先日未明、ベルリンにて戦力を蓄えていた米軍部隊がポーランド国境に対し一斉に攻勢を仕掛けたという大々的なニュースが報じられる。事前に戦力を配備し強固な防御陣地を形成していた正規軍側は抜かりなくこの攻勢を見極めていたのだが、900km以上もの長大な戦線がほぼ同時刻に攻勢を受けたことで一時指揮系統に混乱が生じ、中でも激しい攻勢を見せた米軍部隊が一時ポーランドの首都"ワルシャワ"に対しあと50㎞という地点にまで迫られたのである。
この危機的な状況を打開したのはカーター将軍が指揮する部隊だ。
彼は突出した米軍部隊を挟撃することで分断、各個撃破することでなんとかワルシャワが戦場になることを回避することが出来たのだ。一時後退した米軍部隊であるが、喪失したのはほんの一握り…正規軍はなおも米軍とのワルシャワをかけた攻防戦に望むこととなる。
そしてもう一つ、正規軍にとって重大な戦線が存在する。
南欧の、ギリシャとブルガリアの国境線で勃発したもう一つの戦場……そこはMSFとその協力関係にあるPMCおよび正規軍の南欧方面軍が戦う激戦地である。ペロポネソス半島南部より上陸してきた米軍部隊がそこを突破すれば一気にウクライナ、そしてモスクワまで進撃してくるだろう。
戦略的に重要な戦域である反面、西側より攻め寄せる大部隊への対処のため十分な戦力を配置できず、雇ったPMCに頼らざるを得ない状況だ。
この極めて重大な戦線を任せたMSFは、かねてから不穏分子として警戒し続けた組織であったが、もはや正規軍にとって選り好み出来る状況などではなかった…。
ギリシャ・ブルガリア国境 山岳地帯
数週間にわたる降雪で山間部は雪で埋め尽くされている。
氷点下を大きく下回る気候、凍てつく大地、吹きつける氷雪……涙すら凍りつく極寒と化した世界に響き渡る砲声。砲弾が凍りついた地面を粉砕し、広がる炎が氷雪を溶かしていく。雪で覆いつくされていた白い山は、爆炎と抉られた泥土によって黒く染まっていく…。
激しい砲撃戦を指揮するのはMSF砲兵大隊大隊長のSAAだ。
これまでの戦訓を活かし、MSF研究開発班やアーキテクトの協力で新たに編成された砲兵大隊は事前の偵察から得た情報と、今もなお密かに偵察を行う斥候より逐一報告される情報から砲撃地点を割り出し、惜しみなく砲撃を浴びせ続けた。
「砲弾はたくさん備蓄してあるんだから! 撃ち尽くすまで撃ちまくれーッ!」
配下の砲撃部隊に指示を飛ばし、SAAは興奮のあまり手にしたコーラ缶から中身が飛び散っているのにも気に留めない。時代遅れの火砲を誤魔化して使っていた時代はもう過ぎ去り、現代でも十分に通用する威力の火砲を取りそろえたSAAの大隊はMSF内でも屈指の破壊力を持つ。
そして、アーキテクトを迎え入れたことによって得た新兵器が今その力を見せつける。
鉄血が持つ要塞砲ジュピターの砲身を持つ自走砲、戦車には劣る機動性だが素早い陣地転換を可能としたこの新型兵器によって、米軍側からの砲撃を回避することが出来た。
「SAA大隊長! 偵察隊より報告、我々の砲撃が敵に有効打を与えているとのこと!」
「きゃっほー! この情報は直ぐに正規軍の人たちにも共有して、一緒に撃ちまくろう!」
「了解ッ!」
SAAに敬礼を向け、報告にやってきたヘイブン・トルーパー兵はすぐさまMSFが入手した敵の情報を共有するべく、正規軍の陣地へと向かう。
数十分後、その情報が行き渡った証として、正規軍が誇る圧倒的火力が米軍部隊へ向けて火を吹いた。
数キロ離れたSAAの陣地にまで響き渡る凄まじい轟音。
