METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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救難信号

「パパ~!!」

 

 任務を終えてマザーベースへとヘリで降り立ったスネークのもとへやってきたヴェルは、走ってきた勢いのままにスネークの胸元へとダイブする。ちびっことはいえモデルとなったのが鉄血ハイエンドモデルのエグゼであるために、並みの人間がそれを受け止めようとすれば勢いよく吹っ飛ぶのだが、日ごろから鍛えているスネークは弾丸のように突っ込んできたヴェルを軽く受け止める。

 また何かで遊んでいたのか全身びしょ濡れであるが、ヴェルはお構いなしにスネークに抱き着き頬擦りして甘えて見せる。

 

「あー、やっと見つけたヴェルちゃん!もう、またいたずらして!」

 

 そこへやってきたのはデストロイヤーとアルケミストの二人、両者ともヴェルと同じように全身びしょぬれであり、アルケミストなどは濡れた衣服がところどころ透けている。小さなデストロイヤーとは違いナイスなスタイルを持つアルケミストのそのような姿にスネークは若干目を引かれそうになるも、ヴェルがいる都合上、それに気づいていない素振りをさらす。

 

「またヴェルが何かやったのか?」

 

「なにもやってないもんねー! それよりパパあそぼー!」

 

「まったく、ヴェルが懐く人間なんてアンタだけだよ。ほらヴェルおいで、お昼寝の時間だよ」

 

「やだー!あそぶー!」

 

 無邪気で子ども特有のすさまじい行動力、親に似ていたずら好きなヴェルにはさすがのアルケミストの手にも余るようで、ヴェルのやんちゃには苦笑いを浮かべるしかない様子。一体なにをやらかしたのかと聞けば、ヴェルはお風呂場に突撃して縦横無尽に走り回ったり、放水ポンプを使って月光と戦ったり、水鉄砲を持ち出してまた独房のゲーガーに水を浴びせに行ったりとやりたい放題だったらしい。

 どうもヴェルは水遊びが大好きな様子…。

 

「ところでゲーガーといったか? あいつはいつまで独房に入れておくんだ? カズから聞いたが、君があのまま入れておけと言ったと聞いた。あのアーキテクトという戦術人形は好き放題独房を出入りしてるみたいだが、何か狙いがあるのか?」

 

「あぁ、そのことか。アーキテクトはアホっぽいが役に立つ、サヘラントロプス…の改良にも手を貸してくれただろう? まあMSFの機密に触れたことで奴はここを出られなくなったがな」

 

「なるほど、じゃあゲーガーを出さない理由は?」

 

「あいつ真面目過ぎてあんまり面白いこと言わないしやらないだろ? だから副司令には奴が面白くなるまで独房にぶち込んどけって助言してやったのさ」

 

 平然ととんでもないことを言ってのけるアルケミストに、その恐ろしさの片鱗を見たスネークは何もコメントすることが出来ず言葉を詰まらせる。いつの間にかMSFが面白集団として認知されてしまっているのは不本意だが、ミラーが本当にそんな助言を真に受けてゲーガーを独房に入れたままでないはずと思うしかなかった。

 

「そう言えば聞いたよスネーク…南欧戦線じゃMSFが米軍部隊を撃退したらしいじゃないか」

 

「エイハヴやエグゼが上手くやってくれたらしい、北の戦域も同じように米軍が退いているようだがな」

 

「なんだい、あんまり嬉しそうじゃないな。それとも何か考えでもあるのかい?」

 

「そうだな……デストロイヤー、すまんがヴェルを少し見ててもらえないか? ヴェル、デストロイヤーと少し遊んでいてくれ」

 

 ぶーぶーと不満を口にするヴェルであったが、最後には諦めてスネークの手から離れる。

 デストロイヤーも何かを察したのか何も聞かずにヴェルを預かると、一緒に手を繋いでマザーベースの居住区へと向かう。二人を見届けた後、スネークとアルケミストが向かったのは医療棟だ。

 任務で負傷したスタッフや戦術人形を受け入れるその棟には南欧戦線で負傷した兵士が世話になっており、最近ではWA2000と79式、それからマシンガン・キッドなどがそこで入院をしている。

 

「あらスネーク、それにアルケミスト。お見舞いにでも来てくれたの?」

 

 医療棟へ入るとちょうどその場にいたWA2000と出くわした。

 やって来たスネークに嬉しさとがっかりが半分ずつといったところか、おそらくオセロットがお見舞いに来てくれることを期待していたのだろう。彼女の分かりやすい反応を見たアルケミストは、こんな美少女をほったらかしにするオセロットを改めて罪な男だと認識するのだった。

