METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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FAL閣下がお怒りのようです

ガンスミス

『―――――と、言うわけで今回の武器紹介はここまで。次回の放送は未定だけど、次の放送もよろしくな~。それじゃあ、またな」

 

ナガン

『待て待てい。なんかこのラジオあてにお便りが来ててな、まあ…きったない字でMSFって書いてあるし、裏にサソリマークのスタンプしてあるから十中八九あいつだと思うのじゃが。まあ、あんな奴でもリスナーじゃからの、せっかくだから読みあげてやろう』

 

ガンスミス

『そうだな。なになに……"お祭りやるから来て"…だってさ』

 

ナガン

『ん?それだけ?』

 

ガンスミス

『それだけ』

 

ナガン

『もっとこう、何というか…ああもう! おいMSFのサソリ、どうせ今もラジオ聞いてるんじゃろ!? おぬしグリフィンのあちこちに悪戯電話しまくったらしいな、もう少し分を弁えるんじゃ阿呆!』

 

ガンスミス

『まあまあ、あのMSFがやるお祭りに招待って言うんだから悪い話じゃないんじゃないの? それに、P基地とD08基地にもお誘い行ってるみたいだし』

 

ナガン

『ちょっと待て、なんでおぬしがそんな事情知っておるんじゃ?』

 

ガンスミス

『スコピッピからオレ個人に連絡来たからな』

 

ナガン

『………知らぬのはわしだけか…』

 

 

 

 

 ナガンの落胆というか、呆れ果てたようなため息がこぼれると同時にスコーピオンが愛聴するガンスミスさんの武器紹介コーナーの放送が終わる。

 案の定、そのラジオを聴いていたスコーピオンはにこやかに笑い、放送の余韻に浸っているのであった。

 

「よしよし、お祭り準備も順調だね。あとはみんなの様子でも見に行くかな?」

 

 誰かが任命したわけではないのだが、いつの間にかお祭り準備を取り仕切るようになったスコーピオン。

 普段集団を纏め上げて引っ張っていくことはしないはずなのに、自分が興味を示すことならとことん才能を発揮する…アホだがバカではない、というのは自称だが、バラバラに動き回る人形たちを束ねているのには一役買っている。

 今はもっぱら、MSF前哨基地のお祭り準備に勤しむ人形たちの指導を行っている。

 当初、平和の日のイベントを開催する場所はマザーベースが検討されたが、MSFの機密情報が漏えいするのを避けるのと、単純に大勢を収容するには不適切だとして開催地はかねてから利用するMSF前哨基地となった。

 ここなら陸路でも海路でも、空路でも来ることが出来るので、戦地から戻ってくるMSFスタッフを受け入れるのには最適な場所であった。

 

 エグゼとハンターは部隊を率いる立場から速やかな兵器の移動を指揮し、それと同時に各大隊長も忙しく動き回り武器兵器の移動を取り仕切る。

 糧食班、そして何人かの料理を得意とする戦術人形はイベントに出す屋台や料理の種類を選別する。

 お酒の調達には適材適所、お酒を最も好む集団であるスぺツナズのメンバーの名が上がったが、"こいつらにお酒の用意任せたら、用意している間に飲み干される"というキッドのもっともな意見によって却下されるのであった。

 余談だが、この件がスペツナズの耳に入り、キッドはその後数日彼女たちに口もきいてもらえないようになってしまった…。

 

 そしてそんなキッドや、エイハヴといった最古参のスタッフたちはこの平和の日を大成功に導くべく積極的に行動を起こしてくれている。

 何故、それほどまで熱意を示すのか、その理由を尋ねても彼らは決して多くは語らず…ただ、今度こそみんな笑ってこの日を迎えようと口をそろえるのであった。

 

 ヒューイもストレンジラブもミラーも、そしてスネークも、このイベントを必ず成功に導けることを信じていた。

 

 

 さて、そんな風にMSFにとってとても大事なイベントになるであろう平和の日に向けて、スタッフ一丸となって準備を進めている中、ある人物が一人やさぐれているのを目の当たりにする。

 その人物はみんなが忙しなく動き回るなか、われ関せずといった様子で戦車のそばに座り込み、飲みかけの酒瓶を傍において工具の点検をしている。お祭り準備部隊を指揮するスコーピオンとしては、このような集団の和を乱す輩は見過ごせない。

