METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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放ってはおけない

「おらー! エグゼー、このメスゴリラ! 大尉に鍛えられて滅茶苦茶強くなったうちと勝負せぇ!」

 

 前哨基地の宿舎エリアにて、声高々にガリルが叫ぶ…ガリルの命知らずとしか思えない戦いの挑み方に、その場にいた多くの者が胆を冷やし、次に起こるであろうことを一瞬で予測する。そして大方の予想通り、ガリルの挑発にプッツンキレたエグゼのそれは見事なバックハンドブローがガリルの顔面に直撃、ガリルは勢いよくテントに吹っ飛んでいった。

 ガリルの暴走を止められなかった友だちのIDWとStG44、ウージーが慌てて駆け寄ると、ガリルは手足をぴくぴく痙攣させて気絶していた…。

 

「あわわわわ…! ごめんなさいにゃエグゼ、このアホには後でしっかり言い聞かせとくのにゃ!」

 

「ガリルが勝手にケンカ売っただけだから! ごめんなさい!」

 

「ガリルの言葉は私たちの総意ではありませんわ!」

 

 エグゼに恐れをなして3人はエグゼの怒りの矛先が自分たちに向くのを恐れて何度も謝る、必要ならば身の程知らずにも戦いを挑んだガリルを引き渡す考えだった。

 とばっちりをくらうと思っていた3人であるが、意外なことにエグゼは楽しそうに笑っていた。これは笑いながらぶち殺されるパターンだ、そう思い戦慄するが、そうではなかった。

 

「そうびくびくすんなよ、こいつの挑発の言葉はムカついたけど…オレに挑もうって魂胆は気に入った。お前ら米兵のアイツに鍛えられてるんだってな? へへ、オレらも呑気にしてられねえな……おい、このバカ起きたら伝えとけ…強くなったと思ったらいつでも挑んで来いってな、死ぬ一歩手前くらいに半殺しにしてやるからよ」

 

 エグゼは常々思っていることだが、MSFは単なる馴れ合い集団ではなく、仲間内でもライバル心を持って競い合うことが必要だと考える。その点ではこのガリルという戦術人形は及第点だ…まあ、その結果が歴然たる力の差を見せつけられるものだとしてもだ。

 おそらくガリルはこれにめげず、反骨精神を燃やして再び挑んでくるに違いない…エグゼの荒っぽいが後輩に期待をかける気遣いを感じ取った3人は、ガリルの無鉄砲さを少しは見習おうと思ったが、ガリルを一撃で倒したエグゼに不用意に挑まないよう反面教師にしようと心がける。

 

 

 

「あかん……鼻血が止まらへん…」

 

 冷水をバケツ一杯浴びせられて覚醒したガリルだが、裏拳をもらったせいで鼻血が止まらず軽い貧血を起こしていた。その後、無事ストレンジラブの研究所送りになってしまった。

 

「ガリルちゃんったら、いくら最近訓練成績が良くなってきたとはいえ…ちょっと無謀じゃないかな? さすがに実戦経験重ねたエグゼにすぐ勝てるはずないよ」

 

「そうですよね、私たちもそう忠告したんですけど…」

 

「やってみなきゃ分からないって言って突っ込んでいったのにゃ」

 

「ほんとバカよね」

 

 事の成り行きをアイリーンに伝えると、訓練担当の彼女もガリルの無鉄砲さには苦言をこぼす。ここ最近は死に物狂いで訓練に励んでいたのは確かだが、エグゼだってこれまで遊んで日々を過ごしていたわけではない…毎日血の滲むような訓練に励み、戦場で己の技量を絶えず磨きぬいてきたのだ。

 ちょっとやそっとの努力で超えられるほど、やわな鍛え方はしていない。

 

「まあこれで分かったよね。あなたたちとあの人たちとの力量差…だけどめげちゃダメだよ、力の差が分かったなら今以上の鍛え方をしなきゃね。エグゼたちもあなたたちに負けないようにって訓練に励む、もしあなたたちがあの人たちを超えたいって思うなら、何十倍も努力しないとね」

 

「にゃははは…今まで以上の鍛錬、ほんとに死ぬ気でやらないとダメかにゃ…?」

 

「そうですわね…」

 

「まあ、それであいつらに勝てるならね……そういえばアイリーン教官、アーサーさんはどうしたの? 最近訓練を見に来ないじゃない…テディ軍曹はあそこで昼間からビール飲んでへべれけになってるけどさ」

 

「ああ、大尉ね……ちょっと新参のM14ちゃんを専属で見てあげてるみたいだよ」

 

「なになに、マンツーマンで教えてるわけ? ちょっとずるくないかしら?」

 

「心配しなくても、私がデルタに負けないくらいあなたたちに有意義な訓練期間を提供してあげるからさ。はい、じゃあ来週から基礎水中爆破訓練をやって貰うからね…お楽しみのヘル・ウィークもそこに組み込まれてるから、めげずに頑張っていこう!」

 

「し、死んじゃうにゃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――落ち着いて、よく狙え。ゆっくり呼吸し、息を止めて狙いを絞るんだ」

 

 射撃訓練場で一人、M14はフィールドに並べられたパネルの的を狙い撃つ訓練に励んでいた。彼女を教育しているのはアーサー・ローレンス大尉…どういうわけだか、最近とある出来事でMSFに勧誘されてやって来たM14を専属で教育をしている。

 基本的に無愛想なアーサーが、急に新参者の訓練をし始めたことに周囲は気が触れただの丸くなっただの言っていたが、ある者はアメリカ生まれの銃の戦術人形だから贔屓しているのだろうと言った…実際、本人は否定するだろうが贔屓しているのは否めない。

