METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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シリアスストーリーはぽしゃった…すまんな…。
やっぱりワイはもうシリアスは書けん、ほのぼのとギャグをやれいうお天道様の啓示や…。


ふぁるタンク!

 FALとVectorの二人はその日、長期休暇を取得してモスクワに遊びに来ていた。

 事の成り行きは、Vectorがたまたま大陸横断鉄道の切符を2枚入手したことから始まり、折角だからとFALを誘い二人で計画を立てて休暇を取ろうとしたのだった。ただし、計画段階でなんと大陸横断鉄道の列車が脱線事故を起こし、隣接する化学工場に突っ込んで周囲一帯に危険な化学物質が巻き散らされた挙句、E.L.I.Dの大群が押し寄せてきてしまい、軍による大規模な封鎖と消毒作戦で大陸横断鉄道は現在使用不可能な状態となっている。

 ちなみに、脱線事故は運転手の居眠りと速度超過によるものらしいことが、事故直前の列車を映したカメラから分かっていた。

 まあ、不慮の事故でまた数少ない可住可能な土地が減ったようだがVectorにはどうでもよかった。大陸横断鉄道の切符はただの紙くずになったが、休暇を取るという計画は立ち消えにはなっていない。目的をモスクワの観光に定め、ミラーやエグゼにも話を通してようやく二人は晴れてモスクワへ遊びに来ることが出来た。

 

 休暇目的でモスクワにやって来たのが2日ほど前、今は何をしているかというと、たまたま町で見かけた古ぼけたパンフレットから戦車博物館の存在を知ったFALの希望で、モスクワ郊外の戦車博物館に遊びにやって来ていた。日頃、戦車への不満を垂れ流しているくせにやはり戦車が好きでしょうがない様子のFAL……Vectorとしては、一緒に遊べればなんでもよかった。

 骨董品同然の古い戦車を眺めてニヤニヤ笑っているのは気にくわなかったが…。

 

「うへへへ…KV-1…こんな貴重な実物をこの目で見れるなんて…!」

 

「FAL、その笑い方はちょっときもいよ。戦車ヲタク丸出しだよ」

 

「なによ、念願の戦車を見れたんだものいいじゃない! KV-1は独ソ戦中期ごろまではあの歴史に名を残す名戦車T-34と共に戦場を駆け抜けたこれもまた名戦車よ! 機械的トラブルは多かったみたいだけど、それでも独ソ戦初期にはその重装甲でドイツの砲撃をことごとく跳ね返したのよ! ねえこれ見て、もしかしてここの跡…ほら、砲弾受けた痕じゃない!?」

 

「これだから独女は…」

 

「うるさいわね、これだから素人は…おっと、あちらに見えますは152mm砲搭載のKV-2かな!?」

 

「まあ…いっか…」

 

 珍しい戦車を見つけては突撃していくFAL…一応いるガイドさんには悪いが、Vectorはもう好きに見させてやってくれとお願いをしておいた。

 

「Vector! Vector!!」

 

「あーもううるさい、なんなの?」

 

「こっち来て!」

 

「まったく…」

 

 呼ばれたところに歩いていってみると、FALが笑顔で2両の戦車を紹介する。

 どうだと言わんばかりに見せてくるので眺めるが、興味の無いVectorにはそれが何の戦車なのかいまいち分からない。

 

「超有名戦車だよ!? ドイツ第三帝国の重戦車、ティーガーⅠとティーガーⅡ! うわぁ…現存するだけでも貴重なのに、こんなに保存状態もいいなんて…涙でそう」

 

「いちいち大げさだよ…」

 

 VectorのぼやきはFALの耳には届かず、眼をキラキラと輝かせて2両の重戦車に見入っている。そして案の定始まるFALによる長すぎるうんちく話…明らかに聞き流しているVectorにいつまでも戦車の話をし続ける。

 そのままだと閉館時間まで延々話していると予測し、Vectorは彼女の手を引いてその場から移動する。

 

「うふふ…いいわね、全部持って帰りたい気分よね…」

 

 そう言って、周囲をきょろきょろし始める。

 まさかと思いちらっとFALの手元を見れば、やはりフルトン回収装置が握られている。軍事基地内に設けられた博物館でそんな事すれば、間違いなく袋叩きにあう。FALがふざけたことをする前に、その手からフルトンをひったくった。

 

「もう、冗談よ。私がそんなことするはずないでしょう?」

 

「どうだか…」

 

 興味があるのはいいが、持って帰ったとしても現代の戦車に通用するものでもないし動かないものを置いといても邪魔なだけ、それだったらもっと実用的な戦車を用意した方が良いに決まってる。わざわざ説明してやるVectorの言葉を、FALはうんざりした様子で聞き流していた。