 

「FAL、なに一人で不機嫌オーラ全開にして工具弄ってるの?」

 

「あらスコーピオン、今の指摘通りよ。不機嫌オーラ全開にして工具点検してたところよ」

 

「うわ、こりゃ重症だ」

 

 いままで不機嫌なFALは何度も見てきたが、今回はとびっきりだ。

 あまりのオーラにスコーピオンが怯む、だがお祭り準備委員会委員長としてこの態度はますます見逃せない。

 

「まあ、工具点検も大事だけどさ…今はみんなで協力してお祭りの準備する時じゃん? FALも一緒にやろうよ。工具点検ならいつでもできるでしょう?」

 

「そう、いつでも……もううんざりするくらいやったわ、このレンチが研磨したレアメタルみたいに光沢放つまで磨きまくったわ。その工具を使って、これ以上ないくらい戦車を整備してやったわ。なんでか分かる、スコーピオン?」

 

「えぇ……そんなこと言われたって…」

 

「それはね…アンタたちが米軍相手に英雄的な大活躍している間、私は後方基地に引きこもって延々待機状態にあったからよ! 何のために今までくそ暑い戦車に乗せられて訓練してたと思ってるの、戦うためでしょう!? なのに毎日毎日わたしは戦車整備と工具点検、SAAの砲兵大隊が大活躍しているって言うのに!!」

 

「しょ、しょうがないでしょ、山岳戦じゃ戦車は不利だし…!」

 

「あのね、山岳地での戦車の効率的な運用方法を訓練してなかったと思ってるの!? あんたら米軍戦車が出てきて、結構苦戦させられてたでしょ!? その無線のやり取り聞いて、私が戦車出そうかって言ったらエイハヴのやつ……"オレたちでどうにかする"ですって……なんのための機甲部隊よ!!」

 

「お、落ち着いてFAL…! パンツ見えてるよ…!」

 

パンツが見えてるかなんてどうだっていいのよ、どうせ減るもんじゃない!

 

 これはダメだ、完全に独女ムーブに走ってしまった彼女にスコーピオンは狼狽える。

 幸い、騒ぎを聞きつけたのか、相棒のVectorが背後からそっと近寄ってFALを絞め落として強引に黙らせる。

 

「まったく、これだから独女は…迷惑かけたねスコーピオン」

 

「うん、ありがとう」

 

 強引に絞め落として黙らせたVectorだが、失神したFALをしっかりと抱きかかえている辺りそれなりに優しさが感じられる。

 

「でもFALったら、本当に落ち込んでたんだよ? 折角訓練しまくって最強の戦車部隊作ったって自信持ってたのに、みんなと一緒に戦えなかったから」

 

「うーん、そう考えるとなんか悪い気がするよね……なんか機嫌直す方法があればいいけどさ」

 

「まあ、ほっとけば勝手に元に戻るからこの独女は」

 

「でも……うん? 独女か……閃いた!」

 

 何か閃いたのか、スコーピオンがポンと手を叩いて見せる。

 ほっとけばいいとは言ったが、相棒としていつまでも不機嫌なままでいることはVectorも望んでいない。相棒の機嫌を直す良い名案を浮かんだと思われるスコーピオンに期待の眼差しを向けるが、ニヤニヤ笑みを浮かべ斜め上を見上げる彼女の表情を見てVectorは青ざめる。

 彼女のこの表情はいまやMSFで有名だ、何かよからぬことを企んでいる時の表情である。

 止める間もなく、スコーピオンは意気揚々とどこかへ向かっていくのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「FALさま、大丈夫ですか?」

 

「うーん……まだ頭が痛いわ、なんか喉が痛いんだけど…水貰えるかしら、"Mzk-77"」

 

「了解です」

 

 覚醒したFALは、部下のヘイブン・トルーパー…識別番号Mzk-77に冷たい水をお願いし痛む頭を抱え込む。

 

「一体何があったのかしら、急に意識が…Vector何か知らない?」

 

「さぁ? そういえば、さっきのヘイブン・トルーパー最近よく見るわね」

 

「Mzk-77? 優秀な子だから、戦車長を任せてるのよね…どっかの誰かと違って気の利く子よ」

 

