METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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待たせたな(モンハンコラボ)


討伐クエスト:黒猫略奪団を追え!!

「ふぅ……今日もいいお湯加減でしたね、センパイ!」

 

「そうね、ゆず湯…だっけ? ミラーのアイデアらしいけど、柑橘類のさわやかな香りが心地よかったわ。リベルタ…ちょっと、まだ怒ってるの? しょうがないでしょう?」

 

「…………」

 

 風呂上がりのリベルタはいつも通り無言であるが、どこか恨めしそうにWA2000と79式、そしてカラビーナを睨んでいるように見える。普段ほとんど感情の起伏がないリベルタが怒っている理由はというと、嫌がる彼女を今日無理矢理お風呂に引きずり込んだからだ。

 というのも、リベルタは他の多くの戦術人形と違って強固で頑丈な骨格を持っている分見た目に反しかなりの重量があり、浮くことのできない水辺を極端に嫌う。風呂場程度の深さで溺れることは無いのだが、リベルタはまるで猫のように水に浸かるのを嫌っていた。

 しかし、近接戦闘スタイルなリベルタは戦場に出れば多量に返り血を浴びるため、身体を洗わなければ大変なことになる……もう何度も無理矢理お風呂場にぶち込んでいるのだが、いまだにリベルタは水が嫌いなようでなかなかに苦労させられる。

 まあ、これについては我慢して貰うしかないのだが…。

 

「あれ?」

 

「どうかしましたか79式?」

 

「いえ、あの……私の下着が見当たらなくて…」

 

 何度もバスケットの中を探る79式だが、一向に下着…具体的に言うとパンツが見当たらない。

 その様子に嫌な予感を感じたWA2000とカラビーナも慌ててかごの中を探るが、二人も同様の被害にあっていた……マザーベースにおいて女性陣を悩ませる珍現象"パンツ失踪の怪"だ。

 

 疲れたように肩を落とすカラビーナとは正反対に、WA2000は額に青筋を浮かべ怒りをあらわにする。

 

「もう! 一体何なのよ!! せっかく少しの間落ち着いたと思ったら!!」

 

「ああ、嘆かわしいですね…主さまはパンストまで盗まれてるじゃないですか」

 

「うわ…本当だ……なんなの? 本当に気持ち悪いんだけど…」

 

 怒りと生理的嫌悪感によってWA2000のメンタルモデルはもう滅茶苦茶だ。

 一応リベルタもパンツを盗まれたようだが、ほぼ羞恥心を持たないため何も言わず衣服を纏う……だが79式はショックなようで、目に涙を浮かべてあちこち探し回る。

 後輩のそんな姿を見て、先輩人形はいてもたってもいられず、マザーベースの女性陣を悩ませるパンツ失踪の真犯人を見つけるべく決意を固める。泣きそうな79式をひとまず宿舎に移し、早速彼女たちはミーティングルームに女性陣を集めるのであった。

 

 会議が始まると、同様の被害にあったという女性がちらほら出始める。

 

「実は私も、おとといなんだけどさ…洗濯に入れたはずなのになくなっちゃってたんだよね」

 

「私もだ」

 

「実は私も…」

 

 被害を申告したのは、MG5とキャリコ、そしてネゲヴである。

 警戒心の強い3人でさえも、この謎の窃盗犯を見つけることは出来なかったことに集まった女性陣は驚くのであった。しかし、そんな3人を嘲笑するのが一人……同じジャンクヤード組のFALである。

 

「まったく呆れたものね、エリート人形がたかがパンツ泥棒にしてやられるなんてね」

 

「そういうFALは盗まれたことはないのか?」

 

「ええ、ただの一度もね。私は常に注意を怠らないからかしらね?」

 

「独女なあんたのセンスのないパンツに興味がないだけじゃないの?」

 

「なんですって!? 私の勝負下着にケチつけるわけ!?」

 

