METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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FOXHOUND

中東地域、某国―――。

 

 かつてそこはシルクロードの中継地として栄え、歴史あるモスクや宮殿と古い町並みが並ぶ美しい国であった。

 第三次世界大戦の戦火から逃れ、大量破壊から国土を守ることができたが、その後の世界情勢の混乱と国内の問題がいつしか紛争へと発展していった。

 政府軍と革命を目指す反政府勢力の戦いは数年以上も続き、かつて世界遺産にも登録されていた美しい町並みは破壊され、廃墟と化している。

 戦争が恒常化し、戦場はいつしかこの国に取って日常となる…連日ニュースをにぎわせているのは政府軍と反政府軍との戦闘の様子だ。

 

 国の放送局を牛耳っているのは政府側だ。

 連日流されるニュースでは政府軍の戦果を誇張して報道し、都合の悪いニュースは国民に知らせずプロパガンダを流し続ける。

 だがある日を境に、放送局は政府側のプロパガンダ放送を止めると、独裁政権の批判や国民の自由を促すような放送へと変わっていった。

 それとほぼ同時期に、政府軍側は反政府勢力に対しあらゆる戦場で敗走を繰り返していくのであった。

 

 日頃政府のプロパガンダを見続けていた国民は隠されていた真実に戸惑い、あるいは共感し反政府勢力に寝返る者も次々に現われる。

 政権打倒を掲げた民兵たちは反政府勢力に合流しさらに政府軍は追い込まれる。

 もはや政権側に残されているのは首都と一部の都市のみ…戦火を恐れて既に大量の国民が難民として国外に逃げ出し、逃げ遅れたものは戦場の中に取り残される。

 革命の気高い精神の裏で行われる虐殺や強姦、力なき人々は誰にも助けを求めることもできずに蹂躙されていく。

 

 

 そんな中東の滅びかけた国家の最後の防衛線にて、最後の攻勢が繰り広げられている。

 ギラギラとした灼熱の日差しの元、首都のあちこちで黒煙が上がり銃声と爆発音が響き渡る。

 最後まで政府と大統領を信じ首都まで逃げ延びた国民にもはや逃げ場などない、どこもかしこも戦場となり放たれた砲弾が住居を吹き飛ばし兵士、一般人の区別なく命を奪う。

 町の外では政府軍側の増援部隊がなんとか首都の防衛を果たそうとしているが、彼らは首都の防衛軍からも切り離されていく…。

 

 

「なんとしても首都の防衛軍と合流するんだ!」

 

 

 増援部隊を指揮する将校がそう叫ぶが、彼らを足止めする部隊の頑強な抵抗に合い思うように行動できないでいる。

 政府軍と対峙しているのは統一された装備を身に付け先進的な武装をした部隊だ。

 寄せ集めの反政府勢力とは明らかに練度の違うその部隊を政府軍の将校は忌々しく睨む。

 

 プレイング・マンティス社。

 一度解体しMSFと合流し再度組織を立て直したそのPMCは今やその存在を知らないものはいない。

 プレイング・マンティス社だけではない、MSFに合流したPMCは世界中にビジネスを展開しあらゆる戦場にその戦闘力を売り込んだ。

 直接の戦闘の他、兵站・警備・訓練を生業とし徐々にMSFを中心としたPMCは拡大しつつある。

 

 政府軍の戦闘員の果敢な攻撃と、政府軍が所有する軍用人形の攻撃も合わさり、ようやく彼らはプレイング・マンティス社の強固な防御陣を崩す。

 ようやく開けた突破口に雪崩れ込む政府軍と、徐々に後退していくプレイング・マンティス社…。

 プレイング・マンティス社の傭兵たちを追って市内に再突入した政府軍だが、さっきまでそこにいた傭兵たちは姿を消していた…大した抵抗もなく奥に進んでいく政府軍だが、不安に駆られた将校が部隊を停止させた。

 

