METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

199 / 317
隠密部隊

 未曽有の大混乱を引き起こした北蘭島事件、そして第三次世界大戦が人類の可住区域を大幅に減らし文明を破壊しつくしたことは誰もが知るところ。

 だが21世紀以前、ずさんな管理体制と人為災害が引き起こしたとされる事件によりある一つの地域から人々は消えた。重度の汚染、史上最悪の原発災害と言われたチェルノブイリ原子力発電所事故だ。

 2060年代の現時点で、あらゆる災害の影響でチェルノブイリ原子力発電所を管理する人間はいなくなり汚染は拡大、元々の汚染に加え大戦の放射能汚染の影響もあって高濃度汚染地域"ホットスポット"が地域全体を埋めるほどにまで広がった。

 

 除染の見通しもつかず、果てしなく放射性物質をまき散らし続ける原子力発電所の存在により、周辺諸国はこの地域を放棄……都市は緑に覆われかつての文明の名残だけが森の中に残る。

 

 ベラルーシ国境を南下することで、この地域に入り込んだ404小隊は緑に覆われた道なき道を進み続ける。人間が敷いた舗装路はひび割れて、すっかり森の中にのみ込まれてしまっている。落ち葉が累積し苔が生え、コンクリートの上に土が生まれる……そこに木々の種が芽を生やし、舗装路の亀裂から根を伸ばし、コンクリートを割いていく。

 人の管理がなくなって80年以上が経つその場所は、すっかり自然にのみ込まれ、文明の名残を見つけることの方が難しかった。

 

「45姉、合流地点はまだかな?」

 

 小声で、UMP9は先頭を歩くUMP45にそうたずねる。

 それに対しUMP45は軽く振りかえると、歩きながら地図を広げる…普段任務で使用しているような端末を用いてのエリアマップではない、原発事故が起きた当時の古ぼけた紙製の地図だ。MSFの諜報班が所持していたものを今回彼女が買い取った形だが、何故そうしたかというと、長らく人が踏み込まなくなったこの場所は端末のエリアマップより事故当時の地図の方が精巧だという理由から。

 道端に残る道路標識などから現在地を割り当て、向かうべき目的地まで進み続ける。

 

「もうすぐよ9、あと少しで町があった場所にたどり着く…そこで合流よ」

 

「一緒に行こうって言ったのに、せっかちだねあの人たち…」

 

「彼女たちなりのプロ根性でしょうね。現地の偵察・斥候、先行潜入してやってくれてるわ、頼もしいわよね」

 

 後ろを歩く9に微笑みかけつつ、ついでに他二人を確認する。

 416は絶えず周囲を警戒しつつ追従、日頃なまけ癖がついて回るG11も今回ばかりはやる気…こそめいいっぱいとは言えないが、基本的な警戒は行っているようす。ここは既に危険地帯、鉄血領でもなければ正規軍の領域でも無く、感染者が巣食うエリアでもないが、だからこそ危険性は未知数だ。

 森をかきわけ進むと、比較的植物に浸食されていない町へとたどり着く。

 とは言っても、建物は経年劣化により倒壊した家屋もあり、人の気配はまるでない。

 そんな廃墟の町に、音を立てずに忍び込む……ブーツが地面の小石や割れたガラスを踏みしめる音、そして鳥たちのさえずりだけが廃墟に響く。

 

 先頭を歩くUMP45が立ち止まると、追従する仲間たちは散開し周囲の警戒動作に移る。鋭い視線で周囲を見回すUMP45……彼女にならうように辺りを見回すが、動くものはまったく捉えられない。そんな時、UMP45が銃口を森の方へと向けるも、そこにいた人物を見てホッと息をこぼし銃を下ろした。

 

「遅かったのね存在しない隊長さん、あまりにも遅いから迎えに行っちゃったじゃない」

 

「ずっと付きまとってた気配はあなたってわけね、性格が悪いわよグローザ」

 

