METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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レーションを寄越しなさい!

 MSFに最も古くから在籍している戦術人形といえば誰か?

 そう問われれば大抵のものはスコーピオン、スプリングフィールド、9A91、WA2000をあげるだろう。確かにMSFに正式に加入した戦術人形はその4人で間違いないのだが、誰よりも早くMSFの人間と接触したのはスコーピオンである。

 さて、そんな彼女だが一時期は他の三人との力の差に悩み悔しがっていた時期もあった…FOXHOUNDの称号を持つ二人と、大隊長の地位につくスプリングフィールドに対し妬みも抱いていた。だがそこで腐るような我らがスコピッピではなく、負けず嫌いな彼女の闘争心かあるいは開き直ったのか……とある分野で思わぬ才能を発揮するようになったのである。

 戦闘工兵としての仕事、スコップひとつでどんなに固い岩盤も掘り進め、深く根を張る切り株も引っこ抜き、堅牢な陣地を作り上げる。戦闘でも使用する年季のはいった愛用のスコップは烙印システムがなされた銃よりも本人の手に馴染み、ありえない速さで塹壕を掘り進めていく…。

 それだけではない、スコーピオンは陣地を構成するにあたって適正な場所に防御施設を設けることを思いつく。

 思いつくのだ……突発的に浮かぶアイデアを躊躇せずにぶち込み、結果それが最適解となる。理論も知識もスコーピオン自身にはないはずなのに、MSFでその任務を行う工兵たちをも唖然とさせるほどの陣地を作ってしまうのだ。

 そういうわけで、思いつきでポンポンアイデアをぶち込み、陣地構成のための人員を容赦なく駆り出した結果…MSFが任された山岳地帯は、エグゼ率いる本隊が到着する頃には難攻不落の要塞と化していた…。

 

 これにはスコーピオンを先に向かわせたエグゼも大満足、堅牢な要塞と化した山岳地帯を笑顔で眺めていた。

 

「さすがだなスコーピオン! ほんとお前ここら辺の才能凄いよ!」

 

「えへへへ、あたしってば天才だからね!」

 

「何が天才よ…天災の間違いでしょ…」

 

 喜びあう二人に水を差したのは、ほとんど無理矢理この陣地構成を手伝わされたAK-12である。小奇麗だった服装は土で汚れ指先の爪にも土が入り込んでいる。相方のAN-94の方も疲れているのか、すぐ近くの木陰で座り込んでいる…。

 

「おいおいスコーピオン、なんだこいつ? 寝ながらしゃべってるぞ?」

 

「あーエグゼ、この人はAK-12って言ってまぶたは閉じてるけどちゃんと見えてるんだよ」

 

「うわ、なんだそれ…関わらない方が良さそうだな」

 

「ちょっと待ちなさい、変な誤解を抱えたままどこかに行かないでくれる?」

 

 AK-12をヤバい人形と決めつけエグゼは逃げようとするが、そのまま逃がした場合とてつもない誤解が生まれることを危惧し寸でのところで引き止める。

 

「心配しなくても見えてるわ。まぶたを閉じてるのは、不必要なものを必要以上に見なくて済むからよ」

 

「あぁ…そうなんだ。ちょっと離れるな……おいスコーピオン、どう考えてもヤバい奴だろ! なんだってこんな奴と関わり合いに、絶対距離置いた方がいいって!

 

知らないよ!でもそういうことにしとかないと、こうして話してるあたしらまで寝言言ってる奴と話してる変人って思われちゃうじゃん! 温かい目で見てあげようよ…

 

「ちょっと聞こえてるんだけど、あんたらぶち殺すわよ?」

 

 軽く殺意を込めた口調で言うが、この誤解はしばらく取れそうにはないだろう…。

 その後は、MSFの人形がやってくるたびにAK-12のその特徴をネタにされ最終的に彼女は開き直って自分たちのキャンプへと帰っていってしまった。無論、まぶたを閉じてすいすい歩いて帰る姿すらもネタにされたのは言うまでもない。

 しかしAK-12とAN-94に任された任務の一つにあるのはMSFの監視であり、嫌でも今後MSFと付き合っていかなければならないのだ。

 

