METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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蝋人形の館

 ウロボロスファーム、アフリカで経営者として大成功した鉄血のハイエンドモデルことウロボロスがアフリカの地で一番最初に造り上げた会社の一つだ。汚染されていないアフリカの大地を耕し、現地民を強制徴用して農耕を教え込んだのが始まりといえる。

 金持ちになって良い暮らしをしてやるという欲望の力で農地を拡張し、現代式の農耕技術や農機具を投入しその規模を拡大……今では自分たちを賄える以上の生産をすることができ、農作物や家畜の出荷を行い外貨を得ている。

 

 今の世の中では珍しい良質な食糧を提供するウロボロスファームの顧客は幅広く、MSFはいつの間にか取引をするようになり、噂では正規軍にもフロント企業を通して売り付けているとかなんとか…。

 その農場の利益と、ウロボロスが他に抱えるダイヤモンド鉱山や油田などによって外貨を得て、色々と悪だくみをしているようだが幸いにも遠いアフリカの地で好き放題暴れまわっている分には、面倒な注目を浴びることは無かった。

 

 

 その日、MSFでは食料品の調達のためにヘリを一機飛ばしウロボロスの農場に向かわせた。

 ウロボロスファームで新しい穀物の生産を始めたため、折角だから契約を見直しに来いという連絡がウロボロスの方から来たのだ。一応交渉役として、糧食班のトップのスタッフと護衛としてエグゼとヴェル、アーキテクトとゲーガーもやって来た。

 ウロボロスとの交渉は糧食班のスタッフだけでいいが、折角だからアルケミストやそのほかの面子に会いに行こうということで人形たちはやって来た。

 

「よく来たなお前ら…ちょっと来る頻度多くないか?」

 

「しょぼいこと言うなよ姉貴、ほらヴェルも会うの楽しみにしてたし」

 

「わーい、おねーちゃん!」

 

「ははは、相変わらず元気いっぱいだなヴェル? ちょっと大きくなったんじゃないか?」

 

「人形だぜ? 大きくなるはずないだろ?」

 

「それもそうだな…よしよし、ほんとかわいいな」

 

 ヴェルは基本的に他人には懐くことは滅多にないが、同種としての親近感があるのかやはり鉄血製の人形相手にはよく懐く。一時期MSFにいたアルケミストやデストロイヤーのことはおねえちゃんと呼んで懐いているし、アーキテクトやゲーガーともよく遊ぶ。

 逆に、416やUMP45などは何故だか毛嫌いしているようだが…。

 

「あら処刑人、いらしていたんですか。おや、その子は…」

 

「代理人、この子が前言ってたエグゼの子どもさ。抱いてみるか?」

 

「これはなんとも…」

 

 アルケミストから手渡されてヴェルを持ちあげる。

 自分を持ちあげる代理人を不思議そうに見つめていたヴェルであったが、彼女も同じ鉄血だと分かると笑顔を浮かべて代理人の頬に手を伸ばす。ヴェルの愛くるしい仕草は、代理人のメンタルモデルに大きな衝撃を与えた。

 

「処刑人、なんですかこの犯罪的な可愛さは!」

 

「オレの子どもだから当然だろう?」

 

「鳶が鷹を産むというのはまさにこのこと……あんなメスゴリラからこんな天使が生まれてくるなんて!」

 

「おいこら、さりげなくディスってんじゃねえ」

 

 すっかりヴェルの無邪気さにメロメロになってしまった代理人、ヴェルもよく懐いてくれるのでかわいくてたまらないだろう。屋敷内の公園にヴェルを案内する彼女の姿に、一同暖かい笑顔を向ける。

 

「ヴェルも無条件に懐くわけじゃないのに、代理人にはよく懐いたもんだな」

 

「ヴェルはおっぱい大きいのが好きなんだよ。だからデストロイヤーには最初興味なかったけど、あのボディになってから懐いただろ?」

 

「じゃあ、ジャッジには到底懐きそうにないな」

 

 ヴェル曰く、おっぱいが大きい方が抱っこしてもらった時ふわふわしてて気持ちがいいからだという。そういった理由もあって、UMP45などはヴェルからは敵対視されている……新参のアーキテクトとゲーガーはおかげさまでヴェルには懐かれている。

 

「そうだエグゼ、あたし最近ここらで博物館開いてね。折角だから見に来ないか、アーキテクトとゲーガーもさ」

 

「アルケミストったら博物館開いたの? はぇ~どういう風の吹きまわし? なに展示してるの?」

 

「ちょっとした歴史資料館さ。ちょっとずつ展示物集めててね、まとまった数になったからウロボロスに頼んで造ってもらったのさ。あたしがガイドしてやるよ?」

 

「そうだな、折角だから見に行こうか。エグゼもそれでいいか?」

 

「おう。ヴェルは代理人にでも預けておけばいいしな…ほんじゃ、頼んだぜ姉貴」

 

