「なんだって? 仲間の一個中隊が全滅しただって?」
ある日のこと、中東のとある国での軍事訓練の仕事を終えてマザーベースに帰ってきたスネークとマシンガン・キッドに対し、二人が帰ってくるのを待っていたネゲヴとBARが驚きの報告をしてきた。
一個中隊の全滅とは言っても、MSFにとっては手痛い損害となる。
驚く二人に対し、ネゲヴは誤解を与えたことに気付き咄嗟に言い直す。
「正確には付き合いのあるPMCプレイング・マンティス社の部隊なんだけどね。そこの部隊長がたまたま近くにいた私たちに助けを求めてきたってわけ」
「プレイング・マンティス社か……あいつら確か、アフリカの南の方で仕事をしてたはずだよな?」
「ええ。私たちがモザンビークで支援活動をしてたら、負傷兵ばかりの部隊が来てね…酷いありさまだったわ」
「あの辺りは目立った紛争地帯ではないと思っていたが…それに、プレイング・マンティスの傭兵も腕が立つ兵士ばかりだ。相手は何者なんだ?」
「さっぱりだね。負傷兵に聞いても、わけが分からないうちに攻撃を受けて部隊が全滅したって……みんな西から逃げてきたんだよ」
「モザンビークの西……ローデシアか」
「キッドさんいつの時代の人間? 今はジンバブエだよ、ローデシアなんて呼ぶのは100年近く前だよ」
かの国をローデシアと称したキッドをBARはおかしそうに笑う。
MSFがこちらの世界にやってくる以前は、白人政権のローデシア共和国は健在であり、1975年の段階で政府側とアフリカ人勢力との間で紛争状態にあった。キッドはかつてアパルトヘイト政策を施行していたローデシア政府側に傭兵として雇われ、敵対する黒人勢力と戦っていた過去がある。
「しかし相手は何者なんだ?」
「それが分かれば苦労しないよ。まあ関係ないし、適当にほっとけばいいんじゃない?」
「良くはないだろう。プレイング・マンティス社はうちとも取引がある、助けを求められたなら応じるまでだ。ボス、この件はオレに任せてもらっても?」
「構わない。それにしてもローデシアか、注意しろよキッド」
「了解、ボス」
「――――で、なんでお前たちまで一緒について来てるんだ?」
「なんでって失礼ね。私とキッド兄さんはいつもペアでしょ?」
「ネゲヴはともかく、私を置いてく選択肢はないでしょ」
「…ったく、遊びに行くんじゃないんだぞ?」
こっそりヘリに同乗してはるばるアフリカまでやって来たネゲヴとBARにはキッドも困り果てる。
今言った通り、これは遊びに行くわけではないのだからピクニック感覚では来てほしくはない…ましてや、今回の仕事は情報もなくまったく未知の相手に注意を払わなければならない。MSFの優秀な諜報班をもってしても、今回の被害をもたらした相手を突き留めることは不可能であった。
それに加えて、旧ローデシアの地はキッドにとって忌まわしい記憶の残る場所でもある。
白人が黒人を貶めるアパルトヘイト政策が当たり前のように通用していた時代、白人政権側に雇われ黒人抵抗勢力を殺し続け、最後には仲間たちの裏切りに巻き込まれ死の瀬戸際に追い込まれた場所だ。
「ローデシアにはあまり良い思い出がねえな」
「ジンバブエだよキッドさん! そういえば私考えてみたんだけどさ、プレイング・マンティスの中隊を蹴散らしても正体不明の相手って言うことはさ、もしかしたら相手は少数精鋭…案外単独だったりして?」
「たった一人で精鋭中隊を潰せる存在がどんだけいるのよ。BAR、あんたおっぱいにばっかり栄養やって頭の方に回してないみたいね」
「うわー、相変わらず辛辣だね。というかネゲヴはいつまでそんなちびっこボディーでいるわけ?」
「うるさいわね。狭いとこ抜けたり弾が当たりにくかったり色々便利なのよ」
「お前らしゃべりすぎだ…」
既に3人はモザンビークの国境を越え、プレイング・マンティス社の中隊が攻撃を受けたという場所にまで足を踏み入れている。
ここに中隊を襲った者がまだいるのなら、足を踏み入れた3人を見逃すはずがない。
ふと、キッドは茂みの中に身をひそめ後ろを歩く二人もそれにならって茂みに身を隠す。
