METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:ハイセンス

『緊急事態発生! 繰り返す、緊急事態発生!』

 

 マザーベースの基地全体に拡散する警報音、それを聞いたスタッフたちが何ごとかあったのかと察し即座に武装し戦闘態勢を取る。普段鳴り響くことのない警報音、訓練以外では聞くことのないその音にスタッフたちに緊張が走る。

 

『各警備スタッフは目標地点へ集結! 何としてでも目標を食い止めろ、これは訓練ではない!』

 

 慌しく走り回るスタッフたちに混じり、人形たちもパニック状態で走り回る。事情を呑み込めていない者も多い。

 

「報告します! 居住エリアが深刻な損害を受けています!至急応援を!」

「報告ッ! 目標、糧食棟へと移動をし始めました! プラットフォームの封鎖を要請します!」

 

「なに、なんなの!? 一体何が!」

 

 戸惑うキャリコの声に、深刻な面持ちのMG5が駆けつけると、ひとまず彼女を落ち着かせ部下たちに指示を飛ばす。

 

「リーダー、緊急事態よ! このままじゃマザーベースが!」

 

「分かっているネゲヴ、我々でやるしかないだろう!」

 

 スネーク、ミラー、オセロットという主要人物が不在の中起きる騒動に冷静さを失いかけるがMG5はなんとか乱れるメンタルを落ち着かせようとする。

 居住エリアでは深刻な損害を受け、糧食棟より担架に乗せられたスタッフたちが運ばれてくる。

 こんな事態を止められなかったことに自責の念に駆られるMG5…。

 さて、何故このようなことになったかというと、時間は早朝までさかのぼる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝のマザーベース、前哨基地での朝練(戦車部隊の演習)を終えたFALが基地とマザーベースを往来するヘリより降り立つ。一仕事やってのけたFALはまだ済ませていない朝食をとるために、早速食堂へと向かおうとしていると、彼女を迎えにやって来たVectorと鉢合わせる。

 

「おはようFAL、戦車の調子はって、油臭ッッ!」

 

 FALの今の姿は頭からつま先までべっとりと油がこびり付き、少し近付いただけでもその独特な油の匂いをかぎ取れる。普段ほとんど表情を変えることのないVectorでさえも、あまりの油臭さに鼻をおさえて眉をひそめる。さっさと風呂に行け、そう目で訴えかけるが当人のFALはどこ吹く風…。

 

「まったくやんなっちゃうわ、油圧ホースが破裂して油まみれよ。まったく、こんな雑な整備をしたの誰かしら? 説教してあげるわ」

 

 Vectorはこんな酷い姿でマザーベースにやって来たFALを説教したい気持ちに駆られるが、こうしている今も油が垂れ落ちて甲板を汚してしまっている。今日の甲板掃除を担当するのはVector自身であるため、これ以上の汚れが増える前に、油まみれのFALを棒きれでつつきまわして風呂場へと誘導するのだ。

 FALは最初に朝食をとりたいと戯言を言うが、そんなことはもってのほか、入った瞬間非難の嵐が吹くだろう。

 

 そんなわけで、油まみれのFALを風呂場にぶち込み、その間にFALは部屋に戻って彼女の着替えを用意してあげる。油でギトギトになった服はそのままゴミ袋の中へ、綺麗なままなら洗って使えただろうが、これを洗ったら洗濯機がいかれてしまう。

 そうしている間にFALが風呂場から出てくるが、まだ微かに油が匂うとして風呂場に追い返す…文句を言うのを黙らせて、Vectorも一緒に入って徹底的に油を洗浄、納得のいくまで洗ったところでようやくVectorはFALが食堂へ向かうのを許可した。

 余談だが、この日浴槽の掃除を担当するはずだったキャリコが油まみれになった風呂場を見て悲鳴をあげていたという…。

 

 

 

「一仕事した後のご飯は格別ね!」

 

 バターが塗られたトーストにスクランブルエッグ、新鮮なミルクにオレンジのデザート。早朝の出来事で疲れを感じていたVectorも、目の前で朝食を美味しそうに頬張るFALを見て少しばかり癒されている様子。黙って普通にしていれば紛うことなき美少女なのだが、日頃の生活態度があまりにも残念過ぎてMSF内の美少女ランキングワーストを記録し続けている。