 アルケミストがここで開いたという博物館に興味津々の3人。

 一体どんなものを展示しているのだろうか、期待に胸を膨らませるが、後にこの時の好奇心を激しく後悔することになるとは思いもしなかった…。

 

 

 

 

 

 ウロボロスの屋敷から少しばかり車を走らせた場所にある町、そこの郊外にアルケミストの博物館とやらはひっそりとあった。見た目は3階建ての古い洋館のようで、壁には葛が伝い少し古風な造りであった。

 

「前時代の建物を買い取って博物館に改修したんだ。さ、中に入りなよ」

 

 アルケミストに案内されるまま博物館内へと入って行く3人。

 博物館の中は掃除が行き届いているのか綺麗な印象を受けるが、あまり訪れる者もいないためにあまり汚れないのかもしれないという想像もしてしまう。玄関をくぐった先では何人かの人がおり、壁に寄りかかっていたり椅子に座っていたりする。館内は静かで、なんだか大きな声を出してはいけないような雰囲気がある。

 フロントの壁に飾られている絵画で描かれているのは、絞首台に吊るされた2人の男性を描いたもの……古ぼけた絵柄がなんとも不気味だった。

 

「おいあんた、ここって一体なに展示してんだ?」

 

 なにやら嫌な予感を感じ、館内にいた人に声をかけるが無視される。

 ムッとして、エグゼはその人を睨みつけるが様子がおかしいことに気付く…一切まばたきのしないその人をじっと見つめていると、その違和感に気付いて驚きの声をあげた。

 

「どうしたのエグゼ!?」

 

「こ、こいつ…人間じゃねえ!」

 

「落ち着いてエグゼ、私たちも人間じゃなくて人形だよ!? 一体どうしたの!?」

 

「ハハハハ、気付いたか? 実はこれ全部"蝋人形"なんだよな…本物みたいだろ?」

 

「ろ、蝋人形……?」

 

 アルケミストに言われて、手近な蝋人形とやらをゲーガーは覗き込む。

 顔を近づけて見ても本物と言われても疑わないレベルで生身の人に近い造りで、呼吸音が聞こえてきそうなほど質感も本物に近い。蝋人形の目を見て、悪寒を感じたゲーガーはすぐにその蝋人形から離れる。

 館内の嫌に冷たい空気に畏怖し、3人は知らず知らずのうちに身を寄せ合うと、館内を案内しようとするアルケミストについて行く。

 

「なあ姉貴、あの蝋人形どうしたんだよ?」

 

「ん~? あたしが造ったんだよ、どうかしたのか?」

 

「いや、なんかマジで生きてるみたいだなぁってさ…本物の人間素材にしたりしてねえよなぁ、なんて…」

 

「…………」

 

「姉貴……どうして黙るんだよ…?」

 

「ん?あぁ、悪い悪い。ちょっと考え事してた……ほら、最初の展示エリアだよ」

 

 扉がギイギイと軋みをあげながら開かれ、そこに案内される。

 少し薄暗い明かりで照らされているのはガラスケースにおさめられた展示物の数々だ…それらを覗き込んだ彼女たちは、ここが何を展示する博物館であるのかようやく気付くこととなる。

 

「これって…どう見てもあれだよな…?」

 

「うん……」

 

「絞首刑用のロープだな…」

 

 ところどころ黒ずんだ色合いの太いロープが入った展示箱、すぐ隣の展示箱には少し錆びついた"親指つぶし機"なるものが展示されている。

 そう、ここはアルケミストの拷問・処刑器具の博物館なのだ。

 絞首刑用ロープの前で硬直している3人にアルケミストが近付き、何故だか嬉しそうに展示物の解説をし始める。

 

「これはイギリスの廃墟から見つけてね…これも博物館にあったものなんだ。嘘か本当か知らないけど、100人以上の絞首刑に使われたいわく付きの代物だよ。折角だから触ってみるか、アーキテクト?」

 

「ふぇ!? あ、いいよ、展示物だし触っちゃあれだし…」

 

「遠慮すんなって、ほら」

 

「ッッッッ!!??」

 

 軽い感じで絞首刑用ロープを手渡され、アーキテクトは一気に背筋が凍りつくのを感じた。

 ざらざらしているが、ところどころ変に固まったようなものを手に感じる…青ざめたアーキテクトからロープを回収し、展示箱に戻す。

 

「こんなのもあるぞ。これもフランスで回収したものだ……マリー・アントワネットを処刑したと言われるギロチンの刃さ。分かるかゲーガー?」

 

「こんなもの、どうやって使うんだ…」

 

「あそこにギロチン台があるが、そこにこの刃を取りつけるのさ。あの高さから重りの力で一気に落とされて、あそこに固定された奴の首を落とす仕組みさ。やってみるか?」

 

「冗談は止してくれ、アルケミスト…」

 

「ハハハ、どうしたまだ展示品はたくさんあるぞ?」

 

