元鉄血ハイエンドのゲーガー、かつては代理人の指揮下に置かれ鉄血の部隊を率いていた優秀な戦術人形の一人であったが、今はMSFでお世話になり戦場から離れて落ち着いた暮らしを手に入れていた。
マザーベースの甲板に吹く海風を受けてゲーガーの白い髪がなびく。
聞きなれた海鳥たちの鳴き声を聞きながら、キラキラと輝く水平線の彼方を見つめ、小さく微笑む。
そこへちょうど仕事の都合でマザーベースに立ち寄っていたエグゼとスコーピオンが通りがかる。
二人は大海原を眺めながらたそがれているゲーガーを見つけると、何かを思っているのかお互い顔を見合わせる…言うべきか言わないべきか迷ったのち、エグゼがゲーガーに声をかけた。
「なあ、お前ってさ……AR小隊のM4そっくりだよな」
「いきなり何を言うんだお前は? いや、似てるとは思わないが…どこが似てると思うんだ?」
「えっとね……仕事しないニートのくせになんか普通にマザーベースで生活してるところとか」
スコーピオンが放った発言によってゲーガーの表情が一瞬で凍りつく。
みゃーみゃーという海鳥たちの鳴き声がなんとも情けなく周囲に響く……まさか自分がニート呼ばわりされるとは思いもしなかったゲーガーは数秒思考停止状態に陥るも、なんとか平静を保とうとする。
「私はニートなんかじゃない…働く意思がないわけじゃないからな」
「なんかそういう言い訳するところもM4に似てるよな? つーか意思がどうのこうのなんて知らねーし、ちゃんと働いてる奴しか評価できなくね?」
「うっ…!」
エグゼの正論が見事なまでに突き刺さる。
そうだ、ゲーガーは今現在MSFでなんの職務にも携わっておらず長いこと暇を持て余しているのだ。やる気がないわけではない、そう言い訳をするが、二人からしたらそんなの知ったことではないのだ。
「そ、それならエグゼ、お前の部隊で何か仕事を貰えないか?」
「いや、それもなんかよ……昔の上司扱き使うのってなんか気まずいし…なぁ?」
「うんうん」
「いやいや、お前ら絶対そんなこと微塵も気にしないで使い潰そうとするタイプだろう!? 何を今更そんなお行儀よくしようとするんだ!?」
「私らも日々進化してるのよ……まあ、別に一人くらいニートがいてもいいんじゃない? いじりがいあるし働きアリは2割もサボってるって言うし、それに比べたらマシだよ」
「スコーピオン、さりげなく変なこと言わなかったか? あと慰めになってないぞ…」
「まあ気にすんなよ。そのうち仕事見つかるさ、じゃあオレらは忙しい身だからよ」
「ばいば~い!」
ゲーガーに強烈な劣等感を植え付けてさっさとマザーベースを離れて行ってしまった二人。
ただ弄るために言っただけでなく、エグゼは連隊の隊長でスコーピオンはその副官であるため、他の人形たちに比べて忙しい立場にいる方だった。
二人にニートの烙印を押されたゲーガーは先ほどまでの清々しい気持ちを消沈させとぼとぼと歩く。ふと見上げた先の建物からアーキテクトと数人のスタッフが姿を見せる。
そうだ、ニート候補なら何も自分だけじゃない、基本自由なアーキテクトがいるじゃないか、自分は一人なんかじゃない! そう思っていたが…。
「ふぅ、毎日残業だな。この休み時間しか落ち着けないな」
「メタルギアの開発も大詰めだからな。悪いなアーキテクトちゃん、つき合わせちゃって」
「ううん、全然そんなことないよ! MSFの仕事はとっても楽しいしこっちがお礼を言いたいくらいだよ!」
アーキテクトと研究開発班のスタッフたちは休み時間の合間に外に出て、コーヒーやお茶などを手に一服、休憩時間が終わればすぐに戻って仕事の再開だ。アーキテクトは研究開発班に配属されてからはその特技を活かし日々研究に勤しむ……ゲーガーはアーキテクトを自由人だと思っていたが、全くそうではないことを見せつけられる形となった。
仕事終わりに打ちのめされた様子のゲーガーがやって来た時、アーキテクトは状況が読めず困惑していた。