 

「ふぅ、お腹いっぱいね」

 

「朝からだいぶ食べたね」

 

「散々動いたあとだったからね。朝早くに訓練は効くけど、早起きで少しは健康的な生活ができてるしちょうどいいわ。それにしても新米の人形たちは誰が教育したのかしら? エグゼが直接訓練してた頃はこんなことなかったのに、最近の新参人形は―――」

 

 ここ最近新たに着任するヘイブン・トルーパー兵の練度の低下を嘆くさまはまさにベテランならではの言い分だ。だらだらと最近の悩みや思うことをほとんど一方的に述べていくFAL、そんな彼女の受け皿はいつもVectorだ。大抵いつもうんざりししたような表情ではあるが、FALがこんなことを打ち明けてくれるのは他にいないことを彼女は知っていた。

 だからこそ、Vectorは面倒だと思っていながらも、彼女の相談役を引き受ける。

 さすがに戦車に関する専門的な知識のマシンガントークをされるとうんざりするが…。

 

「それにしても、いい時間なのに集まりが悪いわね」

 

「この間のことがあったからね。みんな訓練に励んでいるよ」

 

「グローザ、まさかあんなことになるなんてね……私たちも、いつどうなるか分かったもんじゃないわよね」

 

 FALは軽い冗談で言ったつもりなのだろうが、Vectorにとっては違う。

 ある日突然、それまで一緒にいた大切な仲間が命を落とす…そんな状況を思い浮かべたVectorはその顔に憂いを浮かばせる。わがままでマイペースで、センスの欠片もないが自分にとっては大切な存在…そんな人がある日突然になくなってしまったら、自分は正気を保てるだろうか?

 Vectorはじっと、FALを見つめ唇を噛み締める。

 

「ねえFAL、もしも私が死んだら…どう思う?」

 

「なによ急に…」

 

「アンタは私がいなくなったら、哀しいって思う? 他のみんなみたいに泣いてくれる?」

 

「……知らないわよ、そんなの。それに、誰も好きで泣いてるわけじゃないでしょ?」

 

「そう……そうだね。じゃあ私はもう行くよ………バカ」

 

 去り際につぶやいた言葉は、FALには聞こえなかった。静かに立ち去っていくVectorを見送った後、FALは机に突っ伏し小さなため息をこぼす。

 

「……そんなこと聞かないでよ、バカ……」

 

 

 大切な仲間がいなくなって哀しく思うのはFALも一緒だ。だがそんな悲惨な結末を考えたくもなかったのだ、かつてジャンクヤードでAIの故障から仲間内で殺しあう事態になっていた記憶もあり、彼女は何よりも仲間の喪失を恐れていた。

 

 その後しばらくFALは食堂で過ごしていたが、他に来る者もおらずだんだんと人もまばらになってくる。利用者もいなくなり、いつまでも残るFALも掃除役のヘイブン・トルーパーに追いだされ当てもなくふらふらとマザーベースを徘徊する。

 訓練の場を覗くも、見知った顔はおらずスルー。

 途中、蘭々が日向ぼっこをしているのを見かけるもいつも一緒の97式はおらず、蘭々も一向に起きる気配がないので通り過ぎる。結局FALが退屈しのぎに目をつけたのは、いつかの時にスネークと一緒にやって来て、すっかりマザーベースに住みついたダイナゲートだ。

 相変わらず敵意剥き出しだが、武装がないために無害なダイナゲート。

 

「アンタも一人で大変ね」

 

 手を伸ばし撫でようとすると、ダイナゲートは後ろ足で手を蹴飛ばしすたこらさっさと走り去っていく。その後を、無人機のフェンリルなどが追いかけ回す。相変わらず縄張り争いが激しい様子。

 やることもなくなったFALはその後真っ直ぐ自室へと戻る、最近は前哨基地なり他人の部屋で寝泊りしていたせいでマザーベースの自室に帰ってくるのは久しぶりのことであった。明かりをつけた部屋は、台風でも過ぎたのかと思うほど散らかり、あちこちの酒瓶や空き缶が転がっている。

 

「うーん……我ながら酷いありさまね…」

 