 

「もう聞いてるか分からんが、南欧戦線で米軍が退却を始めたらしい。確か君が戦った特殊部隊の捕虜もここにいると聞いたが…」

 

「アイリーン上等兵曹ね、ええいるわ。何か話を聞きたいの?」

 

「尋問というわけじゃないが、少し話をしてみたい。オセロットに任せるわけにはいかないだろう?」

 

「え? あ、あぁ……そうね。ところでオセロットは今マザーベースにいたりするのかな?」

 

「さっき来たけど5分でどっかに行ったよ。なあワルサー、前々から思うがあんな薄情な男のどこがいいんだ?」

 

「薄情だなんて、そんなことないわよ! 強くて頼りになるし、クールだしいつも面倒を見てくれるしほらえっと……」

 

 出会いから今まで記憶を思い返してみたWA2000であったが、何故だか酷い目にあっている記憶だけが真っ先に浮かぶ。もちろんいいこともあるのだが、出会った時は真っ向から銃口をつきつけられるわ邪険にされるわ都合よく扱き使われるわと、よくよく思い返してみれば雑に扱われてる気がしないでもない。

 でもそんな中で時折見せるやさしさというか気遣いがとてもかっこいいのだ……そんなことをブツブツ呟きながらWA2000は医療棟の奥へと去っていった。

 

「スネーク、あいつも疲れているのか? たまに休ませてやれよ」

 

「ワルサーはオセロットに任せっきりだからな……」

 

 オセロットがWA2000にどういう教育をしているのかはいまいち分かっていないスネークだが、彼個人への信頼と兵士として優れた能力を発揮するWA2000には口を出さないようにしていた。いや、言い訳をするならばスコーピオンやエグゼといった超のつくトラブルメーカーの面倒を見るのが精いっぱいで見ていられない部分がある。

 まあオセロットの指導に間違いはないだろうと思い込み、スネークは医療棟のスタッフに尋ねて米軍捕虜のアイリーン上等兵曹が入れられている病室へと向かっていく。

 

 スタッフに教えてもらった病室へと近付いていくと、何やら楽し気な声が聞こえてくるではないか。

 一人は女性の声であり入院しているアイリーン上等兵曹の声であることは予想できるが、もう一人の声は男性…それも妙に聞き覚えのある声であった。その人物の正体を知るスネークは呆れたように天井を見上げると、病室の扉を少しだけ開く…そうするとより鮮明に聞こえてくる男女の会話…。

 

 

「――――そうか、アイリーンさんはミネソタ生まれだとはな。確かにあそこは北欧とドイツからの移民の子孫が多いと聞くし、あなたの北欧系の美しさもその血を引いてるからなのかな。いやー、まさかこんな美人がうちに運ばれてくるなんてびっくりしたよ」

 

「やだわミラーさん美人だなんて、私なんて大したことないよ。性格は大ざっぱだし家事も得意じゃないし胸は小さいし、ミラーさんみたいな素敵な人が目をかける女じゃないよ」

 

「そんなことは無い! オレもこれまで何人もの女性とであって来たが、君はその中でもとても魅力的な女性だよ。今まで一度もボーイフレンドがいなかったというのが驚きだ!」

 

「恥ずかしいね……まあ気になる人ができてもパパがみんなぶちのめしちゃってたからね、まったく酷い親だよね」

 

「いやいや、立派な親御さんだと思うぞ。それほど愛娘が可愛くて仕方なかったということだろう……まあそれはさておき、怪我が治ったら一緒にディナーでもどうだろうか? 聞くところによれば君は長く眠っていたとか、知らないことはいろいろ(・・・・)教えられると思うからな…!」

 

「あら、デートのお誘い? 嬉しいわね…じゃあお言葉に甘えちゃおうかな?」

 

 それ以上見ていられなくなったアルケミストとスネークは病室の扉を乱暴に開きわざとらしい咳払いをする…やって来た二人にミラーは驚き、スネークの顔を見た瞬間"やばい"とでも言いたげな様子でオロオロし始める。一方のアイリーン上等兵曹は二人が扉の向こうにいたことに気がついていたのか、さほど驚いているような素振りは見せない。

 

「カズ…」

 

「ボス? 言いたいことは分かるがまずは言わせてくれ、オレは何もしていない」

 

「まあ座れ。話はまた今度にしよう……アイリーン上等兵曹といったか、オレはMSF司令官のスネークだ。君といくらか話したいことがある」

 

「初めまして、スネークさん。聞きたいことがあったら何でも聞いて、たぶん何も答えられないかもしれないけど」

 

「どういうことだ?」

 

