METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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「みんなおひさ~! 鉄血の不動のセンター、アーキテクトちゃんだよ! 今日は私のとーっておきの発明品を持ってきたんだよ!」

 

「………締め出せ」

 

「ちょ、ウロボロス!? 待って待って!? 少しくらい私の話を聞こうよ!? ね!?」

 

 アフリカのウロボロス邸に、久しぶりにアーキテクトがやって来たかと思えばよく分からない邪魔な機材を抱えて来てこのセリフだ。子どもたちのお昼寝タイムを阻害されたウロボロスは最高に不機嫌な様子で、部下のエイジス装甲人形に命じてアーキテクトを屋敷から叩きだそうとする。

 しかし腐ってもハイエンドモデルのアーキテクト、数体程度のエイジスに負けるはずがないと抵抗したがそれが運の尽き……舐めてかかったエイジスはやたらと強く、ボコボコにされたうえで玄関から放り出されるのであった…。

 

「ちょ、待ってったら…話を、聞いて…!」

 

「ちっ、なんだこいつ?こんなにしぶとかったか? まあいい……おいシーカー、こいつを適当にあしらっておけ」

 

「分かった。ほら、立てるか?」

 

「なんでこんな目に…」

 

 特に理由もなくぶちのめされてしまったアーキテクトであるが、ウロボロスは今も昔も傍若無人で時に理不尽な目に合うことを忘れてしまっていた。シーカーの手を借りてふらふらと起き上がりながら、アーキテクトは屋敷の応接間に案内された。 

 さて、彼女の処遇を任されてしまったシーカーはとりあえず、ここに来た目的と持ちこんだ機材について尋ねてみることにした。

 

「アレはMSFの研究開発班の何人かとこっそり開発したものなんだけど、人形も人間みたいに寝てる時夢見てみたいよね~ってことで開発した、夢見る快適チェアなのだ!」

 

「なるほど……なんだって?」

 

「はぁ? 夢だって?」

 

「あんた相変わらずバカっぽいよね」

 

「一生夢でも見させてあげようか?」

 

「才能の無駄遣いという奴だな」

 

「まあ、でも面白そうじゃありませんか?」

 

 上からシーカー、ドリーマー、デストロイヤー、アルケミスト、ジャッジ、イントゥルーダーの順にアーキテクトを酷評して見せる。唯一、イントゥルーダーが面白そうだと言ってくれたが、だいたいの者はこの発明を鼻で笑った。

 そんな彼女たちの反応を見てアーキテクトはロマンがないと喚き散らし始めるが、アルケミストに鼻をつままれて今度は泣きわめく。

 

「それで、なんでその自慢の発明品とやらをわざわざアフリカに持ちこんできたんだ?」

 

「えっとね、開発費の横領がばれそうになったから咄嗟に隠したんだよね♪」

 

「バカだろ……おいデストロイヤー、とりあえずエグゼかハンターにでも密告しとこうか」

 

「待って待って!? やめて、そんなことしたら私オセロットに殺されちゃうよ! 私たち仲間でしょ、助けてったら!」

 

「なにが仲間だよバカ…」

 

 アーキテクトは救いを求めて助力を懇願するが、その想いは薄情な彼女たちにはあまり届かない。唯一、話を聞いてくれそうだと思ったシーカーに対し、瞳をうるうるさせて助けを求めてみる…はたして効果はあったようで、シーカーは頬を指で掻きながら代替案を示す。

 

「とりあえず、ばれないようにすればいいんだろう? 物置にスペースはあったと思うし、とりあえず預かるということでいいんじゃないだろうか?」

 

「おぉ! さすがシーカーちゃん、君なら話が分かると思ってたんだ! ありがとう!」

 

 シーカーに抱き付いて感謝するアーキテクト、嬉しさのあまり、その行為がドリーマーの機嫌を損ねることになるとは思いもしなかったらしい。絶対零度の睨みを受けて、アーキテクトは顔を引き攣らせて下がっていった…。

 

「一応試してみたし、問題はないと思うよ! シーカーちゃんも使ってみない? 良い夢見れるかも!」

 

「いや、私は遠慮しておくよ…」

 

「ほえ?どうして?」

 

「あまり夢というものにいい思いが無いからな……とにかく、私はいいよ。他のみんなはどうだ?」

 

「それじゃあ、私が試してみようかしら?」

 

「おぉ、イントゥルーダーはノリがいいね! ほいじゃ、早速こいつに横になってもらってっと…」

 

