崖から身を投げたハンターは川に落下し、激流に飲まれるままに川下の方へと流される。
川の流れにもみくちゃにされて、幾度も川底や岩に身体を打ちつけられる……激流がようやくおさまるところにまで流されたハンターは、なんとか力を振り絞り川のほとりにまで泳いでいく。川辺にたどり着いた彼女は、這いながら砂利の上を進み、流木にもたれかかる。
立ち上がって動き回ることなど不可能なほど全身を痛めつけられ、体力を消耗している。
水に濡れた身体は冷え切り、それもまた体力の消耗に拍車をかけるのだ。
著しく体力を消耗した彼女は暖を取りたいと思うが、夜間でたき火を起こせば自分の居場所を容易く知られてしまう。小動物程度なら火を起こして追い払えるだろうが、あの闇に潜む巨大なモンスターはたき火程度の火など恐れはしないだろう。
重たいまぶたをなんとか開けようとする……そこでハンターは気付いたのだが、片目が思うように開かなかった。軽く触れたまぶたは腫れており、打撲によって内出血を起こし血が溜まっていた。
「バッグパックは……よかった、失くしていない……」
激流に飲まれる中で、銃は失くしてしまったがサバイバルナイフと応急キットやその他地図やコンパスなどの入ったバッグパックは失くすことは無かった。
ひとまず彼女はよろよろと立ち上がると、身を隠せる安全な場所を探す。
暗い森の中で視界はきかなかったが、ハンターは落ち着いて目を細め周囲を探る……川辺の近くに小さな洞穴を見つけた彼女は、わき腹から滴る血をなるべく痕跡として残さないよう川の中を歩いて近付き、再度周囲に敵がいないかを確認した上で洞穴の中に身をひそめる。
入り口近くは窮屈であったが、奥に進むと少し開けた空間に出る。外以上に暗いその空間でハンターは地面に腰を下ろし、少しの時間だけ休息を取る……僅かだが休息をとったハンターはたき火の燃料を集めて洞穴に戻ると、出来るだけ乾燥した枝木をナイフで削りおがくずを作る。
そのおがくずにメタルマッチを使って着火させると、残りの薪をくべていく……。
たき火の暖かさが、冷え切った身体に心地よい、つい眠ってしまいそうになるがまだやらなければならないことがある。
ハンターはサバイバルナイフの刃をたき火の火で焙り滅菌させると、少し冷ましてから刃先を内出血を起こしているまぶたの上に近付ける。腫れた箇所を斬り裂くと、勢いよく溜まった血が飛び出した…。
腫れは直ぐに引かないだろうが、徐々によくなるはずだ…。
残る課題は、わき腹に突き刺さったままの鋭利な棘だ。
いまだに血が止まらず、わずかに動くだけでもズキズキとした痛みに見舞われる。
何度かの深呼吸を経て覚悟を決めた彼女は、布を噛み締めながらナイフの刃先を脇腹の棘へと近付けていく。麻酔などない、このまま脇腹を斬り裂いて棘を除去しなければならない。目を背けたくなる行為ではあったが、ハンターは歯を食いしばり一瞬たりとも目を逸らさずナイフの刃先を自らの脇腹へとつき入れる。
そして棘を除去するために傷口を広げていく……激痛に襲われて何度も手を止めそうになるが、不屈の精神で痛みを耐え抜き、深々と突き刺さっていた棘の除去に成功する。
あとは傷口を縫合し抗生物質を打つだけ……簡単に思えるがこれはこれで麻酔なしの状態で行うため大きな痛みに見舞われる。
人形に抗生物質など無意味と思うかもしれないが、生体部品の損傷は極力自然治癒に任せる方針をとるMSFでは常識的な治療法だ。なにより、この極限の状態で傷を放置すれば疑似生体パーツは腐り落ちて死なないまでも活動に大きな支障をきたす。
ただ助けを求めるのならここまでしなかっただろうが……ハンターは狩りで負けることをよしとしなかった。