SAA率いる砲撃部隊の砲声が小さく感じてしまうほどの猛烈な砲撃音…後方の正規軍陣地から発射される無数の多連装ロケット弾が部隊の頭上を飛んでいき、山岳の向こう側にいるであろう米軍部隊へと降り注ぐ。
「す、すごーい! 山が真っ黒い煙で見えなくなっちゃったよ!?」
それまでにも正規軍が誇る圧倒的軍事力は知っていたが、実際その目で見た感想は圧巻の一言であった。
もしもこれだけの戦力が敵になったら、そしてその正規軍をもってして単独で戦うことを恐れる米軍部隊…その二つを頭に浮かべたSAAはその身を震わせた。
一方、要塞化された山岳地帯。
強固に設営された山岳の陣地は米軍側の砲撃に晒されていたが、WA2000らの活躍によって敵偵察隊を撃破した影響からか此方の砲撃の精度は悪く、スコーピオンが造り上げた要塞化した陣地には有効打を与えられていない様子だった。
それでも精度の悪さを補う、圧倒的破壊力の砲撃によって時々防御陣地が爆発によって吹き飛ばされる。
「いっったぁぁぁっ!!」
塹壕に潜って砲撃を回避していた79式であったが、爆風で吹き飛ばされた岩石が頭に落下し悶絶する。
「あーもう、なんでヘルメット持ってこなかったのさ! スコップ、ヘルメット、ガスマスク! 塹壕戦の三種の神器でしょ!?」
「うぅ、すみませんスコーピオン…!」
石がぶつかった頭を押さえこみながら、スコーピオンが持ってきてくれたヘルメットを頭にのせた。
普段の特殊任務からそんな装備の重要性を認識していなかったが、今ここで行われる戦闘は真っ向からのぶつかり合い、装備一つの有無が生死を分ける。
「カラビーナ、カラビーナはいるか!?」
「ここにいますわ。何かご用かしらエイハヴ?」
身をかがめながら塹壕を通ってやって来たエイハヴは、別の戦域で米軍部隊が攻勢を強めていることとその戦域の応援に向かうようカラビーナに伝える。
「リベルタ、お前も一緒に行くんだ!」
「分かりましたわエイハヴ、行きましょうリベルタ」
指示を受けた二人はすぐさま救援のための部隊を引き連れ、別な戦域へと向かう。
残った79式は戸惑いつつ周囲を見回すが、誰もかれもが自分のことで精いっぱいのようすだった。普段はWA2000が指示を出してくれることで、79式はそれを実行するだけで済んでいたが、今回はそうはいかない。そんな時、ちょうどキッドがネゲヴと一緒に塹壕へ転がり込んでくる。
「あーチクショウ、クソ砲撃のせいで何も聞こえねえ!」
「キッド兄さんしっかりしてよ! ああ79式、ちょうどよかったわ、エイハヴはどこ!?」
「あ、えっとあっちの方に!」
「分かったありがとう! ほら行くわよキッド兄さん!」
「あ、ちょっと待って!」
79式の呼び止める声は届かず、ネゲヴはキッドの手を引いて塹壕の向こうへと走り去っていってしまった。
絶えず周囲を動き回るのは部隊の主力を構成するヘイブン・トルーパー兵ばかり、基本的に彼女たちは指示を聞いて動くだけの存在なので、指示を求めるわけにはいかない。79式もその場から移動し、エイハヴやハンターなどと合流し指示を貰おうとした時のことだった。
突如地面が揺れ、バランスを崩した79式は塹壕内で転倒する。
転んだはずみで脱げたヘルメットを慌てて拾い上げると、79式の頭上より大量の土砂が降り注ぐ…中には拳ほどの大きさの石も混じっており、また頭にぶつかる前にヘルメットを被り直す。
「何なんですか!?」
