M14、MSFには最近入隊したばかりの彼女は努力家で真面目で人当たりの良い戦術人形で知られているが、戦闘面ではからっきしであまり戦場には出ずに前哨基地で訓練に明け暮れている印象を持たれている。以前、彼女の教官役を務めているアーサー・ローレンス大尉が、M14は他のIOP戦術人形のように銃との結びつきを強める烙印システムが不完全だと見抜いて以来、他の銃器と烙印システムでつなげようとするが上手くいっていない。
どの武器もうまく扱えない状況でM14は自身を喪失、そんな状態で戦場に出れるわけもなく、出たとしても部隊の後方支援に回されてしまう。自分の兵士としての価値の無さに嘆くM14を、教官のアーサー大尉は親身になって指導するのだ。
あるいは、彼女が余計な悩みを抱え込んでしまわないように厳しい訓練を課していた…。
訓練を終える頃になるとM14はくたくただ。
毎日繰り返し訓練しているというのにちっとも身体が追いついてくれない。それもそのはず、アーサー大尉はM14のスキルアップと同時に訓練内容を過密にしていたりする。そのことにはM14もうすうす気付いていたが、付きっきりで面倒を見てくれるアーサーに恨み言を言えるはずもなく、むしろ【キャプテン】と呼び慕っていた。
その日も、過酷な訓練を終えたM14はグラウンド上で大の字になって寝転がっていた。
ここ最近は気温も上がって来て夏日にもなる日がある、暑さは体力を消耗し一層の疲労感を感じさせてくれる。横になるM14にねぎらいの言葉をかけ、アーサーはよく冷えたドリンクを手渡した。
弱々しく手を伸ばし受け取ったM14は早速ドリンクを飲む…氷が入れられてキンキンに冷えたドリンクが熱を持った身体を程よく冷ましてくれる。しかもそのドリンクはアーサー大尉が自分で作った特製ドリンクだというのだから驚きである。
「ぷはぁ……美味しいですね。キャプテンも飲みますか?」
「あぁ」
ドリンクの入った水筒を返したM14は、そのままアーサー大尉をじっと見つめる。
切れ長の目に目鼻立ちの整った美麗な顔、長くて鬱陶しいと言って切った茶髪はくせもなくさらさらとしている。事情はよく分からないが元男とは思えない美貌を、同性であるはずのM14ですら羨む。
日々の鍛錬で鍛えられた身体に無駄はない。
黒のタンクトップにウッドランド迷彩のカーゴパンツ、そしてカーキ色の帽子と女性としては飾り気は全くない…まあ、本人が女扱いされると不愉快そうにするのでそれでいいのかもしれない。
「大尉~」
その声に振りかえれば、軍服姿のアイリーン上等兵曹がプラチナブロンドの髪をふり乱しながら走り寄ってくる。彼女の後ろにはM14と同じように疲れた様子のガリルたちがいた。
「訓練終わりましたか? みんなで一緒にご飯食べに行きません?」
「いや、いい」
「そんな、たまにはみんなで行きましょうよ。ね、M14も大尉が一緒に来てくれたら嬉しいよね?」
「え? まあ、それはそうですが…」
そう言いながらM14はおそるおそるアーサー大尉を見るが、一瞬舌打ちが聞こえてきたような気がした。アーサー大尉の気は変わらなかったようで、そのまま何も言わずに去っていった。
「なんやなんや、大尉は相変わらず付き合い悪いな!」
「まあ、ちょっと気難しいかもね。そういえばガリル、またエグゼに挑んだんだって? どうだったの?」
「余裕のワンパンやったわ」
「どっちが?」
「聞くまでもないやろ?」
「うん、まあ……めげずに頑張ってね。それじゃあご飯食べに行こうか」
「すみませんアイリーンさん。ちょっとキャプテンの様子を見てきますので…」
「そっか、じゃあ仕方ないね。大尉のことよろしくね」
「はい、それじゃあ」
M14はぺこりと頭を下げると、アーサー大尉が去っていった方へと走って行った。
別れてからそんなに時間は経っていないというのに大尉の姿はなかなか見つからない…どこにいるのだろう、M14はきょろきょろと辺りを見回しながら歩く。ふと、屋外資材置き場の木箱裏に見覚えのある帽子を見つけた。
木箱の陰からひょこっと顔を出すと、ちょうどそこにいたアーサー大尉と目が合う…彼はこっそり煙草を吸っていたようだが、何故かM14が来たのを見て少し動揺し、すぐに煙草を消した。
「キャプテンここにいたんですね? こんなところでこっそり煙草なんて、なんだからしくないですね…」
「ああ、昔の癖でな。どうしたんだ、アイリーンと一緒に食事に行かなかったのか?」
「なんだかキャプテンが心配になったんで」
「別に気にすることは無い、ただ煙草を吸いに来ただけだ」