「静かにしてよあんたたち! 全然話が進まなくなるじゃない!」

 

 ぎゃーぎゃー騒ぐFALとVectorを引き離し座らせる。

 相変わらず仲の良い二人である。

 

「そう言えば、オレも一回だけ失くしたっきりでパンツ盗まれたことないよな」

 

「あんたみたいなメスゴリラのパンツ欲しがる人なんていないでしょう?」

 

「あぁ!? なんだとこのやろう、センスの欠片もねえ独女が調子に乗りやがって!」

 

「あんたは色気がないって言ってるのよ!」

 

「一度もパンツ盗まれたことない奴に言われたくねえよ!!」

 

「あのさ! パンツ盗まれたかどうかでマウントのとり合いしないでくれる!? 重要なのは、このクソみたいな盗人を捕まえて吊し上げることよ!」

 

 机を思い切り叩き、WA2000が怒りの声をあげる。

 好き勝手騒ぐ人形たちをギロリと睨みつければ、あまりの剣幕に一同口を閉ざす。

 

「とにかく、パンツがひとりでに動くはずないし、何度も何度も風に吹っ飛ばされるなんてありえない。誰か盗んでる奴がいるはずよ。なんでもいい、何か手がかりになる情報はないかしら? UMP45、あんた一番パンツ盗まれてるわよね、なんかないの?」

 

「んん? そうね、なんかもう慣れちゃったしさ」

 

「慣れたって……あんたの手下に変態装甲人形いるわよね、アイツが犯人じゃないの?」

 

「違うわね、アイツはあたしの命令に逆らえないから追及すればすぐに話すからね。それに、アイツは私以外のパンツに興味ないみたいだし……まあ、みんなもそのうち慣れるわよ」

 

「慣れたくないわね、どうせあんた今もノーパンとかなんでしょう?」

 

「どう思う?」

 

「どうって……そんなの知るわけないでしょう!」

 

 パンツを盗まれ過ぎてある種の耐性がついてしまった彼女には脱帽する。

 しかし一番の被害者のはずの彼女からも情報を得られないとすると、この会議もいよいよ手詰まりとなる。その後も会議が続くが、有力な手がかりも得られない。

 諦めて会議を終えようとした矢先、IDWが遅れてその場にやってくる。

 

「ごめんなさいにゃ! ネコさんたちにマタタビあげてたら遅れちゃったにゃ!」

 

「こっちはパンツ盗まれてるって言うのに、呑気なものね」

 

「にゃ? パンツ盗まれたのかにゃ? もしかしてこれ、見覚えないかにゃ?」

 

 そう言ってIDWがポケットからとりだしたピンクのフリルのついたパンツを見て、キャリコが声をあげる。

 

「あー! それあたしの下着! どこで見つけたの!?」

 

「えっと、黒いネコさんたちにマタタビあげたらお礼にくれたのにゃ」

 

「ちょっと待ってIDW…その黒いネコってさ、二本足で歩いて変な言葉話してたりしなかった?」

 

「してたにゃ。UMP45はそのネコさんたちを知ってるのかにゃ?」

 

「「「そいつらだ!!!」」」

 

「にゃにゃ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わって、マザーベースのとある倉庫。

 薄暗い物置には、見慣れない樽やへんてこな模様が描かれた石ころが積みあげられオブジェのように飾られている。なにかの居住区のように改造されたそのエリアにて、人のひざ丈ほどの黒いネコたちがのんびりと歩きまわっている。

 

「(ニャー、今回は大収穫だったのニャ!)」

 

「(わーちゃんのレアなパンストも手に入ったのニャ! リストはこれで埋まったし、さっそく出荷するのニャ!)」

 

「(それにしても、人間さんはどうしてこんな布きれ欲しがるのかニャ?)」

 

「(知らないニャ。食べ物とマタタビがもらえればなんだっていいニャ!)」

 

