日々訓練に明け暮れるMSF所属のスタッフ、戦術人形たちにとって夜は各々気ままに過ごすことのできる憩いの時間である。昼間にも休みの時間がある者もいるが、だいたいは夜にプライベートな一時を過ごす。
昼の訓練を終えて、WA2000が隊長をつとめる小隊は揃ってマザーベースの浴場にやって来て、訓練でたまった疲労を癒す。本日は研究開発班が暇つぶしに作ったという泡風呂の元が大浴場に混ぜられ、ふわふわとした泡が大浴場を覆い尽くす。
アロマな香りとふわふわとした泡に癒されて、肩までお湯につかる79式はだらしない表情をしている。
「ふへぇ~……」
「あらら79式、随分お疲れだったみたいね。鏡を見せてあげたいわ」
「今日のセンパイの訓練は特に凄まじかったですよ……癒されますね」
「この程度のことで根をあげちゃダメよ79式。私たちのチームはハンターの猟兵部隊やスペツナズよりも優秀じゃなくちゃならないんだからね。いつかあなたも、私や9A91のようにFOXHOUNDの称号を貰えるようになるって期待してるんだから」
「うぅ……頑張ります」
上司からの期待は嬉しい反面、大きなプレッシャーとなる。
遥か高みを目指すWA2000に自分はついて行けるのか、期待外れになってしまったらどうしよう…色々な不安に悩まされる79式は泡の中に顔をうずめていく。
程よく身体が温まったところで、のぼせる前に3人はお風呂から上がる。
それから食堂の方へと向かおうとしたところ、何やら興奮した様子のリベルタドールが3人を待ち構えていた。彼女の手には小さな便箋があり、3人はリベルタ何かを言わずとも、何を言いたいのか理解した。
「あら、またユノちゃんから手紙を貰ったの?」
リベルタは小さくうなずくと、目をキラキラと輝かせてWA2000を見つめる。
まるでおやつを貰う寸前の子犬のようだ、もし尻尾がリベルタに生えていたら千切れそうなほどぶんぶんと振っていたことだろう。そんなリベルタの様子に苦笑しつつ、ひとまず4人で食事をしに食堂へと向かう。
食事中も、リベルタは手紙をじっと見つめたまま時折目を細めて喜びを表現していた。
「さてと、お待たせリベルタ」
「お願いする」
「コホン……『親愛なるリベルタちゃんへ……寒い日が続いておりますが、お変わりなくお過ごしでしょうか?-―――」
手紙を広げ、WA2000はこの手紙をしたためた人物になり切るかのように、声に抑揚をつけて読みあげる。それをリベルタは目を閉じて、静かに聴いていた。
リベルタは文字の読み書きができないのだ。
正確には、今は存在しない鉄血工造スペイン支部にて戦術人形開発の黎明期に開発された彼女は、そのリソースのほとんどを戦闘技術関連に用いられているため、唯一認識できるスペイン語すら完璧には理解することができない。
旧式の鉄血製戦術人形であるため、リベルタに用いられている技術は失われてしまっている。
同じ鉄血のエグゼやハンターに使える技術も、リベルタには適用できないことが多いのだ。
今までにもリベルタは友だちのユノファミリーから手紙を貰うが、その度にWA2000が代読し、返事の手紙を代筆してくれていた。
WA2000が手紙を読み終えると、リベルタはぺこりと頭を下げて礼を示す。
「それにしても驚いたわね…ユノちゃん妊娠したんですって? それで、また妹が増えたとか……というか妹が増えるってどういうことなの?」
「細かいことは気にしない方がいいらしい」
「まあ、喋るネコとかが平気で歩きまわってる世界だから今更どうこう言うつもりないけど……まあそれは置いとくとして、じゃあ子どもを授かったお祝いの手紙を用意しなきゃね」
「ふふ、嬉しそうでいいわねリベルタ」
「良い友人ですねリベルタ。折角できた友達なんですから…決して離しちゃダメですよ、大切にしなきゃ」
「代筆をお願いする、ワルサー。できるだけ自分で言葉は考えたいが」
「ええ、分かってるわ。それじゃあ書き出しは―――」
4人が一つのテーブルを囲んで返事の内容をどうするか話しあっていると、ふらっとやって来たエグゼがWA2000の手元から手紙をひったくった。
もちろんそんなことをすればWA2000は怒りだす…日頃から馬が合わないエグゼが相手となればなおさらだ。
「ふん、まーたグリフィンの奴と文通かよ? よそ様との交流はずいぶんお忙しそうだな」
「あんたには関係ないでしょ!? さっさと返しなさい!」
「まあ、なんだっていいけどよ。こんなポエムなんか貰ったくらいで喜んでるお前らが羨ましいぜ」
間接的にとはいえ、エグゼに友だちをバカにされているような言い方にリベルタはさっきまでの嬉しい感情が一気に冷めてしまった。大切な部下を落ち込まされてWA2000は黙っていられなかったが、この場でエグゼを打ち負かす言葉は浮かんでこなかった…。