 それからだいたいの展示物は見終わって、博物館を去ろうという時、FALはとある小さな戦車の前で足を止める。

 

「どうしたの独女?」

 

「なにこの戦車…?」

 

「えっとなになに…チェコスロバキア製【AH-IV豆戦車】? 説明文が少ないけど、軽戦車よりも小っちゃいよね。なんかへんてこだね」

 

「気に入った」

 

「え?」

 

「気に入った…そして閃いたわ! Vectorこの豆戦車を押すの手伝って、このくらいの大きさなら戦術人形2人のフルパワーでどうにかなるはずよ!」

 

「いや無理でしょ」

 

「やる前に無理なんて言ってはダメよ! さあ押すのを手伝って!」

 

 半ばやけくそになりFALと二人でこの小さな戦車を押すが、いくら小さくても相手は鉄の塊だ。少しも動きはしない。もうあきらめよう、そう提案しようとところ、FALはふと真上の天窓に気付くとニヤリと笑みを浮かべる。

 

「えい」

 

 看板を天窓めがけ投げて壊す…FALの狙いはこの豆戦車を何としてでも持ち帰ることにある。それに気付いて阻止しようとした時には既にフルトンが取り付けられ、そのままFALはVectorを抱えて戦車にしがみつく。後は装甲車も回収してしまうフルトンが都合よく天窓の穴から引っ掛からず外に広がり、勢いよく空の彼方へと打ちあげられる…。

 

 

 

 

 後日、無事豆戦車AH-IVを回収しおおせたFALは早速その豆戦車を自前のガレージまで運び込んでいった。

 せっかくの休暇をあんな形で幕切れにされてしまったVectorはカンカンに怒っていたが、すっかり豆戦車に憑りつかれたFALは止まらない。ガレージ内にて豆戦車のリベットを外し、内部のエンジンや変速機などを見る…100年以上も前のものということもあってやはり使い物にはならないが、それは予想の範囲内である。

 豆戦車を分解し、どこの何を修理しなければならないかを把握した彼女はガレージ内のパソコンの前に座り素早く必要事項をタイピングし、それをメールで送信する。即座にデスクの受話器を取り、電話をかける…連絡先は研究開発班だ。

 

「もしもし、私よ。ちょうど今そっちあてにメールを送信したの、それを読んで……あぁもう、その話はもうとっくに済んだ話よ? とにかく今は急いでいるの。メールを読んでくれれば分かると思うけど、至急エンジンと装甲フレームが欲しいのよ。確かサヘラントロプスで使ってる軽量化特殊合金あったわね、あれを使ってくれる? よし、任せるわね……それから何人か使える整備士をこっちに寄越してちょうだい。いいわね?」

 

 受話器を戻したFALはすぐにその場を片付けると、彼女もまたこの豆戦車を修理するのに必要なパーツと工具集めに奔走する。

 

 

「おうFAL、忙しそうだな。ところでVectorが物凄く不機嫌なんだが何かあったのか?」

 

「悪いけど今手が離せなくて。悪いわね」

 

「そうか?」

 

 

 工具箱とグリスの入ったケースを両脇に抱えながらFALはあっという間に走り去っていってしまった。

 また変な行動をしているのだろうか、そう思いながらハンターは自分の部隊の訓練に戻っていく…そんな感じで他の人形たちにも、FALのおかしな行動は目撃され、どうせまた何かに夢中になり過ぎてVectorの機嫌を損ねたのだろうという考えで一致する。

 実際、それは的を得ているわけだが。

 

「くそ…ここも変えなきゃダメね…!」

 

 新たな改修場所を発見しては直ぐに研究開発班に連絡を入れる。

 研究開発班のスタッフも途中からノリノリになってFALの豆戦車修復作業を手伝うようになり、派遣整備士からはアーキテクトがやって来て、この骨董品同然の豆戦車に鉄血テクノロジーを取り入れるという無駄に贅沢な改良を施してしまう。

 

「真新しい技術はないけど、軽量化させた新型水冷エンジンができたよ! これでももっと車体重量は軽くできると思うよ!」

 

「よくやったわねアーキテクト。よし、じゃああとはこの装甲フレームを組み込むわよ。ウインチで吊り上げて」

 

「軍のハイドラ多脚機動兵器にも使われている装甲素材だよ。この薄さじゃ砲弾とかは防げないけど、50口径の射撃に耐えられる防御力はあるはずだよ」

 

「だんだん出来上がってきたわね!」

 

