METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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教えて!アルケミスト先生!

 アフリカで大成功して財をなし、私設軍隊を用いて無法状態にあったアフリカ南部を瞬く間に掌握して見せたウロボロス。傍若無人で怖いもの知らずに思える彼女でも、苦手な相手というのは存在する。一度敗北を喫したMSFのスネーク、それからもう一人は同じ鉄血のハイエンドモデルであるアルケミストその人だ。

 鉄血の序列的には中堅クラスのアルケミストではあるが、彼女は少々特殊な存在であり、なおかつ怒らせたら怖いハイエンドモデルにおいて堂々の一位に選ばれている。ちなみに最下位はジャッジである……このランキングはウロボロス邸の住人たちが密かにランク付けしたものだ。

 

 他人に生意気な言動をとるウロボロスも、アルケミストにだけはやや気を遣っている素振りがあるのだ。

 大勢の反対を受けても強行しようとするウロボロスに対し、アルケミストが意見を言えば考え直すこともあるくらいだ……こいつを敵に回したらヤバい、そう思えるほどの存在らしい。

 

 そんなアルケミストであるが、その日はジャッジの仕事である戦闘教義の確立に関して協力をしていた。

 来るべき戦いに備えて、侵攻軍に対する戦闘ドクトリンを編みだす作業であるが、やはり新しい概念を生み出すということはジャッジのような高度なAIを持つ存在でも難しい。

 こういうことはエルダーブレインが得意なのだろうが、ジャッジも代理人も主人にこのような仕事をさせたくないという思いから、自分たちでこの役目を全うしようとしている。しかし不慣れな作業は難しい、ジャッジは険しい表情で腕を組みうなる。

 ジャッジが仮想的としているのは、やはり欧州に君臨する圧倒的軍事力を誇る正規軍だ。

 

「うーん……知れば知るほど、正規軍に勝つビジョンが浮かばない。現時点で火力、兵力、練度…あらゆることで劣っているし…どうしたものか」

 

「それはそれでいいんだよ。相手を殲滅するだけが作戦じゃない、それにドリーマーとシーカーと協議して決められることもあるだろう? あっちはあっちで、こっちが決めた戦術に沿った兵器を造りたいと思ってるんだろうからな」

 

「うむ……お前がMSFと戦った時の戦術はどうだ? なんだかんだあったが、MSFを打ち負かしたではないか」

 

「あぁ、あれか。同じ手は正規軍には通じないだろうね……何せ相手は縦深戦術理論を生み出した軍隊の後継組織なんだからな。それなら参考にするべきは、冷戦期に編み出されたエアランド・バトルか…いや、あっちはあっちで難しいな?」

 

「難しいことばかりだ…」

 

「正規軍相手に真正面から戦おうというのは無理がある。アメリカの侵攻部隊も、奴らの攻勢を受けて大損害を出していた。大戦では中国軍も同じように戦い、結果は見ての通りさ……見方を変えてみよう、奴らが得意の攻勢を可能とするには部隊間の緊密な連携や高い兵站補給能力があってこそだ。そこに注目すれば、少しはアイデアも浮かぶんじゃないか?」

 

 アルケミストの言葉にしばらく悩んでいたジャッジであったが、何かを思いだしたのか今まで広げていた資料を押しのけ、別な資料を取り出して目を通す。

 それは世界を二分した陸軍大国旧ソ連がアフガンへ侵攻した際の資料だ。

 アフガン侵攻時のソ連軍は精強な大軍をアフガニスタンの山岳に送り込んだが、地形を活かし戦うアフガンの戦士たちの粘り強い反抗に合い、戦局は泥沼化…ソ連にとってのベトナム戦争と言われる戦いとなった。ジャッジが注目したのはアフガンの戦士たちの地形を活かしたゲリラ戦、そして険しい山岳でソ連軍が機甲部隊を思うように展開できなかったことについてだった。

 

「正規軍がここへ侵攻した際、水際で食い止めず奥地に引き込み、奴らの装甲部隊が動けない場所で攻勢をかければ……遊撃隊を組織して主力部隊の後方に展開して、補給路を断てばいかに精強な正規軍の兵器でも勝機があるんじゃ!」

 

