METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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混ぜるな危険?

「あちゃー…また行き止まりだよ」

 

「ここもダメですか? また来た道を戻るしかありませんね」

 

 先頭を歩いていたSOPⅡがぶち当たったのは、倒木に太いツルが幾重にも絡んで出来上がった自然のバリケードだ。うんざりしたようにナイフでツルを切ってみるが、太く強靭なツルにはほとんど刃が立たず、むしろナイフの切れ味が落ちてしまうだけだ。時間をかければ排除できないこともないが、何時間かかるか分かったものではなく、与えられた時間は決して多くはないのだ。

 仕方なくナイフをしまい、SOPⅡは踵を返して来た道を戻る。

 

「おっと、また行き止まりか?」

 

「はい、姉さん。すみません」

 

「謝ることは無いさ。お互い市街地での任務に慣れ過ぎていたからな」

 

 グリフィンでの任務では担当するエリアの都合上どうしても市街地などでの任務は多くなるため、こういった森林地帯での任務は不得意だ。森にのみ込まれた都市というのも手ごわく、また与えられた地形データもここでは全く当てにならず、不慣れな作業を強いられることになる。

 M16を交えて来た道を戻ると、最後尾のROとも鉢合わせ、同じような反応を示した後に今度は彼女を先頭に道を戻っていった。

 

「ふぅ、手ごわい道だね…ねえM4、ちょっと休憩しないかな?」

 

「ダメです、あまり時間はありませんから。それに現在地も分からず、このまま夜を迎えてしまったらより危険です」

 

「でも、もう何日も歩きっぱなしだしくたくただよ」

 

 疲れを滲ませた表情でSOPⅡは休憩をせがむが、もう何時間も森で迷っているM4は焦りからかそれを認めない。ヘリアンから与えられたこの救出任務には時間制限があり、それを超えてしまった場合グリフィンからの迎えを頼むことは出来なくなってしまうのだ。

 AR小隊の隊長を務めるM4は、なんとかSOPⅡを励まそうとするが、そんな彼女をM16は少し離れた場所に誘う。

 

「M4、焦る気持ちはわかるが少し落ち着かないと。SOPⅡの言う通りみんなくたくただ、疲労は判断力を阻害する」

 

「それは分かっていますが…」

 

「休息は次の行動への糧だ、適度な休息は必要だ。一度息を整えて、冷静になることが必要だぞ」

 

「…分かりましたよ、姉さん」

 

「よし、いい子だ」

 

 素直に認めたM4の頭を撫でると、彼女は少しくすぐったそうに目を細める。

 少し休もうとSOPⅡに伝えに向かおうとすると、SOPⅡが助っ人のROと楽しそうにおしゃべりしていた。助っ人としてAR小隊に加わった彼女は、とても真面目な性格でM4がもう一人現われたのかと錯覚するくらいであったが、短時間のうちにすっかりなじんでしまった。

 それもROのAR小隊に対する敬意と、小隊メンバーの親和性があったからだろう。l

 

「こんな状況じゃなければ、ゆっくりお話をしたかったんですが」

 

「そんなことはありませんよM4、チームに加われてとても光栄に思っています」

 

「あはははは、光栄だなんて! ついこの間までMSFでニートやってたの見たら幻滅するだろうな!」

 

「SOPⅡ! すみません、ROさん…あまり真に受けないでくださいね?」

 

「は、はぁ……」

 

「まあでも居心地は良かったな、ただで酒は飲めたし」

 

「姉さん、飲んだ分しっかり請求されてましたからね?」

 

 M4の白い目がM16を射抜くが、エグゼと果てしない悪戯戦争を繰り広げていたのはM4でありそのことを指摘されると急に縮こまる。唯一、というか二人よりもマシなのはSOPⅡでMSFの美味しいラーメンの魅力を熱く語っていく。

 そんな彼女たちに戸惑いつつも、ROはアットホームな環境のこの小隊を気に入っていた。

 小さく笑ったROに、みんなもくすくすと笑う。

 

「皆さんとても仲が良いですね。こんな時じゃなく、もっと早くにチームに加わっていたかったですね」

 

「そうだね、そうすればAR-15とも……」

 

 そこまで言って、SOPⅡは咄嗟に口を閉ざす。事情を知らないROはなんだろうと首をかしげるが、先ほどまで笑っていたM4とM16も笑顔を消していた。

 

「そろそろ、行きましょう」

 

「う、うん……M4、あのさ…」

 

「なに?」

 

「ううん……やっぱりなんでもない、行こうか」

 

