METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:副司令の努力が報われる日

 マザーベースの司令部にて、カズヒラ・ミラーはたくさんの資料に囲まれながら、情報整理のためにひたすらコンピュータの前で作業を行っていた。

 あの戦闘が終わり、損害の報告をまとめた他、戦死しあるいは負傷した者の代わりはできる限りミラーが代わり穴を少しでも埋める…同じく諜報班をまとめる立場になっているオセロットも、自ら諜報活動に出るほど忙しい毎日を送っている。

 MSFのほぼ半数が動けなくなったこの状況に置いて、ミラーはただひたすらに組織の再建を果たすために情報を整理し、ビジネスの付き合いのあったPMC各社とコンタクトをとり依頼人(クライアント)との連絡も取る。

 

 目下の問題は、連邦政府との間に生じた軋轢だ。

 

 鉄血との戦闘記録は既に世界が知るところにある。

 戦闘で弱体化したとはいえ、強大すぎる戦力を恐れた連邦政府は資源の取引を渋るようになり、MSF再建のための活動に支障が生じている。

 うち捨てられた採掘所を所持しているとはいえ、すべての資源はまかなうことはできない。

 MSFの存在を黙認させるためには、抑止力となる戦力が必要不可欠だ。

 

 MSFにはいまだ精兵が多くいるが、正規軍に攻撃を躊躇させるほどの規模とは言えないし、いくらメタルギアZEKEがいるとはいえ航空支援を受けた部隊との戦闘には弱いという部分もある。

 安定した資源の供給、人的資源の確保、前哨基地の立て直し…どれか一つだけを選んで進めるわけにもいかない状況に、ミラーは悩みつつも優先順位をつけて作業指示を出す。

 こういった組織の運営においては、スネークを超える才能を持つのが彼の特色だ。

 

 疲れた様子で椅子にもたれかかるミラーは、酷使した目を閉じて少し休める。

 

 MSFの兵士全員が、ほぼなんらかの作業に従事しているため、以前なら言わなくても持ってきてくれた差し入れのコーヒーは出てくることがない。

 自分で淹れ、既に冷めたコーヒーを一口すすり再び作業を開始する…。

 

 そんな時、机の上に置いてある電話が鳴り響く。

 司令部の電話機が鳴るのは外部からの連絡、つまり取引先や新しく取引を持ちかける依頼人からの連絡のみ。

 つい先日、連邦政府からの脅迫じみた電話を貰ったばかりのミラーはため息を一つこぼし受話器をとる。

 

「はい、こちらMSF副司令ミラーです……あぁ、これはどうもお世話になっております」

 

 電話の相手は彼が予想していた厄介な相手ではなく、かねてから取引を続けてきたレイヴン社からであった。

 レイヴン社およびウルフ社は少ないながらも兵士を派遣してくれ、オクトパス社とマンティス社は戦闘後に必要な資材を格安で流してくれていた恩あるPMCだった。

 

「ええ、厳しい状況が続いておりますがなんとか…はい…え? いまなんと?」

 

 電話越しの会話を続け、ミラーは耳を疑うような話しに思わず聞き返す。

 

「はい、はい…そうですか…! 我々としては断る理由もありません、ええ…もちろんです」

 

 会話を続けていくうちにミラーの表情は明るくなっていく。

 よほどうれしい出来事があったのか座っていた椅子から立ち上がり、受話器越しだというのに何度もお礼をするように頭を下げていた…。

 

 

 

 

「ふん、ふん、ふん~…」

 

 ミラーはへたくそな鼻歌を上機嫌に口ずさみ、久しぶりにマザーベースの甲板上でこった身体をのびのびと伸ばす。

 数日司令部に引きこもって日夜作業を行っていたミラーの姿を見た兵士たちは、ついに頭がいかれてしまったかと怪訝な目でみているが、そんな兵士たちに彼は上機嫌に声をかけていく。

 

「やぁ諸君、今日はとても良い日だね」

 

 そんな感じで声をかけていったが、全身油まみれになって不機嫌そうなスコーピオンに出くわしてしまったのが運の尽き…目をつけられたカズはスコーピオンに絡まれる。

 

「だいぶ暇そうじゃん…油圧ホースが弾けて小柄なあたしが修理に回されてるってのに、ずいぶんいいご身分だね」

 

「え、あぁ…ご苦労だね…でもオレも司令部で働いてて…」

 