降り注ぐ土砂がおさまったところで塹壕から顔を覗かせると、塹壕より100メートルほど先のところに稼働音を鳴り響かせながら横たわる巨大な掘削機械があった。その背後には今しがた開けられたと思われる巨大なトンネルがあり、暗闇の向こうより敵の歩兵部隊が向かってくる気配を感じ取る。
周囲を見渡してみれば、同じような掘削装置がいくつか防御陣地の前に侵入路を形成していた。
いずれもMSFの陣地の手前、中には500メートルも離れた箇所から飛び出した掘削装置もある……WA2000の活躍によって偵察隊が撃破され、正確な位置情報を得られなかったのだろう、尊敬する彼女の活躍によって危機を免れたことに79式は誇らしく思うがそうも言っていられない。
穴の中から敵の兵士が地上に現われはじめると、奴らはすぐに散らばり陣地に対し攻撃を仕掛けてきた。
「みんな他の穴の対処で精いっぱいだ……私がやらなきゃ!」
79式は早速、周囲のヘイブン・トルーパー兵を集め一つの小隊を編成する。
高度な指揮モジュールを搭載していない79式が直接指揮できるのはせいぜい30名程度、彼女は統率する兵士に対装甲兵器用の重火器と爆薬を装備させると塹壕を乗り越え穴に向かって進む。
「敵が出てきます! 対物ライフルによる援護を!」
穴を乗り越えて出てきた米軍装甲人形は、穴から這い上がった瞬間を狙われる。
ヘイブン・トルーパー隊に試験的に配備された対物ライフルXM109、25x59BmmHEIAP弾。並の戦術人形や人間相手では容易く貫通あるいは粉砕するその兵器は、そこそこの装甲を持った相手に極めて効果的だ。射撃試験では月光の装甲をも撃ち抜くその弾丸は、米軍の装甲人形を複数体撃ち抜き、弾薬内部の炸薬が炸裂することで吹き飛ばす。
対物ライフルを装備したスナイパーと、少数の兵士の護衛を受けながら79式はその足の速さを活かし開けられた穴へと接近するが…。
「敵が来ます、ご注意を!」
ヘイブン・トルーパー兵の声に頷いて見せたが、穴から這い上がってきたクモのような多脚装甲兵器に動揺する。MSFがこれまで対峙したことのない無人機であった。
そのクモのような多脚装甲兵器は見た目通り機敏に動くことを得意としており、塹壕からの狙撃を回避する。
武装面では連装式レーザーブラスターによるエネルギー兵器を装備、最低出力でも人を殺傷するのに十分な威力を有するエネルギー兵器に79式の進撃が止まる。
「堅い装甲ですね! 堅くて早くて痛いって、そんな一方的なチートは許しません!」
手持ちのショルダーバッグからスタングレネードをとりだし、多脚歩行兵器の開けられた穴に向けて放り投げる。閃光が効果を発揮し、まともに強烈な閃光を浴びた無人機はカメラが焼きついて故障し、その視覚センサーが壊される。
視力を失い錯乱状態になった多脚歩行兵器はあらぬ方向にレーザーを乱射しそれが同士討ちを引き起こす。
「今の隙に突撃です!」
敵が態勢を整える前に、79式は走りだすと爆薬をありったけ詰め仕込んだバッグを穴の中へと放り込む。その瞬間、穴から一体の多脚歩行兵器が飛び出し、79式を6本の脚で組み伏せた。押し倒した79式を敵は2本の脚で拘束すると機械の力で強烈に絞めつける。
「うぐっ…! かはっ…!?」
渾身の力を込めて払いのけようとするが、純粋な機械パーツで構成された多脚歩行兵器の力は凄まじく、79式の骨格が軋みをあげ内臓器官のいくつかが強烈な圧迫によって損傷する。敵に背骨をへし折られる前に脱出しなければ、そう思い79式は歯を食いしばり手にする銃を目の前の視覚センサー部に押し付け引き金を引いた。