 休息は終わり、再び立ち上がり道なき道を進みだす…最後尾をついて行くROは口にしたい疑問がいくつも浮かぶが、聞きだせずにいた。すると、すぐ前を歩いていたM16が振り返らないまま話し始めた。

 

「AR-15、以前この小隊にいた仲間なんだよ」

 

「ええ、存じています。S08地区が鉄血の手に落ちた際、命を落としたと…」

 

「そういうことになっているな。あれから色々あったさ、MSFと鉄血との抗争の板挟みになったのもその頃だ。その頃のM4は不安定で、MSFにいたエグゼっていう奴との対立もあって荒んでいたんだよ……今は立ち直っているように見えるが…」

 

「今だに信じられないことですが、MSF……如何なる国家にも帰属しない制御不能な傭兵だと聞いています」

 

「私も彼らを知るまではそんな評価だったさ。だが本当の彼らは違う、なんだかんだM4が立ち直れたのもあの人たちのおかげだと私は思ってる…上手く説明はできないが、ROもいつか会えば分かると思うよ」

 

「そうでしょうか、よく分かりません」

 

 あったこともない人たちを、前評判を気にせず好意的にとらえるというのは無理な話だ。だがM16がそこまで言うMSFとはいかがなものなのか、少しの興味がROの中で生まれた。

 後は黙々と森を進んでいくと、唐突に視界が開け枯れ草が生える開けた場所に出る…ようやく鬱蒼とした森から抜け出れたのだと喜びそうになるが、咄嗟に伏せて枯草のなかに身をひそめる。こうも開けた場所であると敵に察知される危険性がある、案の定原っぱの向こうには数体の軍用人形が歩哨として立っていたのだ。

 

 ゆっくりと顔をあげたM4は、草原の向こうにいた軍用人形たちが真っ直ぐこちらに近付いてくるのを見る。

 相手はまだ数体、騒ぎが大きくなる前に仕留めることは出来るはず…そう思い銃を構えるが、別方向よりさらに数十体もの軍用人形が姿を見せる。先頭に立つのは白い装甲を持った騎士を思わせる戦術人形【オーダー】だ。

 オーダーについて何も情報を持たないM4であったが、一目でその戦術人形が危険な存在だと認識する。枯草から顔をあげたままM4は、身動きが取れずにいた…頭では何度も枯草に身を隠さなければと念じるが、身体が金縛りにあったかのように動いてくれない。

 徐々に、オーダーの視線がM4のいる場所に近付いていく…そんな時、突然M4は草むらの中に引きずり込まれ、咄嗟に声をあげそうになるも口を手で塞がれる。パニックに陥るM4に対し、草むらに引きずりこんだ張本人は口元に人差し指を立てて静寂を促す。

 

(9A91…?)

 

 自分を草むらに引き込んだのがMSFの戦術人形9A91だと知ったM4は安堵するとともに、何故この場所にいるのかという疑問が生じる。しかし、すぐそばまで接近してきた軍用人形の足音に気付き、M4はじっと草むらの中に身をひそめる。

 すぐそばを通り過ぎていく気配を感じる……ばれれば一巻の終わり、そんな危機的状況に再びパニックを起こしそうになるが、9A91がそっとM4の手を握ることで落ち着かせる。それでも不安は解消されず、他に隠れている仲間たちが見つかってしまはないかという不安が大きくなる。

 仲間へ通信をしようとするM4であったが、その考えを見透かしたかのように9A91はM4の手を強く握ると首を横に振る……通信が傍受されるかもしれない、焦るあまりそんな危険も見逃しかけていた。結局、敵が去ってくれるのをただじっと待ち続けることしか出来ない。

 

 やがて、気配が遠ざかり遠くで笛の音が鳴り響き足音が遠ざかっていく。

 その後数分ほど、9A91はじっと草むらに身をひそめていたが顔をあげて辺りに敵の姿が無いのを確認し、M4たちを導く。

 

「着いてきてください…敵はこのエリアに侵入者が入り込んだのに気付いているかもしれません、通信は極力控えてください。いいですね?」

 

「分かりました」

 

 M4は振りかえると、小声で仲間たちに呼びかける。

 すると茂みの中から仲間たちが顔をだす、彼女たちの無事を確認したM4は先頭を9A91に任せその後をついて行く。途中何度か敵の斥候に遭遇しかけるが、その度に草むらの中に身をひそめることでやり過ごす。

 500メートルの距離を1時間かけて進み、その後はうち捨てられた納屋に向かってタイミングを見計らい転がり込む。納屋にはPKP、ヴィーフリといったスペツナズの面子に加え404小隊の顔ぶれがあった。

 

 事情を知っていたM16以外は、まさか彼女たちがこの救出任務に加わるとは思っておらず軽く一悶着があったが、お互い見知った仲ということですぐに和解する。

 