「そうなんですか? でも喫煙所なら食堂のそばにもあるじゃないですか」
「そうだな」
「むぅぅ……キャプテン、何か隠し事してないですか?」
「いや?」
「そうですか?」
「ああ」
「本当に?」
「………何か不満があるのか?」
「不満ってことはないですけど…まあいいです。キャプテンはお腹空いてないんですか?」
「あまり腹は減っていない。この身体になってからは特にそういうことが多い」
「それって何かの異常なんじゃ?」
「気にするな」
ポンとM14の頭に手を置いて軽く撫でる。
なんだか話をはぐらかされているような感じでM14は頬を膨らませていたが、そのうち頭を撫でられるのが心地よくなったのか目を細める。M14の頭を撫でるアーサー大尉はどこか優し気で、普段の冷淡で厳しい姿しか知らない者が見ればきっと驚くことだっただろう…。
その日の夜、前哨基地のテント内で休んでいたアーサー大尉の元へ部下のテディ軍曹がやって来た。
相変わらずテディベアの身体は動きにくそうだが、短い足でよちよち歩く姿はなんともかわいらしい…まあ、乙女心を微塵も持たないアーサー大尉にはその愛嬌も全く無意味なものであるが。
「大尉、やりました。無事持ってきましたよ」
「テディベアになっても、腕は鈍っていないようだな」
「何度か冷や冷やすることがありましたがね。おかげで、故郷に少し里帰り出来ましたしね」
「あっちの様子はどうだった?」
「なにも。廃墟と荒野、頭のいかれた生存者に狂ったマシンしか残ってないですよ」
テディ軍曹はここ最近姿をくらましていたが、実はこっそり二人にとっての故郷であるアメリカへと密かに渡航していたのだ。MSFの監視の目を潜り抜けて、海を越えてアメリカに向かうのは困難を極めたが、軍曹は見事やり遂げたのだった。
ベッドから起き上がったアーサー大尉は早速、テディ軍曹がアメリカから持ち帰った物を確認する。
それらは台車の上に乗せられており、アーサー大尉が真っ先に手を付けたのは、黒色の大きなガンケースだ。留め具を外し、ケースを開くとそこには保存状態の良いバトルライフルが入れられていた。
「正真正銘本物、大尉が現役時代に愛用していた【M14EBR-RI】です。どうです、懐かしいでしょう?」
「ああ。忘れるはずがない、よくやった軍曹」
「どういたしまして、大尉」
ケースにおさめられていたM14EBR-RIを手に取り、懐かしそうに見つめる。
ところどころ塗装が薄れていたり摩耗した箇所もあるが、それがまさしく、アーサー・ローレンス大尉が戦前に愛用していた銃であるのだという証明であった。
「大尉、やはりその銃はあの子に…?」
「ああそうだ。もしもこの銃が彼女とマッチングできればそれでいい…無駄なことかもしれないがな」
「無駄なことなんかじゃありませんよ、大尉。あの子も喜ぶでしょうね」
「そうだといいがな……早速これをストレンジラブのところへ持って行こう。そこから先はやつに任せる」
「それはいいのですが、どう言い訳します?」
「適当に拾ってきたと言うつもりだ。軍曹、お前の方は誰かに何を聞かれても知らないふりをしておけ」
「了解、大尉」
ライフルを持った大尉をテントから見送るテディ軍曹。
アーサー大尉が遠くへ行ったことを確認したテディ軍曹は、さっそくさっきまでアーサー大尉が横になっていたベッドへとダイブする。
「うーん、これは完全に女の子の香りですよ、大尉~。むむ、大尉の下着がこんなところに…けしからん、まったくもってけしからんですよこれは!」
本人がいないのをいい事に、テディ軍曹はテント内を物色、隅の方に置いてあった服やショーツに興奮している。愛くるしいテディベアがゲスな行動をしているのを大尉が見れば、間違いなく八つ裂きにされてしまうだろう…。
ふと、テディ軍曹はたまたま開いた引き出しから一枚の写真を見つける。
擦り切れて古ぼけた写真には、仲睦まじく並ぶある家族の姿が映っていた。
写真を手にしたテディ軍曹はそれまでの興奮から冷め、懐かし気に写真を見つめる。
「大尉、あなたがあの子を贔屓するのは無理もないですよね……本当に、生き写しみたいだ…」
両親の間に立って笑顔を見せる少女はM14とうり二つ…幸せに満ちた家族の様子が映されていた…。
大尉✕M14やぞ!
M14ちゃん、他に先駆けてMOD化ってマジっすか??
そろそろ本編のラスボス(米帝)の正体について答え合わせしようかな…でもシリアス間違いないし、無理ない範囲でやりましょう。
敵は以前出た米軍残党のハイブリッドになるでしょうね。