METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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※胸糞注意


破滅の序曲

 シーカーが東欧侵攻軍の本隊に到着する頃には、もうほとんどの米軍部隊はポーランド国境を退きドイツ領旧首都ベルリン市街まで部隊を退却させていた。北蘭島事件と第三次大戦以降、ドイツという国は単独で存続することが不可能になるまで衰退し東欧諸国の管理化に置かれたが、高い汚染指数によって管理はほとんどされず戦争で朽ちた建物はそのまま、地下の下水道には感染者たちが蠢くような場所と化していた。

 ベルリンに到着したシーカーは通りに乱雑に倒れる感染者たちの死骸を横目に廃墟の街を進んでいく。

 感染者を制御する装置をつけることで弾除け代わりに利用していた米軍であるが、その制御装置も底を尽いたために目に見えた感染者はもはや用済みとして、見つけ次第駆除をしていた。無論、感染者たちの脅威もあって無視できない被害を米軍部隊に与えるのだった…。

 

 護衛のオーダーを数人連れて歩くシーカーがすれ違うのは大尉に侵攻のため貸し与えた無人機や戦術人形ばかり、大尉が直接指揮をする米軍兵士の姿はまったく目にすることがない。侵攻部隊の主力は無人機や戦術人形であるため姿があまり見ないのは当たり前のことなのだが、シーカーはその事に対し少しばかりの疑念がよぎる。

 

「大尉、どこにいる大尉…! くそ…」

 

 大声で大尉を呼ぶが廃墟の街にシーカーの声が響くのみでなんの反応もない。

 通信も応答しないこともあり彼女は苛立ちを隠しきれない様子であった。米軍の無人機や戦術人形に問い詰めようにも、無人機たちは戦闘命令を忠実に実行する以外の無駄な機能は省いているため、言語を話すこともない……なんの情報も得られないことにますます彼女の怒りが増していく。

 ベルリン市街を中心部へ、そこまでたどり着いた時にようやく米軍兵士の姿を目にする。

 消耗しているようだが戦線をこんなにも下げる必要は無いように見える、少なくとも無人機の部隊は健在であるし物資もまだ戦えるだけの量はあるはずだった。ではなぜ急な撤退をしたのか、シーカーには大尉の狙いを読みとることが出来なかった…。

 

「やあシーカー嬢、遠路はるばる御足労かけまして大変申し訳ない…」

 

「軍曹か、大尉はどうした?」

 

「大尉殿は少し後方の部隊のところに行ってましてね……オレがあなたと話すようにと」

 

「ふざけるなよ、私は大尉と話すためにここに来た。ここに呼べ」

 

「勘弁してくださいよシーカー嬢、オレもしっかり役目を果たさないと後で叱られるんですから。大尉には後で伝えますから、用件はオレが聞きますよ、シーカー嬢」

 

「軍曹、次にまたそのふざけた呼び方をしてみろ…舌を斬り刻んで二度と話せなくしてやるからな」

 

 怒気を込めた声で脅してきた彼女に、軍曹は肩をすくめてみせる。

 

「何故戦線を後退させたんだ」

 

「そのことは大尉から聞いたはずだが? 損害が大きいのと物資の滞り、連戦に次ぐ連戦で部隊の摩耗……最初から言ったでしょう、短期決戦は難しいと。うちらも同胞が無駄に死んでくのを看過できないからね」

 

「同胞だと? よくもそんな言葉が言えたものだな……人間の複製を造り上げ遺伝子を書き換え機械化された兵士たち、お前たちは倫理観を軽視し生命を冒涜する」

 

「オレがやったことじゃない。まあ、あんたがそのことに憤るのは理解できるがね……大尉から聞いたよ、あんたの秘密をね。なあシーカー、もうここらで止めにしといた方がいいんじゃないか?」

 

「なんだと?」

 

「あんたがやろうとしていること、明らかに身の丈に合わないことだ。絶対に無理だ、諦めた方が賢いと思いますよ……あなたは強さを手に入れたと思っているんだろうけど、上には上がいるし、力ではどうにもならないことだってある」

 

 

 軍曹の言葉を聞いた時、シーカーの雰囲気ががらりと変わる……今の彼女の瞳に映るのは憎悪と憤怒だ、軍曹の言葉は運命を翻弄され残酷な実験体として自由を奪われていた彼女の深い怨念を呼び起こしたのだった。

 常人なら近くにいただけで卒倒してしまいそうなどす黒い気を、軍曹は穏やかな笑みを浮かべて受け流す。

 

「世界が一つになればさぞ幸せだろうな、だがそれは実現し得ない幻想だ。オレたちの祖国アメリカは各国の移民からなる多民族国家だった、だが同じ国家の枠に収まれども一つになることは無かった……争いはなくならない、お互いが銃を握った時平穏が訪れる。それもどちらか一方がより強い銃を握ればたやすく崩れさる……人類の歴史は戦争の歴史だ、これからも未来永劫続くさ。どうしようもないことなんだよ、分かるだろう?」

