「信じられない、こんなにたくさんいるなんて…」
逃げ込んだ廃屋の窓から通りを埋め尽くす感染者たちの群れを見て、FALはそのあまりのおぞましさに表情を引き攣らせる。廃屋に逃げ込んだところを見つからなかったため、感染者たちは中に押し入ろうとはしてこないが油断は全くできない。
感染者たちの動きは全く予測することが出来ず、何かの気まぐれで屋内に入り込まれたらお終いだ。
幸いにも、隠れている間に奴らが押し入ってくることは無く、群れは移動を始めて廃墟の奥へと姿を消していく。
「ねえAK-12、奴らは一体なんなの? ただの感染者には見えないし、あんな…機械と生物が混じり合った気持ち悪い化物なんて見たことないわ」
「残念だけど、私たちもよく知らないわ。奴らの正体を少しでも調べるために送り込まれたのだけれど、何の手がかりも得られない……数チームがこのエリアに派遣されたけど、生還できたのはほんの一握り」
「AK-12、周囲から群れはいなくなりました。移動しますか?」
「ええ、そうね。残弾数のチェックをしておきなさい、極力戦闘は避けること。それから何があっても弾は一発残すこと、自決用にね」
「そんなことにはなりません。私とAK-12がいれば、この程度の困難はなんともありません」
「あら、ずいぶん仲良しコンビね」
「自慢の相棒だもの。ところでアンタたちはどうするつもり、別行動をするの?」
「提案だけど、ここを出るまで協力しない? その方が群れと遭遇してもなんとかなりそうだけど」
「異議なし。AN-94もそれでいいわね?」
AN-94はMSFの二人と一時的に手を組むことに反対はしなかった、というよりAK-12の提案にノーと言うわけがないのだが。
この場においては、双方とも無事生還するために互いの立場を一旦忘れて手を組みあうこととする。
通信は、ハイブリッドのジャミングに阻まれるか傍受される危険性が高いため使用せず、不慣れなハンドサインでのやり取りで静かに廃墟を進む。幸い、こう言った事態を想定した訓練を受けていたWA2000とFALは問題なく行動できる……反逆小隊の二人はついてこられるかと思ったがどうやら杞憂であったようで、スムーズにWA2000らと一緒に行動する。
先行するWA2000は物陰から通りの先を覗くと、後続の者たちに手を握りしめるサインを見せる。
追従するAK-12らはWA2000の死角をカバーするように隠れ、周囲に目を凝らす。
「大群がいるわ、ざっと見て100以上は間違いなくいる。迂回路はある?」
「待ってて……300メートル戻った路地から迂回できるわ」
この町の地図を端末に写し、ルートを4人全員で共有し移動を開始する。
どこにハイブリッドたちが潜んでいるか分からないため、物音は可能な限り立てず、会話も必要最低限にとどめる。普段戦車乗りをしているFALに若干の動きの遅れがある以外は、4人は初めてチームを組んだにしては連携が取れていた。
順調に脱出路を進んでいた時、突然足を止めたWA2000はすぐさま仲間たちに隠れるよう指示を出した。
「どうしたの?」
「厄介なのがいる……ジャガーノートよ、あれもハイブリッド?」
「ええ、ここで見る米軍無人機の全てハイブリッドだと思った方が良い」
WA2000がじっと見据える先には、大通りに仁王立ちする米軍の重装戦術人形のジャガーノートがいた。
堅牢な装甲に高火力の武装を搭載し戦場でもMSFや正規軍を苦しめた存在、それも今や他の戦術人形と同様に機械と生物が融合したようなグロテスクな外観へと変貌している。
ジャガーノートはその場から動く素振りを見せず、十字路の中央に立って四方を監視している。
「ハイブリッドが並の感染者と違うのは、戦術レベルの行動を本能的に行うことにある。ハイブリッドたちの中に残るプロトコルがそうさせているのね」
「AK-12、あなた無人機や人形のハックが得意だったでしょう? 何とかできないの?」
「冗談でしょ? 奴らのAIはとても複雑な構造をしているし、傘ウイルス以上に危険なウイルス性を持ってるわ。私がハックを試みようものなら、逆にメンタルを侵食されてものの数十分で奴らにとり込まれてしまうわ」
「厄介ね」
「とてもね。正直、電子戦特化の私には相性が悪すぎるのよね……ここに送りこんだアンジェを恨むわ。それと注意しなさい、奴らはネットワークを介してウイルスを感染させる以外に、捕らえた人形に直接ウイルスを流し込む行為もする……先に送られた戦術人形がそれで残らず感染させられて、バックアップデータに至るまで全消去を余儀なくされたの」
