METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:無人機狂想曲

 無人二足歩行兵器"月光"、四足獣型無人機"フェンリル"、無人攻撃兵器"グラート"、無人攻撃ヘリコプター"ハンマーヘッド"、直立二足歩行兵器"メタルギア・サヘラントロプス"。

 割と初期に開発と量産に成功した月光以外の無人機についていまだ稼働数はそこまででもないが、正規軍が用いる兵器に勝るとも劣らない性能の無人機を複数所持するMSF。中でもメタルギア・サヘラントロプスは、前身となっているメタルギアZEKEに用いられた開発技術を活かし、なおかつ独自の開発思想を組み込むことで生まれた他に類を見ない兵器となった。

 さて、そんな無人機を開発するのはマザーベースの研究開発班であるが、開発された無人機を実戦でテストし採用の是非を取り決めるのは前哨基地を任されているエイハヴの役目だ。彼に詳しいAIの仕組みは分からなかったが、前線で部隊を指揮する者の視線から改良すべき個所や実装して欲しい能力を研究開発班に伝え、その要望を聞き入れた研究開発班が更なる改良を施す。

 

 研究開発班の遊び心で時たま癖の強い無人機が生まれるが、基本的に前線で共に戦ってくれる無人機たちは人間のスタッフたちにも頼られている。戦術人形たちは、同じ人工知能を有する存在として同胞と見ているのか、人間のスタッフ以上に親密な関係になる場合もある。

 

 その日、エイハヴは研究開発班に求められていた実戦データの最終報告書をまとめ、これら無人機の開発を統括しているヒューイのもとへと届けていた。

 

「月光の有用性は既に実証済み、高い防御力と攻撃力、そして機動性は正規軍にも通用するだろう。フェンリルは軍用犬ほどの大きさで機動性もあり部隊と共同で運用でき、小型レールガンを活かした狙撃と偵察に従事できる。グラートは少し運用法が限られるな、だが防御陣地の戦力として活躍したデータもあるから使い方次第では強力だろう。最後にハンマーヘッド、整備性に優れて優れた対地制圧能力を持つことから前線で戦う兵士たちには好評だ」

 

「ありがとうエイハヴ、ぼくは基本的にサヘラントロプスにかかりっきりだからなかなか見られないけど、研究開発班のスタッフもこれで努力が実ったことになるね」

 

「後のことはよろしく頼む。エグゼの奴がさっさと無人機を寄越せってしつこいんだ…できるだけ早く量産をお願いする」

 

「ははは、君もいろいろ大変だね。分かった、みんなにはそう伝えておくよ」

 

 戦術人形の連隊を率いるエグゼは、一時期と比べると落ち着いたものの、隙あらば戦力増強のために新兵器の導入をしつこく求める。大抵は戦力の管理を行うエイハヴにその矛先が向くため、時々口論になったりもする…エグゼの連隊はMSFの中核的存在となっているが、エイハヴは全ての部隊を平等に評価し、一つの部隊を優遇させるわけにはいかない。

 なにより、研究開発班は人間や人形の損失を抑えるために無人機の開発を行っているため、その願いに応えてやりたいという思いもある。

 

 

 報告書をヒューイに託したエイハヴはマザーベースの甲板上に赴くと、穏やかな海を眺めながら背筋を伸ばす。MSFの司令官であるスネークも帰還し、いつも通りの日常が戻って来た、少なくともこのマザーベース内は平穏そのものだ。前哨基地の指揮を任されている立場のエイハヴは、なかなかマザーベースに戻る機会もないため、こういった仕事で戻って来た時が羽根を伸ばすチャンスでもある。

 一見平穏に見える海……しかしこの海の遥か先では、世界を焼き尽くそうと目論む報復心に憑りつかれた者たちがいるのだ。今のこの平穏が果たして一体いつまで続くのか、長年戦場を渡り歩いてきたエイハヴはかつてない脅威が迫っていることを感じていた。

 

「あら、エイハヴさん。こんな時間にマザーベースにいるなんて珍しいですね」

 

 かけられた声に振り向くと、そこにいたのはスプリングフィールド。今日彼女は前哨基地で自身が率いる大隊の演習を行う予定であったと記憶していたエイハヴに、彼女は微笑みを携えながら演習が二日後に延期になったことを伝えた。

