METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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脱出

「――――――話をまとめよう。今は2060年代、第三次世界大戦後で鉄血工造という会社が造った戦闘兵器が暴走し、君らのような人間側の戦闘兵器がその鉄血の戦闘兵器とやらと戦争中。それで世界は大戦とそれ以前の出来事で人が住める領域が狭まっているのに加え、鉄血との戦闘で世界は荒廃しきっていると……こういう解釈でいいのか?」

 

「あー、うん……それでいいよ、大体あってるよ。もーあたし説明するの疲れたよ…」

 

 机に突っ伏して疲れ切った様子のスコーピオン。

 一方のスネークもブツブツと独り言をつぶやき頭を抱えている。

 

 当然だ、スネークにとってスコーピオンが当たり前のように話すこの世界の状況とやらは、まるでSF小説のようでありスネークがそれまで生きてきた世界とは明らかに違う様相だったからだ。

 戦術人形、グリフィン、鉄血工造、第三次世界大戦……スコーピオンが口にする言葉はどれ一つとしてスネークの知らない出来事だったり、固有名詞だったのでそれを一々説明しなければならなかったスコーピオンも中々に憔悴している。

 昔映画好きのはた迷惑なメディックが任務のサポートについていた時期もあったが、彼女の余計な話のせいで迷惑極まりない悪夢を見た記憶があるスネーク。

 もしかしたら今も夢の中なのではないかと自分を疑うが、この場所に漂う戦場跡特有の空気がスネークにこれは現実だと教えてくる。

 

 

 1970年代から一気に2060年代、普通に生きていてもとっくに寿命で死んでいるほどの年月だ。

 部屋に飾られている古びたカレンダーには2055年と書かれている……ドッキリを仕掛けるにしては何もかも手が込み過ぎている、ますます目まいが酷くなってきたスネークは気持ちを落ち着けるべく二本目の葉巻をくわえる。

 しかし火種が無い……。

 机に突っ伏したままくたばっているスコーピオンの手にライターが握られている……こっそり取ろうとしたところむくりと彼女が起き上がり、ライターに手を伸ばしていたスネークをジト目で睨む。

 

「貸してほしいなら素直に言えばいいのに」

 

「あ、あぁ…」

 

「全くあんたって見た目厳ついのに子どもみたいだよね」

 

「子どもじゃない、今年で39だ」

 

「そういうところ子供っぽいよ?」

 

 これ以上反抗をするとライターを貸してくれなそうなのでスネークは何も言わずライターを借りる。

 

「ねえねえ、スネークって本名じゃないでしょ? 本当の名前は何ていうの?」

 

 スネークが葉巻を味わっていると彼女がそんなことを聞いてきた。

 

「自分の名前は昔に捨てた、今はスネークと呼ばれている」

 

「ふぅん。スネーク()が今の名前なんだね……ねえねえ、スネーク()スコーピオン()って相性良さそうじゃない?」

 

「君とか? 女の子に助けて貰うほどオレも身の安全に困っちゃいない」

 

「ああー、あたしのこと馬鹿にしてるでしょ。こう見えてあたし強いんだよ?」

 

 頬を膨らまてすねる姿は年相応の女の子にしか見えない。

 そんな彼女が戦闘のために生まれた高度な知能を持った戦術人形と呼ばれる存在には、到底見えなかった。

 それとも彼女のような存在を生み出すのには100年もあれば技術的には可能なことなのか…。

 ふとスネークはマザーベースで一時SFがブームだった時期があり、マニアなスタッフに熱く語られたことを思い出した。

 

 確かタイムスリップとかパラレルワールドだとかそんな話だったと記憶している。

 もしもだ、万が一そのSFにありそうな出来事に自分がまきこまれているのだとしたら?

 スネークの妄想は拡大していく……ここは異なる時間軸のあり得たかもしれない未来の出来事で、あの突然の嵐が自分をこの世界に迷い込ませたのでは?

