METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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見たい見たい言うから、春田さんアーちゃん成分マシマシチョモランマやぞ。


平和の日~Love & Peace~

 何かがおかしい。

 

 鉄血ハイエンドモデルであり、元捕虜待遇のゲーガーはMSFの男性陣がお近づきの印に持って来るお菓子やアクセサリーを受け取りつつそう思う。貰える物は何でも貰うスタイル…というわけではないのだが、あることに悩むゲーガーは渡される奇天烈な道具を疑いもせず貰い身に付ける。

 おかげで今のゲーガーの姿は、薔薇で飾られたヴィンテージハットを被り、高そうなサングラスをかけ、ミンクのストールを首に巻きつけ、おしゃれな手提げかばんを持ち、足下には凛々しい顔つきの軍用犬が一匹寄り添うようにして座っている。最初はただのプレゼントだったのが、途中からゲーガーをセレブ風ファッションにしてやろうとか何とか言いだし今に至る。

 まあ、戦場に生きる野郎どものセンスが炸裂しているために配色は滅茶苦茶だし足りないものがあったりと、FAL並のセンスに周囲は唖然としている…。

 

 さて、そんな風に自分が面白おかしくコーディネイトされていることなど気にもならないほどゲーガーを悩ませている理由が、隣で一緒に歩く相方のアーキテクトである。

 昨日のことからだが、アーキテクトの様子がおかしいのだ。

 いつも好奇心旺盛で何にでも手を出したがり、静かにしていることより騒いでいることの方が多い、動いてないと死んじゃうんじゃないのかと思えるほど賑やかでやかましい。それが彼女の素顔だったと思っていたのだが、昨夜からアーキテクトは時折思いつめたように静かになったり、何かを思いだして小さく笑ったりと。

 極めつけは、朝食をとるのに食堂で見た時の表情だ。

 アーキテクトはココアの入ったマグカップを握ったまま、頬を赤らめて同じ食堂で朝食をとるある人物をじっと見つめていたのだった。

 それを見るや否や、ゲーガーはつい"誰だお前は?"と漏らしたわけだ…。

 

 そして朝から今まで様子がおかしいわけだが、今のアーキテクトはいつものように楽しそうにおしゃべりしているものの、そうしている間も誰かを捜していた。

 

「おいアーキテクト、いつまでうろうろしてるつもりだ? もうここを歩くの3回目だぞ?」

 

「あれ?そうだったっけ? あははは、うっかりしてたよ」

 

 こういう面白い場所は無駄なく動くのがアーキテクトだが、やはり何かおかしい。

 思い当たる節はある、昨晩のことだ……このお祭りの前夜祭で、アーキテクトはエイハヴという名の男性にすりむいたひざを手当てしてもらい、もうみんなMSFの家族だと言われた。そうだ、その時からアーキテクトの様子がおかしいのだ。

 こんな顔をする輩は鉄血内にもあまりいなかったはずだが、以前ウロボロス邸で世話になっていた時見たような気がする……そうだ、これはまさしく!

 

「ゲーガー見て見て! コイのお刺身だってさ! 食べる?」

 

「恋かぁ……まさかお前がな」

 

「なに言ってんの? コイ食べるの?」

 

「あぁ…」

 

 遠い目で空を見上げるゲーガーは上の空、そんな様子を不思議に思いつつアーキテクトはコイのお刺身を購入した。初めての刺身をわくわくしながら口にするが、下処理が下手だったのかコイの刺身は泥臭く不味かった。食べてしまったアーキテクトは吐こうにも吐けず、仕方なくのみ込むが、のどの奥から泥臭さがこみあげてくる…。

 そんな時、たまたま通りかかったエイハヴが持っていたコーラを差し出す。

 差しだしてくれた人物がエイハヴと気付かず、アーキテクトは貰った缶をすぐに開けて飲む。

 

「くぅ~! 強烈な炭酸と甘味の爽快感が気持ちいい~~!!」

 

「ハハハ、良い飲みっぷりだなアーキテクト」

 

「あ……エイハヴくん……ご、ごめん! つい…あ!」

 

 エイハヴの登場に驚いた彼女は缶を手放してしまい、地面に落としてしまった。それをエイハヴは拾い上げ、封の切られていないコーラを渡すのだった。

 

「そんな、悪いよ!」

 