 

「ちょっと失礼しますね、襟元が曲がってますので」

 

 すぐそばまで歩み寄ってきたスプリングフィールドはそう言って、エイハヴの首元に手を伸ばす。基本的に野戦服スタイルであるため、服装の乱れにさほどエイハヴは気を留めない…もっとも、他のスタッフや一部人形を除いて粗野な連中が多いためそこまで気にされないが、彼女は元々の性格からか細かな配慮と気遣いからよく他人の世話をやく。

 曲がっていた襟を直し満足げに微笑む彼女に対し、エイハヴは少々気恥ずかし気に礼を言う。

 

「ところでここには何か用があったのか?」

 

「作戦報告書を提出しに来たんですよ。エイハヴさんはどういった用件で?」

 

「似たような理由だよ。無人機の実戦データの最終報告書をあげるためにね」

 

「まあ、それは奇遇ですね」

 

 他愛もない話題で会話に花を咲かせていると、不意に二人の足元を小さな何かが駆け抜けていく。何だろうと駆け抜けていった物体を見ようとしたが、その直後に全速力で走ってきた月光を見るや二人は慌ててその場を跳び退いた。

 

「何ごとだ!?」

 

 月光が唸りをあげて追いかけているのは、4足歩行で走り回る小さなロボット…そのロボットに見覚えがあるのかスプリングフィールドはあっと声をあげた。

 

「スネークさんが連れ帰ってきたダイナゲートですよあれは!」

 

「なに? ダイナゲートと言えば、確か鉄血の戦闘メカじゃないか…どうしてそんなのが?」

 

「エグゼが言うには、今だスネークさんを攻撃してるつもりらしいんですが、武器が壊れてるから放置しているみたいです」

 

 人形や人間からは、無害化されたダイナゲートが頑張ってスネークを倒そうとしている姿を笑いの種にされている。ただし、月光含め無人機はそうはいかない…無害化されているとはいえ、スネークを攻撃しようとしているダイナゲートの信号を傍受して、無人機たちは戦闘行為と認識し執拗にダイナゲートを追いかけているのだ。

 猛烈な勢いで別なプラットフォームへ走って行くダイナゲートと月光…そのすぐ後に、息を切らしストレンジラブがやってくる。

 

「ちょうどいいところにいたな二人とも! あのダイナゲートを捕まえるんだ!」

 

「博士、あのダイナゲートに何かされたんですか!?」

 

「いや、そういうわけじゃないが…とにかく捕まえるんだ!」

 

「別にあれは鉄血のメカなんだろう? 別に構わないじゃないか、何が特別な理由でも?」

 

「可愛いからに決まってるだろう! まったくどうして男はいつもこう……とにかく、あの可愛いダイナゲートがたくさんの無人機に追いかけ回されてるのを見て何も思わないのか!? あの子が潰される前に救助するんだ! 大丈夫、無人機たちはお前たちを敵として認識しないはずだ」

 

「だが…」

 

「早く行けッ!」

 

 ストレンジラブに怒鳴られ、エイハヴは渋々ダイナゲートたちが走り去っていったプラットフォームへと向かう。その後を一応スプリングフィールドもついて行くのだが、それが災難の始まりであった。

 隣のプラットフォームまで移動したところで、なんとプラットフォームを繋ぐ橋が外されてしまったではないか。唖然とする二人に対し、ストレンジラブは自信満々の声で、これ以上ダイナゲートを苛める無人機が増えないためと熱弁する……が、橋を跳び越えてやってくる月光やフェンリルの姿は見えていないのだろうか?

 

 

「と、とにかくなんとかしましょう!」

 

 殺気立った無人機たちが余波でプラットフォームを壊してしまうその前に、何としてでもダイナゲートを捕まえて保護しなければならない。小さく機敏なダイナゲートは甲板上をピョンピョンと跳ねるようにして駆けまわり、素早い月光やフェンリルの追跡を躱している。

 図体の大きな月光が入れない隙間、フェンリルすらも追跡しきれない細道をダイナゲートは駆けまわる……一応、無人機たちは追いかけるのみで機銃を撃ったりレールガンをぶっ放してはいない様子。しかしそれも、ダイナゲートが廃材を蹴飛ばし一体のフェンリルが下敷きになったことで豹変する……完全に戦闘モードに移行した月光は唸り声のような動作音を響かせ、フェンリルは背部にマウントされたチェーンソーを唸らせる。