傷ついてなお消えることのない狩人としての本能に突き動かされつつあるが、今は一先ず傷付いた身体を癒すこことが先決だ。
狩りはまだ、終わっていない。
暗い洞穴の中で息をひそめている間構想していた計画を、ハンターは傷が癒えたと同時に実行に移す。元々常人より治癒力の高い戦術人形であり、なおかつ鉄血のハイエンドモデルである彼女が身軽に動けるようになるまでそう時間はかからなかった。
サバイバルナイフ、マチェット、グレネードが二個、ワイヤーなど今のハンターにはあのモンスターを相手するのにはあまりにも武器や道具が足りなかったが、ハンターには勝算があった。
ハンターは靭性の高い木を伐採してナイフで形を整えて弓の原型を作る、それから木の皮から得た繊維を編むことで弓の弦を造り上げ、それを取りつければ即席ながら武器として使える弓が出来上がる。
次にハンターは矢の材料となる細木を伐採し、ナイフで形を整えていく。鋭く尖らせた先端を火であぶって硬化させる…ただこれだけで満足せず、ハンターは空を飛ぶ鳥を投石で叩き落しその羽根を採集する。
木の幹から得た樹脂で矢に羽根を塗り固めれば完成だ…これを20本ほど造り上げたハンターは試しに試射をすると、矢は木に深々と突き刺さる…威力のほどは申し分ない。
弓矢の作成と同時に、ハンターは毒蛇やサソリ、毒蜘蛛を捕まえて毒を手に入れる……取り扱いには注意が必要だが、あのモンスターを倒すためには必要だ。
次にハンターが着手したのは、近接武器の作成だ。
あの大きなモンスターに対しナイフとマチェットだけでは心もとない。この密林の中には自生する竹があり、ここに来る前にイーブルに竹の武器としての有用性を教えてもらった知識が活かされる。
何本もの竹を切り、先端を鋭利な形状に加工し、火であぶって硬化させる……近接武器用以外にも、ブービートラップの材料として使う分も造り上げていき、翌日にはトラップの材料として使われていく。それら極めて殺傷能力の高いトラップは、ハンターがあのモンスターと対決することを想定した場所に仕掛けられる。
造り上げた竹槍は分散し、あちこちに隠して置く
竹槍の先端には動物の糞尿、あるいは腐肉が塗りつけられる……これもイーブルに教わった知識であり、傷口に感染症を起こさせるための仕掛けだ。
これですべての準備は整った、あとはあのモンスターをおびき寄せる。
ハンターは仕留めたシカの腹をさばいて吊し上げると、こちらの位置をあのモンスターに知らせるように、森に向かって大声を出して叫ぶ。もしもあのモンスターが付近にいるのならこれで気付いたはずだ……。
じっと、息を潜めてモンスターを待ち構えているうちに太陽が沈み辺りが暗くなってくる…そして空から雨が降りだしさらに視界が効かなくなるが、これはハンターにとっても好都合だ。雨の音がモンスターの聴覚と嗅覚を鈍らせる。
そうして待つこと数時間、ハンターは雨の音に混じって木々を踏みしめる音を確かに聞いた。
暗闇に目を凝らす姿はまるでネコ科の猛獣のようであり、音を発した方向を鋭く見つめる。暗闇の中をゆっくりと、這うように進む大きな影……時折立ち止まって周囲を見回す仕草から、相手も警戒していることが伺える。
先端にグレネードを固定した矢をつがえ、ゆっくりと弓を引く。
グレネードの重みを考慮し、獲物が徐々に近付いてくるのを待つ……そして、好機と判断した彼女は弦から指を離し、矢は放物線を描きモンスターの顔面付近に命中する。グレネードが着弾の衝撃で炸裂し、モンスターは突然の爆発に叫び声をあげた。
優れた聴覚を持つモンスターにとって、耳元での炸裂は致命的で、一時的に聴覚が麻痺する。