「私の脳に埋め込まれた電子頭脳が働きかけて情報の漏洩を止めようとするんだ。言語規制って言うのかな、例えば"―――――――"……今の聞きとれた?」

 

「いや?」

 

「私としてはしっかり発声してるつもりなんだよ? こんな風に、機密に触れようとすると途端に規制がかかっちゃうわけ。独り言だろうと何だろうとね」

 

 国家と米軍の情報を話そうとすれば途端に規制がかかる、これは一部の自律人形にも備わる機能であるとアルケミストは言うが生身の人間にこのような機能が組み込まれているのを見るのは初めてだという。試しに筆談によるやり取りも試みるが、執筆にも影響をもたらすのか、規制対象とみなされた文を書こうとするとアイリーンの手が不自然に止まるのだ。

 

「嘘だと思うかもしれないけどほんとだよ? まあ日常会話を話すくらいなら何の問題もないんだけどね……そう言うことだから協力はできないかもね、ごめんね」

 

「いいんだ。だが君はずいぶんその、対話に応じてくれるな…うちの兵士たちの話じゃこれまであった米軍の兵士はほとんど聞く耳を持たない連中が多かったというが」

 

「あいつらは米軍を名乗るけど、私の知る米軍なんかじゃない。戦前から生きてる生身の兵士はほんの一握りあとの連中は"―――――"…あーもう、もどかしいなこの言語規制は。これなら言えるかな……複製した人間を機械化(・・・・・)して戦わせてるの」

 

「複製………もしかしてクローン人間かい?」

 

 アルケミストの推測に、アイリーンは小さく頷いてみせる。それから何かを話そうとするがそのすべてが言語規制にかけられてしまい、やがてバカバカしくなったのか彼女は話すのを止めてしまった。

 

「スネーク、前にあたしが米本土で入手した情報にあの国の遺伝子工学技術が少しだけあったんだ。デザイナベビーとか、スーパーベイビー法とか……人間の母胎を必要としない人造人間の製造とかね。あたしから見れば、自律人形なんかよりもずっとおぞましい存在さ」

 

「そうか……分かった。アイリーン、協力に感謝する。今すぐ君を処断するつもりはない、トラブルを起こしさえしなければある程度の自由は認める」

 

「ありがたいね、お言葉に甘えることにするよ」

 

 嬉しそうに微笑むアイリーン、スネークのその言葉でどこかホッとした様子だ…人には言えない事情が彼女には多くある、目覚めてから今までずっと気を張りっぱなしで休める時間というのが存在しなかったのかもしれない。

 病室には彼女を一人残し、さりげなく立ち去ろうとするミラーを外へと引っ張って行く…。

 

 

「おいカズ、いくら何でも手を出すのが早過ぎるんじゃないのか?」

 

「なんなんだよ…!」

 

「彼女は協力的だがあくまで捕虜だ、お前が変に手を出せば誤解する者が出始める。お前、最近大人しいと思って油断してたがまた前みたいなことをしでかしたら……まったく、97式に言っておかないとならないな」

 

「待てボス! 97式には言うんじゃない! 分かった、もう二度とやらない!」

 

「ほんとか?」

 

「ほんとだとも! なあアルケミスト!」

 

「あたしに振るんじゃないよ」

 

 それ以上の追及は時間の無駄だとしてひとまずミラーの事は解放する。

 97式に言っても彼女は怒らない、むしろキレて手がつけられなくなるのはトラの蘭々のほうである…97式の悲しみに敏感な蘭々は、時折暴れまわってその度にミラーは襲撃されることになる。

 懲りないミラーの女癖の悪さにぼやいていると、スタッフの一人が駆け寄ってきた。スタッフが手渡してきたのは不可解な音をおさめた録音メッセージであった…。

 

「なんだこれは?」

 

「分かりません、さっきうちの諜報班が傍受したんです。何かの暗号のようですが…」

 

「ちょっとあたしに聞かせてくれないか?」

 

 暗号らし録音メッセージに耳を傾けるアルケミスト、何度か繰り返し録音を聞いていたアルケミストは何かに気がついた様子。彼女は聞こえてくる不可解な音の中から特定の周波数を捉え、それを解読する…そしてその暗号化されたメッセージの意図に気付いた時、彼女は困惑した表情を浮かべるのだった。

 

「信じられない…スネーク、あんた一体どこまで繋がりがあるんだ?」

 

「なんのことだ?」

 

「このメッセージは鉄血からだ……代理人が、あんたを名指しで助けを求めている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄血領内のセーフハウスの一つ、自身が管轄する製造ラインのすぐそばに設けられたその場所でドリーマーは退屈な時間を過ごしていた。主人であるエルダーブレインのもとへジャッジが向かっている今、ドリーマーの周りにいるのはローモデルの鉄血兵ばかりである。

