スネークが鉄血領内に足を踏み入れた時に真っ先に感じた違和感……外敵の侵入に対しなんの反応もなく、正規軍の強大な軍隊の侵入を防いでいたはずのパルスフィールドはその機能を停止させていた。強力な磁場によって範囲内に踏み入ったありとあらゆる機械装置を破壊するフィールドは、まさに軍用人形などを多用する正規軍にとって厄介な存在だったはずだ。
もしもこのパルスフィールドが効果を発揮していないと知られることになれば、正規軍は真っ先に鉄血を潰しにかかってくるはずだ。
幸いなことに今だ正規軍の目は西側に向いており、パルスフィールドが無効化されていることには気づいていない。これはスネークにとって好都合であり、万が一MSFの司令官であるスネークが鉄血領内をうろついているのを知られればとても厄介なことになるだろう。
そうならないために、オセロットが忍び込ませた諜報員がなんとか正規軍の目をごまかしているが、いつかは気がつくはずだ。
スネークがこれから行おうとすることは全くMSFには利益になることもないばかりか、むしろ危険を晒すことに繋がる。だが危険を犯してでもこの領域を進んでいくのは、代理人と交わした約束を守るためだった。
あの時代理人と交わしたのは口約束……だがあの時代理人がスネークに対しかけた言葉を思いだし、この約束を果たそうと決心したのだった。
「スネーク、今更だけど本当にいいのか? あたし個人としては嬉しいことだが…」
鉄血領内の道案内として、この救援任務に名乗りをあげたアルケミストが背後のスネークに振りかえりつつ言った。以前スネークがシーカーから逃げてきた後に代理人が手引きしてくれたことは知っていたが、まさか本当に約束を守り助けようとしてくれるとは微塵も思っていなかったのだ。
アルケミストがメンタルを修復させてもMSFに残っていた理由の一つに、MSFを内側から監視するという狙いもあった。隙さえあればエグゼやハンターを鉄血に連れて帰ろうと意識していたのだ……代理人のことも恩を仇で返すかもしれないと思っていた。
だがこの時アルケミストはそれが酷い思い違いであることに気付いたのだった。
代理人との約束を果たそうとするスネークの、誠実な意思を確かめたアルケミストは笑みをこぼす。
「人間なんてみんなクズだと思っていたが、あたしも考えを改めないといけないな。エグゼやハンターがあんたを全面的に信頼する理由を、もっと早くに気付くべきだったな。なあ、デストロイヤー?」
「アルケミストってば、今更そんなこと言ってるの? 私はもっと前からスネークはマスターみたいにいい人なんだって気付いてたもんね」
「姉として、なんでもかんでも信頼するわけにはいかないのさ。礼を言わせてもらうよ、スネーク」
「礼には及ばない、オレも代理人に助けられたんだ。彼女は、君ら姉妹が信頼するオレを信じて助けたと言った。言い変えれば、君らの信頼に助けられたと言ってもいい」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか、あんたも代理人も」
笑みをこぼしながら、アルケミストは感情に左右されないと思っていた鉄の女みたいな代理人が、よもやそんなセリフを吐くとは夢にも思わなかった。彼女の想いを間接的ではあるが知れたことを嬉しく思う。
だからこそ、アルケミストとデストロイヤーは何が何でも代理人を助けたいと思った…そして、自分たちの主人も。
「見てアルケミスト! ジャッジがいるよ!」
「見えたよ、あのおちびちゃん随分頑張ってるじゃないか!」
廃工場群の中を駆け抜けた先で見えたハイエンドモデル、ジャッジの姿に二人はさらにスピードをあげる。孤軍奮闘するジャッジに対し米軍の特殊部隊と思われる兵士たちが取り囲んでいる。既にジャッジは重傷を負い苦しい表情を浮かべ防戦一方、対する特殊部隊は無慈悲にジャッジを破壊しようとしていた。
そんな敵に対し勢いよく突撃していったデストロイヤーは、身体能力をフルに活かした飛び蹴りを叩き込む。
「よくも私たちの実家を荒してくれたわね、覚悟しな!」
「やあ、ジャッジさま久しぶりだな。手を貸してやろうか?」
「アルケミスト、それにえっと…デストロイヤーかお前、なんで私より背が大きいんだ!?」
「そんなのは後回しだ、このクズ共をぶち殺してやろうか」
背の伸びたデストロイヤーに憤慨するジャッジは捨て置き、アルケミストとデストロイヤーは襲い掛かる敵に向き直る。アフリカで既に米軍特殊部隊の脅威を知る二人は一切の油断をかなぐり捨てて迎え撃つ。
以前アフリカで戦闘になったデルタ・フォースの装備とは違う姿の特殊部隊と思われる敵、正確には彼らは海兵隊内の武装偵察部隊"フォース・リーコン"の兵士であり特殊部隊ではなかったのだが…。
「この間のお返しだコノヤロー!」
至近距離から放たれたデストロイヤーのグレネード弾をまともに受けた敵は爆風によって吹き飛ばされ即死する。二人にとって特殊部隊だろうが海兵隊だろうが関係ない、面倒事に巻き込まれた恨みと実家を荒された怒りを叩きつけられる存在というだけで十分であった。
だがフォース・リーコンの兵士たちも負けてはいない。
撃破したのはデストロイヤーが倒した一名だけであり、彼らは素早く陣形を組み直し戦闘を継続する。