どうやら何かを見つけたようで、キッドは森の奥を指差し注意を促すが、二人はすぐにキッドが何を指し示しているのかに気付けなかった。最初にネゲヴが気付き、遅れてBARが気付く。そこにあったのは森の木々とツルを活かしたトラップが仕掛けてあったのだ。
自然の物を使い、自然の中に偽装させたトラップは注意してみても見逃してしまうだろう。
「パンジ・スティックって知ってるか? 竹とかの先端をとがらせたものを罠にしたものだ……あちこちに仕掛けてやがる。不用意に歩けば足が貫かれ、足下ばかり見てれば他のトラップにやられる。手に負えねえな、後退するぞ」
「え?ここまで来たのに?」
「相手がどんなタイプの奴か分かっただけでも十分な収穫だ。仕切り直しだ」
前方に仕掛けられたブービートラップの質から、相手の力量を見抜いたキッドは深入りせずに下がることを決意する。本音を言えば、ネゲヴとBARの二人を守りながら戦える相手ではないというのがあるが、二人の気持ちを考えそこまで言うことは無かった…。
周囲を警戒しながら来た道を戻ろうとした矢先のことだった。
最後尾を歩いていたBARが突然ツルに足をとられ樹上に吊し上げられる。
同時に、仕掛けられな鳴子がけたたましく鳴らされ、その音が森全体に響き渡る。
「た、助けてキッドさん!」
「分かってる!静かにしろ、今助けてやる!」
キッドはBARを吊し上げるツルを見つけると即座にナイフで切断、それに伴い落下してきた彼女を受け止めて地面に下ろしすかさず周囲の警戒に移る。
鳴子の音が止み森に静けさが戻るが、それが酷く不気味であり、キッドにはこの森全体が敵のように思えてならなかった。
片時も気を抜けない中、キッドは森に少しでも動きがあれば即座に引き金を引く構えであった。しかし誰かが近付いてくる気配もなく、静寂がいつまでも続く。
敵は近くにいないかもしれない、そう思い再び後退しようと思った瞬間だった。
なにかが空を切るわずかな音を耳にしたキッドは即座に機関銃を起こす、咄嗟に構えた機関銃に直撃したのは鋭利な矢であった。機関銃の銃身に弾かれて軌道がわずかにずれたが、その矢はキッドの肩に深々と突き刺さる。奇襲を受けたキッドはすぐに体勢をたてなおそうとするが、肩にもらった矢の傷が焼きつくように痛みだす。
「やろう、毒矢だ…!」
「毒矢!? それってまずいんじゃ!」
毒と聞いて二人の戦術人形は青ざめる。
頼りにしていたキッドの危機に二人はパニックに陥る、キッドたちにとって最悪の状況を相手が見逃すはずがない。
気配を悟られることなく一気に接近してきたのは、迷彩服に身を包みフェイスペイントを施した屈強な男であった。
茂みの中から音もなく姿を現した大柄な男に驚くネゲヴ、咄嗟に銃口を向けるが間に合わず、銃口を掴みあげられ彼女の小柄な体躯を軽々持ちあげて木に叩きつける。すかさず男はBARに対しナイフをつきたてる。銃を盾にナイフを防いだBARであったが、握っていた銃を容易く奪われ、銃床で思い切り殴りつけられた。
倒れ伏す二人に対し、男は奪い取ったBARの銃口を向けた。
「させるかよ!」
男が二人を射殺しようとするのをキッドが阻止する。
MSF内でも屈指の身体能力を持つキッドであるが、対峙する男はキッドの突進を受け止めたばかりか、押し返そうとする。毒で弱っているとはいえ、あのキッドが押される姿にネゲヴたちは動揺を隠せなかった。
「てめぇ! 上等じゃねえか!」
相手の腹に膝蹴りを叩き込み、顔面を殴りつける。
わずかに怯んだ相手にキッドは追撃を仕掛けようとしたが、相手のハイキックをまともに受けて膝をつく。男は腰のホルスターから拳銃を引き抜き、銃口をキッドに向けた。
「待てよ……お前、キッドか?」
「あぁ?」
男は銃弾を撃ちこむことをせず、逆に拳銃を下ろした。
相手の奇妙な行動に困惑するキッドが相手の顔をまじまじと見つめ、そこでキッドも見覚えのある顔だと気付いた。
「お前、もしかして…"ジャングル・イーブル"か?」
「ということは、お前キッドで間違いないな!? ハハハ、懐かしい顔だぜまったく!」
お互いの素性が分かったとたん二人は笑い合うと、お互いに手を取り合って立ち上がる。