 この場でもう笑っているのはアルケミスト一人しかいない。

 そのまま彼女のガイドで先に進むが、どれもこれも拷問器具ばかり…あまりの強烈さに食あたりを起こしてしまいそうな展示品の数々である。

 次にアルケミストは博物館の2階へと案内する。

 そこも、恐ろしい拷問器具ばかりが展示される。

 

「うわー…私これ知ってるよー…鉄の処女(アイアンメイデン)って奴だよね…」

 

「ご名答。拷問器具の代名詞とも言えるものだが、実際には使われていなかったとも言われてるものだ。でも、デザインは秀逸で好きだね…あたしは」

 

「ちょっと、なんか血の匂いがする気がするんだけど…」

 

「気のせいだろう。ほら、次のも見なよ」

 

 先ほどの絞首刑用ロープもそうだったが、ここにある展示品のほとんどが妙に使用感がある気がするのだ。

 その疑惑は、エグゼが見つめる十字の磔台にも向けられる。アルケミストが言うには、この磔台は現存する物がなかったために自分で資料を頼りに造り上げたらしいのだが…。

 

「なんかこのあたり縛った跡あるし、なんか真ん中あたり不自然にどす黒く変色してないか?」

 

「色は元々だろう。ここを縛ったのは、本当に磔にできるか"人形"使って試したんだよ」

 

「人形って、どういう意味だよ姉貴…?」

 

「あぁ? 人形は人形だろう、マネキンとかぬいぐるみとか…そういうやつ」

 

「ああ、そう…いや、オレたちも一応戦術人形だからさ?」

 

「まったく、色々ケチつけてきて…いつからそんな細かい女になったんだい?」

 

「そうだよな…オレの考えすぎだよな…ハハハ……はぁ……帰りたい」

 

 もはや、一刻も早くこの不穏な館から帰りたくて仕方がない…館内に配置された本物そっくりの蝋人形の存在が居心地の悪さを増長させる。本物に見間違えてしまいそうなリアルさは、蝋人形に見られているような錯覚を覚える。

 

「あー、アルケミスト…こいつは?」

 

「ああゲーガー、これもあたしが造り上げたレプリカさ。"ファラリスの雄牛"って言う、大昔の処刑道具さ……美しいだろう?」

 

「う、美しい…?」

 

「そうさ。殺しのための道具に、殺しには一切関係ない芸術としての見栄えを投影した至高の美術品さ…どうやって使うか教えてやろうか?」

 

「いや、別にいいよ……」

 

「そこの扉から殺す人を入れてな、牛の腹の下あたりに火を起こすんだ。そうするとどうなるかは分かるだろう? 高温に熱せられた内部で人が苦しみ呻くと、牛の頭にある筒と栓で声が変調されて牛の鳴き声にみたいに聞こえるって話しなんだ…けど、なかなかうまくできなくてね…牛みたいに鳴かないんだよ」

 

「どうして…上手く鳴かないって、分かるんだ…?」

 

「あぁ?」

 

「いや、牛の鳴き声を出せるかどうかは実際にやってみないと分からないし…どうやって確かめたのかなと…」

 

「…あ……………………実は他にとっておきのものがいくつかあるんだ、案内するよ」

 

「ア、アルケミスト…!?」

 

 ますます疑惑は深まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、楽しかっただろう?」

 

 すべての展示品を案内される頃には、3人とも精神的にくたくただ。

 あの後も色々と怪しい物を見せられたり、館内から何か物音が聞こえてきたりと不気味な体験をさせられてしまった。もうさっさと帰ってヴェルに癒されたいと思うが、帰ろうとする3人を引き止める。

 

「ほら、入館料払えよな。一人当たり10000だ」

 

「は? 金とんのかよ、しかも高いし!」

 

「当たり前だろう? 見ての通りあまり繁盛してないし、姉妹としてこのあたしに少し協力するのは当然だろう」

 

「いや、こっちはそんなこと聞いてないし知るかよ! こんなクソ高い入館料なら来ねえっての!」

 

「なんだとテメェ…?」

 

「わ、悪いけどそんなお金払えないよ!」

 

「そうだ! あんな悪趣味なもの見せて!」

 

 口々に文句を言う3人に、アルケミストはそれまでの優しい態度から一変する。

 

「メスガキどもが、このあたしになんて口の利き方してるんだよ……お前らも蝋人形にしてやろうか!? あぁ!?」

 

「本性現しやがったな姉貴ッ!?」

 

「というかやっぱりあれ本物だったんじゃ…!」

 

「くそ…やられる前にやってしまえ!」

 

 

 そこで一斉に攻撃を仕掛けるところで、3人の記憶は途切れていた…。

 

 気がついた時には、ウロボロスの屋敷のベッドの上で3人は目を覚ます…。




???「ふはははははは! お前も蝋人形にしてやろうか!」

アルケミスト「さすがです、閣下!」


天国のサクヤさん「あわわわ! アルケミストが悪魔信者になっちゃってるよぉ! 誰かなんとかして!?」

ダメみたいですね…(諦め)

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