METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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MSF支援班の多忙な一日~フルトン回収~

 MSFには、役割ごとに分けられた以下の班が存在する。

 

 その名の通り、紛争地帯に派遣され請け負った軍事業務を執り行う"戦闘班"。

 

 その高い技術力を日々練磨させて武器・兵器の開発、研究を行う"研究開発班"。

 

 MSFの栄養管理を担い、新たな食品の開発と既存レーションの改良に励む"糧食班"。

 

 MSFの本拠地となるマザーベースの拡張や設備管理、資源等の管理を行う"拠点開発班"。

 

 MSFが他勢力を相手にするうえで欠かせない情報を集め、それを分析したうえで作戦に役立てる"諜報班"。

 

 負傷兵の治療の他、派遣地域の風土病を把握・必要な場合のワクチン接種、感染症の予防などを担う"医療班"

 

 

 そして、戦闘班と共に戦地に同行し作戦のサポートを行う"支援班"が存在していた。

 支援班は、分かりやすいところで言えばスタッフのために武器弾薬の類からレーションなど、様々な任務に欠かせない物資を用意する任務や、要請があった場合の火力支援なども行う。そしてなんといっても、彼らが頻繁に執り行う作業はフルトン回収作業である。

 スネークを含め、戦闘班のスタッフや戦術人形たちはフルトン回収装置を上手に使いこなし、哀れな兵士たちを大空に打ちあげまくる。

 小さな武器から人間または人形、はたまた動物から兵器の類まで、フルトン回収を担う支援班が日々目にする回収物は多種多様である。

 

 今回はそんな彼らの、愉快で多忙な回収業務を覗いていこう。

 

 

 

 

 

 

 70年代初頭の陽気なロックが流されるヘリの機内にいるのは、もうこの作業に従事して長いことになるスタッフ"ディアー"と"ゴート"だ。

 白人のディアーはその昔よくシカ狩りをしてた経歴からそのコードネームがつき、黒人のゴートは特徴的なアフロヘアが羊毛を連想させるとしてその名がつけられた。二人とも出身は同じロサンゼルス、なおかつ幼なじみで一緒にMSFに入隊した経歴のある仲良しコンビだ。

 昔、MSFが人手不足に悩まされてた頃に採用された者で、実は戦闘に関してはからっきし…シカ狩りをしていたディアーはともかく、ゴートは薬局でアルバイトしてただけの経歴だ。

 まあ、その後地獄のような訓練を経てまともに戦えるようにはなったが、やはりエイハヴやキッドなどと比べると遠く及ばない……が、こうしてフルトン回収班として二人はMSFに貢献していた。

 

「よーし気合入れろよ兄弟、今回はワルサーの支援だ。きっといい人材を見つけてくるぞ」

 

「前に回収した奴は優秀だったしな。今回も期待できそうだぜブラザー!」

 

 カセットテープの音量を上げてノリノリでへたくそな歌を歌う二人、すぐにやかましいとパイロットに怒鳴られて音量を下げるが、二人は小声で歌詞を口ずさみ音楽に合わせて身体を揺らす。

 そうしていると、最初のフルトン回収を知らせるブザーが鳴る。

 最近は便利なもので、フルトン回収装置が使用されると連動して機内のセンサーが感知し、おまけに回収位置をレーダーに表示してくれるというのだ。おかげでフルトン回収のミスは大きく減り、回収者の安全性も大きく向上した。

 

「見ろ兄弟、ありゃあ女の子だ!」

 

「ということは戦術人形か、こりゃまたミラーさんが喜ぶなブラザー!」

 

 見目麗しい戦術人形の回収は、なんやかんやいって二人にとってお楽しみの一つだ。

 ただしスケベ心全開で接するだけが能ではない…回収される戦術人形は大抵酷く暴れようとするか、手がつけられないほど大泣きする者がほとんどだ。そんな対象者をなだめて穏便に基地まで連れて帰るのも彼らの仕事の一つ、二人が今日までこの回収班でMSFに貢献できているのはそう言った事も良くこなすからである。

 さて、今回回収された戦術人形の様子はというと、後者だ。

 回収する前から大声で泣きわめいていた人形をヘリの機内に運びこむと、さらにそこで泣き叫ぶ。

 機内の密閉された空間に声が反響しズキズキと頭が痛む。

 

「へいへいお嬢ちゃん、落ち着きなよ。もう怖いことなんかないからな?」

 

「ブラザーの言う通りさ! ひとまず落ち着いて、楽しいおしゃべりでもしよう」

 

 だが、泣き止まない。

 どれだけ慰めてもその子は泣きじゃくるのを止めてくれず、二人は苦戦する。

 

「うぇ~~ん!! 私のお菓子!! お菓子食べてただけなのにっ! うわーん!!」

 

「へい兄弟、この子はもしかしてお菓子が食べたいんじゃないのか?」

 

「泣き止んでくれるといいが…確かここに…」

 