 

「何が言いたいんだ貴様は…」

 

「あんた、あとどれくらい生きてられるんだ? たぶん、長くないんだろう? その短い生命でこれだけ大掛かりなことを達成できるとでも? 人類が願いながらもたった一度も叶えることが出来なかった幻想を……なあシーカー、全部投げ出して平穏を手に入れてもいいんじゃないのか? こんなクソみたいな世界のためより、自分のために使った方がいいんじゃないのか?」

 

 静かに、諭しかけるような彼の言葉にシーカーはうつむく……今の軍曹には敵意や挑発の意思は無く、ただ純粋に自分が思っていることを伝えているように見える。年長者が若輩者へアドバイスを授けるかのようにだ……だが再び顔をあげたシーカーの目は氷のように冷たかった。

 

「大尉はどこにいる?」

 

「さっき言ったでしょう、大尉は後方の部隊のところに向かっています」

 

「もう一度聞くぞ……大尉はどこにいる?」

 

 シーカーのゾッとするよう冷たい瞳を見た瞬間、軍曹は心の中に冷たい何かが入り込んでくるかのような錯覚を感じ取る。それまで笑みを浮かべていた軍曹も表情を消し去り、初めて冷や汗を流す…。

 

「オレの心を読んだか……まったくおっかないな、ESP能力っていうのは。もう一度読んだらどうだ、大尉がどこにいるかね?」

 

「貴様ら、裏切ったのか…」

 

「お互い利用し合うだけの仲だっただけだよ、そうだろう? だが、さっき言った事はオレの本心だ……オレは個人的にあんたを気に入ってるし、平穏に生きて欲しいって思ってる。だがこっちも仕事でね、アンタが戻るのは好ましくない……そうなったらオレは、アンタを撃たなきゃならない」

 

 軍曹の切実な願いは、シーカーには届くことは無かった。

 氷のように冷たい目で見据えられたままの軍曹はため息を一つこぼす……そして素早く腰のホルスターへ手を伸ばすが、シーカーの抜刀はそれよりも圧倒的に速かった。

 目にも止まらない速度で抜刀された刀剣、それに対し軍曹は不敵な笑みを浮かべる。

 

「いやはや、流石だ…全く躊躇がない。こんな奴の足止めを押し付けるなんて、恨みますよ……大尉っ……!」

 

 ホルスターへ伸ばした手が真っ先にずり落ち、次に胴体が真っ二つにされて力なく軍曹の身体が崩れ落ちる。

 斬り裂かれた断面よりおびただしい出血と臓器が溢れ、サイボーグの電子部品がショートし火花を散らす…それでも軍曹は即死せず明確な意識を保ち、苦悶に満ちた表情に笑みを浮かべる。

 

「強くなったな、シーカー…だが強さの代償は、大きいだろう……そして、ただ強いだけじゃ大尉には…いや、オレたちには勝てない………ハハ、負け惜しみみたいになっちまうな…」

 

 シーカーは一度だけ軍曹を冷たく見下ろすと、すぐにその場を立ち去っていった。

 軍曹が斬られた際米軍兵士がシーカーを討とうとしたが、指揮権限を奪回された周囲の無人機が即座に鎮圧する……他の多くの米軍兵士はサイボーグ化されながらも特殊部隊程の精強さはなく、抵抗は無意味なものであった。

 銃器を捨てて投降する兵士たちを見ながら、軍曹はほくそ笑む。

 

「……オレに少しの勇気があればね……大尉殿、オレたちは長く生きすぎたようです……オレは、先に降りさせてもらいますよ……オレはもう疲れました」

 

 斬り裂かれた半身に手を伸ばし拳銃を握ると、その銃口を自身のこめかみに押しあてる……そして、一発の銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――あぐっ……! けほっ、ごほっ……!」

 

 床に這いつくばり、腹部をおさえて激しくせき込むドリーマー…全身を酷く痛めつけられ髪や衣服は乱れ、肌にはいくつもの傷がつけられていた。うずくまるドリーマーの腹部を兵士はおもいきり蹴り上げると、彼女は悲痛な叫び声をあげた。

 身体を丸め蹴られたお腹を抑え込む…そんな彼女の髪を鷲掴みにして無理矢理引き立たせる。

 

「さっさと言った方が楽だぞ、こっちも暇じゃないんだ。エルダーブレインの居所は? どこにあるんだ?」

 

「うぅ……クソ、くたばれゲス野郎……!」

 

 ドリーマーは口内にたまった血を大尉に向けて吐きつけニヤリとほくそ笑む……顔につけられたドリーマーの血を拭った彼は、手の甲でドリーマーの頬を殴打した。

 

「最低のクズ野郎ども……こんないたいけな、乙女を寄ってたかって……!」

 

