壊れてしまった世界のありふれた戦場にて…。
数人の鉄血兵を伴い、処刑人は戦闘で荒れ果てた旧市街を練り歩く。
かつての大戦の影響を受けて住人の減ってしまった市街にとどめを刺すように大規模な戦闘が起こった場所だ。
住居が並んでいた場所は砲撃と爆撃で、ほとんどの住居が土台だけを残して破壊され、燃える炎に焼き尽くされて炭化した木がまばらに立っていた。
その眼を獰猛な獣のようにぎらつかせながら、処刑人は周囲を伺う。
砲撃で崩れなかった建物を見つければ、そこへ配下の鉄血兵へ指示を出し、住居の中に向けて火炎放射器を放つ。
地下壕のような物も見つかればそこに向けても火を放つ…少しでも誰かが隠れていそうな場所に対して、執拗とも言えるほど徹底的に処理を施していた。
処刑人が引き連れてる部下以外にも、街のあちこちで似たような部隊が掃討をしており、時折あぶりだされた者がいたのか銃声が荒廃した市街に響き渡る。
それも数分、あるいは数秒もすれば処刑人のもとへ標的を排除したとの通信が入る…。
ふと、処刑人は砲撃で崩れ落ちた廃墟の前で立ち止まると、くんくんと何かを嗅ぐような行動をとる。
彼女は無言で配下の鉄血兵に崩れた廃墟を指差し、鉄血兵は数歩前に出ると崩れた廃墟に向けて火炎放射器を放つ。
その後、処刑人が鉄血兵の一人から手榴弾を一つ貰うと、廃墟の窓に向けて放り投げる…。
爆発と同時に、廃墟の窓を叩き割り少女が一人脱出するが、気を張りつめさせていた処刑人は見逃さず、逃げようとする少女の背中に向けて数発発砲した。
一発が少女の背に命中し、撃たれた少女は走っていた勢いのまま崩れ落ちる。
「やれ」
短く、そう指示すると鉄血兵は倒れた少女のもとへ駆け寄ると、とどめを刺すように銃を乱射する。
殺処理を示すように親指をあげる鉄血兵に小さく頷いた次の瞬間、その鉄血兵は銃撃を受けて崩れ落ちる。
どうやら家屋にまだ生き残りがいたらしい、二階部分から撃ってくるもう一人の少女へ向けて鉄血兵は一斉に銃撃をくわえる。
配下の兵士たちが生き残りの少女を食い止めている間、処刑人は密かに廃墟の中へ入り込む。
激しい銃撃戦をしている少女がいる二階部分へゆっくりと上がっていくと、ちょうどリロードのために遮蔽物に身を隠していた少女と目が合った。
慌ててリロードをしてその銃口をあげる少女であったが、その時には既に処刑人の剣は振り払われようとしていた。
処刑人の剣は銃を持つ彼女の腕を銃ごときり落とし、素早く二の太刀が振られ、少女は膝の辺りを斬られその場に崩れ落ちる。
苦痛に呻き声をあげる少女の腹を踏みつけ、処刑人は冷たい目で見下ろす…。
涙と血で濡れる少女は処刑人を忌々しそうに睨む…。
ふと、処刑人は視線を少女の顔から外し、少女の胸元へと視線を向ける…そこに手榴弾が一つ括りつけられ、唯一残った手でそれを掴もうとしている。
少女の腹を踏みつけるのを止めて、処刑人は残った腕を手に取ると、ナイフを取り出してひじのあたりに刃先を刺し込んでいく。
肉を切り開かれる痛みに少女は悲痛な叫び声をあげる。
そのまま処刑人は乱暴に少女の関節部分を破壊していき、ついには少女の腕はその機能を果たさなくなるまでに破壊される。
それから少女の胸に付けられた手榴弾をとると、安全ピンを引き抜いて少女の破壊された手に握らせる。
「放すなよ、仲間が来てそれをどうにかしてくれたらお前の勝ちだ」
そこらにあった布きれで手榴弾を覆い隠し処刑人はその場を立ち去る。
廃墟を出ると既に鉄血兵たちが整列し主人の指示を待つ状態となっていた。
「お前たち、戦場でそんなきれいに並んでいたら格好の的だぞ。こういう時は散開して周囲を警戒するんだ」
「了解、処刑人」
少し疲れたように一息つき、戦闘で乱れた髪をかき上げる。
元はきれいな黒髪だったのだろうが、返り血でべっとりと汚れ乱れきっている。
それを構いもせず、引き続き処刑人は掃討を行っていく。
「処刑人、他の部隊は掃討を完了した模様です」
「おう、市街地の外に地雷でも敷いとけ。グリフィンのアホどもが来ないうちにな」
「了解です」
そんな時、処刑人たちの後方で爆発音が響く。
振り返った処刑人は先ほど少女がいた廃墟から煙が上がっているのを見ると、つまらなそうにぼやく。
「たいして頑張らねえもんだな…おう、オレたちは帰るぞ」
