METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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これは読者さんの感想から浮かんだネタです。
ありがとうございました。


マザーベース:研究開発班の動乱

 今日もマザーベースは平和である。

 

 

 前哨基地より海洋に数十キロほどのところにあるマザーベースには、最低限の戦闘班と警備班、そして脅威のテクノロジーを秘めた研究開発班と糧食班、そして拠点開発班がいる。

 戦闘員の多くはこの世界での戦いの最前線である前哨基地に配備され、マザーベースを守る戦力というのは以外にも多くはない。

 だがこの世界のテクノロジーを集積し独自に研究開発班が生み出した装置によって、マザーベースは特殊な偽装と防御態勢が取られ、外敵を瞬時に察知したりレーダー等に写らないよう細工をしているのだ。

 戦闘員がいない、というのは人間による戦闘員のことであり、マザーベースには強化服に身を包んだMSFが生産した鉄血戦術人形"ヘイブン・トルーパー"や、二足歩行兵器"月光"が配備されちょっとやそっとの戦力では突き崩せないだろう。

 なによりマザーベースにはメタルギアZEKEの存在がある。

 調整や機体自体のコストのこともあって頻繁に稼働しているわけではないが、マザーベースの守護神であり最大の抑止力であることに変わりはない。

 

 

「腹減ったな…」

 

 甲板を警備するMSF製鉄血人形"ヘイブン・トルーパー"がそうぼやくと、隣を一緒に歩いていた別の人形が無言でビスケットを差し出した。

 それを貰った人形はヘルメットをとり乾燥したビスケットを口の中に放り込む。

 乾燥したビスケットは口の中の水分をあっという間に吸い取り、何か飲み物が欲しくなる…期待した目で隣を見ると、既に水の入った水筒を差し出していた。

 ありがたく水筒の水を貰い、飢えと渇きを癒した彼女は再びヘルメットをかぶり警備に戻る。

 

 

 MSFが抑えた鉄血人形の工場から生み出されたヘイブン・トルーパーの数は既に中隊規模に膨れ上がっており、それを統括するエグゼは彼女らにとって指揮官の立場にある。

 無論、エグゼよりも上位のスネークやミラーの命令があればそちらを優先するようプログラムされているが、基本的に彼女たちに指示を出すのはエグゼの役だ。

 

 基本的にヘイブン・トルーパーのAIには高度な思考能力は用意されていない。

 だが、AIを設定するにあたり人形のAIを担当したストレンジラブの強い意向もありある程度の個性と感情を搭載している。

 ヘイブン・トルーパーの配備は他の部隊にも適用されるはずだったが、彼女たちは彼女たちだけの部隊としてエグゼ指揮下に組織される…これもストレンジラブの強い意向によるものである。

 そして定期的にメンテナンスを受けることになっているが、これも…もう言わなくてもよいだろう。

 

 とにかく、ヘイブン・トルーパーは開発当初のコンセプトとは違い、数をそろえた上での消耗品としてではなく一兵士としてMSFの戦力となっている。

 それから、高度な戦闘プログラムをインストールしているほか、彼女たちの戦闘力をあげるために研究開発班が開発した強化服を装備し、他にはプレイング・マンティス社提供のP90サブマシンガンとPSG-1狙撃銃、マチェットを標準装備している。

 彼女らの部隊には他にも無人機の月光が配備され、少ない規模だがエグゼの指揮の下、非常に高い戦闘力と統制のとれた部隊となっている。

 

 

 マザーベースでの人間と人形の比率がだんだんと変化していく、これはミラーの強い意向で進められているわけだが決して戦術人形が女性をモデルとしているからとかそういう不純な理由ではない。

 

 

 

 その日、スコーピオンとエグゼは空いた時間を甲板上からの海釣りで潰していた。

 暇つぶしだが、釣れればそれは食糧となるために釣りの文化はマザーベースでは広く親しまれている。

 

 マザーベースのスタッフに誘われて釣りを始めた二人だが、釣りには忍耐というものが必要となってくる……つまり二人にとって相性は悪すぎる。

 最初は大物を釣り上げてやると意気込んでいた二人も、なかなか魚がかからないことにイライラし始める。

 以前スコーピオンは海洋に出て大物を仕留めたことがあったが、あれは銛で突き刺し仕留めたもので、長い時間をかけて釣り上げたものではない。

 

 他の兵士たちが時たま魚を釣り上げるのに対し、二人の釣果はいまだゼロである。

 

「ちくしょう…やってらんねぇぜ」

 

「手榴弾なげてやろうか?」

 

「そりゃいいな!」

 