 そんな時、戦場には似つかわしくない牛のような低い鳴き声があちこちで聞こえてきた。

 その鳴き声は徐々に部隊の近くにまで接近してくる…。

 

 街の向こうで何かが跳んだ。

 次の瞬間、ソレは彼らの目の前に降り立つ。

 

 

「な、なんだこいつは…!」

 

「化物だ!」

 

 

 それは有機的な二本の足を持った5メートルほどの異様な兵器であった。

 街の向こうで跳躍する兵器は一瞬で部隊の目の前にまで着地し、着地と同時に兵士たちを踏みつぶす。

 恐慌状態に陥る兵士たちは銃を乱射するがその兵器の装甲の前に全て弾かれ、銃弾をものともしないその兵器は一気に走りだすと、巨体を兵士たちにぶつけ弾き飛ばしていく。

 退却しようにもその兵器は跳躍して一気に移動し退路を塞ぐ、前後左右を囲まれた部隊は機銃による掃射、強靭な脚で蹴り殺され命を落としていく。

 

「これは夢だ…! 一介のPMCが、国を崩壊させるなどと…あってはならない…!!」

 

 一人また一人と部隊が蹂躙されていく様を、将校はただ茫然と見ていることしかできない。

 そんな将校に兵器は近付いていき巨大な脚をゆっくりとあげる…。

 

「か、神よ…何故我らを見棄てたのか…!!」

 

 跪き、銃を手放した将校の頭を、その巨大な脚で無慈悲に踏みつぶす。

 部隊を殲滅した兵器達はその場に緑色の排液を垂れ流し、次なる戦場へ向けて跳んでいく…。

 

 

 

 

「見なさい、国家の終焉よ…」

 

 戦火に晒される首都の外れで戦場を一望する一人の少女。

 左目に縦に走る傷痕のあるその少女は、時折双眼鏡を手に戦場を見回し端末に情報を打ちこんでいく。

 

「PMCが政権を崩壊させるなんて前代未聞ね…それで、グリフィンが高い報酬をくれそうな情報は得られたの?」

 

「戦闘をおさめた映像以外に? メタルギアZEKEって言ったかしら…M4がグリフィンに持ち帰ったあの映像に比べたら驚きは少ないかもね」

 

「あの女の話しは止めてくれる?」

 

「あなた本当にAR小隊が嫌いなのね…あ、見て、大統領官邸が陥落したわ。長かった内戦も終わりね」

 

 双眼鏡で見る先では、大統領官邸から手を挙げて投降する政府軍兵士たちがぞろぞろと出てくる。

 官邸に掲げられた国旗は引きずり降ろされて燃やされ…。

 熱狂する反政府勢力は新たに自分たちのシンボルを掲げ歓声をあげている。

 

 そんな中、もう一つのシンボルが街の中心部に掲げられる。

 黒地に白い髑髏が描かれた巨大な旗、宮殿の屋根の上でその旗を誇り高く掲げているのはかつて鉄血のハイエンドモデルと言われていた処刑人。

 

「OUTER HEAVEN…MSFを母体にPMC4社が合流して生まれた連合PMCってところかしらね。クルーガーもこんな短期間にここまで拡大するなんて思ってもなかったでしょうね…」

 

 旗を誇らしげになびかせ、勝利の余韻に浸っている処刑人の姿を…UMP45は笑みを浮かべつつ観察していた。

 処刑人の傍に控えているのは強化服に身を包み直立不動のまま並ぶ戦術人形の姿がある…鉄血の工場を獲得したMSFが生み出し、新たな使命を宿し生まれた最新鋭の戦術人形だ。

 

「45姉、ただいまー!」

 

「あらおかえり(ナイン)…あいつらの様子はどうだった?」

 

「もー最悪だったよ、あと少しで捕まるところだったんだから…MSFの諜報班ってかなり危険だよ」

 

 新たに現われた茶髪の少女UMP9は疲れ果てたようにその場に横たわる…。

 