 さらに言うならばあの嵐は謎の秘密結社が起こした人為的な現象で、世界征服をもくろむ悪の組織が……!

 

「馬鹿馬鹿しい…」

 

 疲れているとはいえ現実逃避の妄想をしてしまったことに自嘲し、改めて葉巻をふかす。

 お気に入りの葉巻の香りがスネークの精神を安定させる、状況は相変わらず理解できないが少しずつこの世界を調べていこう。

 そう思った矢先、窓の向こうで何かが反射し光った。

 

「伏せろッ!」

 

 とっさに目の前に立っていたスコーピオンを押し倒す。

 直後、窓が割れ先ほどまでスコーピオンが立っていた場所の延長上に銃弾が叩き込まれた。

 

「スナイパーか……ケガはないかスコーピオン?」

 

 見ると、スコーピオンは頭をおさえて涙目でスネークを睨みつけている。

 助けるためとは言え少女を押し倒すというのは、少々男女の関係である以上まずかったかと一瞬スネークは思ったが……どうやら倒した拍子に先ほどぶつけたところと同じところをぶつけてしまったらしい。

 悶絶するスコーピオンに一言"すまん"と詫びを入れ、スネークは直ぐにスナイパーの様子を伺う。

 

「スコーピオン、敵のスナイパーに狙われている。不用意に動くんじゃないぞ」

 

「スナイパー!? ずっと……あたしを狙ってたっていうの?」

 

「君がここに隠れていた理由か。敵はどれくらいいるんだ?」

 

「分からないよ……部隊が全滅した時、あたしらはそこら中から狙撃された。北に古い時計塔があるんだけど、そこにいるのは間違いないよ。後どれくらい敵がいるのか」

 

 先ほどの狙撃は崩れかけたビルからだった。

 少なくとも二人以上の狙撃手がいることになる……戦火に晒され廃墟や瓦礫の多い街は身を隠すのにうってつけで、それが敵のスナイパーにとって有利に働いているが逆も然り。

 

「スコーピオン、敵に見つかった以上ここに留まるのは危険だ。移動するぞ」

 

「うぅ……ついにこの時が。ちょっと待ってて」

 

「お、おい」

 

 スコーピオンが窓から狙撃されないようほふくの体勢で隣の部屋まで行き、戻って来た時には何かを詰めし込んだリュックとアサルトライフルを一丁持っていた。

 

「拳銃一つじゃ不安でしょ、これ貸してあげる。壊さないでね」

 

「ああ助かる」

 

「気をつけて。あたしらの部隊を全滅に追い込んだスナイパーだから、注意しないと」

 

「前にもスナイパーと戦ったことがある。まあ、前は森の中でだったがな」

 

「頼りにしてるよ、スネーク」

 

 微笑みを浮かべるスコーピオン、だがその表情はどこか不安げだ。

 

 おそらく敵のスナイパーはスネークが一人彷徨っているところをあえて見逃していたのかもしれない。スコーピオンと合流させ、その位置を探る餌として。

 もっともスネークはスコーピオンの仲間でなかったが、結果的に目論見は果たされたことだろう。

 

 建物の裏口を出てスネークとスコーピオンは物陰に身を隠しながら廃墟の街を進む。

 

「スネーク、こっちだよ。時計塔から丸見えになるから注意して」

 

「ああ、分かってる」

 

 通りに放置されている車の陰に隠れながら進むことで狙撃手の目から逃れる二人。

 どこから狙撃手が狙っているのか分からないこの状況でスネークは極めて冷静であった。

 先ほどまでどこかスネークの実力を信じ切れていなかったスコーピオンであったが、彼の背を見続けるうちに心強さを覚える。

 それも当然かもしれない……スコーピオンは知らないが、このスネークという男は別の世界で伝説の英雄と呼ばれる存在なのだから。

 

「順調だねスネーク、あんたとなら生きて脱出できそうな気がするよ」

 