 

 ガリルらを訓練していた時は血も涙もないとまで言われた訓練方針であったが、M14相手には怒鳴ることも嫌味を言うこともなく…普段の姿からは信じられない穏やかな態度で接していた。

 

「落ち着いて、撃つ……よし…!」

 

「そうだ、その調子だ…」

 

 的となるパネルは決められた時間設定で起伏するようになっており、パネルが起き上がったタイミングで素早く狙いを定めて撃つ訓練である。M14はアーサーから教わった通りに射撃を意識し、パネルを狙い撃つ……だがM14は起き上がるパネルに対しどうしても間が空いてしまい、その結果狙いを定めて撃つ前にパネルが倒れてしまう時がある。

 そうすると焦りを感じ、次の的への狙いが乱れてしまい外してしまうことがある。

 そういったミスが連続し、しまいには弾詰まりを起こす…当然M14は慌ててしまい、何度も詰まった弾を排莢させようとするが上手くいかない。

 

 そんなM14にアーサーは静かに近寄り、ライフルを手渡すよう促す…バツの悪そうにM14がライフルを手渡すと、アーサーは慣れた手つきでレバーを操作し、詰まった弾を排莢させた。

 

「どれだけ丁寧に整備しようとも、トラブルは起こりうる。大事なのは、そう言った場面でいかに焦らず対処できるかだ。緊張感を持つことは大事だが、焦ることは良くない…心が乱れてしまった時は、焦らずに一呼吸置くことが大切だ」

 

「はい、すみません…」

 

「謝ることはない、今はまはまだ訓練の段階だ。実戦で同じ場面に遭遇した時、焦らないようにできればいい…むしろ、訓練で経験できたのは良いことだ。さて、今日の訓練はここまでにしておこう」

 

「え、あの…もっと練習をしたいのですが…」

 

「気持ちはわかるが、休むことも必要だ。認識できない疲労というのもある…いきなりハードなトレーニングをしても得られる物は無い。ゆっくりでもいい、一歩ずつ進んでいけばいい」

 

「分かりました、大尉」

 

「アーサーでいい」

 

「あ、はい…アーサーさん…あの、また明日よろしくお願いします…えっと、おやすみなさい」

 

「ああ」

 

 少し気弱そうに微笑みながら、M14はぺこりと頭を下げて射撃訓練場を後にした。

 彼女が立ち去った後、アーサーは一人、M14の射撃記録に目を通す…命中率は50%を超えておらず、命中箇所にも大きなばらつきがある。戦術人形としては致命的な射撃能力の低さだった…。

 アーサーは射撃記録を削除すると、射撃場を後にする…向かっているのは研究開発プラットフォーム内のストレンジラブの研究室だ。元米兵という立場から、MSFの機密情報の塊と言える研究開発棟には好きに入ることは出来ない…棟の入り口で一人待つこと数分、迎えのヘイブン・トルーパー兵に先導されてアーサーはストレンジラブの研究所に入って行った。

 

「アーサーか…そこにかけてくれ、今持って行く」

 

 アーサーが来ることを分かっていたストレンジラブは一旦彼をソファーで待たせると、資料を持って来る。テーブルに資料を並べた彼女だが、それについて説明する前に、目の前のアーサーをまじまじと見つめる。

 

「髪を切ったのかアーサー? 折角綺麗な髪だったのに、勿体ない」

 

「軍曹も同じことを言ったが、どうでもいいことだ。それより、結果は?」

 

「あぁ……君が予想した通りだ。M14、あの子は銃との烙印システム(ASST)が不完全なようだ…おそらく何らかの理由で、I.O.Pから正式に出荷される前に持ちだされてしまった個体なのだろうな。君はあの子の訓練を見ているらしいが、そこで違和感を感じたのか?」

 

「ああ、ここらの戦術人形のことはよく知らんが、他と比べてあまりにも銃の扱いが…素人同然だったからな。それで、何故そのシステムとやらが不完全なのだ?」

 

「烙印システムはペルシカリア博士によって発明された革新的な技術の一つだ。戦術人形と銃に特殊な繋がりを持たせる技術、というのが簡単な説明だが…一般に銃の特性に見合った戦術人形の素体が選ばれる、銃がメインであり人形は銃を扱うための存在というのが一般的な認識だ…まあ、うちの人形とかを見ていると色々それに当てはまらないが…」

 

「ということは、M14ライフルとあの子はシステム的に合わない…相性が悪いということか?」

 

「そうなるな……しかし妙なのは、繋がりが不完全とはいえ全くマッチしていないというわけではないんだ。このような事例が他にいくつあるのかは分からないが、私としてももう少し調べてみるつもりだ」

 

「そうか…分かった、邪魔をしたな」

 

 資料に目を通したアーサーは用も済んだとばかりにソファーから立ち上がる。

 基本的に他人に無愛想なのは相変わらずだが…M14に向けられるこの奇妙な気遣いは何なのか、ストレンジラブは気になるところであったが、それを探るのは無粋だと思う。

 

「アーサー、君があの子を気遣う理由は知らないが…支えてあげるんだぞ」

 

「……オレが好きにやるだけだ」

 

 無愛想に返事を返し、アーサーは研究所を去っていった。




大尉✕M14フラグがぷんぷんするぞ~。

テディ軍曹「なんで髪切っちゃったんですかぁ!?」

大尉「うるさい、黙れ死ね」

アイリーン「大尉の黒髪ショートも可愛い♪」

※ビール臭いクマのぬいぐるみは洗濯機に直接ぶちこまれました

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