「前々から思ってたけど、あんたらこのままでええんか!?」
前哨基地の野外食堂にて、ガリルは同じテーブルに座る3人の戦術人形に対し脈絡もなくそう言った。
割と大きな声で言ったはずなのに、すぐそばではエグゼの愛娘ヴェルが水鉄砲をもって大騒ぎしていたために、ガリルの渾身の訴えは周囲の喧騒にかき消される。
「ヴェルちゃんはいつ見ても可愛いですわ」
「ほんとにゃ、かわいいにゃ」
「無邪気っていいわよね」
「おいお前らうちの話聞けや!」
遊び回るヴェルの無邪気さに癒されている戦術人形三人、StG44・IDW・Uziを引っ張り強引に注意を向けさせる。なんだめんどくさいとでも言いたげな様子に、ガリルは顔を真っ赤にして怒るのだ。
「なんやその態度は、うちがせっかくいい話しよおもっとったのに!」
「どうせまた料理の味付けが薄いだのなんだの、そんなしょうもない話に決まってるにゃ」
「そないな下らんことちゃうわ!」
「まあいいからさっさといい話とやらを言いなさいよ」
「ったく……あんな、あんたらこのままでええんか!?」
「そのセリフはさっき聞きましたわ」
「あほか! 大事なのはこっからやって、普通に分かるやろ!? というか、聞いてたんなら返事せえや!」
ギャーギャー喚き散らすガリルを3人はいつものようになだめて見せるが、今日は特にうるさい日だ。
ちなみにこの4人は結構前からMSFに在籍しており、在籍歴だけならカラビーナや79式よりも上で、あの優秀なジャンクヤード組とほぼ同期だったりする。
3人は古参メンバーとはいかずとも、十分ベテランの領域にいるはずなのだが…。
「うちは今の立場になっとくいってへんで。同期のFALとかMG5は第一線で活躍しとる、うちらの後輩のはずのカラビーナや79式、グローザなんかは第一線どころかエリート特殊部隊や。それに比べてうちらなんなん? 後から入ってきた奴らにいいように使われて、アメ公との決戦じゃうちら揃いも揃って弾薬運搬の補給係や!」
「でも、補給係も立派な仕事ですわ」
「分かっとる。せやけど、うちら戦術人形の花形は前線で戦うことやろ? うちはそう思っとる、あんたらはどうなんや?」
「にゃ、補給係は色々な人と触れあえて楽しいのにゃ」
「服もあまり汚さずにすみますしね」
「給料も言うほど悪くないしさ」
「あんたら話にならなすぎやろ!? どんだけ負け犬根性やねん!」
「負け犬は言い過ぎなのにゃ。あと私はどっちかというとネコさんなのにゃ」
「やかましいわ!」
「はいはい、もうこれくらいにしましょう。ガリル、もうそろそろ寝る時間じゃないの?」
「せやろか? 言われてみればねむなってきたし少し寝よっかな……って、誰がこんな真昼間から寝るか! ついのりツッコミしてもうたやないか! もう頭に来たで!」
三人の返答にキレたガリルがすかさずテーブルに手をかけてひっくり返そうとしたが、三人は即座にテーブルを押さえつけて抵抗する。しばらくガリルはちゃぶ台返ししようと頑張っていたが、3人の力に屈服してやがて諦める。
「今日のところはこれくらいにしといたるわ…」
「あんたのセリフが一番負け犬くさいんだけど」
「うっさいわ! Uzi、あんた一時期スコーピオンにライバル心燃やしとったはずやで!? それが今は何や、現状に満足してるのか何か知らんが、すっかり格の差見せつけられとるやん!」
「べ、別にスコーピオンに負けたとか思ってないし…今でも対抗心はあるわよ」
「せやったらなんでうちの話にくいつかんのや! はっきり言うで、あんたら3人からは熱いもんが感じられへんのや! こないなことじゃ同期に差をつけられるし、後からのもんにはどんどん追い抜かれてくで!? スコーピオンとかスプリングフィールドとかエグゼとか、レジェンドクラスと肩並べるなんて夢のまた夢や!」
「じゃあどういたしますの? 今だって訓練は欠かしておりませんわ、でもライバルはエリート人形ばかりですわ」
「確かに連中はエリート人形、鮮やかに咲き誇る花かもしれへん。それに比べうちらは名もなきぺんぺん草や…せやけどな、雑草にはどんだけ踏まれてもしぶとく生きる強みってもんがあんねん! 踏まれて踏まれて、それでも枯れずに生き残った雑草が、誰も見たことないきれーな花咲かせるかもしれんのや!」
