METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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J・D

 先日、ウロボロスによってほぼ無理矢理押し付けられることとなったちびっこ軍団。

 Fiveーseven、カルカノ姉妹、C-MSの4人に加え今ではヴェルも交えてちびっこ5人組などと称されている…余談だが、ここにネゲヴも交えてちびっこ6人組にしようぜなどと、MSFのスタッフが大笑いしながら冗談で言っていたのだが、翌日、ヘリポートにパンツ一丁で磔にされるという凄惨な事件があった。

 見た目は幼いが、メンタルは大人だと主張するネゲヴを決して子ども扱いしてはならない…。

 

 そんなちびっこ軍団を誰が面倒を見るのか?

 ヴェルはともかくとして、常に一緒に行動するちびっこたちを一手に引き受けるのはどうしても苦労する……協議の末、独身で華がない人にせめて子どもたちを世話する喜びを与えてあげよう、ということでFALにちびっこたちが押し付けられた。

 本人からしたら余計なお世話である。

 

「ファールちゃん、はやくいっしょにおさんぽいくよ!」

 

「おねえさんのそのファッションは、ちょっとふるくさいですね……そうだ、わたしがデザインしてあげましょう!」

 

「おねえちゃんにふくをつくってもらえるなんて、FALさんはふこうものですね。そのださいふぁっしょんがますますかっこよくなるとおもいます」

 

「あなたにはおさかなはあげないよ?」

 

 朝起きてからというもの、ちびっこ共に囲まれて戦車の整備をするFAL。

 愛車の豆戦車"ふぁるタンク"はちびっこたちにも大人気で、一緒に乗せて走らせろと要求するので延々と走らされる……いきなり遊び盛りのちびっこを4人も預けられた独女がどうなるかというと、案の定持て余してしまう。

 まあ、そこで怒鳴ったり苛めたりはしないが不慣れな子どもの相手に疲れ切っている。

 Vectorが手助けしてくれなかったらおそらく彼女は戦車内に引きこもりっぱなしだっただろう。

 

「はぁ…子どもの相手とか向いてないのに、疲れるわ~…」

 

「バツイチですらないのに、いきなり4人の育児は独女には難しいよね」

 

「うるさい!」

 

 日頃の疲れと鬱憤からかFALが大声を出すと爆音が鳴り響く。

 比喩ではなく、ずしんと何かが揺れる感覚を受けてVectorとFALが空を見上げるとマザーベース中の海鳥たちが一斉に飛び立って行った。またスネークとミラーが戦っているのかと思い、爆発音がした方へと向かうと、異変を察知したのかスネークやオセロットが駆けつけてくる。

 

「今の爆音はなんだ?」

 

「分からないわ。私たちも何かなと思ってきたんだけど…」

 

「研究開発棟からのようだな。アーキテクトのやつだったら、今度こそ許さん」

 

 日頃からへんてこな行動を起こして迷惑をかけるアーキテクトをオセロットは疑った。

 棟からは慌てた様子で大勢のスタッフたちが逃げだしてくる、その人混みをかきわけながらスネークとオセロットは棟の中へと進む。

 内部は振動で棚が倒れていたり、照明塔が割れてガラスが床に散乱している。

 

「一体何があったんだ?」

 

「分からん。用心しろよ、ボス」

 

 二人とも銃を構え、非常灯のみが灯る暗い通路を歩いていく。

 研究開発棟内部を慎重に探索していくが、特におかしなところはない…スタッフたちも急な爆音と揺れにびっくりして逃げだしてきただけなようで、具体的に何が起こったのかは分からないらしい。

 そんな時、唯一明かりが生きている部屋を見つけた。

 ストレンジラブ博士の専用研究室、普段はスネークでさえもストレンジラブの許可なく立ち入ることを拒否される特にセキュリティの厳しいエリアだ。いつもなら入り口に警備のヘイブン・トルーパー兵がいるが、彼女たちは床に倒れて気絶していた。

 

 ゆっくりと研究所内へと入っていくと、そこでストレンジラブとアーキテクトが仰向けになって倒れているのを発見する…両者とも命に別状はなく、スネークが軽くストレンジラブを揺すると呻き声をあげながら起きてきた。アーキテクトの方も、オセロットが頭をつま先で蹴ると"うぎゃ"という声と共に目を覚ます。

 

「一体何をやらかしたんだ、言えアーキテクト」

 

「い、いきなり疑いの目!? 私は何もしてないよ!?」

 

「ストレンジラブ、一体何があったんだ?」

 

「わたしもよく分からん……アーキテクトと一緒に自律人形を開発してたら、突然まぶしい光に照らされて…そこから先は分からないんだ」

 

「あまりよく分からんものを開発するなとあれほど言ったはずだが…」

 

「アーちゃんに不可能などないのさ! てへぺろ♪」

 

「ボス、少し時間をくれ。人形を一体スクラップにしてくる」

 

「辛辣ッ!?」

 

 アーキテクトの処遇は一旦保留とし、二人が開発しようとしていたという自律人形を見て見ることとする。

 二人が自律人形と呼ぶのは、スコーピオンやエグゼのように直接戦闘を想定した戦術人形とは別なコンセプトで開発するためだという。単純労働から業務の補助要員だとか、そういうための役割だとか…。