「鬱陶しい奴らだね、さっさと死にな!」
アルケミストはステルス装置を起動させて自らの姿を消し、素早く移動することで敵の目をかく乱させる。攻撃の瞬間にのみその姿をさらし、攻撃した後には再び姿を消す奇襲攻撃……だが、敵が動揺を見せたのは最初のみでアルケミストの戦術を看破した。
敵の放った一撃に捉えられたアルケミストは肩に焼け付くような痛みと衝撃を受けよろめいた。
「アルケミスト!? わわっ!?」
アルケミストの危機に注意を逸らしてしまったデストロイヤー、その隙を突いて一気に接近してきたフォース・リーコンの兵士に蹴りを放つが間に合わず、蹴り上げた足を抱え上げられて勢いよく地面に叩き付けられた。倒れたデストロイヤーを敵は即座に組み伏せ、片手で銃を構えながらもう片方の手に握られていたナイフを振り下ろす。
ナイフの切っ先が顔を貫く寸前に腕を犠牲にすることで防ぐ、ナイフの刃先が腕を貫き目まであと数センチのところに迫る……ぎりぎりであった。
「うくっ、は、離せ……この!」
力を込めて突き放そうとするが、敵はハイエンドモデルの力を超える腕力で組み伏せる。
最悪なのは他の二人の敵兵士の存在、負傷し動きが鈍るアルケミストを見て遮蔽物から姿を晒し近付いてくる……まずい、そうアルケミストが思った時、自分めがけ銃口を向けようとする敵の背後にまわるスネークの姿を見た。
スネークは気付かれずに忍び寄った敵の首筋にナイフを突き刺し、怯んだ兵士を背後から捕らえると兵士が握る銃を別なもう一人の兵士に向けさせる。異変に気付いた敵兵士が足を止めるが既に遅く、スネークに制御を奪われた銃によって全身を撃ち抜かれ倒れた。
拘束された兵士はすぐにスネークを振りほどくが、そのさなかに銃が奪われ、敵を狙っていたはずの銃口が自分に向けられているのに気付く。
「
その短い遺言をのこし、その兵士は頭部を撃ち抜かれ死亡した。
残った最後の一人はスネークを手ごわい敵と認識し、すぐさまデストロイヤーを押さえつけるのを止めてその場を離れようとするが、先ほどまで組み伏せられていたデストロイヤーが即座にとびかかり転倒させる。
「Fuck off,bitch!!」
「だ、誰が……ビッチだこの、アホンダラ!」
押し倒した敵が手放したナイフを手にしたデストロイヤーは、その切っ先を振り下ろす。抵抗する手までもナイフで切りつけ、罵声を浴びせながら何度もナイフを振り下ろす……顔や胸部を滅多刺しにされた敵は絶命、死んでからも執拗にナイフを突き刺すデストロイヤーはアルケミストが止めに入ったことでようやく手を止めた。
「あーすっきりした!」
「気持ちはわかるが、キャラを大事にしな。スネーク、またアンタに助けられちまったな……ったく、どうしても力技に頼っちまうな。あたしもCQC習おうかな?」
「全部終わったら教えてやる、みっちりとな」
「お手柔らかに、ビッグボス……さてと」
全て片付いたところでジャッジに目を向けて見れば、彼女はあれだけ苦戦させられていたフォース・リーコンを瞬く間に倒してしまったスネークを脅威の目で見つめていた。スネークの事は鉄血にとっての脅威として認識していたジャッジの目に、スネークは新手の敵として映るが……そんなことは知らないデストロイヤーに軽く抱きあげられたことでジャッジはハッとする。
「待て待て! なんだお前は、本当にデストロイヤーか!? なんだこの背丈は、なんだこのでかい胸は!? えぇい離せ!」
「あ、暴れないでよ! いたっ!」
じたばたもがくジャッジはデストロイヤーの豊満な胸を思い切りひっぱたいて脱出する。
思えばストレンジラブに開発されて生まれたそのボディーで他のMSF以外のハイエンドモデルと会うのは初めて……元々のデストロイヤー同様ちびだったジャッジにとって、同類だと思っていたデストロイヤーにこのようなことをされるのは誠に遺憾だった。
腰に手を当てて呆れたように見下ろすデストロイヤーに対し、ジャッジはなおもくいかかる。
「頭が高いぞデストロイヤー! 何様だと思っている、私を見下ろすな!」
「えぇ……じゃあ、しゃがむよ仕方がないな…」
「しゃがんで目線を合わすな! 私をちびの子ども扱いするつもりか!?」
「じゃあどうすればいいのよ…」
「まともに相手するなデストロイヤー、見ろ…頭を殴られてAIの挙動がおかしくなってる。マザーベースの小児科に連れていこう」
「貴様ら全員絞首刑に……って、何をしているデストロイヤー」
「なにって、フルトン括りつけてるんだよ。快適な空の旅に行ってらっしゃい」
有無を言わさずフルトン装置をくくり付けられたジャッジは、わけも分からず、大きな悲鳴をあげながら空の彼方に打ちあげられていった…。
「いちいちその場で事情説明するの面倒だからな、この手に限る」
「だね! さあ行こうスネーク、代理人の信号はこの先にあるよ!」
「ああ、先を急ごう!」
三人は走りだし、さらに鉄血の領域の奥へと進んでいく…。
もう少し書こうとしたけど、ジャッジさまが空に打ちあげられてしまったのでここまでです。
鉄血領内でフルトン回収できるのか、正規軍に気付かれるんじゃねえのとか思う方は、マガジン内の給弾機構が∞の形=弾無限が常識としてまかり通るMGS世界観をまず疑ってください