ありったけの弾丸を撃ちこんだ末、敵はその活動を停止させたが、最期の際に79式の脊椎をへし折っていった…。
「79式、大丈夫ですか!?」
駆けつけたヘイブン・トルーパー兵の手を借りて立ち上がろうとするが、脊椎をへし折られたことによって下半身を動かすことが出来なくなってしまった。ピクリとも動かない足を何度も動かそうとするが、何も変わらず…やむなくヘイブン・トルーパーの背にしがみつくことで離脱する。
しかし背を向けて後退する彼女たちを米軍無人機は逃がそうとせず、容赦なくその背に向けて引き金を引く。
たまらず79式を背負う兵士は遮蔽物に身を隠す。
なおも追撃を仕掛けようとする敵の無人機、しかしそこへ駆けつけたのはMSFの無人機たちだ。
独特な稼働音を鳴り響かせながら駆けつけた月光が着地と同時に敵の無人機を踏みつぶす。
疾走して駆けつけたフェンリルは背部の高周波チェーンソーによって、すれ違いざまに敵の多脚歩行兵器を切断していった。いずれも機体装甲部にナンバリングが施された歴戦のAI兵器だ。
そして可変機能を有する無人攻撃兵器グラートはトーチカ形態をとって79式たちの盾となり、後退の援護を引き受けた。
「ありがとうみんな!」
言語は持たないが、高度なAIを搭載することで他の多くの戦術人形同様の強い仲間意識を持つにいたったMSF無人機たちは、79式のその言葉に反応し咆哮をあげた。
「うぅ、手までしびれてきた…ねえ君、私の代わりに起爆スイッチを!」
「了解しました!」
爆薬を起爆させる機会はやむなくヘイブン・トルーパー兵に譲る。
起爆前に仲間の無人機たちを退かせ、敵が再び穴から這い出てくるその前にスイッチを押す……その瞬間、79式が穴に放り込んだ爆薬が起爆し穴からは爆発によって吹き飛ばされた土砂と黒煙が吹きだした。
爆発の衝撃で穴は崩落し、内部にいた多くの米軍無人機がその下敷きにされていく…。
さらに地上部が数百メートルに渡って陥没し、さらに多くの敵を崩落によって撃破した。
「やりました、79式!」
「えへへ……あいたたた…」
思わず笑みをこぼす79式であるが、すぐに激痛からすぐに苦悶の表情を浮かべる。
敵を撃破したその場所に遅れて駆けつけてきたエグゼとエイハヴであったが、塹壕前に倒れる敵無人機の姿と崩落した穴を見て驚きを隠せないようす。
「79式、もしかしてお前がこれを!?」
「は、はい…なんとかやってやりました…!」
「ヘヘ、ポンコツかと思ったらなかなかやるじゃんかお前! よし、もう十分だ、後退してゆっくり休め」
はにかむ79式の髪を、エグゼは素直に称賛しつつわしゃわしゃと撫でる。
それから脊椎を破壊された彼女を労わり医療部隊に命じ後方へと退かせた。いまだ多くの穴が残されていたが、79式が塞いだ穴が陣地から最も近く対処を急がれる場所だった。
「79式のやつ、案外使えるな。後で連隊の大隊長に勧誘してみるかな!」
「やめとけ、ワルサーのやつが怒るぞ?」
「知ったこっちゃねえよ。さてとこっから反撃だぜ!」
獰猛な笑みを浮かべ、エグゼは部隊に反撃の指示を出す。
これに呼応して正規軍の部隊も動く、戦場は自軍陣地から山間部へ……険しい山林と雪の戦場へ移る。
79式ちゃんの活躍が書きたかった、わーちゃんがいなくても頑張るんだい!
米軍の多脚歩行兵器はあれです例の如くSWのクラブドロイドがモデルです(懲りない)
ちなみにMSF無人機の歴戦個体は期待にナンバーつけたりイラストをつけたりするのが許されます、金ぴか月光がいたり赤い彗星な月光がいたりするんですかね(適当)
次回、南欧戦線 中編 お楽しみに!