「なるほど、あんたたちがシステムをオフラインにしている理由が分かったわ。だったら今すぐ自決して基地に戻った方が得だと思うけど…私たちと違って、あなたたちはバックアップデータで復活できるでしょう?」
「生憎、そうはいかないわ。ここでは通信を抑えていたから、生きたまま集めたデータを持ち帰らないといけないのよ」
「アンタたちの上官もなかなかクソみたいな仕事を押し付けるのね」
「ほんとよね。で、どうするのアレ?」
倒すか、また迂回路を探すか。
倒すにしても重装甲のジャガーノートを破壊できるだけの装備もないため、迂回路を探すしか手段はないのだが、別な迂回路にまたあのような強敵や大群が待ち構えているとも限らない。
悩んでいる間にも時間は過ぎていく……あと1,2時間もすれば辺りは暗くなる。
ハイブリッドたちは夜になると活発に行動するという情報があるということで、あまり悠長にはしていられない。
「屋上を行きましょう。建物の上をつたって、ジャガーノートをやり過ごす」
「ああ、いいアイデアね気に入ったわ」
冗談でしょ、とFALはぼやくがそれ以外に案はなく素直に従うほかなかった。
建物の非常階段を静かに上がっていき、屋上に上がる。屋上にハイブリッドの姿はないが、念のため他の建物の屋根等に奴らの姿がないかを確認した。
「クリア。あのデカブツだけ回避できればいいわ、一つ二つ建物を移れば問題ないでしょう」
「ええ、そうね。それで、誰が先に行く?」
AK-12がそう言ってAN-94の方をさりげなく向くと、彼女は明らかに狼狽し目を泳がせた。
その様子にクスクスと微笑みながら、AK-12はWA2000へ一番目を促した。
「お先にどうぞ、エリートさん?」
「私が提案したものね。いいわ、銃を預かってて」
ライフルをAK-12に手渡し、WA2000は屋上で助走をとって一気に隣の建物へ飛び移る。
ライフルタイプの戦術人形とは思えない身のこなしを目の当たりにしたAK-12は口笛を鳴らして称賛する。
二番目はFAL、少々危なっかしかったが無事成功…その後の二人も問題なく隣の建物へと飛び移る。
そのような建物から建物への飛び移りをあと二回ほど行い、非常階段から地上へと降りる…ジャガーノートをなんとかやり過ごし、再び廃墟から抜けるべく移動をしようとしたが……。
「まずい、大群がいるわ…!」
強敵をやり過ごしたと思ったら今度はハイブリッドの大群が出現する、最悪なのは2方向から大群が進んできていることだ。残された唯一の路地に向けて走りだすと、大群もまた走りだす…この騒動でジャガーノートも異変を察知しただろう。
裏路地を駆け抜けるFALは走りながら背後を振り向く……狭い路地にハイブリッドたちが殺到し将棋倒しになっているが、後からくるハイブリッドたちがそれを踏み越えて殺到してくる。
「これでもくらいなさい!」
足止めのため、大群に向けてFALがグレネードランチャを発射したが敵の圧倒的な数の前に効果は薄い。
「時間の無駄よFAL!」
「そうみたいね!」
銃を肩にかけて、二度と振り返ることなくFALは走る。
「ところでAK-12、脱出のプランは!?」
「指定された時間に回収ヘリが来ることになってる!」
裏路地を駆け抜けていった先で、4人はシャッターに阻まれる……分厚いシャッターを持ちあげようとしたが、何かに引っ掛かり少ししか開かない。WA2000とAK-12がシャッターを支え、先に二人を抜けださせる。その後WA2000が、最後にAK-12がシャッターを抜けようとする…。
「あっ、クソ!」
「AK-12!?」
シャッターから半身抜け出したところで追ってきたハイブリッドに足を掴まれ、シャッターの向こうに引きずり込まれていく。AN-94とFALが彼女の腕を引っ張るが、シャッターの向こうへと引きずり込む力が強すぎる。
次の瞬間、AK-12は苦悶の表情を浮かべながら吐血した……シャッターの向こうに向けてWA2000が発砲するが多勢に無勢だ。
「AK-12、AK12…!!」
シャッターの向こうで身体をズタズタにされるAK-12をなんとか助けようとするが、どうにもならずAN-94はパニックに陥る。
そしてAK-12はFALの手を振りはらい、AN-94の胸元から手榴弾を一つひったくると彼女を突き飛ばす…二人の手を離れたAK-12は瞬く間にシャッターの向こうへと引きずり込まれていった……数秒後、爆発音が鳴り響くと、咄嗟にWA2000はシャッターを閉めた。
「AK-12……? AK-1…2……?」
「立ちなさいAN-94! ヘリの回収地点まで急ぐわよ!」
「え……だって、AK-12が……AK-12がシャッターの向こうに……」