「すまないアーキテクト…私はお前に謝らなければならない。お前はいつも遊びほうけて気ままにへんてこなものを生み出し、バカな行動をしてばかりのバカだと思っていたんだ。だが間違いだった……お前がこんなに忙しく働いていたなんて……私にも何か仕事をくれ…!」
「落ち着いてゲーガー! なにがあったの!?」
「頼む、私に仕事をくれ!!」
「ゲーガー……そこまで私のことを……ううん、そんな風に気負うことは無いよ。だって私は今が楽しいんだもの。でもゲーガーが私を気遣ってそう言ってくれるのは嬉しいよ、ありがとう。ゲーガーがいつまでも味方でいてくれる、それだけで私頑張れちゃうよ」
「いやその、そう言ってくれるのはありがたいんだが…そういう問題じゃなくてだな」
「ほえ?」
素っ頓狂な声をあげたアーキテクトに対し、ゲーガーは自分が先ほどニートの烙印を押されてしまったことを打ち明け、このままニートだなんだのと言われていたくない正直に言う。楽して普通の暮らしを得るのもいいが、他の奴らにニートと言われてバカにされるのは我慢がならないのだ。
ゲーガーのお願いを聞いた上で、やはりゲーガーを研究開発班に推薦するのは違うとアーキテクトは考える。
真面目ではあるが、兵器を開発する能力というのはゲーガーにはなく畑違いであり、どうせなら戦闘班に回してもらえればいいじゃないと提案するも、それは先ほどエグゼらによって打ち砕かれている。
「頼む、お前しか頼れないんだよ!」
「うーん…そうは言ってもなぁ…」
「この際ニートと言われなければ構わん、なんでもするから!」
「ん?今なんでもするって言ったよね?」
「ちくしょう」
後日、ゲーガーの姿はMSFにとっての避暑地兼バカンス地である南海の孤島にあった。
MSF専用のリゾート地であるこの島には、たまにスタッフたちが遊びに来る以外は利用することもなく、周囲に大した脅威もないので少数のヘイブン・トルーパー兵が駐屯するのみだ。余談だが、ヘイブン・トルーパー兵にとってこの島に赴任することは夢らしい…まあ常夏の島でのんびりしたいのは誰もが考えることだ。
さて、ゲーガーが何故この島にやって来たかというともちろん遊びではなく仕事だ。
我の強い無人機たちがバカンスに行きたいと猛烈に訴えるので、ゲーガーにはその引率を任されたのだった…。
「なんで私がこんな目に…」
島の浜辺でピョンピョン跳ねたり駆けまわったりする無人機たち。
生意気なダイナゲートくんに歴戦の月光、ヤンキーチックなフェンリルくんに寡黙なグラートくん、空を飛び続けるハンマーヘッドくん、それからみんなの子分的な立ち位置のゴリアテ改め赤豆くんだ。
「こらー! ゴリアテを蹴り飛ばして遊ぶな!」
「モーーー」
早速赤豆くんを蹴り飛ばして遊ぼうとする月光を注意する。
自爆機能を失いただ頑丈な球体になった赤豆くんは、やたらとタフなそのボディを散々ネタにされているかわいそうな個体だ。赤豆くんは苛めてくる月光と態度がデカいフェンリルくんが大嫌いだ、ふよふよと浮かびながら静かにたたずむグラートくんの影に隠れた。
「まったく、どうしようもない奴らだ」
好き放題行動する無人機たちには手を焼かされる。
なぜこんなAIの兵器を造ったのか…各AI兵器の1号機たちはいずれも遊び心で高度なAIを搭載されており、中には自分が人間だと信じて疑わない個体や、他の戦術人形などに求愛行動をしようとする輩もいる。ちなみに求愛行動と称したが、度が過ぎた輩もいる…隙あらばゲーガーを押し倒しそうとするフェンリルくんはその最たる例だ。
「イイカゲン、オレノ女ニナレ」
「うるさい、あっちいけ」
「気ガ強イ女は好キダ」
足下のあたりをうろつきながらゲーガーを口説こうとするフェンリルくんだが、ゲーガーにとっては鬱陶しいことこの上ない。そんなゲーガーを救おうと歴戦の月光がフェンリルくんを蹴り飛ばそうとしたことで勃発する乱闘、スペック上ではフェンリルくんが勝るが、踏んできた場数の多さでは月光が勝る。
フェンリルくんと月光は放っておくとして、他の無人機たちは何をするわけでもなく浜辺を徘徊したりただひたすらその場にじっとしていたり…ゲーガーには全く理解できないが、それで彼らは楽しんでいるらしい。
