「ふんふんふふ~ん♪」
ある日のことだ、仕事を終えてマザーベースに帰ってきたスコーピオンは任務先で偶然手に入れた酒瓶の入ったリュックを抱えて陽気に歩きまわる。すれ違うスタッフに挨拶したり手を振ったり、堅苦しく敬礼する若いスタッフに愛嬌を振りまいたりしながら甲板を歩いていた。
日頃、何かと面白行動を起こしたりエグゼとつるんでトラブルを起こしがちなスコーピオンだが、MSF所属の戦術人形の中では古参組と称される凄い奴なのだ。
スコ―ピン、スプリングフィールド、9A91、WA2000…いずれも第一線で活躍する優秀な兵士であり、中でもスコーピオンは古参組の筆頭とも言える存在。年功序列があるわけではないが、ベテランは敬われる環境のMSFではもちろんスコーピオンも後輩人形たちから尊敬される…まあ本人が無意味に尊敬されることを嫌うので、他の面子に比べ、フランクな態度で新人たちに接する。
陽気な気分で部屋に戻ったスコーピオンだが、扉には"KEEPOUT"と書かれた黄色のテープが張られていた。目をぱちくりしながら自室の扉を見つめるスコーピオン…その後ゆっくりと部屋を覗いてみると、部屋の中は水浸しで大変な有様となっていた。
一体何があったというのか…巡回のヘイブン・トルーパー兵を捕まえて話を聞いた結果、消火用のスプリンクラーが誤って作動し部屋が水浸しになったとのこと。しかしそれにしては自分の部屋だけ水浸しになっているのはおかしい…そう思った彼女がさらに問い詰めると、ヘイブン・トルーパー兵はあっさりと白状した。
「実はヴェルお嬢さまとそのほかのちびっこたちが悪戯を仕掛けてしまって…」
「あらそうなの? まーちびっこたちの仕業ならしょうがないよね~」
「ちびっこたちには後で厳しく言っておきます」
「いーよ別にそんなしなくたって。ちびっこたちは遊ぶのが仕事なんだからさ、元気があっていいじゃん?」
「あなたがそうおっしゃるのであれば」
ヘイブン・トルーパー兵は全てエグゼを頂点とする戦術人形部隊の構成員だ。スコーピオンはその部隊の副官であり、エグゼの次に高い権限を持つ存在であるため、彼女たちは基本的に忠実である。
事情を話してくれたヘイブン・トルーパー兵を見送り、とりあえずスコーピオンはすっかり荒されてしまった部屋に入る。ベッドやタンス、カーペットに至るまで見事なまでに水浸し…それも単なる水じゃなく、絵の具が混ぜ込まれているのでたちが悪い。
しかし子どもたちがやらかしたことと思って笑って許す。
むしろ日頃遊びに連れていってあげられないから、不満が爆発してこういうことが起きるのだと反省するのだ。
「さてと、パジャマに下着に漫画っと…」
部屋は使えないのでしばらくは別の部屋で寝泊りしなければ、そう思いスコーピオンは部屋の中から無事な生活用品を拾い集める。サソリ模様のパジャマは無事、デフォルメしたサソリが描かれたお気に入りの下着も無事だったのでバックにぶち込んでいく。一通りの道具をバッグにおさめお泊りセットをこしらえた彼女は、再び陽気な気分で歌を口ずさみつつマザーベースを練り歩く。
「お、スコーピオンじゃないか。こっから先は男性用宿舎だぞ」
「まあまあ固いこと言わないで入れてよね」
「うん? まあいいけど、女は好きにこっちに入れるけど、オレたちがそっちに行けないのは不公平だよなぁ」
「あたしは別に構わないけど、色々神経質な子が多いからね~。そんじゃお通りしまーす」
宿舎前で男性スタッフの嘆きを軽く聞き流しつつ、スコーピオンは本来なら女人禁制の男性用宿舎エリアに意気揚々と入っていく。スコーピオンがここに遊びに来るのはもはや慣れているのか、スタッフたちは気さくに声をかけていき、スコーピオンも元気に挨拶を返す。
そんなことをしながら真っ直ぐに向かったとある部屋、男性用宿舎であるから男性の部屋なのだが、スコーピオンは躊躇することなく部屋に入っていく。
「やっほースネーク~って、いないし…」
訪れた部屋は組織の長であるスネークの部屋、なのだが生憎留守のようである。