 夢見る快適チェアに横になり、機械との接続をしてメンタルモデルの同機を始める。操作は簡単だ、慣れれば一人でもできるんだよと、アーキテクトが自慢気に語っているうちにイントゥルーダーはまぶたを閉じて眠りにつく。

 一体どのような夢を見ているのか、当たり前だが他の者には分からない。

 プライバシー保護のため、外部から夢を覗く機能はとりつけなかったのだとか。

 

「まあ、起きてからのお楽しみだな。とりあえず腹減ったよな、何か食べに行こう」

 

 イントゥルーダーが起きるまでに少し時間がかかる、ということでシーカーとドリーマー以外は部屋に食べ物をもって集まり飲み食いをして時間を過ごす。MSFだったらここで酒が出てくるが、この屋敷では子どもたちが間違って酒を飲んだら大変、という理由からウロボロスの命令で全面禁酒である。

 代替品として炭酸飲料がほとんど、最初は不平不満を口にしていたが今では慣れたものだ……特別なことをするわけでもなく、時間を潰すこと数時間、眠りから覚めたイントゥルーダーがやってくる。

 

「それで、どうだったのだ?」

 

「あれが夢なのね、最高の体験でしたわ! あぁ、思いだすだけでもまたワクワクしますわ! 憧れのシェイクスピアの世界に入って演劇に混じれるなんて!」

 

 ジャッジの問いかけに、イントゥルーダーはそれはもう大はしゃぎであった。

 彼女が夢で見たのは、憧れだったというシェイクスピアの演劇の役者として参加する内容のものだったらしい。色とりどりの衣装に大勢の観衆の前で歌声を響かせていたようだ。

 

「みんなも試してみるといいですよ!」

 

「お前がそう言うなら…」

 

 イントゥルーダーの反応を見て、自分もやって見ようかなという思いが生まれるハイエンドモデルたち。順番に並んで夢というものを体験していくと、みんなそれぞれ違った内容の夢を体験することとなった。

 スケアクロウが見た夢は、書庫で埋め尽くされた不思議な世界をひたすら探検するという夢。

 ジャッジは、自分の背丈が伸びて抜群のプロポーションに生まれ変わる夢。

 デストロイヤーは世界中のお菓子がたくさん集まるテーマパークで思う存分遊び回るという夢であった。

 概ねハイエンドモデルたちの評価は好評で、発明したアーキテクトの鼻も高くなるというものだ。どうやらある程度、本人の願望が夢に反映されているようで、アーキテクトの場合は画期的な設計図の山を読み漁るという夢だったらしいが、目が覚めると読んだものを全て忘れると嘆いていた…。

 

「アルケミストも試してみたら?」

 

「あんまり気は乗らないんだけどな…」

 

「まあ話のタネに一回ね? 起きたら感想聞かせてね!」

 

 残るのはアルケミスト、デストロイヤーの勧めで仕方なく椅子に座りメンタルを装置と繋ぐ。そうすると、自然な感じで睡魔がやって来て、あっという間にアルケミストの意識は暗闇に沈んでいく。

 

 暗闇が少しづつ晴れていき、眩い光に照らされる……まぶしさに目が慣れて少しづつ目を開いていくと、青々とした芝生の上にアルケミストはいた。

 

「なんだこれ? これが夢か?」

 

 青い空にはふわふわとした雲が浮かび、穏やかなそよ風が吹き抜けていく。

 なんとも気の抜けたような世界だった、もしこれが夢だというのなら彼女にとっては拍子抜けである。自分の願望はこんなのんびりしたところで佇むことなのか、自分のことながらつまらない夢の内容に興味が失せかけた……振りかえり見た先で、あの人の姿を見るまでは…。

 

 

「久しぶり、アルケミスト」

 

「マスター…?」

 

 

 白衣姿にメガネをかけた女性…アルケミストがマスターと呼んだその人は、草原に吹くそよ風に髪を揺らしながら優し気な表情で微笑んでいた。混乱し、立ち尽くすアルケミストの元へ彼女はそっと近寄っていくと、アルケミストの頬に触れながら瞳を覗き込む。

 

「これは、夢だ……夢なんだよな…」

 

「そうだね、夢で間違いないよ」

 

「みんな自分が願うことを夢に見ていた……マスター、あたしがあなたをこうして見るなんて…」

 

「君が逢いたいって、ずっと願い続けてたからこうしてまた逢えた。まったく、甘えん坊さんだな君は……でも嬉しいよアルケミスト、君がそう想ってくれてなかったらまた逢うことは出来なかったんだからね」