「いいよ、オレはちょっと飲み過ぎたから。このくらいでちょうどいい」

 

 落ちて中身が少なくなったコーラを揺すりながらエイハヴは笑い、そのコーラを飲む……それを目の前で見ていたアーキテクトの頬に赤みがさしていく。

 

「あ……間接……」

 

「なんだって?」

 

「ううん! なんでもない! なんでもないってば……ねえ、エイハヴくんはこれからどうするの?」

 

「オレか? オレは警備班の手伝いをしていてな、問題が起きていないか見てまわってるんだよ」

 

「そうなんだ……お店は回れないんだね…」

 

「そうだな、楽しみたいのはやまやまだが、誰かがやらないといけないからな」

 

「じゃあさ、私もエイハヴくんのお手伝いするよ! 一緒に警備任務を手伝います!」

 

 アーキテクトのまさかの言葉にエイハブは驚き、これまでの一部始終を眺めていたゲーガーはもはや情報を処理しきれずフリーズしている。

 

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、何も面白くないし、お店をまわってた方がいいんじゃないか?」

 

「そんなことないよ、なんかお祭りの時の警備って面白そうじゃん!? 悪い奴がいたら、やっつけちゃうから! というわけで、アーキテクト! これより警備班のお手伝いをします!」

 

「まあ、そこまで言うなら…でも、問答無用でやっつけちゃダメだぞ? 問題は起こさないのがベストだが、楽しくてつい羽目を外してるだけなんだからな。なるべく穏便になだめて、楽しい気分でいてもらうのがいいんだからな」

 

「フフ…やっぱりエイハヴくんって優しいんだね…じゃ、一緒にまわろ?」

 

 早速、アーキテクトはどこからか警棒を取り出して武装、エイハヴの隣を一緒に歩き警備の仕事につくのであった。

 

 一方、フリーズしたままのゲーガーは一人ポカーンと空の彼方を見つめていた。

 

「恋……恋かぁ……あのアホが恋なんて、あり得ないだろ…」

 

「オイ! ゲーガー嬢はコイをご所望だ! とっとと捌いて持ってこい!」

「刺身以外にも用意しろよ! コイの天ぷら、唐揚げ、ワイン煮込みだ!」

「てやんでぃ! テメェらのコイは喰ってられねえ! どけ、下町育ちのオレが下処理してやる!」

「放射能とコーラップス液で巨大化したコイだ、喰いごたえがあるぜ!」

 

 

 

 

 

 

 

 警備任務といっても本当に歩きまわって何か問題がないか見てまわるだけで、本当に何もない。何もないのが一番であるのは確かであるが……しかし平穏そのものだからといって、警備の仕事をさぼったり休んでばかりもいられないのが少々辛いところか。

 実は気付かないだけでどこかでトラブルが起きてるかもしれないし、そんなトラブルを未然に防ぎ、みんなでこの楽しい時間を共有する場を整えてあげないといけない。

 エイハヴの言う通り、あまり面白くもない仕事だが……アーキテクトはエイハヴと一緒にいるだけでなんだか楽しいようだ。

 

「あらら、アーキテクトにエイハヴじゃない。珍しいわね」

 

「お、404小隊のメンバーじゃない! なにしてんの!?」

 

「寝坊助G11のお散歩よ」

 

 416が押すやや大きな手押し車には、布団とクッションが入れられてそこにG11が眠っている。

 UMP姉妹は巷で流行りだというタピオカドリンクなるものを飲み、うさみみのカチューシャを頭につけている…要するにお祭りを楽しんでいる様子。

 

「そういえばさっき、ジョニーがお客さんに追いかけ回されているのを見たんだが…」

 

「ああ、なんかおっぱい大きい3人よね? まあ、いい体験だからいいんじゃないの? あんだけ追い回されて私のところに戻って来たら大したものね、絶対性癖歪むと思うの」

 

「もう、45姉ったら! ジョニーだって大切な家族だよね!」

 

「ああそうね、弾除けとか雑用に仕えるとても大事な家族よ。それよりアーキテクト、あっちでパンツ即売会やってるから行って来たら?」

 

「パンツ即売会? なにそれ?」

 

「私はもう10枚くらい買っといたわ。MSFじゃよくパンツなくなるしあなたも買っておいて損はないわ。じゃないと良くて男物パンツを履くか、最悪ノーパンで過ごすことになるから…さて、そろそろライブ始まるみたいだし、じゃーね」