「よう、作戦終了だぜ。街の人間とグリフィンのアホ人形どもは皆殺しにしてきたぞ」
「あらおかえりなさい、相変わらず酷い格好ね。もう少しきれいに戦闘できない?」
「仕方ねえだろ、斬ったら返り血がつくんだよ」
鉄血の司令部に帰還した処刑人を出迎えてくれたのは、妙に気だるそうな様子の夢想家である。
返り血や硝煙で汚れ酷い匂いの処刑人だが、構わず夢想家の座るソファーへと腰掛ける。
「あ、処刑人おかえり…って何その酷い格好!? ちゃんと洗ってから中に来てって言ってるじゃない!」
「うるせえな、こっちは疲れてんだ。おう、それよりデストロイヤー…テメェオレになんかいう事あるんじゃないか?」
「は? そんなのないわよ」
「ほう…お前オレの部下にちょっかい出したろ? 昨日オレに泣きついてきてよ、グリフィンからの戦利品とり上げられたって」
「うっ…うるさい、下級人形の癖にあたしに自慢してくるからよ! 何か文句でもあるの!?」
「大ありだよメスガキめ、とったもの返しやがれ。そしてオレに殴られろ」
「ひっ、こっち来るなメスゴリラ!」
逃げるデストロイヤーと追いかける処刑人。
部屋の外でドタバタと騒がしい音を響かせている二人に、夢想家はくつくつと笑う。
そのうち処刑人が戻って来たがどうやら逃げられたらしい。
再びソファーに腰掛けようとしたところ、また別な女性がその部屋に訪れる。
「なんの騒ぎですの?」
「げっ、代理人…!」
「なんです、その恐ろしいものでも見たような反応は。それにしても酷い格好ですね、わたし前にも中に来る時はしっかりきれいにしてきなさいと言いましたわよね?」
「いやーちょっと疲れたから一休みでもしようかなと、ハハ…」
笑ってごまかそうとするが代理人の厳しい視線を受けて笑みが消える。
鉄血内部で最高位に近い指揮権を持ち、なおかつその厳格さと冷酷さで鉄血の内外から恐れられている代理人だ。
今日の処刑人は以前から指摘されていたにもかかわらず、汚い格好で中に入ってきてしまったために代理人よりお叱りを受ける。
いつもは強気で格上の人形にも反抗する処刑人だが、代理人相手にはそうもいかず彼女の前で小さくなっていた。
「それから、あなたの部屋は毎回汚いですわ。散らかしっぱなし、服は脱ぎっぱなし、全く片付けに手間取りましたわ」
「お、部屋の掃除してくれたのか! サンキューな!」
「やかましい」
額に代理人の手刀を受けてもがく処刑人、そんな彼女に呆れたようにため息をこぼし、彼女の手を引いて部屋を出ていく。
向かった先は簡易なシャワー室、無機質なタイル張りにシャワーだけが取り付けられた簡単な造りだ。
衣服を引き剥がされシャワー室にぶち込まれた処刑人は観念して戦場でついた汚れを落としていく。
「ったく、きれい好きも考えもんだよな。代理人のアレは潔癖症だな」
「普通のことですわ」
「うわっ! 代理人、お前な…こんなとこまで付いてくるなよ」
「あなたどうせ簡単に洗うつもりでしょう?」
下着姿でシャワー室に入ってきた代理人は処刑人の手からシャンプーをひったくると、手のひらできちんと泡立てた上で処刑人の汚れた髪を洗髪していく。
もう何日も戦場に居て、戦闘のたびに返り血を浴びた汚れはとても頑固なものであった。
それを代理人は丁寧に、なるべく痛みを感じさせないようしっかり汚れを落としていく。
代理人の慣れたような手つきと、彼女の柔らかな指が頭を撫でている優しい感覚にいつの間にか処刑人も目を閉じてリラックスしている…もっとも顔が泡まみれで目を開けないだけにも見えるが。
最後にシャワーで泡を丁寧に流して洗髪は終了だ。
「サンキューな、後は―――」
「身体を洗うだけですわね」
既にバスボウルにしっかりと泡立てられたボディーソープが用意されている、手際の良さに感心していると、代理人はおもむろに下着を脱ぎ始めた。
「おい、なにやってんだあんた!?」
「お風呂場で下着をつけたままの方がおかしいでしょう。ほら、前を向いてなさい」
羞恥心に顔を赤らめ、言われた通り真正面を向く処刑人だが、目の前にある鏡のせいで代理人の露わな裸体が丸見えだ。
耳まで真っ赤にして、処刑人はうつむき目を閉じて、あらゆる視覚情報をシャットアウトする。
そうしていると、しっとりとした泡の感触が処刑人の肩を包み込む。