 これら無人機の怒りに呼応したのか、待機状態にあったグラートも起動しダイナゲートを狙う…そして予想外の無人機が一体、長らく休眠状態にあったあの試作型月光が目を覚ましたのだ。

 

「エイハヴさん…これ、どうしましょう!?」

 

「どうするって言ったってな…!」

 

 一斉に戦闘態勢に移行した無人機たちによる攻撃はプラットフォームの施設を破損させていく。幸いここは新規建造のプラットフォームでスタッフは不在だったが、破損による損害は無視できない…これ以上損害が大きくなる前に無人機を止めなければならない。

 目の前を横切ろうとするダイナゲートを捕まえようと跳びかかったスプリングフィールドの腕を、ダイナゲートはするりと躱す。諦めずに後を追うがダイナゲートの逃げ足は速く、また追いかける無人機たちの勢いもあってなかなか近付くことが出来ない。

 

 その時、どこからともなく唐突に現われたのは捕虜待遇兼研究開発班助っ人のアーキテクトだ。

 

「アーキテクト!またあなた脱獄してきたんですか!?」

 

「細かいことは気にしちゃいけないよ! さて御二方お困りのようだね! でも大丈夫、このアーちゃんが来たからにはダイナゲートくんの一体や二体容易く捕まえて見せるよ! ほらおいでー、アーちゃんだよ~!」

 

 逃げまどうダイナゲートに両手を広げて呼びかけるが、ダイナゲートは真っ向から無視、そればかりか彼女の頭を踏み台に跳び越えていく。必然的に後から追いかけてくる月光たちの真正面に立つことになる…。

 

「あ、死んだ」

 

 そんなつぶやきと共にアーキテクトは試作型月光の巨体に吹き飛ばされ、プラットフォームのどこかに吹き飛んでいった。

 

「あいつ一体何をしに…!?」

 

「わかりません! そんなことより…!」

 

 何の役にも立たなかったアーキテクトは放っておき、二人は小型レールガンを装備するフェンリルたちが狙撃態勢をとったのに気付き、それを阻止するためにフェンリルたちを押さえこむ。二人は一応味方と認識してくれるのか攻撃はしないが、嫌がるフェンリルは二人を振りはらう。

 そこへ、ダイナゲートが足元をすり抜けていき、後から突っ込んできた月光によってフェンリルたちは蹴散らされる…フェンリルを押さえていたスプリングフィールドは弾き飛ばされ、プラットフォームの甲板から投げ出された。

 

「スプリングフィールドッ!」

 

 咄嗟に伸ばしたスプリングフィールドの手を、エイハヴはなんとか掴むことが出来た。人形といえど、プラットフォームの高さから海面に叩きつけられれば無事では済まされない…エイハヴに引き上げられなんとか甲板の端を掴むことができたが…。

 

「エイハヴさん、危ない!」

 

 スプリングフィールドが見たのは、歩行形態に変形したグラートが火花を散らしながら甲板を滑り突っ込んでくるところだった。咄嗟にエイハヴはグラートの巨体を避けられたが、そのせいで彼自身も甲板から投げ出されてしまった。なんとか甲板にしがみつくことができたが、片方の手はスプリングフィールドの手を握り今にも落下してしまいそうであった。

 

「スプリングフィールド、絶対に…手を離すなよ!」

 

「エイハヴさん…!」

 

 甲板を掴む手で二人分の体重を支えつつ、エイハヴは渾身の力を込めてスプリングフィールドの身体を持ちあげる。なんとかスプリングフィールドを引き上げることに成功し、先に甲板に這い上がった彼女が急ぎエイハヴの手を握り引き上げる。

 

「助かった…!」

 

「お礼を言わなきゃならないのはわたしです! あら?」

 

 甲板にへたり込む二人の傍に、逃げ回り追いかけ回されてへとへとになったダイナゲートが倒れ込む。メカの癖にぴくぴくと痙攣しもう逃げる意思は無さそうだが、ダイナゲートを狙う無人機たちは容赦しない。一体の月光がマニピュレーターでダイナゲートを掴みあげ、プラットフォームの真ん中へと放り投げた…慌てて二人がダイナゲートを確保するが、周囲をぐるりと無人機たちが囲み込む。