「お、またケロタンのぬいぐるみ増えてる! どこで拾ったんだろ?」
棚の上にきれいに並べられているかわいらしいカエルのぬいぐるみたち。
任務から帰ったスネークが時々持ち帰ってくる以外、そのぬいぐるみがどこで誰が作っているのか一切不明である。つつくとケロケロ鳴くぬいぐるみでしばらく遊んだ後、スコーピオンは部屋をぐるりと見回す。脱ぎ棄てられた野戦服、起きた時のままのベッドを見てスコーピオンはすぐにそれらの整理整頓に取り掛かる。
脱ぎっぱなしの汚れた野戦服やシーツなどを洗濯機に放り込み、替えのシーツなどを持ってベッドを直すのだ。
ついでに部屋に掃除機をかけ、濡れタオルで隅々の汚れをきれいにする…スネークはあまり部屋に家具などを置かないので掃除は比較的短時間で済む。綺麗になった部屋を前にして満足げに頷くスコーピオン、だがまだスネークは帰って来ない。
スネークが帰って来るまで部屋で漫画を読んだり、ラジオを聴いたりして時間を過ごす……しかしあまりにも帰って来ないので、自分がなおしたベッドに倒れ込む。そうしていると、だんだん眠気が押し寄せてきて、あっさりと眠りにつくのであった…。
「――――ろ………起きろ、スコーピオン…」
「うへへへへ~……お腹いっぱいだよぉ~……んがっ…ん~良く寝た、ってスネークじゃん。どうしたの?」
「どうしたって、ここはオレの部屋だぞ」
「あぁ、そうだったね。帰ってきたんだ、おかえり」
「ただいま。それで、どうしてここにいるんだ?」
「んーとね、あたしのお部屋が水浸しになって使えなくなっちゃったから泊りに来たぜ!」
まったく悪びれもせずそんなことを言ってのける。
なにがどうして部屋が水浸しになったのか、それについては先ほど聞いた話をスネークにも伝える。
「まあそれはいいとして、なんでオレの部屋なんだ? ここは男性用宿舎だぞ?」
「まあまあ細かいことはいいじゃんスネーク…って臭ッ! スネーク、一体どこで任務してたの!?」
「ん? あぁ、敵の巡回に見つかりそうだったからゴミ箱の中に隠れたせいか? まあそこまで騒ぐことじゃないだろ」
「ダメだよだめ! 折角綺麗に掃除したんだから、ほら、さっさとお風呂に行った行った!」
生ごみの匂いがぷんぷん漂うスネークを部屋から追いだし、お風呂場に直行させる。
その時に気付いたのだが時刻は深夜をまわっており、就寝している者もいるのでなるべく声を立てずに静かにお風呂場へと向かう。幸いにも、静かに目的地に向かうのは二人とも得意だ。
「折角だからあたしも入ろうかな」
「なんだって?」
「あたしも入るって言ったの。ほら、そういう反応すると思ってスネークの水着も持ってきたんだからね?」
スネークに海パンを押し付け、スコーピオンはさっさとバスケットに荷物を放り込み、上着を脱いだ。そのままボタンに手をかけたところで彼女はハッとして、若干頬を赤らめた顔をスネークに向けてジト目で睨む。
「ちょっとー、なにじろじろ見てんの? 趣味悪いよ?」
「いや、そういうわけじゃ…」
「はいはい、スネークはおっぱいおっきい子が好きだもんね。あたしの貧相な身体になんか興味ないよね…」
「いや、そうは言ってないだろう?」
「じゃああたしのこと好き?」
「……さてと、風呂に入ってこよう」
「待てい!」
逃げるように風呂場に入っていったスネークを追いかけるように、急いで水着に着替えたうえでスコーピオンも浴場に入っていった。
浴場はやはり深夜ということもあってやはり誰もいない。
いつも誰かしらいるお風呂場に人がいないと、なんだかとても大きく感じ、不思議とテンションも上がって来る。今なら勢いよくお風呂場に飛び込んでも文句も言われない、ということで勢いよくスコーピオンがお風呂に飛び込み大きな水しぶきを上げた。
「あちゃちゃちゃちゃ!!!」
が、予想以上にお風呂の温度が高かったのか慌ててお風呂から上がって今度は水風呂へ…そこでまた予想より低い水温に悲鳴をあげて再び熱い風呂に飛び込む、そんなことを繰り返しているうちに石鹸に足を滑らせ後頭部から固い床に激突していった。