「使えないわね、調べ物の一つもできないって言うの?」

 

「まあまあ落ち着きなさい416、MSFの諜報班は優秀よ、無理もないわ…あの男の目の黒いうちはこれ以上の情報入手は難しいかもね。ところでG11は?」

 

「あっちの木陰で寝てるよ、あのこも追われて流石に疲れたみたいだよ」

 

「そう、今は休ませておきなさい。一時間後に出発よ」

 

「今度はどこに向かうの?」

 

「さあどこかしらね…もう連邦政府も黙っていないだろうし、新しい戦争が起きるかもね。鉄血だけに構ってる場合じゃないわ。それにしても興味があるわね、BIGBOSS…どんな人なのかしら?」

 

 内戦の終結を見届けたUMP45はまだ見ぬMSFのカリスマへの興味を隠しきれず笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボス、話しがある」

 

 任務からマザーベースに戻ったばかりのスネークをオセロットが呼び留める。

 諜報班のトップとしてあちこち駆けまわっているオセロットと戦場を渡り歩くスネークが会うのは実に久しぶりだ。

 久しぶりに会った挨拶もそこそこにオセロットはスネークを司令部の一棟へと連れていく。

 

「ボス、404小隊という名を聞いたことは?」

 

「いや、それがどうした…?」

 

「最近こそこそオレたちを嗅ぎまわっている戦術人形の部隊だ。雇い主はおそらくグリフィン…」

 

 エグゼとの戦闘以来、たまにコミュニケーションをとっているグリフィンだが、友好的な関係…とは言えない間柄だ。

 かといって対立しているというわけでもなく、いうなれば互いの腹を探り合っている状態にある。

 先の戦闘で勝利したことも要因の一つだが、鉄血の工場を獲得し支配地域を大幅に拡大したことが大きく影響している。

 協定に囚われないMSFの拡大はグリフィンにも危機感を抱かせ、周辺諸国との軋轢も考慮してのことだ…グリフィンとしてはこれ以上のMSFの拡大は望んでいないということだ。

 

「いずれ404小隊が現れるかもしれないが、絶対に信用するな。スパイだからな」

 

「お前がいなかったら見逃していただろうな、頼りになるぞオセロット」

 

「そんな悠長な事を言っていていいのか? まあ、褒め言葉として受け取っておこう」

 

 素っ気ない物言いだが、どこか誇らしげなオセロットである。

 

 さて、彼がスネークを引っ張っていった先の部屋では既に何人かが待っていたようだ。

 その中の一人、エグゼはスネークを見るや否や小走りでそばに駆け寄ってくる。

 

「スネーク、初仕事大成功だ! 作戦成功、反政府軍の勝利に貢献してきたぜ!」

 

「よくやったなエグゼ、大したもんだ」

 

「えへへへ…」

 

「し、司令官…! 9A91も作戦を成功させました!」

 

 一緒に部屋にいた9A91も負けじと戦果をアピールする。

 二人の頭をまとめて撫でて褒めてくれるスネークに、二人は嬉しそうに笑う。

 

「で、なんでわたしもよばれたのよ」

 

 褒められて喜んでいる二人の背後では、つまらなそうに椅子に座るWA2000がいる。

 部屋にはもう一人"マシンガン"キッドの姿もあるが、ソファーに身体を横たえていびきをかいて寝ている。

 

「お前たちに集まってもらったのはほかでもない、こんど新設する特殊部隊の候補として選抜したためだ。ボスは諜報と戦闘の両方を兼ねる部隊の新設をお望みだ」

 

「ふーん…スコーピオンとかは呼ばなくてもいいの? あいつこういう場からはぶられたらキレるわよ?」

 

「この特殊部隊は馴れ合いで組織するつもりはない。ここ数週間の戦闘記録を元に優秀な成果を収めているかどうかオレが判断し選抜した…確かにスコーピオンのボスへの忠誠心は疑いようもない。だがあいつはまだ戦闘面での未熟さが目立つ、スプリングフィールドは性格上単純に向いていない…」