 ゴートはごそごそと機内のコンテナを漁ると、板チョコを一つ取りだした。

 それを少女に見せると、少女はピタリと泣き止んだ。

 

「良かった良かった、君名前は?」

 

「私はFNC、これからお菓子食べようとしたらいきなり後ろから殴られて…気付いたら空に…」

 

「オレはシカ狩りのディアーとでも呼んでくれよな」

 

「オレの事はアフロヘッドのゴートって呼びな!」

 

「それにしてもこんな可愛い女の子を殴るなんて、ワルサーってのは酷い奴だな。まあいい、FNCこんなチョコしかないけど良かったら食べなよ」

 

「私にくれるの!? わーい、いただきまーす!」

 

 先ほどまで大泣きしていたFNCはすっかり泣き止んで、ゴートが渡してくれた板チョコにかじりつく。

 はむはむと、幸せそうにチョコにかじりついたFNCであるが、ある程度咀嚼したところでフリーズする…。

 

「こ……これ……に、苦……!」

 

「しまったぞブラザー! こいつはビターチョコだったぜ!」

 

「なにやってんだ兄弟、なにか甘いものはないのか!?」

 

「オレは苦い物が大好物なんだ!」

 

「うわーーん!!」

 

 再び泣き始めてしまったFNC。

 彼女を泣き止ませる物を何一つ持たない彼らはどうすることもできず、とりあえずかけられるだけの言葉をかけるも効果はない。結局、基地に戻るまでFNCは泣き止まず、そのままの状態で基地のスタッフに引き渡されるのだった。

 

 

 

 

 フルトン回収物の中には、時々負傷兵なども打ちあげられてくる。

 滅多にないことであるのだが、重傷ではないが作戦継続が不可能と判断され、なおかつ他の手段での回収に手間がかかる時の非常手段として行われる。そういう時のために、医療班で研修を受けたゴートがいるわけである。

 さて、本日負傷兵として空に打ちあげられたのは戦術人形のガリルである。

 運び込まれたガリルは衣服に血がつき、痛そうに呻いている。

 

「あいたたたた……あかん、痛いわもう…」

 

「手ひどくやられたみたいだなガリルはん。どこやられたんだ?」

 

「大したことないねん、心配いらんわ…イテテテ」

 

「大したことあるじゃないか。どれ見せてみな、オレが治療してやろう」

 

「いらん言うとるやろ? つばでもつけとけば治るわ! アイタ!」

 

「ほれ言わんこっちゃない」

 

 痛そうにしているガリルに治療をすすめるがガリルは頑なに断るのだ。

 ぽたぽたと機内に垂れる血を見て、やはりただ事ではないと判断し、しつこく思われても二人は治療をすすめる。

 

「せやから平気言うとるやろが!痛い!心配いらんわ!あいたっ!」

 

「どっちだよ! せめて負傷カ所だけでも…」

 

「それは言えへん」

 

「なんでだ?」

 

「それを聞くんか? うちがこーんなに秘密にしたがってるのに、おのれらそれでも聞くんか?」

 

「いや、そこまで言われたら無理にとは言わないけどよ…」

 

「それでええんや」

 

「あ!分かったぞ兄弟、ガリルはん、あんたケツを撃たれたんだな!?」

 

「そんなデカい声で言うなやドアホ!」

 

 背後にまわったディアーが、ガリルのお尻付近に血が滲んでいるのに気付く。

 ついにばれてしまったガリルは最初こそ喚き散らしたが、やがて開き直る。

 

「急いで治療しないと!」

 

「あほか!? なんでうちが野郎に尻見せなあかんねん!? それもお前、薬局でアルバイトしとっただけのど素人やろ!? なおさら任せられんわ!」

 

「安心しろガリルはん、傷口の消毒くらいならできる!」

 

「そないなことうちでも一人でできるわ!」

 

「ガリルはん、ケツの傷をなめたらいかんぞ? オレが前シカ狩りの最中、クソしたくなってしゃがんだらケツにヘビが噛みついてな。そりゃあ痛いのなんの、治療怠ったら跡が残っちまってな…ほれ、これがその時の」

 

「ほうほう……って、そんなきったないケツうちに見せんなや!!」

 

 ズボンを下げて尻の古傷を見せてきたディアーを蹴り上げる。

 その後はなんとか痛みに耐えていたガリルであるが、痛み止めくらいは処方されて基地に至る…。

 

 

 

 

 泣きわめいたり、ヒステリックだったり、ブチギレまくっている者をフルトン回収するのは確かに大変であるが言葉を使って意思の疎通が図れるという点ではまだ気が楽だ、というのがこの作業に従事する二人の本音である。

 言葉が通じない相手のフルトン回収程恐ろしい物は無い。

 例として挙げるのならば、制御不能に陥った装甲人形の類だろう。

 武器・兵器の回収にもフルトンは使用され、軍用人形なども持ち帰った後に研究資料の一つとなるため積極的に回収される。大抵は機能停止させられているが、時々起動状態にある人形が大暴れする事例もある。そんな時はまあ、色々やって鎮圧するのだが…。