爆発の衝撃で転倒したモンスターに追い打ちをかけるように、ハンターは次の矢を構えた…ぎりぎりと、限界まで引き絞られた末に発射された矢は、勢いよくモンスターに向けて発射される。矢はモンスターの身体を貫くが、あの身体の大きさには一発二発程度では効果が薄い、ならばと弱点を狙いすまし矢を発射した…放たれた矢は見事、モンスターの右目を射抜き、モンスターは激痛に再び声をあげた。
聴覚を麻痺させ、視覚の半分を奪い、ハンターは勝機と見て走りだす。
置いてあった竹槍の一つを走りざまに手に取り、大きくジャンプしてモンスターの背に飛び込む。背中にハンターがしばみついてきたことに気付き、モンスターは暴れまわるが、それをしのぎ切り背中に向けて竹槍を突き刺した。
「もう一撃…!」
もう一本の竹槍を手にしてハンターであったが、モンスターは機敏な動きでその場を跳び退いて避ける。
待ち伏せを仕掛けたハンターを認知したモンスターは、体毛と尾の棘を逆立てると耳をつんざくような咆哮をあげる。怒りに染まった眼光は赤く光り、興奮により目元や耳の一部が赤く充血している…。
毛を逆立てたことで先ほどよりも一回り大きく見えるモンスターに、ハンターは生唾をのみ込んだ。
激高したモンスターは怒りの声をあげながら、恐るべき切れ味の翼刃を振りかざしながら跳びかかってくる。あの大きな体から想像もできない機敏さに圧倒されかけるが、ハンターはよく相手の動きを見極めて回避に徹する。
反撃の機会があればと思うが、苛烈な攻撃の前に反撃の余裕などなかった。
しかし、これも想定のうちだ……反撃ができない時のためなどに、トラップを用意していたのだ。
罠の位置を把握しているハンターはモンスターを誘導し、罠の位置に誘い込む。ここまでの戦闘でこのモンスターの狡猾さを思い知らされた彼女は、罠の存在を悟られぬようにつとめる。
そして、二つの木の間に誘い込んだ時、ハンターは仕掛けておいたワイヤーを切断、ワイヤーによって支えられていた仕掛けが作動し尖った竹の先端がモンスターの胴体を貫いた。
罠に嵌まっているモンスターめがけ、竹槍を突き刺す…相当なダメージを与えたはずだが、まだモンスターは暴れるだけの体力を残す。
怒り狂うモンスターは罠を力任せに破壊し、自分の身体ごとハンターにぶつかっていった。
数百キロもの体重差があるモンスターの体当たりは、それだけでも凄まじい威力を持つ…まともに体当たりを受けたハンターは木に叩き付けられ、目まいを起こす。
「くっ……!」
モンスターが身を翻したのを見たハンターは咄嗟にその場を跳び退く。
次の瞬間、モンスターの尾が勢いよくハンターのいた場所めがけ叩きつけられ、そこにあった木は容易くへし折られた。あの一撃を受けていたらおそらく即死、それはズタズタに引き裂かれた樹木を見れば明らかだ。
奇襲には成功したが、仕留めきれなかったのは良くない展開だ…。
しかし、対峙するモンスターも息を乱しわずかに身体をよろめかせる…苦しいのは相手も一緒、それを知ったハンターは勇気づけられる。
「来い、怪物め……狩るか、狩られるかだ!」
ハンターの挑発が通じたのかどうか、モンスターは声を張り上げると翼刃を振り上げて跳びかかってくる。躱されても立て続けに跳びかかり、体勢を崩したハンターに向けて勢いよくとびかかり、彼女を地面に押し倒す。抜け出そうとするハンターを爪で押さえつけ、その肩口に喰らい付く。
鋭利な牙が深々とハンターの体を貫き、骨格をへし折る。
モンスターの牙と咬筋力によってハンターの腕は肩の根元から喰いちぎられてしまった……再び噛みついて来ようとするモンスターめがけ投げつけたのはスタングレネード、咄嗟に目を覆ったことで目は守れたが、炸裂音で何も聞こえなくなる。