「ふむ……せっかくだから泳ぐかな?」
常夏の美しい海を見てそう思った時、ダイナゲートくんがピョンピョン跳ねながら何かを持ってきたではないか。
「水着…私のか?」
「ピィ!ピピィ!」
「サイズまで完璧って…一体いつ誰が調べたんだ? なに? 企業秘密だと?」
「ピィ……」
「まあそうだよな…教えたらお前がボコボコにされてしまうものな」
ダイナゲートくんから水着を受け取ったゲーガーは着替える場所を探し、ちょうど砂浜の先に岩場があったのでそこで素早く着替える。ダイナゲートくんが持ってきてくれた黒のビキニはゲーガーにぴったり、ますます不審に思うゲーガーであった。
砂浜に戻ると、まだ月光とフェンリルくんは乱闘状態にあったが、ゲーガーが水着に着替えたのに気付くと即座に乱闘を止めて近付いてくる。
「モーーー!!」
「スケベナ身体シヤガッテ、誘ッテルノカ?」
「あーもう、鬱陶しい! あっちにいけ!」
しっしと二体を追い払うが、水着姿のゲーガーに夢中になった無人機たちは離れない。
やはり元の服装に戻すか…そう思った矢先、通信が入ってくる、相手はアーキテクトだ。
『ごめんゲーガー、メタルギアがそっちに向かったかも!』
「はぁ? メタルギアって、サヘラントロプスは陸上兵器だろう?」
『そっちのメタルギアじゃなくて―――』
アーキテクトの話が終わる前に、突如目の前の海で大きな水しぶきが上がり巨大な影が砂浜にいるゲーガーたちめがけ突っ込んでくる。小柄なフェンリルくんは即座に逃げたが、反応が遅れた月光は巨大な物体によってはじき飛ばされてしまった。
現われた巨大な物体はゲーガーも見覚えがある、もう一つのメタルギア【RAY】だ。
流線型のボディーから海水を滴らせながら、RAYはぐるりと無人機たちを見据え、ゲーガーを見つめた……頭部を開口させ、まるで獣の雄たけびのような音を発し、ゲーガーは咄嗟に耳を抑え込む。
「コイツメ、オレノ女ニ!」
フェンリルくんは突如激高し、RAYに向かって跳びかかるが、RAYはその巨体さに反して素早く反応しフェンリルくんを弾き飛ばして海に沈めてしまった。
そして再びゲーガーを見下ろすのだ…。
『手遅れだったか…ごめんゲーガー、RAYにAIを搭載して起こしたらたまたまゲーガーの写真を見ちゃってさ。RAYが一目惚れしちゃったみたいなんだ』
「ふざけるな!なんでどいつもこいつも無人機は私を追いかけ回すんだ!」
『モテていいじゃない! あ、RAY1号機の性格は割と獰猛だから注意してね、時代は肉食系男子だ! 知能も高いから、もし捕まっちゃったら電脳世界に引き込まれてあーんなことやこーんなことされちゃうかもだから、注意するんだよ!』
「おい、なんとかしろアーキテクト! おい!」
アーキテクトからの通信が途切れてしまい、いよいよゲーガーは追い詰められた。
じりじりと迫るRAYを見て、ゲーガーは表情を引き攣らせる…その場から逃げようにも、腰が抜けて立ち上がれないのだ。
だが、先ほど吹き飛ばされた月光とフェンリルくんが復活、RAYは威嚇するとゲーガーを巡る恋敵とのバトルを始めるのだ…。
月光とフェンリルくんはRAYという脅威に一時休戦するのかとおもいきやそんなことはせず同士討ち……バカバカしくなったゲーガーは他の大人しい無人機を連れてホテルの中へと帰って行くのだった。
UMP45「アイドル=活動していない、ドルフロのアイドルである私はなにもしなくていいのよ」
UMP9「今日から君も自宅警備員だ!」
G11「働いたら負けかなと思っている」
416「私は完璧(ニート)よ」
M4「私はニートなんかじゃありません!」(ベッドに潜りながら)
M16「酒を好きなだけ飲める仕事があると聞いて…」
SOPⅡ「生活保護の貰い方…っと」ポチッ
AR15「それより私を登場させろ」(物語的ニート)
よかったねゲーガー、仲間もいるしモテモテだね!
いつかゲーガーが何かでピンチの時、無人機がかっこよく助けに来てくれるからさ…。