 予想外の絡まれ方にミラーは慌てふためくが、見るからに不機嫌そうなスコーピオンとの関わりを避け、兵士たちは逃げるようにその場を立ち去っていく。

 

「なんてね…カズが一番頑張ってるのなんてあたしだって知ってるよ。ちょっと脅かそうと思っただけだよ」

 

「なんだ、そうだったのか…ははは、本当にキレてるかと思ってびっくりしたぞ」

 

「ちょっとイラッとしたのは本当だけどね」

 

 正直な物言いにミラーは咳払いでその場を取り繕う。

 そんなところへ、スプリングフィールドが芳しい甘い香りを運びながらやってくる、ミラーとしては好みどストライクな彼女だが、目を向けているのはスネークなので踏み込んだ会話は避けている。

 

「ミラーさん、お仕事お疲れさまです、マフィンが焼けました。よかったらいかがですか?」

 

「おぉ、とても美味しそうだな。是非いただこうかな」

 

「それと淹れ立てのコーヒーもありますから、どうぞ」

 

 スプリングフィールドお得意のマフィンを一つもらい、口の中に放り込む。

 焼きたてのマフィンはほんのり温かく、ふんわりとした生地とバターの香りがたまらない…マフィンの程よい甘さが、疲れているミラーの身体が求めていたものだ。

 差し出されたコーヒーを貰い、一口すする。

 芳香な香り、程よい苦み、大人の味だ。

 自分で淹れて冷めきったコーヒーなどとは全然違う、例え同じ銘柄だとしても、可愛い女の子が淹れてくれたコーヒーというだけで倍も…いや、何十倍も味は違うのだ!

 心の中でそう叫びつつ、ミラーはコーヒーの苦味でリセットした味覚でもう一度マフィンを味わう…まるでスプリングフィールドの優しさを具現化したようなマフィンの柔らかな食感、心を癒すような甘味にミラーの身体に蓄積した疲労もどこかへ吹き飛んでいく。

 

「いかがですかミラーさん、おかわりはまだありますからね?」

 

 そう言って微笑むスプリングフィールド。

 

「…女神は、ここにいた…これがオレのアウターヘヴン…」

 

「はい?」

 

「いや、なんでもない…美味い、本当に美味い。是非、是非君を糧食班に配属したいと思うッ! 君ならレトルトカレーやマウンテン○ューやペ○シNEXを超える衝撃の食糧を開発してくれるはずだ!」

 

「落ち着けカズ!」

 

 熱のこもった様子でスプリングフィールドに迫るミラーを、スコーピオンは見事なCQCで投げ飛ばす。

 

「ハッ、オレとしたことがすまん…」

 

「え、ええ…大丈夫ですよ」

 

「全く、スプリングフィールドに手を出したらあたしが承知しないからね。というか頭から甲板に叩き付けたのによく平気だね」

 

「ああ、こう見えてタフだからな」

 

 ずれたサングラスを直し、そろそろかと、ミラーは上空を見つめる。

 つられてスコーピオンらも空を見上げると、遠い空のかなたから一機のヘリがマザーベースに向けて近づいてくる。

 ヘリはマザーベースを旋回し、設けられたヘリポートへと着陸する。

 出迎えのために駆け寄ったスコーピオンであったが、ヘリのドアを開けて出てきたのは処刑人であった。

 

「邪魔だよポンコツ」

 

「うるさいな、あんたに用はないよ」

 

「あ?また泣かされたいの?」

 

「やめないか」

 

 一触即発の空気の二人を、少し遅れてヘリから降りてきたスネークが戒める。

 それでもにらみ合いを止めない二人を遠ざける。

 

「スコーピオン、お前が過去に受けた仕打ちを許せないでいるのは分かるが彼女はもう仲間だ、そんな目で見続ければ彼女もお前に壁をつくることになるんだぞ」

 

「ははは、分かったかポンコツめ」

 

処刑人(エグゼ)、お前もだぞ! 確かにお前のある程度の自由は認めたが、仲間を侮辱することはオレが許さん。オレたちはMSFという名の家族だ、家族を蔑ろにするな」

 

「う、分かったよ…そんな怒らなくてもいいじゃんかよ…」

 

 スネークに叱られ少し哀しそうな表情を処刑人は浮かべ、恨めしそうにスコーピオンを見つめるが、スネークの厳しい視線を受けてそっぽを向く。

 