 本気で投げようとする二人を兵士たちは必至で止め、それからも退屈な釣りの時間を過ごす。

 もう諦めて止めようかという時に、エグゼの握る竿の先端が大きく跳ねる。

 

「よっしゃ、かかったぜ!」

 

 待ち望んだ食いつきに目を輝かせ、力ずくで釣り上げようとするエグゼだが、慣れた兵士のアドバイスを聞いて魚の動きをじっくりと伺う。 

 それから徐々にリールを巻いていき、魚の抵抗が弱まった時に一気に釣り上げる。

 勢いよく振り上げ、海から魚が姿を現す……それはぺちゃっと情けない音を立てて甲板に落ち、ぴちぴちと小さな音を立てている。

 

 つまみあげた魚はエグゼの手のひらよりも小さい。

 完全に釣りへの興味を無くしたエグゼはため息をつくと、足下でじっと見上げている小さな猫の存在に気付く。

 

「なんだチビ助、こいつが欲しいのか? しゃーないな…」

 

 しゃがみこみ、小さな猫に釣り上げた魚をあげると小さな口を懸命に動かし魚を食べ始める。

 

「腹減ってたのか? ハハ、名前は何ていうんだチビ」

 

 あっという間に魚を平らげ、猫はまだお腹が空いているのかおねだりをするようにエグゼの足に顔を擦りつける。

 

 

「ニュークが懐くなんて珍しいな」

 

「ニューク? こいつの名か?」

 

「へぇ、そうか…かわいい奴だな」

 

 小さな身体を持ち上げると、エグゼの指を甘噛みしじゃれる。

 そんな小さな猫を胸に抱きそっと下顎を撫でてやると気持ちよさそうに喉を鳴らす。

 

「お前らが飼ってるのか?」

 

「パス…って子が面倒を見てたんだ。なあエグゼ、ニュークは君に懐いてるみたいだし。たまに面倒見てくれないかな?」

 

「んー? たまにならいいよ、しゃーないから面倒を見てやるからなニューク」

 

「にゃー」

 

 小さな命を優しく抱きしめるエグゼの姿を、スコーピオンはその後ろで微笑ましく見守る。

 オセロットの件でどうなるかと思ったが、とりあえずは大丈夫そうだ。

 それに子猫をかわいがるなど、以前なら考えられない姿だ…エグゼも少しずつ変わってきているのだ。

 

 

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生! 総員研究開発プラットフォームに集合せよ! 繰り返す、研究開発プラットフォームへ集合せよ!』

 

 突如マザーベースの警報音が鳴り響き、驚いたニュークはエグゼの手を離れどこかへ逃げだしていった。

 滅多になることのないマザーベースの警報音に兵士たちは釣竿を放り投げ、すぐに研究開発班のあるプラットフォームへと走りだす。

 何が起こったのかは分からないが、スネークが前哨基地に向かって不在の今、みんなで協力をしなければならない。

 エグゼとスコーピオンも兵士たちに混ざりプラットフォームへと走りだした。

 

 

 

「ヒューイ博士!」

 

 プラットフォームには避難をしていたらしい、ヒューイが慌てた様子で周囲の兵士たちに指示を出していた。

 そこにはストレンジラブの姿もあり、主だった研究開発班のメンバーも既に退避していた。

 

「何があったの!?」

 

「それが―――」

 

 ヒューイが説明する間もなく、施設の一部で大きな爆発が起こり封鎖していた扉が吹き飛ばされる。

 

 そこからゆっくりと姿を現したのは二足歩行兵器月光だ。

 

「なにあれ!?」

 

 これまで部隊に配属されていた月光と明らかに違うその姿にスコーピオンは驚いていた。

 

 まずはその大きさ、通常の月光と比べ頭一つ大きく体格も一回り大きい姿は見慣れた月光よりも威圧感を増している。武装面においても、通常はM2ブローニングを取り付けているのに対しその月光は同口径で連射力に優れたガトリング式重機関銃を備えている。

 さらに通常の対戦車砲に加え、迫撃砲も有している。

 もはや小型のメタルギアZEKEと言っても良いくらい豊富な武装を備えた月光が、なにやら興奮した様子で大暴れしているではないか。

 

「あれは試作型月光(プロトタイプ)だ! 制御不能になって大暴れしてるんだ!」

 

「見りゃわかるわ! どうしたらいいの!?」

 

「破壊するしか…」

 

「ダメよ!」

 

 ヒューイのやむを得ない提案にストレンジラブが大声で反対する。

 

「あのプロトタイプには様々な実験データと高度なAIが搭載されている、破壊すればそれらすべてが失われる。それは断じて認められん!」

 

