METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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作戦会議

 山岳地帯を低空飛行で飛ぶ一機のヘリ。

 機体側面にはMSFのロゴと髑髏をかたどったマークが描かれる…ヘリが飛ぶエリアは一応味方側、しかし敵軍がレーダーを備えていると仮定し山岳の起伏を利用しレーダーに捉えられないよう飛行している。そのヘリの乗員はパイロットが二名と、二人の戦術人形だ。

 一人は黒の戦闘服に身を包み口元をバンダナで覆い目を閉ざしている、もう一人は腕と足を組みながら外の景色に目を向けていた。

 

 空はどんよりとした雲が多い、山にはうっすらと雪が積もる。

 こうしている今も雪が降っており、数時間もすれば山の一面を雪で覆いつくすだろう。

 

『ワルサー、応答しろ』

 

 ふと、自分に向けて発せられた通信を傍受しWA2000は視線を機内に戻し通信を受けると同時に、今作戦の戦場となる地域のマップを開く。相手は彼女自身が敬愛してやまないオセロット、彼は今回のWA2000の任務をサポートしてくれる。

 

「こちらWA2000、ただいま前線までヘリで移動中よ」

 

『予定通りなら、あと30分ほどで目的地だ。分かっていると思うが今作戦は猟兵大隊を指揮するハンターからの要請だ、山岳地帯に潜む敵の狙撃手と斥候の排除、及び敵陣地の偵察だ。現場は起伏に富み山林が多くあることから、遭遇戦あるいはゲリラ戦が主となるだろう。ワルサー、山岳戦の経験は?』

 

「訓練課程でなら、実戦は初めてよ。でも戦術は頭に叩き込んである」

 

『マザーベースの気象予報士によれば、大型の低気圧が近付きつつあるらしい。場合によっては吹雪く……寒冷地での作戦は普段以上に体力の消耗や視界が制限され、戦闘にも影響が出てくるだろう。例え戦術人形だとしてもこの気候と、山岳そして森林での戦闘は困難を極めるだろう』

 

「森林や山岳では遮蔽物も多く、不意な遭遇戦も多くなるわね。おまけに雪が視界を遮る……オセロット、思うに今回の作戦は私が経験したあらゆる戦闘の中で一番難易度が高そうね」

 

『怖気づいたか? 引き返すなら今だぞ』

 

「まさか…俄然やる気が出てきたわ。どんな環境だろうと、私は勝利を勝ち取る」

 

『その意気だ。山岳や森林での戦闘はハンターの方が上手だ、任務に向かう前に不安な点は彼女にアドバイスを聞くといい。気をつけろよ、相手は米軍の特殊部隊だ…侮っていい相手では決してない。お前が敵を射程に収めた時、お前自身も射程に入ったことを忘れるな』

 

「ええ、気をつけるわ。ありがとう、オセロット……頑張るわ」

 

 通信を切る間際、WA2000はそれまでの重々しい表情から頬を赤らめた乙女のような表情へと帰る。通信を切って少しの間、オセロットとのやり取りを済ませた余韻に浸る。それから一度深呼吸をすると、元の真剣な顔つきへと戻す。

 

「リベルタ、準備なさい」

 

 WA2000の声を聞き、それまでじっと微動だにしていなかったリベルタドールが目を開く。

 そばに立てかけていた自身の銃"HK CAWS"を手に取ると、バッグパックや装備品の最終確認などに移る。ヘリが前線に降り立つころには、二人とも準備を完了していた。

 

 

 

 着陸したヘリの扉を開くと、冷たい外気が一気に機内に入り込み暖かい機内の温度に慣れていたWA2000はわずかに身体を震わせる。一方のリベルタドールは、その構造から生体パーツの感度が鈍いために寒暖差の影響をあまり受けていない。

 ヘリは二人を下ろすとすぐにそこを飛び立ち、山の谷間へとその姿を消していった。

 

「やっほーわーちゃん、長旅お疲れさん!」

 

 二人の出迎えにやって来たのはスコーピオンだ。

 急激に気温が下がるこの気候への対策か、厚手の手袋に防寒着を着用……してはおらず、いつもの薄着のみだ。他の兵士たちはきちんと防寒着を着用しているというのに、彼女だけが見てるだけで寒々しい格好をしている。さて、そんな彼女に案内されて二人は要塞化された司令部へと足を踏み入れる。