ガリルの熱意ある言葉に、先ほどまでやる気の"や"の字もなかった3人に変化が生まれる。
いつからだろうか、追いつき追い越そうとすることを諦め現状に満足して立ち止まるようになってしまったのは。口では大層なことを言えたかもしれないが、行動に移すことは無かった。
そんな中唯一、ガリルだけが現状の立場をよしとせず、雑草根性とも言える闘志を一人燃やしていたのだ。
3人がいつの間にか忘れてしまった情熱を、彼女はずっと心に秘めていた。
ガリルの熱い想いを目の当たりにし、3人は久しく忘れていた熱い想いを思いだす……そうだ、まだ自分たちは頑張れる。自分たちの力はこんなものではないはずだ。
3人の目に再び闘志が宿るのを見たガリルはテーブルの上に手のひらを掲げる。
彼女の意図を察した3人は、その手に自分たちの手のひらを重ね合わせた。
「能力で負けてもガッツで負けるな、や。気持ちだけは負けん気でいくで!」
「分かったにゃ! やる気がみなぎってきたのにゃ!」
「ガリル、あなたにお礼を言わなきゃなりませんわね」
「ほんとよね。それで、まずはどうするの?」
「任しとき、うちに考えがあんねん」
ニヤリと笑うガリルに3人はかつてないほど頼もしさを覚えた。
もしかしたら何も考えてないだけで、勢いだけで突っ走ってるだけかもしれない。
しかし、こういった場面において何よりも重要なのは行動に移すという意思の強さなのだ!
翌日、希望を胸にガリルに呼び出された場所へ赴くと……そこで3人は土下座するガリルの姿を目の当たりにする。
「お願いします! うちらを鍛えてくれませんやろか!!」
その懇願している相手というのがまずい…。
元米軍特殊部隊のアーサー大尉とテディ軍曹、同じく米海軍特殊部隊のアイリーン上等兵曹である。
土下座するガリルをアイリーンはくすくす笑いながら見ており、テディ軍曹の方も…ぬいぐるみなので一切表情に変化はなくて愛くるしい姿のままだ。
それに対しアーサーはというと、視線だけで命を奪えそうなゾッとするような冷たい目でガリルを見下ろしているのだった。
後方任務ばかりしていた3人でもアーサー・ローレンスがいかに危険人物かは理解している。
MSFで誰も積極的に関わろうとしない相手に、ガリルは訓練指導を申し込もうとしているのだ。3人は頭の中で"任務失敗、今すぐ退却せよ!"というシグナルを強く念じるが身体がピクリとも動かない!
「あはは、圧迫面接じゃないんだからそんな怖がらなくていいよ。ほら、大尉もそんな風に見るのは止めて、怖がってますよ?」
「…フン…」
「君らあんまり見ない顔だな、かわいい。オレのことはテディ軍曹って呼んでハグしてくれよな、かわいい人形ちゃんたち!」
早速戦術人形たちにすり寄っていこうとするテディ軍曹だが、アーサーに踏みつけられてしまう。
「訓練を頼む相手なら他にいくらでもいるはずだ。何故オレたちに頼む」
「それは、えっと……ガリル?」
「あんたらに頼むのが一番間違いない、そう思っただけや! うちらがあいつらに勝つ思ったら、普通の訓練なんかじゃ絶対に勝てへんねん! あいつらがこなす訓練と同じじゃいかんのや……あんたらの評判は聞いとる、地獄のような訓練しとったんやろ!? うちらにもそれを教えてくれ!」
力強い声で懇願するガリルにアイリーンは感心した様に微笑みかける……軍曹の方も、このようなやる気に満ちた者を久しぶりに見たのかどこか楽しそうである。
「どうします大尉? なかなか根性ありそうじゃないですか、見込みありだと思いますけど?」
「そうっすよ大尉。かわいいこを手取り足取り訓練できるんですよ? ラッキーじゃないすか?」
「黙ってろ軍曹。おい小娘、お前何故そんなに強くなりたいんだ?」
「理屈で説明はできヘン。強いて言うなら、うちは負け犬になりとうないんや」
「そうか……小娘、お前はオレたちが経験した訓練を地獄と言ったな。確かにその通りだ、だが何故そうするか分かるか?」
アーサー大尉の問いかけに、ガリルは返答することが出来なかった…色々と理由を考えてみるがその答えとなるものが浮かんでこない。後ろにいる三人にも大尉は視線を向けるが、彼女たちもまた答えを出すことは出来なかった…。