「全身の皮を剥いでやろうか、それなら男か女か気にする必要も無くなる。ナイフを貸せ」

 

 他の兵士からナイフを受け取った大尉はその切っ先をためらいなくドリーマーの脇腹へと突き刺した。

 脇腹を襲う激痛にドリーマーは叫び声をあげる、大尉はナイフを突き刺しただけでなくナイフの刃をねじることで傷口を広げていく。

 

「痛いか? 苦しいか? そう感じるのは、そうプログラムされてるからだろう? 容姿を人間に近付けたり、疑似感情を付け加えたり、痛覚を備え付けたり……欧州の人形は全くもって無駄な機能が多い。こんなもの戦場では何の役にも立たん」

 

 刺し貫いナイフを引き抜き、こびり付いた血液をドリーマーの髪で拭い取る。

 

「海兵の連中が見つけるのを待つのもいいが、奴らに後れを取るのは癪だ……もっと痛めつけろ」

 

 大尉の指示を受けた兵士たちはドリーマーを突き飛ばし、部屋の扉に叩きつける……扉を突き破って吹き飛ばされたドリーマーは痛みに呻くが、その部屋に入った瞬間目を見開く。後から部屋に入った大尉も気付いたようだ。

 部屋に飾られている西洋甲冑や肖像画、たくさんの本がおさめられた棚、そして壁にかけられた何枚もの写真…そこには不愉快そうにむくれるドリーマーと笑顔を浮かべるシーカーが写っていた。

 写真に手を伸ばした大尉に対し、ドリーマーは大声をあげる…。

 

 

「汚い手で触るな!」

 

 

 痛む身体を強引に起こし、ドリーマーは大尉に殴りかかる。渾身の力を込めて大尉の顔を殴りつけるが彼は少しばかり後ずさっただけ、逆に大尉の拳を受けてドリーマーの身体が部屋の反対側にまで吹き飛ばされる。

 

「まったくもって理解不能だ、人間の真似事もここまでくると滑稽だな。お前らAIはこんなものに頼らなくても映像記録で過去を振り返れる」

 

「うるさい……黙れ……黙れ!」

 

「その減らず口も、無駄なものだ」

 

 立ち上がろうとするドリーマーへと歩み寄ると、大尉は彼女の両ひざに一発ずつ発砲…彼女の足を完全に破壊した。それから彼女の髪を掴みあげ、おもむろに取り出した注射器を首筋に打ちこんだ。

 

「なによ、なんなの…コレ…!?」

 

「なんだと思う?」

 

 注射器を撃ちこまれた首筋を押さえながら、ドリーマーは恐怖心に表情を歪ませる。

 何を打たれたのか分からない注射器に怯えるドリーマーの前にしゃがみ込み、大尉は小さく笑った。

 

「ナノマシンの一種だ。お前を触媒にしてエルダーブレインを捜す、最初からこれを使えば良かったかもしれないが一つしかなかったんでな」

 

「クソどもめ……!」

 

「お前らみたいなクズ人形どもの元にあのAIを置いておくのは勿体ないからな。そもそもAIを使って人間を再現する考えが理解できん……大量の情報処理に特化させたシステムとしてのAI、そこに人間の知性や思考も感情も必要ない。個ではなく、集団として振る舞う社会性を発揮する機械だ……そこにお前らがエルダーブレインと呼ぶAIを使う」

 

「何を言ってるのか、全然分からない…けど……好き勝手させ……!?」

 

 ドリーマーはふと、全身を襲う虚脱感にさいなまれて床に倒れ伏す。

 全身に力が入らない、そればかりか少しずつ身体の感覚が失われていくのを感じ取る。

 

「エルダーブレインを見つけた、もうお前は用済みだ」

 

「なに…を、した…?」

 

「お前らのために新しく作ったウイルスだ。オーガスプロトコルに侵入しバックアップデータ及び個体情報の一切を削除(デリート)するものだ。もうお前の情報はネットワーク上に存在しない、今その義体に残るデータだけだ……そのデータももうすぐ消える。分かるか、人形としての……死だ」

 

「嘘……う……うそ、だ……!」

 

「協力的なら楽に死ねたのにな……緩慢に自分が消えていくのを感じて死ね。もしあの女が来たらよろしくな……さて、行くぞ」

 

 大尉が兵士たちを引き上げさせると、ドリーマーは一人その部屋に取り残される。

 手先をなんとか動かしてみせるも身体が言うことを聞かず、それでもどうにか身体を起こすがそこまでが精一杯で、酷い脱力感に襲われて再び床に倒れ伏す。

 

 

 

「うぅ……ぃ、や………こんなのって…………シーカー……たすけ……」

 

 

 

 壁にかけられた写真に向けて手を伸ばす……だがその手は空を握り、力なく崩れ落ちる。




大量の情報処理に特化したAI……J.D、愛国者達……う、頭が…!
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