「悪かったわね」

 

 戻って来たMzk-77より冷たい水を貰うFALは一口それを飲むと、彼女に対し礼を伝える。

 それに対しMzk-77は誇らし気に胸を張る……そんな二人のやり取りを見て、今度はVectorが面白くなさそうに表情を歪めるのであった。

 そうしていると、先ほどどこかへ行ったスコーピオンが、若いMSFの男性スタッフを引っ張ってきたではないか。

 

「あらパンター、何の用かしら?」

 

「いえ、スコーピオンさんに呼ばれまして…自分は何でここに呼ばれたのでしょうか?」

 

「そんなの知らないわよ。スコーピオン、一体何なの?」

 

 訝し気に見つめるFALに、スコーピオンは相変わらずあの企み顔をしたままだ。

 彼の名は"パンター(ヒョウ)"であるがこれはもちろんコードネームで、ハンス・ヴォルフガング=ファルケンシュタインというのが本名だ。彼は旧ドイツ出身、MSFにはオセロットのスカウトで入隊した経歴を持つ……オセロットがスカウトしただけに、彼は若いながらも兵士としても優秀であった。

 彼は現代では珍しく、血統的に純粋なドイツ人で金髪に碧眼という典型的な北方ゲルマン系の容姿をもつ…さらに性格も紳士的で先輩を敬い、後輩の面倒見も良いという人格者。

 このような男性をMSFの女性スタッフたちはマークしないわけがなく、度々言い寄られているが、彼自身は女性付き合いが苦手と公言しているようで女性陣は攻めあぐねているようだ。

 

 さて、そんな彼だが、実は好みの異性がいるという確固たる情報をスコーピオンは握っていた。

 そしてそれは、戦車部隊に属する彼の上司にあたる人物……人間のスタッフとしては珍しく、FALの大隊に属する彼の上司と言えば、もう間違いないだろう。

 

 

「パンターくん、アンタの好きな人ってここにいるんだよね?」

 

「は、はい!? スコーピオンさん、いきなり何を!?」

 

 

 その言葉にパンターは明らかに動揺して見せたため、スコーピオンはほとんど確信するのであった。戸惑う彼をよそに、事情を説明して見せると、FALが見事にくいついて見せた。

 日頃独女だとかなんだとかいじられてるが、自分の女性としての魅力に絶対の自信を持つのがFALである…スコーピオンの話を聞いてFALは早速理想の女性像を晒そうと試みるのだ。

 それに対し、そばでみていたVectorの反応は冷ややかである。

 

「ねえスコーピオン、ここらでやめといた方が良いよ?」

 

「おや~? もしかして、相棒のFALがとられちゃうかもって嫉妬かな~?」

 

「いや、そんなんじゃないけど…まあめんどくさいからいいや」

 

 一歩距離を置いたVectorの反応が気になるが、スコーピオンはノリノリのFALと若い戦車兵をくっつかせるべく二人の仲を取り持とうとする。

 

 

「もうパンターくん、バレバレだからね! 素直に好きって言っちゃいなよ!」

 

「いや、まあ確かに自分の気持ちに嘘はつけませんが…」

 

「うんうん、そうだよね。ちなみにどんなところが好きなの?」

 

「そりゃあ…戦車に乗って戦う姿が、こう言っては女性に対し失礼かもしれませんが、かっこいいというか。それに面倒見も良くて姉御肌で、女性としても魅力的で…」

 

 若い戦車兵の話す好きな理由を真正面から聞いているうちに、FALは気恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむいてしまう。やはりこう言ったことには免疫がないのか…。

 

「よし、こりゃあもう決まりだね! 告っちゃおう、パンターくん!」

 

「いや、そんな…! こんな急には出来ませんよ!」

 

「そんなことない、男は度胸だよ! そうだよね、Vector!?」

 

「え?うーん…まあいいんじゃない、どうなっても知らないけど…」

 

 Vectorの微妙な反応に一瞬疑問を浮かべるが、スコーピオンの言葉によって若い戦車兵もその気になって来たのか先ほどまで遠慮がちだったのが、覚悟を決めた顔つきを見せる。ただし、相手の顔をまともに見れずうつむいている辺り、彼の初心な気持ちがよく分かる。

 