「オレの事見てくれって言ったけど、そんな風に見られるのはイヤだよ…」

 

「だったら態度を改めることだ。次に仲間を傷つけるようなことをしたら本気で怒るからな。仲直りの握手でもしておけ」

 

 言われた通り渋々、といった様子で二人は握手を交わすが、やはりというべきか二人とも相手の手を握りつぶそうと力をこめている。

 そんな二人を見逃すはずもなく、スネークの怒りのげんこつが二人の脳天に振り落される…共通の痛みを味わい、ようやく静かになる二人にスネークはあきれ果てる。

 

「任務お疲れさまだな、ボス」

 

「基地の様子はどうだカズ」

 

「みんなよくやってくれてるよ。実は良い知らせがあってな、かねてから付き合いのあったPMC4社がオレたちと合流したいという申し出があったんだ。悪い話しではないから承諾しておいたよ」

 

「ほう、だが彼らは協定がある身だろう。協定を引っ提げたままではオレたちとは共に歩けないと思うが」

 

「いいやボス、それが彼らは一度会社をたたんで協定から離脱した上で、新たな組織として加わりたいと申し出てきた。彼らもオレたちの戦闘を見て感じるものがあったのだろう」

 

 レイヴン社、ウルフ社、オクトパス社、マンティス社は今どきこの世界では珍しい人間を主体にしたPMCであった。

 確実な仕事をこなすことでスネークらの評価も高い会社であったが、大手PMCとの競争を続けていくことは難しかった…そんな時現われたMSFという存在に希望を見出し、彼らはその傘下へ加わることでこの競争を生き永らえようとしている。

 

 にこやかに話すミラーに、実はこちらも良い知らせがあるとスネークが言うと、ますますミラーは上機嫌になる。

 

「鉄血の旧エリア…処刑人(エグゼ)が支配していた領域だが、まだ誰も手を付けていなかった。それでセキュリティを再設定して稼働させ、工場も小規模だが動かせた」

 

「それはつまり…?」

 

「ああ、じきに鉄血製の戦術人形が生産されるだろう。AIの再設定はストレンジラブが取り掛かる、鉄血勢力のAI管理下から切り離してMSFの指揮下につける…これから色々な問題は出てくるだろうが、希望は見えてきた」

 

「凄いじゃないかスネーク! 処刑人を仲間にするのは反対だと言ったが取り消すよ! 強力な味方だな!」

 

「それだけじゃない、ヒューイによると工場の設備を使用し新しい兵器の生産も可能らしい。ZEKEの改良も大きく進むだろう」

 

「おぉ! 盛り上がってきたなスネーク!」

 

 続く朗報に、ミラーのテンションは過去最高に高まっていた。

 PMC4社の合流と、鉄血の生産工場の確保によって現在MSFを悩ませる問題は大きく改善されるはずだ。

 軌道に乗り始めるのにはしばらくかかるだろうが、それでも十分すぎる朗報である。

 

「君を疑っていたことは謝る。礼を言わせてくれ処刑人、オレたちとの間には色々あったが副司令として君を正式に受け入れよう」

 

「ああ、そう…なんだっていいよ…」

 

 スネークに叱られたのがショックだったのかいじけたままで、気のない返事を返す処刑人。

 スコーピオンの方も小さい声ですすり泣いていて、スプリングフィールドに慰められている…どこからかスネークを咎めるような視線が向けられるが、目を合わせようとすると兵士たちはそそくさとその場を立ち去っていく。

 

 思春期の女の子の相手は難しいな…葉巻に火をつけ小さな声でぼやくスネーク。

 

 伝説の傭兵と言われる彼も、思春期の少女の心にはお手上げであった…。




クルーガーさん「中国にはね、"匹夫の勇、一人に敵するものなり"っていう諺があるの。無闇に戦いを求める愚か者の勇気は、一人の敵を相手にするのが精一杯って意味よ。M4はたった一人で敵の中に潜入してるんだから、やたらと戦闘を仕掛けたりしないで、慎重に行動してね」

ヘリアンさん(このおっさん、なに言ってんだ?)

発狂大佐ネタ、まだまだ続きます



そういえばここまで書いといてなんですが、わたくしの本命はGr MG5ネキなのです

あと処刑人をいつまでも処刑人と呼ぶのは物騒な気がしますので、みんな彼女をエグゼと呼んでます。

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