「バックアップデータは無事なんでしょ!? 基地に戻ればまた会えるわ! 早く立ちなさい!」
「ワルサー、時間が無いわ! 私たちまで奴らの餌食になってしまう!」
「私たちだけで回収地点に行っても意味がないわ! こいつが必要なの! FAL,手伝って!」
「ああ、もう!」
AK-12を目の前でやられたAN-94が放心状態でへたり込んだまま、それを二人で何とか立たせる。
放心状態の彼女の頬を平手で殴り、何とか意識を向けさせる。
「こうしましょう。今ここでアンタも死んだら、AK-12とアンタがここでしたことは全部無駄になるわ。AK-12のために生きて戻りなさい、いいわね?」
「で、でも…AK-12がいないとわたしは……AK-12が正しい指示を出してくれる、AK-12にどうすればいいか聞かないと…」
「AK-12はもういないのよ! 自分で考えなさい!」
「時間の無駄よワルサー!」
悲鳴に近い声で叫ぶFAL。
パニックに陥ったまま正常な思考ができないAN-94をワルサーは思い切り殴って気絶させると、ライフルをFALに預けて彼女を抱えあげる。
「正気なの!? 私たちは死んだら一回きりって、忘れたわけじゃないわよね!?」
「ええもちろんよ! いいから文句言わずに走って!」
叫ぶFALを黙らせてがむしゃらに走る。
この騒ぎで廃墟中の感染者・ハイブリッドが群れをなして追いかけてくるような錯覚に陥り、歴戦の戦術人形といえる二人でも恐怖心を覚える。
この状況で通信を控えても意味はない、そう判断しWA2000は持参した簡易無線機でMSFに連絡を図る……この時二人は気付いていなかったが、ハイブリッドたちが電波妨害を仕掛けたためあらゆる通信はジャミングに阻まれる。
雑音しか聞こえてこない無線機に悪態をついてひたすら走る…。
ここへ来るのに乗ってきたバイクがある場所へ向かうが、その距離は遠い…。
既に廃墟は出たが、大群もまた廃墟を出て追いかけてくる。
「ワルサー、なんか車が一台こっちに向かってくるわ!」
FALのその言葉を聞いて、向かってくる車両の存在に気付く。
見覚えはないが、すがる気持ちで二人はその車に向けて走る……車はドリフトをかけて二人の前にピタリと止めると、若い女性が車のドアを開く。
「乗って!」
女性の声を聞くまでも無く車に乗り込んだ二人、女性は車を一気に走らせて大群から離れていった…。
車が止まったのは、30分ほど走らせたとあるガソリンスタンド跡であった。
ハンドルを握っていた女性は安堵の息をこぼすと、後部座席のAN-94を確認して胸をなでおろす。
「どこの誰か分からないけど、感謝するわ。もしかして、AN-94たちの上司だったりする?」
「ええ、そうね。私は国家保安局のアンジェリア、この子の他にもう一人いたと思うんだけど?」
「奴らに捕らえられて、手榴弾で自爆したわ」
「そう……また起こした時が面倒ね。AN-94を助けてくれてありがとう」
握手を求めてきたアンジェリアの手を、WA2000は一応握る。
相手が国家保安局の人間と知ってWA2000は身構える……国家保安局とは旧ソ連時代の悪名高きチェーカーの流れを組む保安機関であり、オセロットもマークする組織だ。
アンジェリアが自分たちを助けたのには、何か狙いがあるに違いない……WA2000のそんな疑いを見抜いたのだろう、アンジェリアはクスッと笑う。
「何故助けたのか、気になるかしら?」
「ええ、そうね。チェキストは何か利益を見込んで行動するものだものね?」
「散々な言いようね…まあ隠すつもりはないわ。実はアンタたちを助けるよう依頼があってね……ダーリ……コホン、オセロットからの依頼よ」
「ちょっと待ってあんた……今、オセロットのことダーリンって呼ぼうとしなかった?」
「え? あ、あぁ……気のせいじゃない…?」
「詳しく話を聞かせなさい」
能面のような表情で迫るWA2000に、アンジェリアの表情が引き攣る。
後部座席で一部始終を見ていたFALは、新たな戦争の火種が生まれるのを確かに察知した。
※この後無事AK-12はバックアップデータから復活しますのであしからず
おや、これは…?
新たな修羅場の香りがぷんぷんしますね~(ゲス顔)
最近わーちゃん✕オセロット絡みで話が進められないな~なんて思ってたら、バレンタインデー特設ログイン画面のアンジェさんを見た瞬間天啓が来ました。
まあ、例のごとく本編で大した説明しなそうなんで説明しておくと…。
オセロットが国家保安局の情報を手に入れるため、アンジェリアにハニートラップしかけて篭絡しちゃって、すっかりオセロットにメロメロなアンジェさん……。
相変わらずシリアスからの落差がすごい(逆も然り)