「わ、分かりました……オレも男です、素直な気持ちを伝えさせていただきます! 初めて会った時から、ずっとずっとあなたの事が好きでした……隊長……いえ、Mzk-77(・・・・)さん! オレと付き合ってください!」

 

「うん、いい……って、は?」

 

 若い戦車兵の予想とずれた名前に、場の空気が一瞬で凍りつく。

 スコーピオンもFALもまさかこんな事になるとは思っておらず固まったまま…一方の告白をした彼は、そばで成り行きを見守っていたヘイブン・トルーパーのMzk-77に駆け寄るとその手を握りしめたではないか。

 

「Mzk-77隊長、オレのこの気持ちを受け取って下さい! 世界中の誰よりも、自分はあなたのことを愛して見せます!」

 

「ま、待て! 一体何を言っているんだお前は! とりあえず手を離してくれヴォルフガング(・・・・・)!」

 

「へ、へぇ……本名で呼ぶなんて、知らない間にずいぶん仲良くなってたのねぇ……えぇ? Mzk-77?」

 

「ち、違うんですFALさま! こ、これは…! ヴォルフガング! こうなったのはお前のせいだぞ、ちょっと来い、お前とは話をしなければならない!」

 

「はい! どこまでもついて行きます、Mzk-77隊長!」

 

 

 Mzk-77に腕を引っ張られながら連行されていくが、彼の表情は実に喜びに満ちているではないか。

 

 さて、肝心なのはその後だ。

 すっかり冷めきった現場にてVectorのため息が嫌にはっきり聞こえた。

 

「だから言ったのに、やめとけって」

 

「あれ、もしかしてVector知ってたの?」

 

「まあね……かわいそうにFALったら、スコーピオンあんたも鬼ね」

 

「うっ…! ご、ごめんねFAL、こんなはずじゃなかったんだよ!」

 

 慌ててFALに謝るが、何も言わずに立ち尽くし薄ら笑いを浮かべる彼女を見てスコーピオンは恐怖を感じる。

 振り返ったFALの清々しい笑顔を目の当たりにするが、その目は一切笑っていない……FALがゆっくりとスコーピオンの肩を掴んだとき、そのあまりの冷たさに彼女はゾッとする。

 

「ご、ごめんなさい…!」

 

「なんで謝るの? 私のためにしてくれたのよね? あなたは悪くないわ、私の機嫌を直そうとしたのよね?」

 

「あ、あはははは…そうそう、そうなんだよ…あははは」

 

「なにが可笑しいの?」

 

「ひぃ…!?」

 

 静かなる殺意…そう呼べるような圧倒的な圧をまともに受けたスコーピオンの足ががくがくと震えだす。

 完全にキレた時のオセロットに迫るような気迫に、スコーピオンのメンタルモデルが崩壊しかかる……。

 

「あー…そういえばマザーベースの格納庫に、確か1メガトン級の核爆弾あったわね? この基地吹き飛ばすくらいの威力あるかしら?」

 

「はいどうどう、落ち着きなさいFAL。このアホサソリには後で言い聞かせておくから、そこらにしてあげな?」

 

 Vectorが介入する頃には、スコーピオンは恐怖のあまり泡を吹いて失神してしまっていた。

 その後、MG5やネゲヴといったジャンクヤード組が駆けつけ、さらにスネークとエイハヴも駆けつけて完全怒りモードのFALの気持ちを落ち着かせにかかるのであった…。

 おかげで彼女の怒りは何とか鎮まるのであった。

 

 Vector曰く、あんなにキレたFALは、ジャンクヤードでリーダーのMG5と本気のケンカした時以来だったとのこと。




FALさん面白いなぁ……この人好き。
ちなみに、MG5もキャリコもネゲヴもVectorもマジギレするとヤバかったり…。


さて、今までネームドキャラなヘイブン・トルーパーがいなかったので出してみました。
その名もMzk-77です、今後ともよしなに。

ん? Mzk-77…?

M・z・k-7・7…?

()()()()()…!?


カズヒラ・ミラー(cv杉田〇和)「エビバディセェェェイッ!! かーなーうーよー!! ナーナ!ナーナ!ナーナ!ナーナ!ナーナ!ナー(ry

https://www.youtube.com/watch?v=3gxagfWjUvk

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