 武装を構え、さっさと引き渡せと言わんばかりに圧力をかける。

 スプリングフィールドの腕の中で、ダイナゲートはメカの癖に震えあがっているようだ。

 

「み、皆さん…落ち着きましょう、ね!?」

 

「無駄だスプリングフィールド、こいつら…そいつを破壊するまで止まらないぞ」

 

「そんな、どうしたら…!」

 

 いきり立つ無人機たち。

 ゆっくりと迫りくる無人機たちに万事休すと思っていた矢先のことであった……ズズン、という重厚な物音と振動がプラットフォームを揺らす。

 

「ほえ…? 一体何が……あぁ?」

 

 先ほど吹き飛ばされたアーキテクトが起き上がり何気なく真上を見上げた時、圧倒的威圧感を放つ鋼鉄の巨人を目にして唖然とする。以前、MSFと戦闘になった際その鋼鉄の巨人を目の当たりにしたアーキテクトは絶叫し、スプリングフィールドたちのもとに滑り込む。

 

「サヘラントロプス…!」

 

 半壊した建物から、サヘラントロプスはその場の全員を見下ろしていた。誰も身じろぎ一つ取ることが出来ない、無人機たちでさえも…。

 そのうち、サヘラントロプスはスプリングフィールドの腕に抱かれるダイナゲートを指し示し無人機たちに何事か語りかける。語りかけるといっても無人機同士のやり取りであり、音声もなければ言語もプログラムだ。人間からすれば無言のやり取りがなされるが、どうにも月光含め無人機たちが納得いっていない様子。

 交渉が決裂したのか何なのか、月光が牛の嘶きのような動作音をあげて威嚇するが……サヘラントロプスの耳をつんざくような咆哮を受けて、無人機たちは一瞬で萎縮した。

 それから無人機たちは何ごともなかったかのように武装解除し、ダイナゲートから離れていく……無人機たちが離れていくのを見届けた後、サヘラントロプスもまた引き下がり格納庫の中へと戻っていった…。

 

 

「サヘラントロプス、ダイナゲートを助けたのでしょうか…?」

 

「そうみるのが普通だな」

 

「いや~! 寿命が縮んだよこれ、心臓バクバクだし……心臓ないけどさ」

 

 

 すっかり怯え切ったダイナゲートは離してもどこにも行こうとせず、大人しくスプリングフィールドの足元に寄り添ったままだ。おそらくこれに懲りて、このダイナゲートもまたスネークを襲おうとは思わないだろう。

 

 

「一件落着、ですね」

 

「そうだな、ストレンジラブには高い報酬をいただかないとならないな」

 

「うんうん。取りあえずカフェでコーヒーでも飲もうよ、あたしのどカラカラだよ」

 

「というかあなたは独房に戻って下さいよ。MSFの警備が貧弱みたいじゃないですか」

 

「ああ、さっさと戻った方がいい」

 

「もう、みんなノリ悪いな! MSFらしくないじゃん、まったく!」

 

「お前にMSFの何が分かるんだ? それよりも早く戻った方が…」

 

「平気平気! このアーちゃんを繋ぎ止められる者は誰もいないのさ!」

 

「へぇ? それは興味深いな…オセロット、こいつだよ」

 

「こいつが脱走常習犯か? いい度胸だな」

 

 その声に、アーキテクトは青ざめぎこちない動作で振り返る。

 MSFで絶対に敵に回したくない人物上位に位置するであろう人物、オセロットとアルケミスト…逃げる間もなくアルケミストに捕らえられたアーキテクトは哀れ、そのままどこかに連れ去られてしまった…。

 

 

「だから言ったのに…独房にいた方が安全だってな」

 

「困った方ですね。ところでエイハヴさん、この後の予定は?」

 

「特には…だが、少し休みたいな」

 

「それではカフェに来ませんか? ちょうど新しいコーヒー豆を手に入れたんです…良かったらマフィンと一緒にいかがですか?」

 

「そうだな、そうしよう」

 

「ええ。それでは、一緒に行きましょう?」

 

 

 




はい……()


ツッコミどころ多いなぁ。

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