモ野郎どもと一緒にすんじゃねえ!」

「そうだそうだ! そもそも男にはスネークが大好きなおっぱいがないでしょ!? スネークはおっぱいが大好きなの! スネークが好きな方が一緒にお風呂に入った方がいいでしょうが!」

 

「なにぃ!? 男にだって女が持ってないモノをもってるぞ、見せてやろうか!?」

 

「させっかコラァッ!」

 

 唐突にズボンを脱ごうとした男性スタッフに、成り行きを見守っていたアルケミストが前蹴りを浴びせて阻止する。そしてそれをゴングとして再び起こる乱闘騒ぎ、食べかけの料理や椅子やテーブルなどがあたりに飛び交う。

 この乱闘に無関心なスタッフや人形たちも巻き添えをもらい、それにキレて乱闘に参戦する……この乱闘を煽るためだけに独房を抜けだしていたアーキテクトが、飛んできた椅子を顔面に受けて気絶する。

 

 その後すぐに駆けつけてきたおなじみ、治安維持部隊。

 凶暴なスタッフと戦術人形に対峙するために開発されたパワードスーツを纏ったヘイブン・トルーパー隊が、テーザー銃とショックバトンを駆使して乱闘を起こす者たちを鎮圧していく。特に厄介なものはそのまま営倉にぶち込まれることになる。

 ようやく静かになった食堂…電気ショックで鎮圧されたスタッフと人形は、地面を這いつくばりながら今だいがみ合っていた。

 

 

「そもそもな…ボスが風呂に入るってことは……風呂場は男の時間ってことじゃないか…! 女性陣は、どうやっても入れないだろ…!」

 

「なん…だと…!?」

 

「男と女、時間わけを希望したのは…そもそもお前たちだぞ! フフフ、これで分かっただろう…この争いは、最初から勝負は見えて……グフッ…」

 

 

 電気ショックの影響からか、男性スタッフたちは次々に気絶していく…一応耐久力のある戦術人形たちは持ちこたえるが、身動きは出来ないので残らず治安維持部隊の手によってしょっ引かれていくのであった。

 ようやく、食堂に静けさが戻る…今では成り行きを静観していたスタッフたちが数人と、一人呑気にラーメンをすするSOPⅡがいるくらいだった。

 

 そこへ、バタンと食堂の扉を勢いよく開いて全身泥まみれのヴェルがぱたぱたとスネークのところへやって来た。その後ろを、同じく泥だらけの蘭々と困った様子の97式が一緒にやってくる。

 

 

「パパー! いっしょにおふろいこー!」

 

「泥だらけじゃないかヴェル。どうしたんだ?」

 

「ごめんなさい司令官さん、ヴェルちゃんと蘭々が泥遊びしちゃって…もしよかったら一緒に洗ってくれないかな?」

 

「まったく、しょうがないな。ほら行くぞ」

 

「わーーい!」

 

「グルルルル……?」

 

 

 結局、この不毛な争いの勝者は男性スタッフでも無ければスコーピオンらでもなく…無邪気な娘と一匹の猛獣であった。

 

 数日後、いつの間にか諍いはなくなっていつもの平穏なマザーベースが戻って来たようだ…。




たまにはほのぼのを…と思ったら、なんだこれ…?
人間の男と戦術人形が一人の男を巡って乱闘とか、この作品が唯一じゃないかな?



次回もほのぼのやる予定だよ、たまには息抜きしないとね。

次回予告?

スネークを狙うダイナゲートくん、月光とかフェンリルとかサヘラントロプスとか無人機と交流するの巻(たぶん終始作動音)

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