 

 

 翌朝、冬を迎えて早朝には霜柱ができるようになる季節。

 暖かいコーヒーをマグカップに注ぎ、相棒のAN-94と挨拶を交わして散歩がてらAK-12はMSFのキャンプを伺う……その日の気温は氷点下を下回る、そんな環境下の朝っぱらから上半身裸の筋肉ダルマどもが気合の入った声と共に筋力トレーニングに励む姿があった。

 ばったり出くわしてしまったAK-12の表情が凍りつく、気温のせいでは決してない。

 

「ムム! 正規軍のお姉さんが視察に来たぞ野郎ども! 恥ずかしい姿を見せるじゃない、どうもおはようございます! 今日は良い日ですね!」

 

 目の前にあいさつに来たガタイのいいMSF戦闘班の男。男が目の前に来るなり、AK-12はほとんど反射的に熱々のコーヒーを浴びせかけて追い払った。

 

「AK-12、本部から連絡が」

 

「こっちに来ちゃダメよAN-94、目が腐るから」

 

「え?」

 

 困惑するAN-94がMSFの筋肉野郎どもを視界にとらえてしまわないようその場から立ち去らせるとともに、改めてMSFが奇人変人集団であることを認識する。だが自分が果たさなければならない任務を頭に思い浮かべると、いつまでもこのMSFのノリに流されてしまうわけにはいかない。

 次こそは流されないようにしよう……そんな思いはすぐに裏切られることになる。

 

 昼時、AK-12はキャンプで配給のレーションを広げ食事をとっていた。

 戦術人形と人形の兵士とでは必要とされる栄養素にいくらか違いがあり、正規軍向けにレーションを提供する会社は必要な栄養素を揃えることを第一とし、味や見た目などは度外視されていた。

 それに対しAK-12はさほど興味を持ったこともなく、食べるものも必要な栄養させ取れていればそれでいいという考えであったのだが…MSFが落ち着いてキャンプを設営する頃になって、食事時になるといつもそちらの方から香ばしい香りが流れてくるのだ。

 味気ないスープと固いパン、ぱさぱさとしたジャーキーのような肉……いつも違和感なく食べていたレーションが惨めに見えるような香ばしい香りにAK-12のフォークを握る手が止まる。

 

「あいつら、ここをピクニックか何かと勘違いしてるのかしら?」

 

 額に青筋を浮かべ、時折聞こえてくるMSFスタッフたちの笑い声を鎮めるべくAK-12は立ち上がる。

 これは最前線に布陣するにあたり笑い声や不必要な話し声で敵に情報が洩れてしまわないようにするため、決してMSFが何を食べているか気になって調べにいくわけではない、そうAK-12は何度も言い聞かせてMSFのキャンプを訪れる。

 

「アンタたちうるさいのよ、少しは静かに……!」

 

 文句を言いにやって来たわけであるが、MSFの人形たちが広げて食べる軍用携帯糧食(レーション)の豪勢さに息をのむ。軍から支給されるしなびたレーションと違い、真空パックされた具材を温めることでいつでも美味しくいただける。ふと、スコーピオンが沸騰する鍋から別なパックをとりだすと、その封を切って温められたライスの上にかける……レトルトカレーだ。

 

「あっ、AK-12じゃん。いらっしゃい、なんか用?」

 

「いや、別に用はないんだけれど……なに、そのレーションは…」

 

「よく聞いてくれたね! いやー、うちの糧食班のスタッフも優秀でさ。軍隊じゃ食事は数少ない楽しみの一つってことで、美味しいレーションをたくさん開発してくれてるんだよね。レトルトカレーにスナック菓子だったり炭酸飲料、MSFには5つ星コックから家庭料理のスペシャリストもいるからね!」

 

「へえ、それはいいわね……」

 

「うん」

 

「………」

 

「………食べたいの?」

 

「え?」

 

「食べたいの?うちのレーション」

 

「アンタ何を言って…」

 

「食べたいんでしょう?」

 

「そんなこと言ってないでしょう?」

 

「じゃあいらないの?」

 

「え? えぇ…」

 