 

「そ、そう…でもわたしなんかでいいの?」

 

「オレがお前を選抜したんだぞ、何か不安でもあるのかワルサー?」

 

「い、いや、別にないわよ…!」

 

 赤くなってもじもじしているWA2000から目を逸らし、いまだソファーで寝ているキッドを一瞥する。

 現在のMSFにおいて彼の戦闘力は生身の人間ではトップクラス、スネークやオセロットに次いでエイハヴとも並ぶ戦闘力の持ち主だ。

 エイハヴは前哨基地の部隊長としての都合上特殊部隊への加入は見送られたが、代わりに元SASとして特殊部隊への入隊経験があるキッドが選ばれている。

 

「部隊の名は…FOXHOUND、サンヒエロニモが懐かしいんじゃないかボス?」

 

「オレはとっくの昔に除隊したはずだぞ」

 

「サイファーに対立するあんたにはちょうどいい部隊名だと思うぞ、まあここにサイファーの陰はないがな。言い忘れたが、オレもFOXHOUNDのメンバーになる。部隊の司令官はボスだが、訓練及び指導はオレが行う、いいな?」

 

 WA2000や9A91はそれで受け入れているが、エグゼはそうはいかない。

 仲間になる条件としてスネーク以外の命令は聞かないと宣言しているだけに、自分に命令をしようとしているオセロットの態度は彼女にとっては気にくわない。

 

「不満か、処刑人」

 

「当たり前だよオッサン、なんでオレがお前の命令を聞かなくちゃならないんだ?」

 

「お前が未熟だからだ処刑人」

 

「この野郎…!」

 

 苛立つ処刑人は唐突にオセロットに殴りかかる。

 受ければ怪我では済まされないエグゼの拳をオセロットは容易く交わし、彼女の足を払うと体勢を崩して倒れた彼女の腕をひねり上げる。

 

「調子に乗るなよ、自分がMSFで二番目に強いとでも思ってるのか? 言っておくがお前を部隊に入れることは今でも悩んでいる、精神の未熟さではお前もスコーピオンと変わらんぞ」

 

「その辺にしておけオセロット」

 

「躾がなっていないぞボス、部隊に狂犬はいらない…こいつの指導だけはあんたに任せた方が良さそうだ」

 

 解放されたエグゼは痛めつけられた腕の関節をさすりつつ、スネークの背後に隠れオセロットを睨みつける。

 

「スネーク、オレあいつ嫌いだ…!」

 

 スネークのかげに隠れて威嚇するさまは、たしかにオセロットの言う通りまだまだ未熟な少女の姿だ。

 その姿はどことなくオセロットの訓練を受け始めたばかりのスコーピオンの姿にも酷似している、どことなく似たような行動をするエグゼにWA2000と9A91はおもわず微笑む。

 

 

「FOXHOUNDの正式な結成はまだまだ先だ、だが選ばれたからと言って油断するな。少しでも見込みがないと判断すれば外していく、それを忘れるなよ」

 

 

 オセロットの最後の言葉に、戦術人形たちは気を引き締め直す。

 以降、MSF初の特殊部隊FOXHOUNDに加わるための熾烈な競争が始まる。

 それは彼女たちだけでなく、優秀な兵士たちにも広がっていくのであった…。




オセロット「いつまでもヤンデレを見過ごしていると思うなよ小娘ども」

やっぱオセロットがメインヒロインでカズがサブヒロインですね!

そしてわたくしの真のヒロイン月光がついに!

スネークたちの活躍の裏で404小隊とオセロットとの熾烈な諜報合戦が始まってます。

次話当たりから本編の流れに戻しましょうかね。
時系列的に次の鉄血ボスはハンターネキですな、処刑人との絡みをかくのが楽しみです(修羅場不可避)

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