「まあことはそう簡単じゃないがな。ゲリラ戦術に目をつけたのはいいな、ただしこいつはこいつで難しいやり方なのは理解しておくことだよ。もう一つ、奴らがここに来る場合必ず海を越えてやってくる…幸い、連中は陸の兵器は脅威だが、海軍の方はお粗末なものだからね。そこら辺も、考える余地はあるんじゃないか?」

 

「うむ、そうだな! 今回は助かったぞアルケミスト、おかげで良い案が浮かびそうだ!」

 

「はは、どういたしまして」

 

 笑顔でお礼を言うジャッジに微笑みかけ、アルケミストはついつい彼女の頭を撫でてしまった。するとジャッジは途端に面白くなさそうに眉間にしわを寄せるのだ。

 

「あぁすまん、ついその…デストロイヤーと同じ感覚でやってしまった……悪かった」

 

「まったく気を付けよ。私をガキ扱いするんじゃないぞ」

 

「もちろんさ。さて、私はそろそろ行くよ」

 

「うむ、また何かあったら頼むぞ」

 

 手をひらひらと振りながらアルケミストはジャッジの部屋を後にする。

 何をやろうか、そう思いながら屋敷の廊下をあてもなくうろついていると、学校で使用するための教材を抱えるイントゥルーダーと鉢合わせる。いつもなら補助のスケアクロウがいるが、その日はいない様子だ…どうやらウロボロスにどこかへ引っ張って行かれたらしく、授業の準備の間児童を見ている人がいないらしい。

 

「そうだ、アルケミスト暇そうにしてるみたいだから子どもたちを見ててくれない?」

 

「あたしが? 子守は苦手だよ、ましてや勉強を教えるなんてさ」

 

「そう難しいことじゃありませんわ。ちょうど次の時間は、アルケミストでも教えられそうですし…ちょっとの間だけでもお願いできますか?」

 

「しょうがないな…それで、何を教えるわけだい?」

 

「はい、保健体育ですわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がやがやと賑わう教室の扉をガラッと開いたアルケミスト。

 いつもイントゥルーダー先生かスケアクロウ先生が来るはずなのに、まさかこの人が来るなんて……先ほどまでがやがやとおしゃべりしまくっていた子どもたちは、アルケミストの姿を見るなり一斉におしゃべりを止めて席に座る。

 子どもたちのアルケミストを見る目に恐れがある、流石はキレさえたら怖い人ランキング堂々のトップなだけはある。

 

「スケアクロウ先生がお休みだから、この授業はあたしが見ることになった。アルケミストだ、よろしく」

 

 教壇に立ち、ぐるりと子どもたちを見回す。

 固い表情のまま子どもたちはアルケミストを見つめたままだ…。

 

「なんだ、みんな元気ないな。挨拶はどうした?」

 

 彼女がそう言ったとたん、子どもたちは慌てて挨拶を返す…まだ声が足らない気もするが、ひとまずアルケミストは頷き授業を始める。始めるのだが、いきなり任されたせいでこの授業がどこまで進んでいるのか分からない…そこで最前列の女児にどこまでやったかを聞いた。

 

「うーんと、スポーツと健康……? なんだこのつまんなそうな課題は、やめやめ、こんなの無駄だ。もっと面白い課題ねぇのか? お、これいーじゃん。よーしお前ら、このページ開け」

 

 アルケミストは教科書をペラペラめくって面白そうな項目を選び、子どもたちにそこを開くよう指示を出す。

 するとどうだ、何人かの少女は気恥ずかしそうに目を逸らし、少年たちはニヤニヤし始める。

 

「あの先生、ここはまだ早いと思うんですが…」

 

「なーに恥ずかしがってんだ、お前らほんとは興味あるんだろ? よーし始めるぞ、アルケミスト先生の性教育だ」

 

 子どもたちの初心な反応を見て、アルケミストは乗り気じゃなかった授業が楽しくなって来た様子だ。

 まあ、子どもたちに教える教材であるので、そこまで生々しい写真があったり過激なイラストがあったりするわけではないのだが、性に関する用語は初心な子どもたちには刺激が大きいようだ。

 