「オレたちの訓練は徹底的に己を追い込む、死を感じさせるほどにな。何度も何度も死を連想し、肉体と精神を地獄の底に追い込んでいく。そうすることで肉体的、精神的苦痛に耐性は否応なしについてくる。その域に慣れて来た時、オレたちは戦場に地獄を見ることはなくなる」
「そういうことだよかわいこちゃんたち。オレも大尉も、アイリーンちゃんもそうしてきたんだ……地獄になれておけば、戦場がピクニックに早変わりだ。まあそれは言い過ぎだけど」
「訓練では戦場を意識せよ、戦場では訓練を思いだせ。定番だけど大切な心掛けだよ……それで、どうするんですか大尉?」
「条件があるぞ小娘……オレは泣き言を聞くのが一番嫌いだ。少しでも弱音を吐いたら訓練は中止、以降オレは関与しない。それが誓えるなら、お前らの訓練を引き受けてやる」
「ほんまか!? うちらの面倒見てくれるんか!? っしゃーー!!」
先ほどまで土下座していたガリルは立ち上がって全身で喜びを表現すると、他の3人の手を握ってぴょんぴょん跳び回る。
苛立たしそうに舌打ちする大尉に気付かず、ガリルは大はしゃぎ、他の3人もまたつられて大喜びし始めた…。
「それで大尉、どうあの子たちを訓練するんですか? デルタ式? SEALs式?」
「どっちだろうね…アイリーンちゃんは
「受けたのは受けたんですけど、脱落しちゃって……選ばれた人はみんな化け物クラスでしたね。アレは本当に死ぬかと思いましたから…特殊部隊の訓練を課しますか?」
「やめとけ。こういうのは段階的に訓練内容をあげていかなければならない。オレたちが受けた訓練を、今のあいつらが耐えられるとも思えん」
「なるほど、基礎的な訓練から始めるということですね?」
「そういうこと。ちなみに大尉は訓練教官の経験もあるから、頼りになるんだぜ」
「それは彼女たちにとっても心強そうですね」
かくして、4人の戦術人形の訓練を引き受けることとなった元米軍特殊部隊の3人。
早速ガリルたちは翌日の早朝から呼ばれ、アーサーの指導の下訓練を始める……のだが…。
「――――ぐふっ…!」
「ひぃ……ふぅ……ぐはっ…!」
早朝からガリルたちに課せられたのは、60㎏もの荷物を背負いながら、障害物が併設されたグラウンドを延々と走らせるというもの。戦術人形にとってその程度の重量はなんてことないと思えたが、何度もグラウンドを走らされているうちに負担の度合いが増していくように感じるのだ。
汗と砂で衣服は汚れ、疲労困憊の表情であるがどれだけ走ってもアーサーは彼女たちに終了のホイッスルを鳴らさない。
堪らず膝をつけば、アーサーは冷たい声で言うのだ…。
「どうした、もう終わりか?」
そんなことを言われて弱音を吐けばせっかく頼み込んだ訓練を中止されてしまう。
この訓練を乗り越えて栄光を掴むべく、彼女たちは身体に鞭を打って走りだす…。
「ははは、みんな頑張るなぁ。大尉、あとどれくらい走らせるんですか?」
「さあな。それはあの小娘たち次第だ」
「というと?」
「あいつらの根性がどれほどか見ているだけだ。言葉ではいくらでも言えるからな……まあ、ここまでやれば及第点だろう。アイリーン、あいつらに課す基礎的な訓練を考えておけ」
「はい、大尉」
アイリーンはにこりと微笑むと、小声でひたすら走り続けるガリルたちにエールを送り、訓練過程を作成するためにその場を立ち去る。
そうだ、これは大尉にとって彼女たちのやる気の度合いを見るための、受け入れ試験のようなものに過ぎない。
試験的にはもう十分だが、大尉はあえて終了のホイッスルを鳴らさず、そのまま走り続けさせる………訓練はまだ、始まってすらいないのだ。
朝から始まったこの果てしないランニングは、最後の一人であるガリルが力尽きたところで終了となる。
グラウンドで仰向けに倒れ、ぴくぴく痙攣するガリルに、アーサーは明日から訓練が始まることを伝えさっさとその場を去っていくのであった…。
大尉「もう合格ライン超えてるけど走らせとこ」
アイリーン「ヘル・ウィークどの辺りで組み込もうかな♪」
軍曹「汗の染みついた服はおいらが洗うから持ってきたまえ」
なんやこいつらw
それにしてもガリルの口調がただのなんjに思えてきた、本場の関西弁はいかほどか…って思ったけど、そもそもガリルはイスラエルの銃だし、考えるだけ無意味ですね