 

「ばいば~い!」

 

 404小隊のメンバーをその場で見送る二人。

 

「エイハヴくん、MSFじゃしょっちゅうパンツなくなるってホント?」

 

「いや…まあ、そうみたいだな。オレもなくなる理由を探ったんだが、分からずじまいだ。噂じゃ黒いネコ(・・・・)がいきなり現れて盗んでいくって言ったり、霞みたいな大きいモンスター(・・・・・)に盗まれたとか言うらしいが。まあ、マザーベースじゃ海風が強いし、干してるところに強い風が吹いて飛ばされただけだと思うんだけどな」

 

「へえ、そうなんだ……じゃあ、折角だからエイハヴくんに下着選んでもらおうかな~………なんて、冗談だよ?」

 

「あー……まあそういうところにはオレも関与は出来ないな」

 

 言ってから、アーキテクトはとんでもない発言してしまったことに気付き、羞恥心からか顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。エイハヴの穏やかな対応で何事もなく流れたが、その後はまともに彼の顔を見れず、言葉も少なくなる。

 それでも一度警備のお仕事を手伝うと言ったため、彼の後をついて回るアーキテクト。

 

「なあアーキテクト、そろそろいい時間だが腹は空いていないか?」

 

「さっき食べてたから…でもちょっとくらいなら食べれそうかな?」

 

「そうか、じゃあ警備は少し休んでちょっと食べに行こうか」

 

「賛成ッ!」

 

 エイハヴの気遣い? でアーキテクトは立ち直り、いつもの調子が戻ってくる。

 嬉しそうに彼の後をその後もついて行き、あちこちの屋台を見てまわる。しかしエイハヴはどうやら行く場所を決めているようで、通りすがる屋台も軽く見るのみで歩き去っていく。

 やがてエイハヴはある出店の前で足を止める、そこからは香ばしいコーヒーの香りが漂い、他のお店と比べてやや落ち着いた雰囲気を醸し出していた。そのお店に立ち寄ったエイハヴは店主に声をかけると、声をかけられた店主のスプリングフィールドは笑顔で挨拶を返す。

 

 

「いらっしゃいませ、エイハヴさん。警備お疲れさまです、お食事ですか?」

 

「ああ、パスタを貰えないかな? それと、彼女にも…」

 

「あら…?」

 

 そこでスプリングフィールドはエイハヴの後にやって来たアーキテクトに気がついた。

 アーキテクトを見た彼女は一瞬真顔になるが、すぐにいつもの穏やかな笑顔を浮かべる。

 

「いらっしゃい、アーキテクト。あなたもお食事?」

 

「うん、ちょっとしたものを食べたいかな」

 

「それでしたら今焼いているマフィンがありますが、いかが?」

 

「いただきます!」

 

「フフ、お掛けになって少々お待ちください」

 

 スプリングフィールドの助手として、いつもカフェで働いているミニチュア月光とヘイブン・トルーパー兵が接客につき、促される前に店の前のテーブルに座る。料理を待っている間にと、スプリングフィールドはハーブティーを二つ用意してくれた。

 ハーブの優しい香りが歩きまわって疲れた身体を癒してくれる。

 料理を待つ間、なにやらジョニーが完全武装でブツブツ呟きながら歩いていく…トラブルの気配を感じたが、少しすると警備の月光によって拘束されてどこかへ運ばれていってしまった。

 他にもスペツナズが酒絡みをしたり、スコーピオンが爆竹で遊び始めたり、エグゼがお客さんとまたケンカしそうになったりと、トラブルの種がちらほら散見されるが、他の優秀な警備兵に鎮圧されて事なきを得ている。

 

 そうして待っていると、スプリングフィールドが二人の頼んだ料理をもってやってくる。

 

「うん、美味い。美味しいよ」

 

「わー! こんな美味しいマフィン初めてだよ!」

 

「ふふ、どういたしまして」

 

 料理を美味しそうに食べる二人を見て、スプリングフィールドは嬉しそうに微笑む。

 和やかな時間を満喫しているエイハヴたちであったが、そこへとあるスタッフがやってくる。

 

「すみませんエイハヴさん、ちょっといいですか?」

 

「どうした、何かあったのか?」

 

「実は―――」

 