「おい、大丈夫か?」
「うーん、へーきへーき……あたし不死身だから」
「はしゃぎ過ぎだろう。ちゃんと身体を慣らしてから入るんだな、ここに医療班を呼びたくない」
「あたしとお風呂にいるところ見られたら大変だもんね~?」
意地悪く笑うスコーピオンにスネークは呆れて言葉も出ない。
風呂に入る前に身体を洗う、ということでスコーピオンが背中を流してくれる。とくにいかがわしいこともなく、ここ最近の面白い出来事を話して笑い合う。
その後はスコーピオンのお願いで、スネークが髪を洗ってあげることとなった…あまりこういうことをしてやるのは慣れていないが、大好きなスネークに髪を洗ってもらうスコーピオンの表情は、なんとも幸せそうであった…。
「くぅぅ~! お風呂あがりのビールは最高だね!」
「そろそろ寝る時間だぞ?」
「まあまあそう言わないで、スネークも一杯付き合ってよ」
「仕方がないな」
場所は再びスネークの部屋へ。
サソリ模様のパジャマに着替えたスコーピオンはベッドの上にあぐらをかいて、キンキンに冷えたビールをのどに流し込みうなる。それからスネークにもお酒を勧め、深夜の酒盛りが始まった。
「そういえば9A91は? どっか任務行ってるの?」
「スペツナズは派遣任務だ。どうかしたのか?」
「いやぁ、あの人ら最近はお酒の匂いどころか缶の蓋を開ける音でも寄ってくるからさ。最近は9A91ってどうなの?」
「どうと言われてもな……相変わらずとしか言いようがないな。一応気にかけているつもりではあるが」
「そっか、じゃあいいんじゃない? あの子、たまに気をかけてあげないとすぐにヤンデレになっちゃうからさ。わーちゃんとオセロットは相変わらずだし…スプリングフィールドとエイハヴくらいかな、うまくいってるの」
「エイハヴとスプリングフィールドが? あいつらそんな関係だったのか?」
「ありゃ? もしかして知らなかったの?」
「ああ」
「まったく、組織の長なのにあんたって人は……変な着ぐるみ着て反応伺ったり、野生動物捕まえて食べる以外に興味はないの?」
「否定はしない」
「ダメだこりゃ」
スネークの返答に呆れてため息をこぼす。
のんびりとした時間であるが憩いの一時、やがて飲むお酒がなくなったところでようやく眠る準備に入るのだが…素早くベッドに潜り込んでいったスコーピオンにスネークは困ったように頭をかいた。
「ほらほら~どうしたのスネーク? うら若き乙女がベッドで待ってるよ~?」
「からかうんじゃないスコーピオン。分かった、オレは床で寝よう」
「あーもう、ノリが悪いなぁ! ほら、何もしないから一緒に寝よ!」
スネークの腕を掴んで強引にベッドに引き込むと、そのままスコーピオンはスネークの腕を抱いて毛布の中に潜り込む。少しの間を置いて、スコーピオンは顔半分を毛布から覗かせた。
「あたしからは何もしないって言ったけど、スネークが何かしたければ何してもいいんだからね? それじゃ、おやすみ~」
再び毛布の中に潜り込み、少し経てば心地よい寝息が毛布の中から聞こえてくる。
腕をがっしりと掴むスコーピオンのおかげでしばらくの間スネークは身動きがとれなかった……しばらくして、腕をつかむ力が弱くなったのを感じ、スネークはむくりと起き上がる。
窓から見える空はうっすらとだが明るくなっている。
そっと、毛布をめくるとスコーピオンの穏やかな寝顔が見えた。
いつもの快活な様子はなりをひそめ、かわいらしい顔のまま静かに寝息を立てている…そんな彼女の髪を優しく撫でながら、微かに笑った。
「今も昔も変わらない、お前たちは……オレにとっての子どもみたいなもんだ」
彼女たちが抱く愛にはおそらく応えることは出来ない。
だが、別な形の愛情で彼女たちを見守ってあげよう…それが、今も昔も変わらないスネークの想いだった。
ウロボロス「子どもを愛しちゃいかんのか?」
グレイ・フォックス&ヴァンプ「「ええんやで」」(ニッコリ)
イーライ「やったぜ」