 

「コーヒーをお持ちしましたドリーマー様」

 

「ん…」

 

 適当な返事を返してドラグーンが持ってきてくれたコーヒーを手に取るが、熱々の状態に眉をひそめて一旦テーブルの上に置く。それからもう何度目かになる深いため息をこぼす…憂鬱そうな上司の様子に、部下の鉄血兵たちは顔を見合わせる。

 

「ドリーマー様、何か致しましょうか?」

 

「別にいいわよ。それよりシーカーの奴とはまだ連絡が取れないの?」

 

「ええ……もう一度試してみます」

 

「お願い。まったく、今度はどこに行ったのかしら…?」

 

 ため息と共に愚痴もこぼす、最近ではパルスフィールドの影響からか一部地域では通信障害が発生しているのも悩みの種だ。かといってパルスフィールドを解いてしまえば一気に正規軍が雪崩れ込んでくる状況、外部の情報がほとんど入手できないためシーカーが返って来た時にのみ得られる情報が唯一の情報源となる。

 代理人などは一人で独自の情報網を構築しているが、同じ陣営とはいえ協力しないドリーマーは情報を得ることは出来ないのだった。

 

 少し時間を置いて程よくぬるくなったコーヒーのマグカップを手に取った時、部屋の外からゴトッという何かが倒れる物音が聞こえてきた。何ごとか確かめようと扉を開いた鉄血兵のガード……扉を開いた先で見たのは、拳銃を構える兵士の姿であった。

 行動を起こす間もなく頭を撃ち抜かれたガードは力なくその場に崩れ落ちる…異変に気付いた周囲の鉄血兵が銃を構えようとするが、銃口が向けられる前に襲撃者は素早く鉄血兵を排除する。

 

「そこに座っていろ人形、後で話がある」

 

「大尉…! なんでここに…!」

 

 彼が部屋に踏み入ると同時に、セーフハウスの窓を突き破りデルタ・フォースの兵士たちが入り込む。座っていたソファーから立ち上がろうとしたドリーマーに兵士たちは銃をつきつけて有無を言わさずソファーへと座らせた。

 ガラスが割れる物音に気付いた鉄血兵のブルートが駆けつけるが、大尉は彼女の腹部を蹴りつけ、膝をついたブルートの後頭部に銃弾を叩き込む…。

 

「他の人形を壊してこい」

 

「了解」

 

 数人の部下に指示を出した大尉はドリーマーの真正面へと座る。隊員たちが部屋を出ていくとすぐに銃声が鳴り響き、ドリーマーが捉える味方の信号があっという間に消えていく…。

 人形の掃討が終わるのをじっと待つ大尉を前にドリーマーは身じろぎ一つ出来ず、ただコーヒーの入ったマグカップを握りしめる。

 

「何故ここにいるのか、何をしに来たのか、そんなことを聞きたそうな顔だな。人形の分際でお前たちはコロコロ表情がよく変わる……まあどうでもいいが、お前に聞きたいことがある」

 

「い、いきなり来てずいぶん偉そうね……アンタ一体――――」

 

 ドリーマーがふつふつと怒りをたぎらせて怒鳴ろうとした矢先、大尉はテーブルを勢いよく蹴り上げて吹っ飛ばす。鉄製のテーブルがひしゃげるほどの蹴りと、激しい物音を目の当たりにしたドリーマーは萎縮して怯えを見せた。

 

「はっきりさせておこう。オレが質問し、お前が答える…その逆はない、オレが聞くこと以外で口を開くな。少しでも長く稼働していたいなら忠実にしていろ。分かったか?」

 

「……えぇ」

 

 周囲に味方が誰ひとりいない状況で、ドリーマーはそう応えるしかなかった。

 部屋の外から戻って来たデルタの兵士たちは残骸と化した鉄血兵の半身をドリーマーの前に投げ捨てる…これも脅しの演出なのだろう、言うことを聞かなければお前もこうなるという…。

 ドリーマーはほとんど無意識に身体を両腕で抱きしめる…そうでもしなければ恐怖心で震えが止まらないのだ、今まで感じたことのない恐怖にドリーマーは困惑していた。

 

 そんな彼女に一切の情を示さず、大尉は一つの質問を投げかけるのだ。

 

 

「お前たちがエルダーブレインと呼ぶもの、アレはどこにある?」

 

 

 







相変わらずおっかねえなコイツ……あのドリーマーが太刀打ちできないだと…?

完結する前にワイのメンタルブレイクしそうなんですがこれは(

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