 

「へえ、話には聞いてたけど大した仕事じゃないサソリ」

 

「でしょ? 寒くなって地面が凍りつく前に済ませといてよかったよ! 急ピッチで進めたからあちこち補強が必要だったんだけど、過労で何人かぶっ倒れた以外は何の問題もないよ」

 

 限られた人数、限られた日数で山岳地帯に防御陣地を築き上げた代償として何人かの工兵が病院送りになったというがそれもスコーピオンにとっては織り込み済みらしい。平時にはありえないことではあるが、ここは戦場、一分一秒の遅れが生死を分かつ…過労でぶっ倒れようと仲間を守るための陣地は性急に用意しなければならなかった。

 その点、スコーピオンは部下に恨まれることを恐れずによくやった方だ。

 

 弱点と言えば航空爆撃によるバンカーバスターや燃料気化爆弾などがあるが、それの対処として正規軍が用意してくれた対空レーダーや熱追尾ミサイルなどがある。

 

 さて、司令部に向かうとちょうど作戦会議を開いていたらしいエグゼとハンターを見つける。

 山岳戦や森林戦についてのノウハウはこの場にいる誰よりも秀でているハンターが、実質この戦場の指揮を執り、スコーピオンが設営してくれた各陣地に部隊を展開させ斥候のための部隊を派遣する。しかし斥候部隊が山岳地帯に潜伏する敵の狙撃兵に倒され、情報戦においてMSF側は劣勢にある。

 そのために、山中に潜む敵を撃破することを狙ってWA2000らが呼ばれたわけであるが、彼女を見た瞬間にエグゼは露骨に顔をしかめる。

 

「まったく、お前の手を借りる羽目になるなんてよ…」

 

「任務よエグゼ、私情を挟まないで」

 

「やれやれ、君らは相変わらず仲が悪いんだから…」

 

 お互い実力は認めあっても、決して相容れない二人。

 ある意味エグゼとM4との対決以上に厄介な関係なのだが、任務にその感情を持ちこまないだけマシだろうか…これが任務にまで引っ張るようであったら、二人とも今の地位にはいられなかっただろうが。

 二人の定番となった毒のこもった挨拶が終わったところで、作戦会議の続き…とはならず、その場に招かれざる客としてAK-12がやってくる。

 

「またお前かよ、今度は何のようだ?」

 

依頼者(クライアント)側として、雇った傭兵たちの作戦行動は把握しておかなければならないのよ。勝手な行動を起こして不利益を生じさせたり、裏切ったりしないようにね?」

 

「そうかい、好きにしなよ」

 

「ええ、好きにさせてもらうわ」

 

 そう言って、AK-12は適当な椅子を引きずり部屋の隅に座る。

 そこで彼女はいつも通りの表情で、作戦会議を継続するよう促す…明らかにMSFは信用されていない、その不愉快さに一同不満を持つが考えても仕方がないことだ。

 

「防御陣地は用意したが、敵の全容が把握できないのであれば作戦もたてられず、要塞も無意味なものとなる。そのために障害となる山中の敵狙撃兵を排除し、偵察隊を送り込めるようにしたい。相手は特殊部隊と少数の山岳部隊が潜んでいると思われる……奴らが我々の陣地を偵察していないという保証はない、時間がかかればかかるほど我々は不利になる」

 

「敵の特殊部隊がどの部隊なのか、主力部隊の戦力もなにもかも分からないけど、確実に言えることはあたしらより数で上回ってるってことだよね?」

 

「そうね、折角山岳という相手にとっても攻略しにくい戦場なのだから、情報を集めて万全の状態で敵を迎え撃ちたいところよね」

 

「そうだ。そのためにお前らを呼んだ、頼りたくはないがスペツナズが動けない今は仕方がねえ」

 

「私の部隊がスペツナズに負けているなんて思って欲しくはないわね」

 

「まあまあ二人とも……そう言えばカラビーナと79式は?」

 

 ふと、彼女の小隊に属するメンバーが不在であることを思いだしたスコーピオン。

 79式は未熟な部分もあるが基本的に優秀、カラビーナはWA2000と張り合うほどの優秀な狙撃手でもある。この場にいるのは近距離戦を得意とするリベルタドールだけだ。

 