 

 この日回収された言葉が通じない相手は、酷く落ち込んだ様子でうなだれ、二人の向かいのシートに座っていた。

 

「なあ兄弟…オレの勘違いじゃなければ、こいつはE.L.I.D感染者ってやつじゃないか?」

 

「間違いないぜブラザー、感染者だ」

 

「誰だこんなのフルトン回収しやがったのは…」

 

「ジャングル・イーブルだよ。感染者の群れを一人で襲撃したんだとよ」

 

「感染しないのかあいつは?」

 

「みんな胃腸炎にかかっても、あいつだけぴんぴんしてたくらいだからな。免疫が強いんだろう」

 

「とりあえず、どうするよこいつ?」

 

 このまま基地にまで連れていったらパニックになることは間違いないだろう。

 何故か大人しい感染者が気になるが、余計な被害が生まれることを恐れ、二人は感染者を誘導してヘリから突き落とすのであった。

 

 

 

 

 

 

 フルトン回収で、癖のある物を打ちあげる者は大勢いるが、二人が最も気を引き締めて取り掛からなければならない相手は、やはりスネークである。

 スネークの回収物は傾向が読めない、読めないのだ。

 しばらくまともな人材を回収しているなと思えば、ある時はやたらと兵器の類を回収し続けることもあれば、短い間隔で何十人も空に打ちあげてくることもある。30分の間に10人以上フルトン回収するのはスネーク以外誰もいない。

 

「よし、気を引き締めてかかるぞブラザー」

 

「了解だ兄弟。よし、さっそく回収物だ…よし、まずは人形だ」

 

 最初のフルトン犠牲者は戦術人形である、比較的楽な相手とたかをくくっていたが機内に入れると捕まえた戦術人形はなんとも癖の強い人物であった。

 

「あぁん、折角刺激的な経験してたのに、もうお終いなの~?」

 

「おい兄弟、なんだこのセクシーなねーちゃんは?」

 

「知らんブラザー、さっきからエクスタシーが止まらねえぞ」

 

「Mk48よ、よろしくね? 私を空に打ちあげたおじさまはあなたたちの仲間かしら? 大人しくしてたらまた会えるかしら~?」

 

「まあ確かにあの人はオレたちのボスだ。だがボスに危害を与えようとしても無駄だぞ」

 

「そんなこと考えてないわ。この私があんな一方的に屈服させられるなんて……あんな風に責められたのは初めて…素敵よね…?」

 

 頬を赤らめ、自身の指を舐めるMk48。

 服装もあいまってなんとも扇情的な彼女の姿に二人はすっかりメロメロ、ただしMk48はあくまで自分を打ち負かしたスネークに興味を持っているようで、二人は放置する。

 

「おっとブラザー、次なる回収物だ」

 

 やはりスネークのフルトン回収の間隔は早い。ぶつぶつ卑猥な言葉を紡ぎ出すMk48をいつまでも眺めていたかったが、仕事をさぼってはいけない。ハッチを開き、ヘリのフックに引っ掛けられたものを引き上げる。

 運び込まれたのは、大きく赤い色の丸っこいロボットであった。

 ツンツンとつついてみるが、表面がわずかに明滅したのみで動くことは無かった。

 

「なんだこれは?」

 

「知らないな」

 

「あらあら……とんでもない物が運ばれてきたわね?」

 

「む、Mk48はこれが何か知っているのか?」

 

「ええ、もちろん。見たところ機能不全に陥った【ゴリアテ】みたいね~、動きださないことを祈るわ~」

 

「ゴリアテか…動いたらヤバいのか?」

 

「ええ。ボンってなって、一発でこんなヘリ吹っ飛ばされるわ」

 

「え?なにそれ…」

 

 スネークがフルトン回収したのはなんと、鉄血制御下から外れ機能不全に陥ったという自爆兵器ゴリアテだ。

 凄まじい威力の爆発を起こし、あらゆるものを吹き飛ばす厄介な兵器…制御を外れているだけに起動すればどのような行動をするか分からないと言われ、機内はパニックに陥った。

 

「ボスぅぅぅ!!」

 

「なんてもの回収してくれたんだー!!」

 

「うふふふ、刺激的ねぇ~。スリル感があっていいわ~、ますます興味が湧いちゃった♥」

 

 男たちの悲鳴とMk48のクスクスと笑う声が機内に響く。

 ゴリアテの目が明滅するたびに恐怖に陥りながら、彼らは早く基地に戻ることを心の底から祈るのだ…。

 

 結局、ゴリアテが再起動することは無く、ヘリは無事基地にたどり着く。

 

 基地に運びこまれたゴリアテは調整を受けて自爆機能を排除され、無事、マザーベース無人機族の仲間入りを果たすのであった。




リクエストネタ~!

これでええんかな?
あと、ガリルはんはこの路線でまた登場させますさかい。

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