 

 昔と変わらない彼女の優しさが、すぐ目の前にある。

 もう乗り越えた、前に進んだと思っていたのに……だが、アルケミストは心の深層で再びサクヤに逢いたいという願望が残っていたのだ。頬に触れるサクヤの手に、自分の手を重ね合わせる……夢であるはずなのに、マスターの温もりが伝わってくる、温かな気持ちになっていく。

 

「夢の中でなら、マスターに逢えるのか…?」

 

「君がそう願い続ける限りね」

 

「今私が話しているあなたは、本当にマスターなのか? 私のメンタルが、都合よく作りだした幻想じゃないのか?」

 

「そうかもしれないね、否定はしない……だから君が自分で考えてね、自分がどうしたいのかを」

 

「あたしは………っ……言葉にできないよ、マスター……今の気持ちをどう表現したらいいんだ…? こんな気持ちを表す言葉は、あなたに習っていない」

 

「そうだね……アルケミスト、言葉で伝えられる想いが全てじゃないんだよ。言葉は時に無力なんだから……きっと、今の君なら理解できると思うよ?」

 

 この言葉にできない想いを伝えたいのに、アルケミストにはできない…そのもどかしさに苦悩するが、サクヤはそれを理解し受け止めてくれる。もう二度と感じられないと思っていた恩師の温もりに、アルケミストの瞳から雫が垂れ落ちる…。

 

「ねえアルケミスト、笑って?」

 

「マスター…」

 

「あなたの笑ってる顔が、とっても好きだから―――――」

 

 

 

 

 

 

 二度目のまぶしい光を受けてアルケミストは気だるそうに起き上がる……さっきまでの穏やかな草原から変わって、いつもの見慣れたウロボロス邸の一室となっていた。そのまま、装置から起き上がることなくアルケミストは佇む……頬には、涙が流れた跡が残されていた。

 そのまましばらくじっとしていると、唐突に扉が開かれてデストロイヤーが飛び込んでくる。

 どうやら夢の感想を聞きに来たようだが、アルケミストの様子を見て心配そうに覗き込む。

 

「どうしたの、アルケミスト?」 もしかして、悪い夢を見たんじゃ…?」

 

「いや、そういうわけじゃない…ただ…」

 

「ただ?」

 

 夢でマスターに逢った、そう言いかけたがやめた。

 

「わけのわからない怪獣をぶちのめす夢を見た。やっつけた怪獣が全員、着ぐるみ被ったアーキテクトだったんだけどな」

 

「なにそれ? 変な夢ね、でも面白そう! ねえ、今度はどんな夢が見れるかな?」

 

「さあね、分からないよ」

 

 本当のことを言えず隠してしまったことを申し訳なく思うが、自身の今だに残る未練を、デストロイヤーに知られたくなかった。夢の出来事を自慢げに話すデストロイヤーに合わせつつ、彼女は部屋を立ち去った。

 

 それからというもの、ハイエンドモデルたちは暇な時には夢を見たさに装置を試すようになり、毎度違う内容の夢にイントゥルーダーやジャッジなどは大はしゃぎである。

 一度、ウロボロスが興味本位で試したことがあったが、リアルな夢を見たとのこと…現実とさほど変わってない夢という意味で、どうやら彼女は常に願望の赴くままに行動しているせいで、夢と現実の内容が一致してしまっているらしい。

 

 アルケミストは周囲には冷静な素振りを示していたが、夜遅くになるとベッドを抜け出し夢を見るためにあの部屋に行くようになっていた。いけないと思いつつも、抗うことは出来なかった…たとえ夢だとしても、マスターに逢えるのだから…。

 

 

 

「―――――はぁ、はぁ…! 手に入れたよアルケミスト!」

 

「あの、マスター…? なんで夢の中なのにそんなに息切れしてるんだい?」

 

「科学者の運動不足を舐めちゃいけないよ、というか細かいことは気にしないでさ! はい、君の大好きなイチゴのショートケーキだよ!」

 

 その日見た夢では、サクヤがどこからか手に入れてきたケーキを振る舞われるというもの。夢なのに息切れを起こしているなんとも不思議な姿をちらちら見ながら、サクヤが用意してくれたケーキを口に運んでみる。柔らかな甘みが口いっぱいに広がり、幸せな気分に浸る…するとサクヤがクスクス笑いながらこっちを見ているのに気付く。

 

「なんだ?」

 