「79式とカラビーナは別任務で遅れてる。そこでの任務が終わり次第、エイハヴと一緒にここに来るわ」

 

「ほえ? エイハヴも来るの!? よっしゃ、勝った!」

 

「バカ言ってんじゃねえよ。まああいつが来るのはオレも知ってたけど、他にはスプリングフィールドの部隊とキッドの奴も増援として来るぜ。FALが参戦できなくてキレてたが、アイツは別な戦場だ……後はSAAの生まれ変わった砲兵大隊だ」

 

 いつぞやの戦いでSAAの砲兵大隊は奇跡的に損害を負うことは無かったが、20世紀時代の火砲を運用していた彼女の砲兵部隊もその後装備の更新が行われた。ユーゴ連邦からの購入の他、捕まえたアーキテクトを脅し…協力によって改良型の火砲などを開発、運用することが出来た。

 画期的なのは、鉄血が運用するジュピター砲に無限軌道を取りつけて自走能力を獲得したものだろう。

 戦車ほどの機動力はないが、自走能力により砲撃位置を自由に変えられるのはとても便利だ。

 

「WA2000とリベルタドールは、ハンターの部隊から編成した山岳部隊と一緒にゲリラ狩りだ。うちの部隊が敵の部隊とやり合ってるうちに敵の狙撃手を見つけ出して片付ける。ここまでがオレらの作戦だが、正規軍側からどれだけの支援を受けられるかだ……そこのところAK-12……って、寝てるのかこいつ?」

 

「寝てないわよ」

 

「紛らわしいんだよお前…」

 

「うるさい。支援については上層部に聞いてからじゃないと分からないけれど、少しくらいの部隊は貸し与えてくれるかもね。なんにせよ、私は内務省からの指示でここに来ているの。私が正規軍の窓口じゃないことを覚えておきなさい」

 

 要するに、正規軍の協力を得たければ自分たちで交渉しろというのがAK-12の考えであった。

 彼女はあくまでMSFの監視であり、それ以上の仕事をする気はさらさらない様子…MSFにとって少しも役に立たないと分かったスコーピオンは、即座に彼女へのレーション供給を止めることを決意する。

 

「まあだいたい分かった、お前らはあてにしねえよ。ところで他の戦線はどうなってんだ?」

 

「そうね。米軍との小競り合いがポーランド国境で頻発しているらしいし、大規模な武力衝突は近いわね。内務省の国内軍も動員されているし、そろそろ忙しくなる頃あいね」

 

「そうか……それで、鉄血の問題はどうなってんだ?」

 

「あら、気になるの? 古いお仲間だものね…?」

 

 含みのある笑みを浮かべるAK-12、わずかに開かれた目がエグゼを見据えた。

 喧嘩っ早いエグゼを挑発するのを周囲は冷や冷やした様子で見守る、エグゼは明らかにイラついているが何とかこらえたようだ。

 

「鉄血に関しては、正規軍もグリフィンも攻めあぐねている。いや、対応に困っているようね……潰そうと思えばいつでも潰せるんだけど、パルスフィールドや米軍の存在でまともな戦力を用意できない。かといって無視するにしても奴らは破壊活動を行う、上層部もどうするか迷ってるみたい」

 

「シーカーとドリーマーの野郎が何を考えているかだな」

 

「私がこんな事言うのは本来いけないんだけど、軍は未だにMSFが米軍もしくは鉄血と協力関係にあるんじゃないかって疑ってるのよ。あるいはユーゴ連邦政府と共謀して、東欧の地を狙ってるんじゃないかってね」

 

「こんな非常時にやることかよくそが」

 

「まあでも頼らざるを得ないのも事実、上手くやることね。さてと、作戦会議はもうお終いね? 頼りにしてるわね、MSFの皆さん?」

 

 




一方その頃……ケミカルバーガーが欲しくて虎視眈々と狙うAN-94さんとそれを阻止するヘイブン・トルーパー隊とでバトルがあった模様()





AK-12をみんな弄り過ぎ問題…(そろそろファンの人に怒られそう)



山岳戦、雪中戦、森林戦のハッピーセットや!
大丈夫、敵にとっても厳しい地形だからね!

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