「じゃあどうしろっていうんだい!?」

 

「あれを開発したのはお前だろう、お前がなんとかしろ!」

 

 この期において口論を始める使えない天才科学者に呆れ、二人はとにかく暴れまわる月光に対処する。

 このまま放置すれば研究開発プラットフォームは崩壊しMSFに取って大きな損害となる、敵ではなく身内の、それも無人機のよく分からない暴走で崩壊したなどとお話にもならないだろう。

 

「やるしかないよエグゼ!」

 

「構うことは無い、ぶっ壊してやる!」

 

 暴れまわる試作型月光に忍び寄り、勢いよく飛びかかる。

 月光のメインカメラは前を向いている、今なら不意打ちを仕掛けられる…そう思ったが、試作型月光は素早く身をひるがえすと見事なまわし蹴りで二人を一掃する。

 

 

「言い忘れてた! プロトタイプのメインカメラは全周囲あらゆる角度を視界におさめられるんだ! コスト高で量産型には取りつけなかったけど、とにかくそいつには死角がないから注意するんだ!」

 

 

「最初に言っとけクソ眼鏡!」

 

 エグゼが瓦礫の中から這い出てヒューイに罵声を飛ばすがそんなことをしている場合ではない。

 標的に完全に二人に定めた試作型月光は、猪のように足下の甲板をひっかき、勢いよく突進して来る。

 その速さたるや並みの月光ではなく、寸でのところで躱したが、月光は施設の壁を足場に二段階の突進を敢行してきたではないか。

 予想外の動きにスコーピオンは月光の巨体に弾き飛ばされゴロゴロと甲板を転がっていく。

 

 

「プロトタイプのAIにはZEKEと同じようなAIを搭載してある、機動力と思考力は量産型の月光にはない特徴だ。敵の行動を解析し反映する能力に長けている、無人機だと侮ってはいけないぞ二人とも!」

 

 

「あーもう! 使えないグラサン女だな、なんでそういう大事なこと先に言わないかな!?」

 

 酷く頭をぶつけたのか、額を抑えスコーピオンは悪態をつく。

 

 試作型月光、それは月光を通常配備する前に試行錯誤を繰り返し様々な機能の搭載を試みた機体である。

 量産型では見送られた強力な武装や言語を話さずとも人形に近いAIを持つ高い知性、もはや月光に人形のAIを搭載した以上の化物となっている。

 コストの問題で見送られた武装の数々が、今エグゼとスコーピオンに牙を向こうとしている。

 

 

「このままでは危険だ、ぼくたちは避難しよう…ど、どうしたんだい?」

 

「スコーピオンに…使えない女と言われた…」

 

「あー…とりあえずぼくたちは避難しよう」

 

 

 ヒューイとストレンジラブ、そして研究開発班のスタッフたちは一時プラットフォームを離れ避難する。

 暴走する試作型月光が他のプラットフォームへと向かっていったら危険だ、そう判断した彼らはプラットフォームを繋ぐ橋を切り離す。

 

『聞こえるかい!? スタッフたちはみんな避難して無事だよ!』

 

「おいクソ眼鏡! オレたちはどーすんだよ!?」

 

『あ、ごめん…急いでたからつい…君たちでなんとか試作型月光を止めてくれ、あとできるだけ設備を守ってくれ!』

 

「うるせえ! お前らみんな死ね!」

 

 完全にプラットフォームに取り残された二人は、改めて殺意に満ちた試作型月光に対峙する。

 

 量産型と区別するため真っ黒に染め上げられた装甲部分でセンサーの明かりが真っ赤に光る姿は恐ろしい姿だ。

 マンティコアも逃げ出すほどの威圧感だが、二人に逃げ場はない。

 

「とことんやってやろうじゃないか」

 

「そうとも、追い詰められたサソリは何よりも怖いんだ!」

 

 意を決し走りだした二人に、月光はガトリング砲を回転させ凄まじい弾幕をはる。

 当たれば四肢など簡単に捥ぎ取れてしまう12.7mm弾、それがガトリングの凄まじい連射力で放たれる…弾をこんなにもばら撒く月光が多く配備されたらそれはコストが高くなり、量産型では見送られた理由もよく分かる。

 遮蔽物に隠れれば対戦車砲を、それでも出てこないのなら遮蔽物を避けて攻撃できる迫撃砲がある。

 月光の背部より放たれた砲弾は弧を描き、エグゼが身をひそめる遮蔽物に着弾すると灰色の煙を辺り一面に巻き散らす。

 

 

「ケホ、ケホ…! 発煙弾だと、舐めやがって!」

 