 スコーピオンが放ったその言葉にAK-12は戸惑いを見せる。

 もう何日も美味くもないレーションを食べ続けてきた一方で、MSFは雇われ者の身分でこんなにも美味そうな……気を引かれるような食事をとっているのだ。だが素直に下さいと言うのには、プライドが許さない。

 

「…だけど、陣地設営の協力に対する感謝の気持ちとして、どうしてもプレゼントしたいって言うのなら受け取らないこともないわよ?」

 

「なるほど、お腹ペコペコなんだね?」

 

「……なんですって? だからそんなこと言ってないでしょ?」

 

「だったらいらないの?」

 

「くっ、この……!」

 

 危うく開眼してしまいそうになるのをなんとかこらえ、どうにかして穏便にレーションを貰うための方法がないか思考する。そんな時、ちょっと離れたところでこそこそ縮こまってハンバーガーを頬張る見覚えのある人物にAK-12は眉をひそめる。

 

「AN-94……あんたそこで何してるの?」

 

 AK-12に見つかってしまった彼女はびくっと身体を震わせると、しきりに目を泳がせて狼狽している。しかし手にしたハンバーガーの魅力に抗いきれないのか、AK-12に冷たく見下ろされても頬張るのを止めない。

 

「すみません、このハンバーガーが美味しくて」

 

「AN-94、ちょっとこっちにきてそれを寄越し……コホン、みっともない姿を見せるんじゃないの」

 

「まあまあAK-12さん、仲良くやろうよ。ほんとはアンタも食べたいんでしょ、一つくらい分けてあげるってば」

 

「ふん、別に欲しいわけじゃなかったけど貰えるものは貰っておくわ」

 

「こいつも素直じゃないなぁ」

 

 さすがにその場でレーションを食べようとはしなかったが、軽やかな足取りでキャンプに戻っていくあたりもらえてうれしいのかもしれない。後はもぐもぐハンバーガーを頬張るAN-94がいるが、ここ数日の観察で、彼女はAK-12に忠実なだけで特に不利益がなければ良い関係を築けそうであった。

 

 さて、満足のいくまでハンバーガーを食べて帰っていくAN-94を見送ると、ハンターが何やら神妙な面持ちでやってくる。

 

「どうしたの二人とも、何かトラブルでも?」

 

「偵察に出したチームがやられた。丘を越えて数十マイル進んだ山間部だ。最後の通信から、米軍の狙撃兵が山岳に潜んでいることが分かった。このままじゃこっちの偵察隊は奴らに狩られ、こっちの布陣が奴らの偵察で筒抜けになってしまう。対処しなければ…」

 

「相手は分かる?」

 

「さあな、だがギリシャに上陸した部隊の中に海軍特殊作戦コマンド【Navy SEALs】がいるかもしれないという情報もある。生半可な兵士では太刀打ちできん」

 

「でもどうするの? 部隊を動かそうにも、あまり動き過ぎるのは…」

 

「大隊は動かせない。こっちからも少数精鋭の部隊を送り込むしかない、スペツナズを動かすのは今は無理だから……スコーピオン、ワルサーの協力を得られることは可能か?」

 

「わーちゃん? うーん、どうだろう……協力してくれるとは思うけどさ。一応聞いてみるよ」

 

「私の大隊からも山岳猟兵として編成しよう、ゲリラ戦術は心得ているさ」

 

「よっしゃ、じゃあ私も張り切っちゃうよ!」

 

 何を張り切るのかは分からないが、おそらく陣地の強化だろう。

 塹壕を掘りバンカーを構築し、坑道を張りめぐらし、地形を最大限活かした造りだ……弱点といえば陣地に対するバンカーバスターなどがあるが、それは正規軍側が用意してくれた対空システムとMSF側の対空兵装を搭載した月光が及びフェンリルが対処するだろう。

 

 山岳に、白い雪が舞い降りる。

 戦いの時はゆっくりと、しかし確実に近付いていた。




Navy SEALs VS わーちゃんの構図かな?
あとはハンターの山岳猟兵部隊か…。

少数精鋭のぶつかり合いって燃えるよね!
勝てば敵陣の偵察に行けるぞ、頑張れ!

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