「お手並み拝見したところよ。着いてきて、隊長さんが待ってるわ」

 

 いたずらっぽく微笑みかけるグローザは、廃墟にやって来た404小隊を案内する。

 

「ねえ416、私たちグローザにつけられてたんだって。気がついてた?」

 

「微塵も気配を感じなかったわ。45が彼女たちを選んだ理由が分かるわね」

 

「うん、私も―――」

 

「寝坊助のアンタは目の前に来ても気付かないでしょう?」

 

「416、この間から酷くないかな?」

 

「頼む、どうか416を許してやってくれ彼女はただの巨乳なんだ」

 

「黙りなさいジョニー」

 

 

 小声で罵り合う416とジョニーを横目に見つつ、グローザの後をUMP45は追従する。案内されたのはさびれたコンクリート造の家屋、きしむ扉をゆっくりと開き家屋内にはいると、ちょうど野兎の首をへし折る9A91という衝撃的な場面に出くわした。

 UMP9がウサギを殺す9A91に怯んでいるのに対し、グローザは少しも表情を変えず中へ入って行く。

 

 

「少々お待ちください」

 

「ええ構わないわ。ゆっくり食事を楽しんでちょうだい」

 

 

 適当な位置に404小隊が腰掛ける間、9A91は仕留めたウサギの腹を割き内臓を切り捨て、皮を剥いでいく。野生動物の解体を淡々と無表情で行っていく様は、普段携行食に慣れているUMP9にとってショッキングなようでどんどん青ざめていく。

 解体し、小さく切り分けたウサギ肉を9A91は無言で仲間たちに配る…グローザ、PKP、ヴィーフリはそれらを受け取ると躊躇することなく生食するのであった。

 

「どうしたんですか、9? あなたも食べたいんですか?」

 

「け、けっこうです…! ねえ、火は通したりしないの?」

 

「火を起こす過程で生じる煙で私たちの存在がばれてはいけませんから。それに生でもよく噛めば平気ですし、生食をすることで豊富なビタミンを摂取できますよ。司令官から教わりませんでしたか?」

 

「教わってないです…」

 

 滴る鮮血をぺろりと舐める9A91を直視できず、UMP9は頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 

 さて、彼女たちこそUMP45が今作戦の参加部隊として雇ったMSFの部隊である。

 MSF最強の戦術人形と内外で名を知られているWA2000率いるWA小隊があるが、彼女と同じ優秀な隊員のみに与えられるFOXHOUNDの称号を持ち、隠密作戦・破壊工作・偵察などの特殊任務を担当する9A91率いるスペツナズを今回UMP45は選んだ。

 個人的好みなら、エグゼを頼っただろうが、任務の内容から合理的な判断をとる。

 

「45、あなたたちが来る前に一通り周辺偵察は済ませておきました」

 

 血で汚れた手を水でさっと洗い、9A91はテーブルの上に写真を数枚広げた。

 廃墟と化した街並、放棄された観覧車、大きな広場などの風景写真…そして廃墟の中に身をひそめるAR小隊をおさめた写真がある。

 

「へえ、AR小隊ももうここに入っているのね。もう話はすませてあるの?」

 

「いいえ、私たちの雇い主はあなたですから。偵察中に見つけたので、足取りを追えばすぐにでも追いつけるでしょう」

 

「やっぱりあなたたちを雇って正解ね。でもAR小隊もマヌケね、こんな簡単に足取りを掴まれるなんて…」

 

「そんなことはありませんよ。AR小隊も細心の注意を払って潜入しています、誰でも見つけられたとは思えません」

 

 本人は謙虚に言っているつもりだろうが、言い変えればスペツナズ相手ではバレバレだというのと同じだ。表に出せない裏の任務を行うスペツナズの存在は、在りし日の404小隊と似たような存在……それも、彼女たちを選んだ理由の一つなのだろう。