 最後にこの部屋を使った時、確かエグゼやスコーピオンを交えて派手に大騒ぎしたと記憶する。散々飲みまくって早朝、半裸で甲板に寝ているところをVectorにたたき起こされ、スプリングフィールドには物凄い叱られたことがあった。スプリングフィールドのカフェがその日からしばらく閉店になっていた辺り、酔っぱらって何かトラブルがあったのかもしれない。

 

「掃除、しようかしらね」

 

 さすがにこの状態は見過ごせないし、他人に見られたらとてもまずいこととなる。

 必要なのはゴミ袋に雑巾に掃除機、確か物置にあったはず…早速掃除をしようと倉庫に赴き、奥の方から掃除用具を引っ張りだしていると、たまたま通りがかったスタッフが物珍しそうに声をかける。

 

「やあFAL、掃除機なんて持ってどうしたんだい?」

 

「ちょっと部屋が汚いから掃除しようと思って」

 

「掃除するだって!? あ、アンタが!?」

 

「何よ、悪いの? まあいいわ、そこを退いてちょうだい。掃除の邪魔よ」

 

 倉庫の奥に引っ掛かった掃除機を無理矢理引っ張りだし、そのはずみで倉庫内も物品が一緒に跳び出してくるがFALは大して気にも留めずに掃除機を引っ張って行く。

 そんな彼女を、恐怖の面持ちで見つめていたスタッフであったが、ハッとして警備スタッフの事務所へと駆け込んでいく。それから警備スタッフの制止も聞かずに、放送のためのマイクをひったくり叫ぶ。

 

「緊急事態だ! FALが掃除をしようとしている、大破壊が始まるぞ!」

 

 そして、冒頭に戻る…。

 

 

 

 自室に戻ったFALは早速ゴミ袋に不必要なゴミを放り投げていくが、可燃物も不燃物も見境なく袋にぶち込んでいき、中にはガス抜きの済ませていないスプレー缶なども放り込まれていく。

 FALの基準できれいにゴミを片付けたところで、今度は掃除機をかける。

 

「ただやってもつまらないし、音楽をかけましょうか」

 

 音楽プレーヤーを常備し、イヤホンを耳にかける。

 掃除機の稼働音も遮るほどの大音量で音楽をかけ、鼻歌をうたいながら掃除機をかけていくが…。

 

「なによ、短いコードね!」

 

 掃除機のコードの短さに腹を立てて無理に引っ張るが、そんなことをすれば簡単にコードは外れてしまう、苛立たし気に付近の物を蹴飛ばし、今度は延長コードを取りつけて掃除機をかける。だが刺さりが甘かったのかコードが外れ、音楽を大音量でかけているせいで掃除機が止まったのにすら気付いていない。

 調子に乗って歌詞を口ずさみつつ掃除機をかけるが、その背後ではコードが付近の物に絡みつきことごとくを薙ぎ倒してしまっている……そんなもの音すらも、イヤホンから流れる音楽のせいで気付いていない。

 

「そうだ、折角だから他のところも掃除しようかしら?」

 

 その時、マザーベースに災厄が舞い降りることが確定した。

 延長コードでどこまでもいけると勘違いしているFALは部屋を出て、廊下を掃除し始めるが、廊下の植木鉢を薙ぎ倒し消火器を破損させていく。上機嫌で掃除を行うFALに対し、異常事態に駆けつけたスタッフたちが立ちはだかる。

 なんとか掃除という名の破壊を止めようと説得するが、イヤホンから流れる音楽のせいで聞こえない、そればかりか止めようとするスタッフを掃除機で殴り倒す。邪魔者を排除したところで再び掃除機をかけ、FALに追従する掃除機本体が倒れたスタッフを轢いていく…。

 

「よし、この辺で…あら、コードが抜けてるわね。いつからかしら?」

 

 ようやくコードが抜けていることに気付くFAL、いつ抜けたのか推理するが最初から抜けているのでどれだけ考えてもその答えにはたどり着けないだろう。おまけに、自分が荒し尽くした廊下の惨状に首をかしげるしまつ。

 

「なんか掃除してたらお腹が空いたわね。昼食までまだまだ時間があるし……自分で作ろうかしら?」

 

「……!」

 