「姉さん、どうして黙ってたんですか?」

 

「すまん、言うのを忘れていたんだ。ともかく、強力な助っ人だ…協力し合おう」

 

「遅れてきた分際で偉そうに仕切るわね」

 

 和解したのも束の間、416が吐いた毒舌で険悪なムードが流れる。

 

「よしなさいよ416、仲違いはあなたとジョニーだけで十分よ」

 

「今だにあんたがあのデカブツを連れてきたのが信じられないわ。隠密には全く適さないじゃない」

 

「黙れ巨乳、自己主張の強い巨乳に言われたくない。45姉のつつましやかな美乳を見習え」

 

 ぴしっと、空気に亀裂が入るような幻聴をその場の全員の耳がとらえた後、UMP45は無言でジョニーの背後に近寄ると彼を強制シャットダウンする。何ごともなかったかのような彼女の振る舞いに、こんな場面に耐性のないROは恐怖を覚える。

 

「あまり無駄話はしてられないから作戦会議と行きましょう。救出対象が閉じ込められている施設のおおよその居場所はスペツナズが見つけてくれたわ」

 

「ちょっと待ってUMP45、あなたたちはともかくどうしてMSFの部隊がこの作戦に?」

 

「それ、いま優先的に知りたいことなの?」

 

「いや、そういうわけじゃ…」

 

「ならいいわね。今度質問をする時は、本当に知りたいことかどうかよく吟味してから発言してね」

 

 UMP45の辛辣な物言いに反発しかけるが、M4はこらえる。

 いつの間にか作戦会議の主導権はUMP45が握り、部隊をまとめあげる。

 

「45、会議を主導するのはいいがあくまでお前たちの役割は補助であることを忘れないでくれよ」

 

「勿論よM16…さてと、これから施設に潜入するわけだけどこの人数で入り込むのはデメリットしかないわ。そこで部隊を編成しようと思うの。AR小隊、404小隊、スペツナズのね」

 

「そんなことをするくらいなら私たちだけでも…!」

 

「考えなさいM4、ここじゃ援護は期待できないのよ? 今いるメンバーでどうにかするしかないの。任務を成功させるためにはムカつく奴とも協力しなきゃいけない、清濁併せ呑む器量が必要なの。あんた無人地帯の時にそれを思い知ったでしょ?」

 

 過去の出来事を引き合いに出されたM4は大人しく引き下がるが、まだ納得がいかないようす。

 だが全員で施設に潜入するより少数で潜入するという考えには肯定的であるが、混成部隊となると途端に難色を示す。

 

「スペツナズからは私と隊長さんかしらね?」

 

「ええ、PKPとヴィーフリには脱出時及び非常時の援護をお願いします」

 

 スペツナズからはグローザと9A91が、404小隊からはUMP45が名乗りをあげる。

 

「私が行く……って言いたいけど、たぶん私は足手纏いだよね?」

 

「そんなことはありませんよSOPⅡ。あなたには外で待機してもらって、私たちが撤退する際の援護をお願いします。得意な分野を活かしましょう」

 

「9A91…ありがとう、じゃあ私外でみんなのことを待ってるね!」

 

 隠密行動と聞いて、他の顔ぶれに比べると劣ると自覚するSOPⅡがそんなことを口にしたがすかさず9A91がフォロー。彼女の優しさにSOPⅡは嬉しそうにはしゃぐ。

 

「ではAR小隊からは私とM4、それでいいか?」

 

「ええ、あとはお願いしますROさん」

 

「分かりました、あなたたちの任務を全力で支援します」

 

「決まりね。言っておくけど外で待機と言っても油断しないで、聞いてるかどうか知らないけれど一度でも敵に見つかったら私たちは終わり…袋のネズミよ。この世で最も恐ろしい人形が襲いかかってくるに違いないから」

 

「分かったよ45姉! G11も、大丈夫だよね?」

 

「うん、なんとかするよ…」

 

「ハリがないわね、シャンとしなさい」

 

 眠たそうにまぶたをこするG11を416はどつく、この二人に関しては問題なさそうだがジョニーと416が何かやらかさないかの方が心配であった。

 それは二人を信じるしかないとして、45はジョニーを再起動させると潜入メンバーを連れてペルシカがとらえられていると思われる施設へと向かっていった…。




タイトル名()
M4、M16、UMP45、グローザ、9A91……あれ、冗談抜きのガチ面揃いじゃね?


感想蘭でちらっと言われましたが、【オーダー】はイメージとしては指輪物語のナズグルなのよね。
あそこまで禍々しくはないけどw

あ、200話だ(唐突

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