『迫撃砲の中身が発煙弾で良かったね。通常の榴弾だったら吹き飛んでた』

 

「やかましい!」

 

『ご、ごめん…とにかくこの煙はむしろ好都合だ。一気に接近して君の高周波ブレードで月光の脚を斬り裂くんだ!』

 

 

 発煙弾がまき散らした煙に紛れ、エグゼはブレードを手に月光の足元に潜り込む。

 煙に紛れたエグゼの姿に気付くのが遅れた月光であったが、咄嗟に跳んだことでまともに脚を斬られることは避けたようだ。

 だが傷は負わせた動きも鈍るはずだと慢心するエグゼであったが、試作型月光はマニピュレーターを脚の傷に向けると赤い液体をスプレーのように拭きかける。

 そうすると液体は傷を覆うように固まり完全にふさがる。

 

『ごめん、また言い忘れた…試作型月光には生体パーツ損傷の応急処置を施す物質を搭載しているんだ。生体パーツ本体の再生力を高める効果もあって―――』

 

「てめぇもうなんもしゃべるな!」

 

 怒り狂う月光は尋常ではない速さでエグゼと間合いを詰め、ガードするエグゼをその強靭な脚で蹴り上げる。

 勢いよく吹き飛ばされたエグゼは施設の壁に激突し、そのまま落下して甲板に叩き付けられる。

 

「エグゼ、大丈夫!?」

 

「うぅ…痛ぇ…! あのクソ研究員ども…!」

 

 なんとか立ち上がったエグゼであるが、もう目の前にいる試作型月光がとても恐ろしいものに見えてしまっていた。

 上体の装甲は対戦車ロケット砲も防ぐほどの堅牢さ、柔らかい生体パーツが使われている脚部を攻撃しようにも再生力が高くすぐに治癒する。

 攻守ともに完璧な上に動きも素早いと来た。

 笑えてしまうくらいに絶望的な力の差だ…。

 

「舐めやがって、月光が人形様に勝てると思ってんのかこの野郎…」

 

「おうとも、どっちのAIが上か勝負しようじゃないの!」

 

 それでもなお負けたくない意地で立ち上がる二人に、試作型月光が牛の鳴き声に似た動作音を響かせ威圧する。

 

 走りだした二人を迎え撃とうとガトリング砲を回転させたところで、エグゼとスコーピオンは息を合わせたように同じタイミングで二手に分かれる。

 どちらを優先的に狙いを絞るかを一瞬で思考した試作型月光は、身体の向きを体格的に大きいエグゼに向け、スコーピオンには背を向けたままガトリング砲の砲口を向ける。

 

 脚を振り上げ何度もエグゼを踏みつぶそうとしながら、背後のスコーピオンをガトリング砲の弾幕で牽制する。

 懐まで潜り込んだエグゼはブレードとナイフを手に、すり抜けざまに試作型月光の両足を切り刻む。

 ひるんだすきにその巨体を駆けあがると、視覚を司るセンサーに自身の防弾コートを覆い被せて試作型月光の目を封じ、目を塞がれ闇雲に撃ちまくるガトリング砲をブレードで斬り裂いた。

 マニピュレーターを伸ばしコートを払いのけ、エグゼのくるぶしに巻きつけ引きずり倒す。

 甲板に叩き落したエグゼをそのまま踏みつぶそうと脚をあげようとした試作型月光だが、いつの間にか両足に巻かれていたワイヤーの存在に気付かずに体勢を崩し転倒する。

 

 

「二兎を追う者は!」

 

「一兎を得ずってな!」

 

 勝ち誇ったように笑う二人だが、試作型月光は憤怒し、マニピュレーターを伸ばしてスコーピオンの足を掴むと無理矢理引き倒しエグゼに放り投げる。

 足元に絡んだワイヤーを力で強引に引き千切り、スコーピオンを受け止めたエグゼに凄まじい蹴りを放つ。

 二人まとめて吹き飛ばされ、甲板の向こうに危うく落ちかけたエグゼを咄嗟にスコーピオンは捕まえる。

 

「サンキュー…うっ、肋骨やられた……強すぎだろアイツ…!」

 

「走馬燈見えそう」

 

『あきらめるな二人とも、活路を見出すんだ!』

 

『みんな応援しているぞ、頑張るんだ!』

 

「外野共は黙ってろ!」

 

 耳障りな研究開発班一同に怒鳴りつけるが、絶体絶命の状況だ。

 こんな時頼りになるようなスネークやオセロットは不在、そもそもプラットフォームに二人取り残された状況ではいずれ殺されてしまうのは目に見えていたはずだった。

 死因が研究開発班が橋を外したこと、などと知ったらスネークはどう思うだろうか…。

 