 にゃーにゃーと、独自の言語でやり取りを行った黒いネコたち【メラルー】は集めたパンツを風呂敷で包み込み、さっそく運搬作業へと向かうのだ。設計ミスで封鎖された倉庫からこっそり抜け出すメラルーたち、間抜けな人形たちのことなど頭になかった彼らは、出た先で待ち構えていた戦術人形を見て跳びあがる。

 

「やっと見つけたわ、この泥棒ネコどもめ! 盗んだパンツを返しなさい!」

 

「(ニャー!? 見つかったのニャ、逃げるのニャー!!)」

 

「あ! 逃げやがった、待ちやがれ!」

 

 クモの子を散らすようにメラルーたちは逃げだし、それを被害にあった人形たちが追いかけていく。

 小回りの利くメラルーたちであるが、身体能力…走る速さでは人間や人形に及ばず、何匹かのメラルーは捕まってしまう。普段の彼らは、地面に穴を掘って逃げるのだが、マザーベースの固い甲板は掘ることが出来ない。

 一匹ずつ追い詰められていくメラルー、ついには主犯格のメラルー数匹が残され必死に盗んだパンツを背負って逃げまどう。

 

「一体なんの騒ぎだ!?」

 

 マザーベースで繰り広げられる追いかけっこに気付いたミラーがやってくる。

 逃げ回るネコたちを、人形たちが総出で追いかけ回している光景はとてもおかしなものだろう。

 

「ミラー! その黒ネコ捕まえて頂戴!」

 

「ワルサー、これは一体……こいつを捕まえればいいのか!?」

 

「(ニャニャ!? かくなるうえは、これでもくらえニャ!)」

 

 捕まえようと両手を広げるミラーに対し、メラルーは風呂敷に手を突っ込み、掴んだパンツストッキングを丸めてミラーに投げつける。柔らかな布の感触を顔面に受けてミラーが怯んでいる隙に、メラルーは彼の足元をすり抜ける。

 慌てて追いかけようとするミラーだが、それよりも背後から向けられる凄まじい殺気に気付き振り返ると……嫌悪感を露わにするWA2000の姿が…。

 

「あんた、わたしのストッキング…!」

 

「え? これ? いや、違う! 今のはどう考えても不可抗ry」

 

 言い切る前に、WA2000のしなやかなハイキックがミラーの側頭部をとらえ、彼は一撃で卒倒する。

 

「酷いよわーちゃん! ミラーさんが何をしたって言うの!?」

 

「はっ、つい…! ごめん97式、その変態を頼むわ!」

 

 怒りに任せてついやっつけてしまったことを恥じつつ、彼女は急いで逃げるメラルーを追いかけていく。

 

「待ちなさい泥棒ネコ!」

 

「(しつこい奴ニャ! 誰か助けてくれニャー!)」

 

 風呂敷から盗んだパンツをまき散らしながらメラルーは走る。

 縦横無尽に走り回ってかく乱しようとするが、追いかけてくるのはMSFの戦術人形の中でもトップクラスの身体能力を誇るWA2000であるため距離は一向に離れないどころか、距離を詰められていく。捕まってはどうしようもないと考えて盗んだパンツを全て捨てるが、それでも逃げきれない。

 

 そんな時だ、ふとマザーベースの甲板上が急に霧に包み込まれる。

 走り回る人形たちはそれに気付かない……逃げるメラルーは必死に逃げ回るが、突然何かにぶつかったかのように跳ね返されて転倒した。甲板上に倒れて目を回すメラルーを不思議そうに見下ろすWA2000であったが、ふとなにかの気配を感じ前方を見つめる。

 

「なにかしら…?」

 

 そこでようやく、周囲が霧に包まれていることに気付く。

 気象条件によっては海上のマザーベースが霧に覆われることもあるのだが…彼女は前方を注視するが、そこには何の姿もなく、やがて徐々に霧は晴れていった…。

 