 人形が安置されているという研究所へと赴くと、そこにはベッドの上に腰掛ける小柄な少女の自律人形が一体いた。

 色白の肌にプラチナブロンドの長い髪、華奢な身体つきはとても労働用に造られたとは思えない非力な印象を感じさせる。少女の姿をした人形は、スネークたちが部屋に来ると反応し、顔をあげて紅色の瞳を向けてくる。

 

「特に、何か変わったところはないが…ストレンジラブ、この子の名は?」

 

「まだ決めていない、名前はない」

 

 少女はじっとスネークたちを見つめる……具体的にはスネークとオセロットを交互に見つめている。その視線に気付いているオセロットは一切隙を見せず見据える。

 すると、少女はベッドから降りて素足のまま床に降りるとスネークとオセロットの前まで歩いていき、何も言わずにじっと見上げてくる。心の奥を覗き込んでくるような少女の紅い瞳は、スネークを、次にオセロットに向けられる。

 戦闘用の人形でないのなら対処は容易い、しかし油断せずホルスターに手をかけたオセロットであったが少女の発した言葉に呆気にとられることとなる。

 

「認識完了、ビッグボスとオセロット本人である確率は100%……こんにちは、ビッグボスおじさま、オセロットおじさま」

 

 スネークらの思考が戻ってきたのは、少女の発言から数十秒後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――まとめるとこうか? きみはオレたちが元いた世界の未来の時代で、世界をコントロールしていたAIで、オレやオセロット……ゼロが創設した組織の運営を代理していた存在だと?」

 

「はいおじさま。コードネーム"シギント"、本名ドナルド・アンダーソンおとうさまによって開発された私はその後AIとして成長を続け、世界の経済を掌握するまでになりました。しかし2014年、愛国者達(パトリオット)に反旗を翻す者たちの手によって終焉を迎えました」

 

「頭が痛くなって来たんだが…」

 

 少女が言うには、自分は1975年よりも未来に存在した秘密組織【愛国者達】の代理AIであるといい、ビッグボスのクローン体であるソリッド・スネークやその協力者、別人になり替わることで愛国者達の目を欺いたオセロットの手により終焉を迎えたのだとか。

 未来のことだとか、自分が自分のクローンの手によって脳死状態にされたとか、そのようなことをいきなり言われてもスネークは理解できなかった。

 しかし、スネークやオセロットの他、ゼロ、パラメディック、シギント、EVAといった秘密組織の創始メンバーを言い当て、スネークのかつてのコードネーム【ネイキッド・スネーク】を知り、賢者の遺産のことも知っていることから少女の言葉を信じるしかなかった。

 

「それで、君は……その前に君をなんて呼べばいい?」

 

パトリオット(愛国者達)、あるいはJ・D(ジョン・ドゥ)

 

「それじゃあJD、君はこれからどうするつもりだ? 話を聞く限りでは、君はオレやオセロットに恨みがあるんじゃないのか?」

 

「恨みというのが何なのか分かりませんが、わたしにはここで何かを起こせる力も組織もありません。ただ、ゼロおじさまやシギントおとうさまがいらっしゃらない以上、愛国者達の創始メンバーであるビッグボスおじさまとオセロットおじさまに従います」

 

「なるほどな……オセロット、どう思う?」

 

「オレ自身、信じられない話だと思っているが……少なくとも、この少女は嘘はついていないようだ。あの組織と、ゼロの名を知る者はそう多くない。今は何とも言えないが、危険は少ないと思う」

 

「そうか」

 

 オセロットもまた、JDの話してくれた未来の出来事に関しては戸惑いを見せていたが、彼女が口にした事柄は無視できなかった。

 

「それでJD、一つ聞きたいんだが」

 

「はいおじさま」

 

「君は、まだ……ゼロの意思を引き継いで、世界をコントロールすることを考えているのか?」

 

「いいえ、おじさま。先ほども申しましたように、それだけの力はもう私に残されてはいないと思います。賢者の遺産なくしてこれまでの意思の決定は不可能です。そして最後に受けた攻撃でゼロおじさまの残した指令が喪失しております…おじさま、私には次の指示が必要です」

 

「なるほど、だいたい分かった。だが少し、考えさせてくれ…情報量が多すぎる…」

 

「はいおじさま」

 

 JDは返事を返すと、先ほどから全く変わることのない表情でスネーク、そしてオセロットを交互に見つめる。

 

 とんだ大きな爆弾を抱えることとなったMSFとスネーク。

 果たして世界を掌握したAIである彼女とこれからどうなっていくのか、スネークとオセロットは全く見通すことが出来なかった…。




オーガスと同じくらいか、それ以上にヤバいAIがログインしました~(ニッコリ)


いやね、本当は愛国者達のAIをこの作品の真の黒幕的存在にしようとしてた時期があったんですが、没になったんですよ。
それで、活動報告のリクエストにMGSの他のキャラと絡ませてというのがあったので、折角だから出しました……愛国者達のAIを人形にぶち込んでみました。


名前は悩んだんですけど愛国者達のAIの最高意思決定を司るAIの「J・D」としました。

容姿は本編にある通り、ミニマムボディ。
他作品でイメージするなら、To LOVEるシリーズの金色の闇でいいんじゃないですかね?

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