それから軽いハグを交わしてから、二人はまた笑い合う。
「イーブル、お前一体今までどこにいたんだ? 死んじまったかと思ったぜ」
「そりゃあこっちのセリフだ。任務から帰って来たらマザーベースが消えてたんだからな」
「そりゃあ大変だったな。じゃあ今まで何してたんだ? どうしてここに?」
「オレは一旦祖国の南アに帰って、そこで第32大隊に所属してたんだ。ある時激しい嵐に巻き込まれてな、気付いたらここだ。わけがわからねえ、向かって来る奴をぶち殺すことしかすることがなかったんだよ」
「相手には同情するよ、おかげでオレたちもお前の獲物になりかけた」
「悪かったな、あまりにも騒がしいもんでな。ほらよ血清だ、矢にはクモ毒がある、死にたいなら放っておけ」
「生きてるうちにやりたいことがまだまだあってね、貰っとくよ」
血清を貰いすぐに処方する。
それからキッドは、かつての仲間であったイーブルに対し自分たちが置かれている状況の説明をする。
まずこの世界が自分たちのいた世界と異なる世界だということ、今の西暦が2060年代と聞かされた彼は酷く頭を悩ませていて、それがキッドには昔の自分のように思えて笑った。
「おいキッド、オレをおちょくってるのか?」
「おちょくってなんかいるかよ。信じられねえことかもしれないが事実だ、あまり深く考えるなよ……ああそうだ、折角だから紹介するぜ。さっき戦術人形の説明をしたよな、彼女たちがその戦術人形なんだ。こっちがネゲヴでこっちがBARだ、よろしくやってくれよな」
「ど、どうも…ネゲヴよ」
「よろしく、BARだよ」
蚊帳の外にいた二人を思いだし自己紹介を促すと、二人は少し不安そうに自己紹介をする…さっきまで自分たちを殺そうとした相手なのだから仕方がないかもしれない。
一方のイーブルの方はというと、知り合ったばかりの戦術人形二人を懐疑的なまなざしで見つめていた。
「こんな女子どもを連れて戦場に来てるのかお前は? 信じられねえな。正気を疑う」
「言いたいことは分かるが、心配いらない。彼女たちのことを知れば、今お前が抱いている考えが誤解だって分かるさ」
「どうでもいい、そんなことよりマザーベースに連れてってくれ。あそこが恋しい、ボスにも会いたいしな」
「ああもちろんだ。だが、トラブルはなしだぜ?」
はい。
作者の趣味全開ですね、アパルトヘイトとか興味ある人日本にいらっしゃる?
というわけで、初代メタルギア2より、ザンジバーランドの傭兵であるジャングル・イーブル(復刻版)の登場です。
トラブルメーカーな匂いがぷんぷんしますね…。
マシンガン・キッドと同様、原作の設定を混ぜて好き放題弄ったキャラ設定を置いておきます
【ジャングル・イーブル】
元南アフリカ共和国軍特殊部隊【レックス・コマンド】出身であり、密林などでのゲリラ戦、特にアンブッシュを最も得意とする。
過去にはたった一人で2個中隊を全滅させたと言われている。
彼は白人が黒人の人種隔離政策であるアパルトヘイト政策下の南アフリカで生まれ育った白人で、幼い頃から影響を受けたためか、有色人種に対し差別的で基本的に見下した態度を取る。
キッドとはレックス・コマンド在籍時、ローデシア紛争にて何度か共闘し、別々にMSFに合流した。
ビッグボスとは戦場で敵同士として遭遇し、2週間もの長い死闘の末に生け捕りにされ、彼に勧誘される形でMSFに参加した。
MSFがドルフロ世界に飛ばされたとき、イーブルは任務中で巻き込まれることは無かった。
マザーベース消失後、故郷の南アに帰国し【第32大隊】に所属し、アンゴラやナミビアの内戦に参加していたが、ある時嵐に巻き込まれてドルフロ世界に飛ばされた。
※戦術人形(♀)に関しては否定的、元々のトラブルメーカーなところもあり現在のMSFでやっていけるか不安な人。
戦場に女子どもがいるのを毛嫌いしている模様。
※容姿は、エクスペンダブルズシリーズにてドルフ・ラングレン演じるガンナーをイメージしています。
※こいつもそうだけど、ビッグボス、オセロット、エイハヴ、マシンガン・キッドをやっつけちゃうソリッド・スネークの怪物っぷりよ…。