「なんだったのかしら…まあいいわ、これで全部捕まえたわね」

 

 目を回しているメラルーの首根っこをつまみあげる。

 普通に見ている分にはかわいらしいネコのような生き物、つい見逃してしまいそうになるが、ほっといてまたパンツを盗まれると面倒なため邪念を振りはらう。

 後日、捕まえたメラルーたちは全て例のあの怪物の島へと島流しにされるのであった。

 

 これにて一件落着、MSFの女性陣たちは安心して暮らせるようになりましたとさ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと待って、なんで私だけパンツの窃盗被害が続いてるのよ」

 

 突如人形たちを集めたミーティングルームの場で、UMP45はそんなことをみんなに言いだした。

 あの泥棒ネコ共を島流しにしてから女性陣の窃盗被害はなくなったのだが、唯一、UMP45だけは被害が続いている様子。今回の会議はUMP45の呼びかけで集められたものであった。彼女が言いたいことは一つ、今だ続くパンツ泥棒を捕まえるのに協力しろということだった。

 だが、集められた人形たちはみんな問題が解決済みということもあってか、妙にやる気がない様子。

 

「お前このあいだパンツ盗まれるのに慣れたって言ってなかったか? だったら別にいいじゃんかよ」

 

「私だけ盗まれ続けてるっておかしくない? さすがに自分だけってなったら、落ち着いていられないでしょう? お願いだから手伝ってってば」

 

「うーん…」

 

 みんなの非協力的な態度を見てつい殺意を覚えるがなんとか抑え込む。

 そんな薄情な姿を見ていられなくなったのか、妹のUMP9が助け舟を出す。

 

「みんなお願いだよ、45姉を助けてあげて? 一人はみんなのために、みんなはひとりのためにだよね!?」

 

「まあそうだけどさ……なんか報酬がないと張り合いがないって言うかなんというか…」

 

「見損なったよスコーピオン! いつからそんなにお金に目がくらむようになったの!?」

 

「いや、あんたらにだけは言われたくないんだけど……45、なんかご褒美とかないの?」

 

「そうね……私のハッピースマイルなんていかが?」

 

「……解散」

 

「待って!? ちょっと待って、謝るから待って!?」

 

 立ち去ろうとする仲間たちを慌てて引き止める。

 それまでいつもの飄々としていた態度を改めて、素直な気持ちで助けを求めだす。

 

「お願いだよみんな! 助けてよ、お願いだってば…」

 

「んなこと言ったって、今度はもう手がかりないだろう?」

 

「なんで…? どうして助けてくれないの……私のことなんて、どうでもいいの…?」

 

「お、おいおい、泣くことないだろ…?」

 

 両手で顔を覆いすすり泣く姿を見て、さすがのエグゼも見捨てることは出来なくなった。

 今までは他のみんなも被害にあっているということで、なんとか我慢は出来たのだろうが、自分一人だけ被害にあっている状況がとても怖くなったに違いない。いくつもの修羅場を潜り抜けてきた彼女も、不安でしょうがないのだろう。

 

「なあ、みんなも助けてやろうぜ?」

 

 エグゼがそれまで傍観の立場に立っていた人形たちに呼びかければ、彼女たちは頷く。

 

「ほら、みんな協力してくれるからよ。顔あげろよ45、なんでも手伝ってやるからよ」

 

「ん? 今、なんでもって言ったよね?」

 

「あぁ?」

 

「ふふ、録音完了。言質取りました~」

 

「このやろう!」

 

 ボイスレコーダーをちらつかせてケロッと笑顔を見せるUMP45に、してやられるエグゼらであった…。




まだだ!まだ(モンハンコラボは)終わっていないっ!

UMP45は小悪魔じゃなきゃね!!


というわけで次回予告、主 役(被害者)はUMP45でお送りするよ!

討伐クエスト:霞に消えゆく太古の龍、お楽しみに!

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