 その言葉に、薙ぎ倒されたスタッフたちが戦慄、なんとか阻止しようと手を伸ばすが虚しく空を切る…。

 相変わらずイヤホンから流れる音楽のせいで、マザーベースに流れる放送が耳に届かない。

 

 スタッフたちの懸命な努力も虚しく、FALは糧食棟の厨房へとたどり着く。そこでようやくイヤホンを外すが、聞こえてきた放送に顔をしかめると放送を遮断する。

 

「さてと、何作ろうかしら? っと、その前に…」

 

 FALは調理を始める前に、ガスの元栓がしっかり締まっているかを確認。以前、これを怠ったせいで一つの厨房が消えた、まあその原因を作ったのもFALなのだが…。ガス漏れがないことを確認し、FALは冷蔵庫から作る料理も決めていないというのに食材を引っ張りだす。

 

「今日はロールキャベツのシチューを作りましょう」

 

 早速、鍋に水を入れてガスの火をつけて沸騰させる、ここまでは正解だ。言い変えればこの後は間違いだらけ。

 ロールキャベツを作ると言ったのにも関わらずキャベツを細切れにし、適当な量の野菜をまだ沸騰していない鍋にぶち込んでいく。ぐつぐつと煮えてきたところで味付けの塩を投入、一応そこで味見するが…。

 

「甘ッ! 間違えて砂糖を入れてしまったわ、仕方がないわね」

 

 砂糖の甘味を相殺するべく今度は大量の塩を投入、そこからはもう止まらない。シチューと言えばスパイス、と称してカレー粉やナツメグを大量投入して攪拌、その後も隠し味と称して折角しょっぱくしたスープにはちみつを投入するわチョコレートをぶち込むわ。

 最終的に見栄えをよくするため着色料を投入し、ロールキャベツのシチュー(ロールキャベツなし)が完成する。

 早速味見をしようとした矢先、勢いよく扉を開いて雪崩れ込むスタッフたち。

 

「FALさん、一旦落ち着きましょう! 抵抗は止めてください!」

 

「あら、ちょうどいいところに来たわね。折角だから味見してよ」

 

「お、遅かったか…!」

 

 既に出来上がった殺戮兵器(料理)を見て絶望するが、スタッフたちの受難はこれからだった。

 味見しろと迫るFALから逃げようとするが虚しく捕まり、スタッフたちのうちの一人が無理矢理謎のシチューを口に放り込まれる。無理矢理食わされたスタッフの反応は、意外なものであった。

 

「美味い……美味すぎるッ!」

 

「な、なんだって!?」

 

「本当に美味いんだよ、お前たちも食ってみろ! オレが言いたいことが分かるぞ!」

 

 試食されたスタッフの反応を見て、まさかと思い口にするが、確かに美味い。だが、他のスタッフが料理を口にしたとたん、最初に試食させられたスタッフが唐突に白目をむいて倒れたのだ。唖然とするスタッフたち、そして一人、また一人と意識を失い倒れていった…。

 瞬く間に駆けつけたスタッフを全滅させてしまったFALの料理、駆けつけたMG5とキャリコ、そしてネゲヴに料理は破棄され本人も拘束されたことでこの一連の騒動は幕を閉じる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんと、いいセンスしてるわねアンタ…」

 

「うぅ、ごめんなさい…」

 

 その後、掃除にともなう大破壊と毒物作成によるスタッフたちの健康被害を咎められたFALは一か月のマザーベース清掃を課されることになる。破壊した物品の補償はFALの給金から天引きされることも決まる。

 不在だったオセロットは、この騒動に対し呆れてものも言えない様子だった…。

 

 そんな彼女と一緒に掃除を手伝っているのはVectorだ。

 

「ねえVector、やっぱ私アンタがいないと困るわ」

 

「ようやく気付いた? アンタはセンスの欠片もないものね、私がいないと何もできないでしょ?」

 

「うっ……これからもよろしくお願いします…」

 

「いつもそうやって素直にしてるなら、いつまでも面倒を見てあげるわよ、独女さん?」

 

 Vectorは小さく微笑みかけるのであった。




なんだこれ?


浦安鉄筋家族を読んでたら思いついたネタ、前話との落差が酷い(笑)

FALネキ、戦場に出れば凄いんです、でも日常生活壊滅的なんです!
ある意味、MSFでいちばんヤベェ奴
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