「静かに。あれは敵か?」

 

 物陰に隠れつつ、スネークが指さした方向を覗く。

 そこには小隊規模の鉄血戦術人形が建物を一つ一つ確認しながらこちらの方向に進んでいるのが見えた。

 

「そう、あれが鉄血の戦術人形。後ろにいる奴より、人の形をした鉄血の方が戦闘能力は高いから注意して。それで、どうするのスネーク。やっつける?」

 

「いや、敵の数が多い。それにスナイパーの事もある……戦闘は避ける」

 

「オッケー、じゃあ後退だね……大変、後ろからも鉄血が来てる…!」

 

 後方からも同程度の部隊が接近しているのをスコーピオンは見つける。

 両脇を挟まれる形となってしまったことにスコーピオンは慌てるが、ここでもスネークは冷静だった……しかし今回ばかりはその冷静な姿も当てにできず、スコーピオンは絶望し青ざめていた。

 

「やだよ、こんなとこでやられたくない…」

 

「落ち着け、おれたちはまだ死んじゃいない」

 

「逃げ場所が無いのにどうするの!? あぁ、もうおしまいだよ……いいや、どうせやられるくらいなら最後に一矢報いてやる!」

 

「いいから落ち着け、大丈夫だ。こっちに来るんだ」

 

 最後にはやけくそになろうとしているスコーピオンの手を引き、すぐそばの建物へと入って行く。どうやらその建物は倉庫か何かのようだが、しらみつぶしに建物を捜す鉄血が迫っている以上袋の鼠同然だ。

 

「いいよ、籠城ってわけだね。あたしの底力見せてやろうじゃない」

 

「違う、これに隠れるんだ」

 

「は? これに? 正気?」

 

「いいから隠れるんだ」

 

「ふぎゃっ」

 

「声を出すんじゃないぞ、いいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グリフィンのマヌケ人形は見つかったか?」

 

「いいやいない。それにあの人間の男もだ、この建物でここの通りは最後か?」

 

「ああそうだ。さっさと捜しだすぞ、またぐずぐず文句を言われたくない」

 

「そうだな」

 

 鉄血の人形たちは倉庫の中へと足を踏み入れていく。

 頑丈な造りであったためか倉庫は外観を保っているが、内部は他の建物同様荒れ果て、木箱やコンテナ、ダンボールなどが乱雑に散らかっていた。

 

「さっさとでてこいマヌケ人形」

 

 コンテナや木箱を蹴飛ばしながら捜す鉄血の戦術人形。

 そこまで広くない倉庫だったため、ある程度調べて鉄血の人形は倉庫を出ていく。

 

「待て、あのダンボールはどうした?」

 

「ダンボールに人が隠れるはずないだろう。時間の無駄だ、さっさと次の場所へ行こう」

 

「それもそうだな」

 

 

 倉庫を捜し終えたと判断した鉄血の人形たちはさっさと別な場所へと移動していった。

 

 静かな倉庫の中には蹴られて粉砕した木箱やコンテナ、二つの段ボールが残るのみだった…。

 

 

 

「よし、もういいぞスコーピオン」

 

「なんか納得いかないなぁ。なんでダンボールが……いや、あたしの感覚がおかしいのかな…」

 

「なにをブツブツ言っているんだ。戻ってくる前にここを立ち去るぞ」

 

「了解スネーク。いや、やっぱりダンボールで助かるのおかしいでしょ…」

 

 

 ダンボールの中で敵をやり過ごした二人は音を立てずに再び脱出のために廃墟を進み歩く。

 

 これが、スコーピオンとダンボールの運命的な出会いであった。




月光以下の索敵能力な鉄血人形ちゃんたち。
連れているのが月光だったらスコーピオンちゃんは踏みつぶされてました(笑)



ちなみにうちのエースはAK-47ちゃんです。
FPSでもAK-47です。
もちろんMGSでもAK-47です。
好きにならない理由がないです、ウラー。

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