「えーっと、あたしは人形だから当てはまらないが、お前ら人間だからよく覚えとくんだぞ? 第二次性徴……まあ要するに思春期って奴だな。この時期に男女とも性器が発達してきたり、女子は乳房…おっぱいだな……って、なーににやけてんだよ男ども」

 

 言葉にいちいち反応する子どもたちの初心な反応、なるほど、ウロボロスが子どもたちに夢中になる理由も少しは分かる気がする。そんな児童たちの反応を時にからかいつつ授業を進めていくと、徐々に子どもたちのアルケミストに対する印象も変わってくる。

 途中から教科書を放りだし、アルケミストと子どもたちの談笑が始まってしまった。

 

『勉強したい奴は好きにしな。あとは自由時間だ』

 

 イントゥルーダー先生もスケアクロウ先生も絶対に言わないような言葉が決め手となって、子どもたちはすっかりアルケミストに心を開き笑顔を見せるようになった。ただ優しいだけじゃない、フランクな態度の教師は新鮮なようだ。

 続く授業もアルケミストが見ることとなっていたが、相変わらず指定された教材に興味を持てないアルケミストは、子どもたちを連れて屋敷の中庭へ向かう。

 

「よーし、今の時間は水泳の授業に変更だ。えっと水着は…あるわけないよな、待ってろ」

 

 水泳をするにはちょっと早いが、気温は高いし水温も安定しているので問題はない。

 水着も何でもそろっているウロボロス邸から拝借し子どもたちに配る、授業だなんだといいつつ、アルケミストが久しぶりにプールで泳ぎたいという願望が大きかった。しかし子どもたちは授業がプールに変わったことに大喜びだ。

 

「おいガキども、ちゃんと準備運動しな。溺れて死んでも知らないよ」

 

 アルケミスト自身は見つけた競泳水着に着替えたものの、ややサイズが小さいようで、少々窮屈そうだ…主に胸の部分が。何人かのませた男子はアルケミストの水着姿に悶々としている様子…そんな男子たちに女子たちの冷たい目線が突き刺さる。

 そこでもアルケミストは子どもたちを適当に泳がせる…もちろん、先ほどはああいいったが溺れてもすぐ気付けるよう、プールサイドに暇そうな下級鉄血兵を引っ張って来て監視にあたらせた。

 

 ふと、アルケミストはプールサイドで水に入らず座り込んでいる男の子を見つけた。男の子のどこか羨ましそうに友だちを見つめる表情から何かを察し、アルケミストはプールサイドに肘をかけて声をかけた。

 

「どうしたんだい? 泳がないのか?」

 

「せんせい…実はぼく、泳げなくて…」

 

「そうなのか?」

 

「うん。前に溺れそうになって、それから怖くて…」

 

「ふーん……でも羨ましそうに見てたじゃないか。ほんとは泳ぎたい、だろ?」

 

「そうですけど…」

 

「じゃああたしが一緒に見ててやるからさ。ほら、怖がらずに来なよ」

 

 アルケミストがそう言うと、男の子はおっかなびっくりとした様子でプールサイドへと近付いていきつま先を水につける。男の子を怖がらせないよう、少しづつ水に慣れさせていき、最後には男の子の両手を握ってあげながらゆっくりとプールに入れてあげた。

 しかしまだ怖いのか男の子はアルケミストにしがみつく。

 それを笑ったりせず、彼女はその腕で抱いてあげながらちょっとずつ男の子が水に慣れていくのを待つのだ。

 

「ヒヤッとしてて気持ちいいだろ? ちょっと慣れたら泳いでみようか?」

 

「う、うん……」

 

「なんだ恥ずかしがってるのか? 別に泳げないことは恥ずかしくないだろう?」

 

「いや、そうじゃなくて…その…」

 

「んん?」

 

 男の子が顔を赤らめて恥ずかしがっている理由…それを知るのは当分先のことであった…。




前半と後半で展開が全く違うのは、ネタをつぎはぎしたから(ニッコリ)

圧倒的おねショタの極みッッ!!
お姉ちゃんを讃えよ!

以下没ネタ

アルケミスト「うん…? なんか固いのあたってる…」

少年「ご、ごめんなさい…先生を見てたら、変になっちゃって…!」

アルケミスト「あぁ、そういうこと……ちょっと、更衣室いこっか?」

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