 何か問題があったらしく、話を聞いたエイハヴはすぐにパスタを平らげると席を立つ。

 一緒に立とうとしたアーキテクトだが、エイハヴに制止される。

 

「すまないアーキテクト、ちょっと問題があってね」

 

「どうしたの? トラブルなら私も手伝うよ?」

 

「いや、警備の話じゃないんだ。ちょっと日常業務の問題でな…警備手伝ってくれてありがとう、あとは自由にお祭りを楽しむといい。それとスプリングフィールド、夜にまた…」

 

「あっ……行っちゃった…」

 

 引き止める間もなく、スタッフと一緒にエイハヴはその場を立ち去っていってしまった。

 彼がいなくなり、アーキテクトは少し寂しそうに肩を落とす。

 そんな彼女の向かい側の席に、スプリングフィールドが座る。

 

「アーキテクトはエイハヴさんのお手伝いをしてくれていたんですか?」

 

「うん。エイハヴくんには面白くないよって言われたけど…」

 

「そうですか……エイハヴさん、本当は警備の仕事をしなくても良かったんですよ。でも警備班の何人かが少しでもお祭りを楽しめるようにって、警備の手伝いをしてたんです」

 

「そうなんだ。でもなんでそんなことするの?」

 

「それは、あの方が自分よりも他の誰かを優先するからですよ。スネークさんやミラーさんに負けないくらい仲間想いで、家族を大切にしています。優しくて強くて素敵な方です……そんなところに、あなたも惹かれたんでしょう?」

 

「ふぇ? な、な、なにを言ってるのかな~!? アーちゃんアホだから全然分からないよ!?」

 

「うふふ…見てれば分かりますから、隠さなくてもよろしいですよ。あなたはエイハヴさんが好きなんですよね?」

 

「うぅ……そ、そういうスプリングフィールドだって、あの人が好きなんでしょう? 私には分かるよ」

 

「ええ、愛しております」

 

「あ、愛してる…!?」

 

 好きを通りこす、大人な表現にアーキテクトは椅子から転げ落ちそうになる。

 なんとか持ち直したアーキテクトはハーブティーを飲みこみ呼吸を落ち着かせた。

 

「エイハヴさんの活躍は確かに目だたないかもしれませんが、MSFにとってとても重要な方なのです。それに、私がかつて自分を見失いかけた時に手助けしてくれたのはあの方です。彼がいなかったら、おそらく今の私はありません……私は彼を愛していますし、恩義を感じています。だから私は、あの方が好きなMSFと言う家族を、一緒に支えていこうと思っているのですよ」

 

 スプリングフィールドの実直な想いを聞いたアーキテクトは、そのあまりのまぶしさから目まいを起こす。

 ただ好きだからとついて回ってるだけの自分とはあまりにも違う、そんな姿に負い目を感じてしまうが…。

 

「アーキテクト、あなたがエイハヴさんを好きって想う気持ち…私は嬉しく思いますよ」

 

「ほえ? どういうこと…?」

 

「エイハヴさんは素敵な方ですもの、私だけが惹かれるなどと思っていません。まあ、あの方の魅力に気付いてくれて嬉しく思える半面、ライバルが増えて安心できないって思う気持ちもありますがね……アーキテクト、私はあなたの恋路を邪魔するつもりはありません、かといって譲る気持ちもありませんがね?」

 

「そっか……望むところだよスプリングフィールド! 出だしは遅れちゃったけど、負けないもん!」

 

「ふふ、あなたのそういうところ、ちょっとうらやましく思えますよ。さてと、そろそろ時間ですね」

 

「ほえ?」

 

 時計の針を見たスプリングフィールドは席を立つと、身に付けていたエプロンを脱いだ。

 

「キャリコとミラーさんたちのバンドの演奏が始まりますよ。さあ、あなたも一緒に行きましょう」

 

「うん!」

 

 元気よく返事を返すアーキテクトを見て彼女はくすくすと笑う。

 それから二人で一緒にメイン会場へと向かうと、間もなく演奏の開始を告げる祝砲が打ち上げられた。




ヌッッッッッ!!!???(悶死)


この二人絡みでは修羅場にならなそうどころか、良きライバルになりそうだよね。

強敵と書いて"とも"と読む


※この二人に焦点絞ったら話数伸びたンゴ…オセロットとわーちゃんは…やり尽した感ある(笑)

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