 マザーベースにいる頃はただの飲んだくれ、アルコール依存症の典型的ロシア人形なのだろうが、一度戦場に出ればその雰囲気はがらりと変わる。当たり前だが、戦場で彼女たちはアルコールを一滴も飲むことは無い。普段の姿からは想像出来ない、隙の無さが伺える。

 

「あとこれを見てください」

 

 9A91が提示した写真には、廃墟内の特に目を引くようでもない建物が映っていた。

 しかしそこには、UMP45も知る重装戦術人形ジャガーノートの他、量産型汎用戦術人形パラポネラといった合衆国で目の当たりにした米軍無人機の姿が映る。これらの写真から得られる情報により、UMP45は消去法でペルシカを攫った黒幕を頭に思い浮かべる。

 

「これだけじゃありませんよ。こちらも…」

 

「なにこいつら?」

 

 その写真に写っていたのは、まるで騎士をかたどったような外観の見たこともない戦術人形だ。騎士の甲冑を思わせるような装甲をマントで包み、腰にはブレードを携える。こんな拗らせたような戦術人形を造りだすのは、やはりあの人物しかいない。

 

「シーカー……借りを返す時が来たわね」

 

「やはりシーカーがこの件に絡んでいますか。ですが鉄血の人形は見ていませんし、シーカーの姿もとらえていません。45、ここからは私の意見となりますがいいでしょうか?」

 

「構わないわ、なんでも言って」

 

「はい。偵察時にこれらの戦術人形を調べていましたが、鉄血のプロトコル内には組み込まれていません……いうなれば独自のプロトコル、シーカーが作り上げた独自のネットワークに繋がっているでしょう。シーカーがその実体を得る以前、彼女は末端の人形の感覚を掌握することで戦場全体を見通していましたね……おそらくこれらの人形も、シーカーと繋がっているでしょう」

 

「ある意味、シーカーにとってのダミーリンクというわけね。見つかれば即座に情報は各個体に伝達され、元締めのシーカーにも私たちの存在がばれる…そしてペルシカ救出もとん挫する」

 

「その通りです。ですから絶対に見つかってはいけません、排除をしてもいけません。例え気付かれずに仕留めたとしても、異変は即座に知られるでしょうから…」

 

「厄介な相手ね。ところで、相手のことはAR小隊も知っていると思う? もし知っていないなら…」

 

 UMP45がそう言うと、9A91の目がわずかに見開かれる。

 スペツナズにとっての雇い主は404小隊だが、404小隊はAR小隊の援護という任務がある。いくら404小隊を支援しようにも、肝心のAR小隊がこの情報を知らないのでは…。それを失念していた9A91は後悔するが、すぐに切りかえると、最後に目撃したエリアからおおよその行動範囲を絞り込むと彼女たちと合流するために動きだす。




今回の任務、パーフェクトスニーキング、不殺推奨の難易度extremeモードですね。

というわけで解説、シーカーの私兵部隊

・サイコシステム搭載型戦術人形【オーダー】

シーカーが自身の意思を遂行するための私兵として作り上げられたこれら戦術人形は、アメリカと鉄血のテクノロジーを融合させて生み出されたものであり、造形はシーカーの意向を汲んで白い装甲を持った騎士を模している。
一体一体が鉄血ハイエンドモデルに匹敵するほどの能力を有しているが、一番の特徴はアメリカの研究機関が残した戦前の遺物であるサイコシステムを有していること。
これを媒体にすることでシーカーのESP能力を享受し、オリジナルには及ばないもののある程度のESP能力を有する。また、オーダーはサイコシステムによって繋がっており、一個体の異変は即座に集団に察知され、仮に気付かれずに破壊してもその情報が即座に他の個体に伝達し殺到する。
幸い、これら戦術人形は製造コストが高いため少数のみが運用される。



はい……。

というわけで、参戦部隊はスペツナズでした、ただの酒飲み集団だと思ったかい?

関係ないですけど、スペツナズってジョニーにとっては理想の部隊だったり。
だって貧ny(銃殺

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。