代理人はせっせと泡をすくって彼女の身体にかけているらしい…目を閉じているために余計な想像が浮かび上がり、時折触れる代理人の柔肌を感じて身体の芯が熱くなってくるのを感じる。
「さ、リラックスなさい」
「お、おう…」
泡を全身に塗られ、ついに代理人の手のひらが本格的に処刑人の身体に触れ始める。
肩から腰にかけて、いつもの冷徹な姿からは想像もできないほど、代理人はまるで繊細なものを触れるかのように優しく手を滑らせていく。
ただ優しく触れているだけでなく、時折強弱を入れて身体を洗っていく。
そうしていると、代理人はわきの間から手を前にすべらせていくとゆっくりとお腹の辺りを撫でまわす…。」
「前を向きなさい」
「え、いや…前は自分で洗えるから」
「前を向きなさい」
「はい…」
観念して振り返ると、代理人のスレンダーな身体がその眼に飛び込んでくる。
だが恥じらう処刑人とは対照的に、彼女の表情はいつもの淡々と仕事をこなしている時の冷たい表情のままだ。
わなわなと震える処刑人を一瞥し、再び適量の泡を手に取り彼女の胸元・お腹・両足、そして股にかけていく。
常日頃恐れている代理人が今、自分にご奉仕するかのように身体を洗っている。
そんな背徳感とシャワー室の熱気で汗ばむ代理人に同性であるはずの処刑人ですら、その魅惑的な姿に脳髄を焼き焦がされてしまいそうになる。
そしてついに、代理人の手が処刑人の胸元近くまでやってくる。
「力を抜きなさい」
処刑人が身体をこわばらせているのを感じ取り、穏やかな声色でそう呟く。
じっと見つめてくる代理人は本当にいつもの冷淡な表情のままだ、勝手に欲情している処刑人とは違いこれも仕事の一つだと、いつものように淡々と行っているのだろう。
だがそんな代理人の目を真っ直ぐに見つめていると心が落ち着いてくる、処刑人の身体から力が抜けたことを感じ取った代理人は彼女の胸に触れるのであった。
「ん……おい、あんまり触るなよ」
「静かになさい」
他の誰かにこんなにも触られた経験のない処刑人は、恥ずかしさから逃げるように視線を横に向ける…いつの間にかいたらしい、夢想家がニヤニヤと二人を見つめている。
「さ、後は…」
夢想家を追い払おうとしたが、代理人が次なる標的に目をつけたために慌てて視線を戻す。
既に代理人の手は内もも辺りに置かれ、処刑人の最後の聖域を犯そうとしている。
もはや大笑いしている夢想家の声など耳に入らないくらい処刑人は追い込まれていた。
堅く閉じられた処刑人の両足を、代理人はそっと開く…抵抗しようと思えばいくらでもできるはずなのに、自分の意思とは反対に受け入れる身体に処刑人はさらに困惑する。
そっと、内ももから代理人の手が動き、ついに彼女の股に触れようとする…。
「おや、通信が入りましたね」
唐突に手を止めた代理人に処刑人はおもわず情けない声を漏らす。
「ふむ、今から向かいますわ……さて処刑人、後は自分でやりなさい」
そう言って代理人はタオルで身体を拭き、衣服を身に付けてさっさと立ち去っていく。
後に残されたのは呆然とした様子で椅子に座る処刑人と、腹を抱えて大笑いをしている夢想家だ。
「あー笑い死にそう。残念だったわね処刑人、わたしが手伝ってあげようかしら」
「うるせえよボケ…」
火照りきった身体に冷水を浴びせて熱を下げるとともに泡を流していく。
夢想家を叩きだし、自身もシャワー室を出ようとしたところで彼女は思いだしたように先ほど使っていたシャワーのところへと戻ると、乱雑に置かれた椅子とボウルを元の位置に戻す。
「代理人がうるせぇからな」
シャワー室を出て、適当に身体を拭きタオルで髪を拭いた後に処刑人はさっさと浴場を出ていく。
しかし数分後、戻って来た代理人に捕まり、再びシャワー室にまで連れ戻される。
どうやら髪を濡らしたまま出てきたのが気にくわなかったらしい。
ドライヤーで長い髪を乾かし終え、ようやく解放は…されなかった。
元の部屋に引っ張っていかれた処刑人はソファーに強引に座らせられる。
血に汚れた格好のまま入ってきたために汚れていたはずの部屋はいつの間にかきれいにされていた。
もはや代理人の次なる行動にワクワクし始めている処刑人をじろりと睨むと、代理人は銀色の櫛を取り出し処刑人の黒髪を梳かし始める。
浴場でのほぼ情事に近い行動とは反対に、優しく髪を梳かす行為は処刑人の心に安らぎと癒しを与える。