体を押さえつける圧迫感から解放されたハンターはなんとか拘束から抜けだす。
至近距離からスタングレネードをくらったモンスターは錯乱し、闇雲に暴れ出した。不用意に近付けば危険であるが、今が最後の好機であるのは確かだった。
残された腕に竹槍を握り、罠の一つに目を向ける。
罠の位置を再確認したハンターは走りだし、最後の攻勢を仕掛けるのだ。混乱から立ち直ったモンスターは満身創痍ながら襲い掛かってくるハンターに少し気圧されたが、すぐに返り討ちにせんと牙を剥く。
モンスターが向かってくる勢いを利用して胸元めがけ竹槍を叩き込む…ダメージは与えたが怒りで痛覚が鈍ったモンスターは多少怯んだだけで再び向かってくる。
モンスターの腹下をスライディングで抜け、罠の位置にまで全力で走る。
モンスターが勢いよく追いかけてくるのは振りかえらずとも分かる。聞こえてくる音から大まかな距離を想像し、ワイヤーを切断し罠を作動させる。ツルによって樹上に仕掛けられた大きな丸太には数本の竹槍が括りつけられ、その鋭さと丸太本体の重量によって大型の動物をも仕留める威力を持つ。
そのトラップがワイヤーの切断によって落下し、ちょうど跳びかかってきたモンスターの背中に命中して押し潰す。
落下してきた丸太の重量はモンスターの強靭な骨格をへし折り、鋭利な竹が体を貫いた。
それでも、モンスターは立ち上がろうともがくが…やがて力尽きる。
丸太に押し潰され瀕死の状態のモンスターをハンターは見下ろす……あんなに恐ろしく、獰猛であったモンスターはほとんど虫の息で、苦しそうに小さな声を漏らす。
ナイフを手にし、モンスターの息の根を止める。
光を失ったモンスターのまぶたをそっと閉じ、彼女は狩人として死闘を繰り広げたこのモンスターに敬意を示す……。
「……終わった……もう、動けないが…」
緊張の意図が切れてその場にへたり込む。
もう動く気力も体力もない、まぶたを閉じて疲れ切ったからだを地面に横たえる……死にたくないだとか、仲間の元へ帰りたいだとかは不思議と思わなかった。ただ、このまま眠ってしまいたいと思えた。
「寝るのはまだ早いぞ」
そんな声が聞こえてきて、ハンターはぼんやりと目を開ける……そこにいた見覚えのある顔に、ハンターは小さく笑った。
「フランク…そうか、間に合ったんだな…」
「お前はウロボロスの扱いをよく心得ている。見事だハンター、良い…狩りだったか?」
「……そうだな…だが、疲れたよ…」
「仲間のところにまで送っていこう、立てるか?」
「…見ての通りさ」
「仕方のない奴だ」
フランク・イェーガーはハンターを両手で抱えあげると、傷付いた彼女を刺激しないよう静かに運ぶ。
恩師の腕の中で、疲れ切ったハンターは穏やかな寝息をたてはじめるのだった…。
ナルガクルガ、狩猟完了…お疲れさまでした。
ナルガクルガを手なずけてペットにする案もありましたが、なんか違うなと思いましたんでこうなりました。
ハンターさんイケメン化の始まりですね、でもいい嫁が浮かばんぜよ……ハンターのお嫁さんにこのキャラをと思うのがいれば、活動報告の目安箱にでも入れておいてくださいなw
※
今回のモンハンイベ、怪物の島から出た場所でナルガ出現してるんですよね……ちょっと裏があって、そこら辺をただいま計画中の大モンハンコラボに繋げようと思ってます。
というわけで、コラボ計画始動だぜ。
↓集会所入り口となりますw
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=233281&uid=25692