「いやぁ、君ってさ甘い物食べるといつも表情にでるなぁって……かわいい」

 

「マスター…からかわないでくれ」

 

「あはは、ごめんごめん。ほら、もっとあるからたくさん食べてね?」

 

「いつも思うんだけど、マスターは一緒に食べないのか?」

 

「私はいいの。君が食べてたくさん笑顔になってくれるだけで、私はお腹いっぱいだから」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものなんだよね」

 

 

 

 

 

 

 毎夜、ベッドを抜け出し夢の中でマスターと逢う。

 何度も夢を見て、マスターと逢う度にアルケミストはそれがやり過ぎてはいけないことなんだという意識が薄れていく。なるべく、日常では周囲に悟られないようにはしているが、昼間でさえアルケミストは夜のことを…夢で逢えるサクヤのことを考えるようになっていた。

 

 そんな日々が続いたとある日の夜だった…。

 

 アーキテクトが造った夢を見るための装置は、部屋からなくなっていた。

 

 いつものように夢を見ようと思っていたアルケミストは途方にくれていた。

 

「あの装置は、ウロボロスに頼んで別な場所に移していただきましたわ」

 

 その声に振りかえると、壁際の椅子に代理人が腰掛けていた。どうやら夢のことに夢中になるあまり、彼女の前を気付かずに通り過ぎてしまっていたに違いない。

 

「先日、シーカーから相談を受けました……あの装置は、メンタルモデルに悪影響を及ぼす恐れがあると。夢の中で見る世界に夢中になるあまり、夢に耽ってしまったり、現実に生きることを忘れてしまうと……後悔はしていません、それと、この件でシーカーを責めてはなりませんよ」

 

「あぁ……分かってる…」

 

 夢を見れないということは、もうマスターに逢うことが出来ないということ。それを実感した瞬間、言いようのない虚無感に苛まれる。シーカーが代理人に対し警告したのは、つまりはこういうことであった。

 

「代理人、あたしは…」

 

「言わなくても分かっています。サクヤさまをと逢っていたのね?」

 

 アルケミストは、小さくうなずいた。

 

 そんなアルケミストの手を引いて、代理人は部屋の椅子に腰掛けさせる。

 

「あなたがこうも夢中になるのは、サクヤさま以外にいないと思いましたからね」

 

「あたしは、ダメな奴だな……デストロイヤーやエグゼの前で、かっこつけて乗り越えたつもりだったのにな。ダメだった……ここに来る前までは生きることや、妹たちを守るのに精一杯で考えることは無かったんだけど……平穏な暮らしを続けていくと、どうしても考えてしまうんだよ……今が幸せなら、きっとあんな夢を見ることもなかった。あたしは、あたしの幸せは……マスターなしじゃありえないんだ…」

 

「愚かなことですよ、アルケミスト…愚かで、哀れでなりません……誰よりも愛が深き故に、愛に溺れてしまう……残念ですが、私にはあなたに最善の答えを提示してあげることは出来ません。いや、誰にもできないことなのでしょう…あなた自身の問題なのですから」

 

「分かっているさ……なんとかする、何とかするから……今は腐らせてくれよ……」

 

「アルケミスト…サクヤさまを忘れろと言っているわけではありません、いえ、むしろ忘れてはいけないのです。あなたのその辛い気持ちは至極当然のこと……ですから少しだけ、あなたの苦しみを肩代わりしてあげましょう…」

 

 代理人はグラスを一つテーブルの上に置き、ボトルを傾けてとくとくとグラスに酒を満たす。それを二つ用意し、そのうちの一つをアルケミストの前にすすめる。

 

「処刑人は、嫌なことがあるとよく酒を飲んでいました。私には理解できませんでしたし、今もよくは分からないのですが……アルケミスト、今夜は私が付き合ってあげましょう…処刑人ほど、強くはありませんが…」

 

「情けないね、あたしは………代理人」

 

「なんですか?」

 

「ありがとう……それから、マスターに」

 

「ええ、サクヤさまに…」

 

 月明かりに照らされる部屋の片隅で、二つのグラスがこつんとぶつかる音が鳴った。

 

 








別作品でふざけてたら、ちょっとしんみりしたものを書きたくなった(ハートフルボッコ)

ほんとは、別なネタで、アルケミストが孤児にサクヤって名付けて育てるネタもあったけど、どちらかというとまだまだ愛に飢えている感があったのでこっちになりました…。

あぁ……逢わせてあげたいな、もう一度…(チラッ
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