「ねぇ、エグゼ…あたしら、短い間だったけどいいコンビだったよね…」

 

「へッ…ハンターの次くらいにはいい奴だったかもな…」

 

 迫る試作型月光を前にして二人は呑気に笑う。

 恐怖心で頭がどうにかなってしまったのか笑いが止まらない、そんな二人に月光は接近し脚を振り上げる…。

 

 

「ちょっと待て!」

 

 

 声がした…大笑いしていた二人も、試作型月光も動きを止めてその声の主を見つめる。

 

 

「待たせたな…」

 

「あんた、どうしてここに…」

 

 銃を手にサングラスを直し、不敵に笑う金髪の男。

 MSF副司令官カズヒラ・ミラーその人だ。

 

「スネーク不在のマザーベースはオレが守る。マザーベース最後の牙城は警備班でもZEKEでもない、このオレだ!」

 

「ミラーのオッサン、やめてよ逃げなよ!」

 

「そうだオッサン! あんたが勝てる相手じゃない、怪我する前に逃げろ!」

 

「オッサンじゃないッ! かかってこい試作型月光、マザーベースはオレが守る!」

 

 

 制止する二人の声も聞かず、ミラーは雄叫びをあげながら試作型月光に挑む。

 振り上げた脚を戻しのそのそとミラーに向かっていく。

 ミラーの銃撃をものともせず、接近して鋭い蹴りを放つ…それを咄嗟にかがんで躱し月光の股をすり抜ける。

 だが試作型月光は360度を視界におさめることができる、ミラーを捕まえようとマニピュレーターを伸ばす。

 

「甘いッ!」

 

 それをミラーをナイフで払いのけると、素早くそのマニピュレーターを付近の柱にがんじがらめに巻きつける。

 怒った月光は一気に詰め寄り、ミラーを蹴り飛ばす。

 

「オッサンッ!」

 

「うぐっ……オ、オッサン…じゃないッ!」

 

 戦術人形と違い生身の人間であるミラーが月光の蹴りを受ければひとたまりもない。

 一発で相当なダメージを負ったようだが、ミラーは気丈に振る舞い割れたサングラスを直す。

 

「怒っているか試作型月光、お前の気持ちが分かるぞ。お前、廃棄されるのが嫌で暴れているんだな?」

 

「!」

 

「図星か、量産型が生産されいつ自分が廃棄されるか怖かった…そうだろう? 安心しろ、お前は廃棄されない!」

 

「オッサン、蹴られて頭おかしくなったのか?」

 

「エグゼ、オレはオッサンじゃないし頭も正常だ」

 

『そうか…それで彼女は突然暴れ出したのか。すまない、これはわたしの責任だ』

 

 そう言ってストレンジラブは説明をする。

 

 月光の開発がひと段落を終え、試作型として数々の性能試験に参加していた試作型月光に対し、ストレンジラブやヒューイはもう実験は終わったからもう大丈夫だと言ったのだとか。

 それを試作型月光は勘違いをし、お役御免で廃棄されるのではと怯え、棄てられたくないあまり暴れ出した…のではないかというのが、ストレンジラブの予想だった。

 

「心配するな、君を傷つけるつもりはない…落ち着くんだ、大丈夫」

 

 猛牛をなだめるように手をかざし、ゆっくりとミラーは近付いていく。

 彼の言葉が通じるのか、試作型月光は怒りを鎮めマニピュレーターをしきりに動かしミラーの様子を伺っている。

 そのうち試作型月光は戦闘態勢を解除し、ミラーの前にしゃがみこむように脚をたたむ。

 

「よしよし、いい子だ。お前もMSFの家族だ、見捨てるわけにはいかないからな」

 

 小さく鳴く試作型月光はどこか嬉しそうだ。

 

 これにて一件落着。

 意気揚々とプラットフォームに戻って来たヒューイとストレンジラブ、そして研究開発班たちだが、エグゼとスコーピオンの怒りを受ける羽目になるのであった…。




ストレンジラブ「わたしが造るAIは全て女性をモデルとしている。試作型月光の説得には同じ女性ではなしえなかっただろう」

ヒューイ「おめでとうミラー、やっとAIのお相手ができたね」
エグゼ「大事にしてやれよな」
スコーピオン「良かったねオッサン」
試作型月光♀「モォーー♥」

カズ「いやおかしいだろ…」


ネコのニュークは一応PW登場してます。
パスの日記で出てましたね。


次回はシリアスpartに戻りましょう。
対決ハンター!の巻

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