 装甲フレームを車体に組み込み、協力して溶接作業を施してあげる。

 ほぼ全てのパーツを造り直して強化、エンジンや足回りの強化によって元々の機動力を遥かに上回る力を見せてくれるだろう。

 お次は武装面だ、それもアーキテクトが用意してくれた。

 

「じゃじゃーん、主兵装としてバリエーションの変更が可能な106mm無反動砲と対戦車ミサイル、それから30mm機関砲だよ! 副武装には7.92mm機銃もしくは12.7mmmm機銃、他にも迫撃砲とか自動擲弾発射機とか用途に応じて武装の切り替えができるよ!」

 

「さすがねアーキテクト、感謝するわ…仕上げよ」

 

 最後の仕上げに、豆戦車の側面にMSFのエンブレムを塗装すれば完成だ。

 貧弱な装甲に7.92mm機銃が一つだけだった豆戦車が十分すぎる強化を施されるに至った。

 

「よし、早速試運転よ! アーキテクト、乗りなさい!」

 

「やったー!」

 

 早速出来上がった豆戦車に乗り込んでエンジンをかける。

 乗せ換えた新型エンジンの調子の良い排気音に胸を躍らせつつ、ガレージから戦車を走らせる……徹底的に軽量化して3.5tという重量に仕上げた車体に、強力なエンジンが生み出すパワーによって豆戦車はぐんぐん加速していく。入れ替えたばかりのサスペンションが衝撃をよく吸収し、乗り心地も悪くない。

 あっという間に80㎞ものスピードに乗った豆戦車、前哨基地の広大な野外演習場をぶんぶん駆け回す。

 

「ママー!なんかいる!」

 

「ああん? なんだありゃあ!?」

 

 そんなことをしていればいやでも注目を浴びてしまう。

 ちょうど外をヴェルと一緒に散歩していたエグゼの目に止まり、停車を促されたために彼女の前で停まる。

 

「おいなんだこのチビ戦車は!?」

 

「私の新たな乗り物、豆戦車よ! マクスウェルの実用主義な重戦車もいいけど…見なさいこのコンパクトボディを! 対戦車ミサイルや無反動砲といった強力な火力を運用でき、対物ライフルの攻撃にも耐えうる重装甲、大量の武器弾薬も運搬可能な新時代の豆戦車よ!」

 

「かわいい! ヴェルものりたい!」

 

「いかすじゃねえか!オレたちも乗せろ!」

 

「定員は2名までだけど、ヴェルちゃんなら乗せられるわね。アーキテクト、悪いけどタンクデサントしてくれる?」

 

「りょうかい!」

 

 車外に出て砲塔後ろのスペースに居座るアーキテクト…少人数のタンクデサントのために、手すりを溶接してとりつけた親切な設計である。エグゼとヴェルを乗せたら出発だ、走りだした豆戦車が生み出すとんでもない加速力に二人は驚くとともに大喜びする。

 

「しっかり捕まってなさいよアーキテクト!」

 

 猛スピードで演習場を走り回り、折角だから走りながら主兵装の試射をしてみようというアーキテクトの提案に乗り、進路を変更する。急な進路変更でアーキテクトが振り落されそうになるが、取っ手をしっかりつかみこらえていた。

 

「目標、あの枯れ木よ! アーキテクト、無反動砲をぶっ放してやりなさい!」

 

「ラジャー! 装填完了、発射ー!」

 

 アーキテクトの陽気な掛け声と共に放たれた砲弾は見事、狙った枯れ木に命中した…ただし、想像していた爆発の何十倍も大きな爆発が起き、爆風によって豆戦車が横転しそうになる。

 

「アーキテクト、一体何撃ちこんだの!?」

 

「アーちゃん特製火薬マシマシの特殊砲弾だよ! ちょっと分量多すぎたみたいだね!」

 

「あぶねえなお前! オレとヴェルを殺すんじゃねえぞ!」

 

 試運転と試射を終え、一応の試験に成功した豆戦車。

 

 まあ実際に戦場に持ちこむのには他にも色々と問題があり、FALの趣味の域を出ることは無い…開発費もFALの自腹だ。後は研究開発班とアーキテクトの善意で出来ている。

 後日、この豆戦車は【ふぁるタンク】と名付けられ、FALの愛車の一つになるのだった。




FAL「やば、豆戦車の開発でお金がないわ…Vectorお金貸して♪」

Vector「………」(無視)

FAL「あら…?」

楽しみにしてた二人きりの休暇を豆戦車でぶち壊されて、しばらくVectorの機嫌は直らない模様…。
これだから独女は…。


はい、もう覚悟決めてシークレットシアターらしいギャグとほのぼのやりましょう…。
スナイパー・ウルフはまた別な機会で登場させる、約束するで。

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