しかし、ふと何かに気付くWA2000。
エグゼはひったくった手紙を読んでポエムと称したが、別にそう受け取れるような内容ではない。
手紙の内容はユノファミリーの近況についてのはずだが……そこで、WA2000は前々から抱いていた疑問をエグゼにぶつけてみることにした。
「ねえエグゼ……あんたもしかして、文字読めない?」
「あぁ? なんだよいきなりお前…」
「いや、前から思ってた事なんだけどさ。あんた絶対文字読めてないでしょ?」
「おちょくってんのか? オレ様が文字を読めないだって?」
「じゃあこの手紙読んでみなさいよ」
「なんでオレがそんなことを」
「いいから!」
渋々手紙を受け取るエグゼであったが、眉間にしわを寄せて唸るだけだ。
うんざりした様子でエグゼは手紙をWA2000へと投げ返す。
「こんなフランス語読めるわけねえだろ!」
「これドイツ語なんだけど?」
「……そう言おうとしたんだよ!」
「やっぱり読めないんでしょ?」
「うるせえ! ドイツ語とか、フランス語とか…そんなマニアックな言語読める奴の方がどうかしてるっての!」
「どこがマニアックな言語よ! じゃあこれは、これなら読めるでしょ!?」
そう言ってWA2000が渡したのは英語で書かれた報告書だ。
英語はMSF内でも最も使われている言語であり、英語を読み書きできればだいたい通じるというものだが…。
「オレはアメリカ語が大嫌いなんだよ」
「アメリカ語ってなによ? 英語って言いなさいよ……はぁ…あんたやっぱり読み書きできないのね」
「できるって言ってんだろ!」
意地を張って言い返すが、実際エグゼは文字の読み書きができなかった。
これはリベルタのようなスペック的な問題ではなく、単に本人の勉強嫌いに起因する…WA2000は知らないことだが、かつてエグゼやアルケミストの恩師だったサクヤがエグゼに読み書きを教えようとしたが挫折した裏話がある。
エグゼが文字の読み書きができないと知るや否や、WA2000は一気にたたみかける。
「あんた連隊長の立場よね!? 何千人も指揮してるのに、読み書きできないってどういうことよ!?」
「だから読めるって言ってんだろ! まあ千歩譲ってオレ様が読み書きできないとしよう……逆にそんなんで何千人も指揮してるってすごくね?」
「呆れて言葉も出ないわ。簡単な英語の読み書きもできないなんて恥ずかしくないの? まだヴェルちゃんに教えた方が覚えが良さそうね」
「へへ、子どもはいつか親を超えていくってもんだ」
「かっこいいこと言ったつもりなんだろうけど、全然かっこよくないからね」
口先だけは達者なエグゼに、張り合ってるWA2000の方が脱力していく。
WA2000本人はドイツ語だけでなく、英語・ロシア語・スペイン語などを理解し使いこなすことが出来る。カラビーナも、ドイツ語とロシア語と英語は得意だ。特に79式は、WA2000の4か国語に加えてセルビア語・クロアチア語・中国語の7か国語を話すことも読み書きすることもできるのだ。
「ちょっとトップがこれって問題よね……スネークに相談しなきゃ」
「おいやめろ」
「というか、今まで報告書とかどうしてたのよ?」
「そりゃあ、気の利いた部下が…な?」
「あんたには少しパワハラの疑いもあるみたいね…スネークに報告するわね」
「だからやめろって言ってんだろ!」
エグゼの懇願も虚しく、後日WA2000はスネークにエグゼの読解力の低さを報告。
さすがにそこまで悪くないだろうとスネークは簡単なテストをエグゼに出題して見せたが……結果はまさかの0点。
スネークに問い詰められたエグゼの言い訳というのが"そもそも問題がなんて書いてあるか分からないから答えも出せない"とのことだった。
その後無事、エグゼのための課外授業が開かれるようになる。
アルファベットから習う課外授業を、ヴェルやFiveーsevenといったちびっこたちと共に受けるシュールな姿が目撃されることとなる。
スコピッピ(やっべ、あたしも文字読み書きできないんですけどw)
霊体サクヤ「処刑人ちゃんの授業は苦労したな~」(遠目)
ハンター「メスゴリラにそもそも文字を教えるのが間違い」
デストロイヤー「昔っから10秒以上勉強なんかできなかったもんね?」
アルケミスト「エグゼが本を持ったらどうなるかって?鈍器に変わるんだよ」
はい、ユノっちが手紙を書いてくれたから返信の回……のはずが、エグゼが全部持ってったw
まあでも読み書きできるって言ってんだからできるんでしょ(適当)
さて、ぼちぼちモンハンコラボのための話作りに取り掛かりましょうかね。