「処刑人、これからは自分でやりなさいね。お部屋も毎日清掃なさい、帰ってきたら身体を洗うこと。鉄血人形の名に恥じないよう、身だしなみはきちんとなさい」
「あいよ…なあ代理人」
「なんですか?」
「あんた、オレの事をどう思ってるんだ?」
「ただの駒ですわ」
「あんたならそう言うと思った」
予想していた通りの返答にむしろ清々しさすら感じる。
代理人の髪を梳かす行為にいつしか処刑人は目を閉じて、リラックスした様子でソファーに腰掛けていた。
「なあ代理人」
「なんですか?」
「もしオレが鉄血から離れて敵にまわったらどうする?」
その問いかけに、代理人は櫛をもつ手を止めた。
ゆっくりと目を開き、振り返ってみた代理人の表情はいつもの冷淡なものだ…。
何を考えているか分からないポーカーフェイスを、処刑人はじっと見つめる。
「完膚なきまでに破壊し、AIをリセットする。それだけですわ」
「ハハ、そうだよな…」
「わたしたちに何か不満でも?」
「いや、ただ気になっただけさ。でも鉄血を離れるってことは相当の覚悟を決めた時だろうな」
「その時はその覚悟ごと叩き潰してあげますから安心なさい」
「実にアンタらしいよ代理人。無粋な質問だったよな…」
再びソファーに深く腰掛け、代理人は櫛で彼女の黒髪を梳かしていく。
静かなその空間には髪を梳かす音と、壊れかけの時計の針が動く音だけが響く。
やがてその空間に、穏やかな寝息が加わるのであった。
「ハンターただいま帰還した」
そこへやって来たハンターとデストロイヤーは、ソファーに横たわり代理人の膝の上で眠る処刑人の姿を見る。
代理人はそっと口元の前に人差し指を立て、膝の上で静かな寝息をたてる処刑人の髪をそっと撫でる。
「ハハ、気持ちいいくらい寝ているな。いつもこう大人しいと任務も上手く行くのだがな」
「ほんと、黙ってればかわいいのにね…騒ぐからメスゴリラって呼ばれるのよ」
「二人とも、静かになさい。起きてしまうわ」
「ずいぶん優しいんだな代理人」
「部下のケアも上司としての仕事のうちですわ」
眠る処刑人の髪をそっと撫で、代理人は微かに微笑む。
そんな珍しい代理人の姿にハンターとデストロイヤーは互いに顔を見合わせ小さく笑う…。
「ハンター、後でわたしの所に来なさい。新しい任務を与えるわ…特別な任務よ」
「ああ、分かったよ。全く、こんな日が毎日続いてくれればいいのにな」
穏やかに眠る処刑人がかわいくて、ハンターも一緒になってその髪を撫でる。
処刑人はいつまでも静かな寝息をたてつづけるのであった…。
「…うーん…」
ふと目を醒ましたエグゼは、むくりと起き上がりぼんやりとした表情で周囲を見回す。
いつの間にかソファーで寝てしまったらしい、戦闘服を着たままの格好に小さく舌打ちをする。
昨日の任務はとても疲れるものであった、帰ってくるなりすぐに寝てしまったのだろう。
エグゼは大きな欠伸をかき、猫のように背筋を伸ばすと立ち上がり部屋の掃除を始める。
毎日掃除を欠かさず行っているおかげでゴミは落ちていないが、わずかに積もる埃を拭きとり少ない塵を集めてごみ箱に捨てる。
あらかた部屋の掃除を終えたエグゼは、そのままシャワー室へと向かう。
早朝の誰もいない浴場で髪を丁寧に洗い、同じように身体も洗う…あがったらすぐに髪を乾かし、再び部屋に戻る。
「えーと、どこ置いたっけな…あったあった」
机の引き出しから銀色の櫛を取り出し、鏡を前にエグゼは髪を梳かす。
少しの髪の跳ねっかえりも見逃さず、丁寧に髪を梳かし、洗濯した戦闘服に着替える。
鏡の前で服装を整え、何度も確認した上で彼女は部屋を出ていった…。
ある部屋の前までやってくると、扉を小さくノックする。
扉の向こうで声がして、近づいてくる物音がする。
エグゼはいっぽ後ろに下がり、扉が開かれるのを待つ…そしてゆっくりと扉が開かれると、エグゼは明るい笑顔を浮かべるのだ。
「おはよう、今日も仕事頑張ろうな…スネーク!」
エグゼにとって鉄血陣営は秘密の花園、マザーベースは修羅場です。
ふと鉄血にいた頃の処刑人の姿が書きたくて番外編として投降したしだい。
淡々と世話をする代理人と、勝手に興奮する処刑人のあらぁ~な風景が書きたかったのだ。
今でも鉄血の仲間のことは忘れていない処刑人さんです。