METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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死闘

 数時間前…。

 

 

 

「今が好機だ、一気に突破しましょう!」

 

 鉄血の兵士の大部分が制御不能に陥った。

 膠着状態が続き睨みあっていたさなかに知らされた情報に、グリフィンはすぐさま部隊を出して鉄血に占拠されたS09地区の奪還と、そこに囚われているAR小隊の一員AR-15救出のため動き出す。

 グリフィンの部隊にはAR小隊の隊長であるM4とSOPMODⅡの二人も加わり、統制が取れず混乱状態にある鉄血兵を片っ端から撃破していく。

 

 だがある時、明らかにそれまでの鉄血兵と明らかに動きの違う鉄血兵が現れ部隊の行く手を阻む。

 

「ちょこまかと、うるさいなもう!」

 

 イライラしたような口調で、SOPⅡは引き金を引いて鉄血兵を仕留めようとするが、鉄血兵たちは素早い動きで銃撃を躱すと、あり得ない跳躍力で建物から建物へと飛び移り部隊の急所をついてくる。

 その容姿は見慣れた姿をしているが、動きはまるっきり別物だ。

 着かず離れずの距離を維持し、後退しようとすれば追撃し、追いかけようとすれば距離を置く…まるで部隊を足止めするかのような動きだ。

 

 見慣れない鉄血兵の動きは興味深いモノであったが、同じAR小隊の一員であるAR-15の救出を第一に考えるM4は少しの間も構ってなどいられなかった。

 戦闘を続ける部隊を一時的に離れ、M4は建物の内部へと入り込み一気に上階まで駆け抜ける。

 埃まみれの建物内を素早く移動し、敵を狙撃できる屋外のテラスにたどり着くと、付近にあった古ぼけたシートを頭からかぶり今もなお部隊に攻撃をくわえる鉄血兵へ狙いを定める。

 

 床に伏せて体勢を安定させ、照準器を覗き込む。

 飛び回る鉄血兵に狙いを定め、呼吸を止めて手ぶれを抑えた射撃は、見事鉄血兵を撃ち抜いた。

 しかしその鉄血兵はすぐさま起き上がると、その視線を狙撃したM4に向ける。

 

「反応が良いわね…ッ!?」

 

 咄嗟に跳びのいたその場所に、頭上から飛び降りてきた鉄血兵がマチェットの刃先を突き刺す。

 急いで銃を構えたが、素早い動きで接近しM4の銃を抑えつけマチェットを振りかざす。

 だがM4は素早く反応し、身体を鉄血兵におもいきりぶつけ距離を離すと腰だめで銃を撃つ…銃弾をまともに受けた鉄血兵はテラスの手すりから落ちていく。

 安堵したのも束の間、テラスをよじ登り数人の鉄血兵が姿を現す。

 さらに建物内からもあらわれ、あっという間にM4は周囲を取り囲まれてしまった。

 

「く…SOPⅡ!」

 

 完全に鉄血兵に取り囲まれる前に、M4はテラスの手すりに向けて走りだし、そのまま手すりを乗り越えた。

 そのまま重力に従って落下していくM4に鉄血兵は追い打ちをかけるが、M4もまた落下しながら撃ち返す……。

 

「M4!」

 

 M4が地面に激突するすれすれのところで、SOPⅡがスライディングで地面とM4の間に滑り込み落下の衝撃を和らげる。

 おかげでM4の体重を一身に受けたおかげでSOPⅡは苦しそうであるが…。

 

「イタタ…M4少し太った?」

 

「余計なこと言わないの。それより見て、鉄血兵が退いていく」

 

 頭上を見上げてみれば、鉄血兵が建物の向こうへと姿を消していくのが見えた。

 予想外の敵の部隊に、グリフィンの部隊は無視できない損耗を受けてしまった…。

 鉄血のエリートでもいたのかと想像するが、M4は静かに思考を巡らせる。

 

「SOPⅡ、ちょっと耳を貸して―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはははは! 凄いよおじさん、人間でもこんな動きができるんだね!」

 

 物陰に身をひそめつつ、SOPⅡはけたけたと狂気的とも言える笑い声をあげながら銃の装填を行う。

 アサルトライフルに取りつけたグレネードランチャーに弾を装填し、スネークの潜む物陰に撃ちこんだ。

 着弾した箇所で擲弾がさく裂し、大きな爆発を起こし遮蔽物を吹き飛ばす。

 

 口角を曲げて様子を伺うSOPⅡであったが、視界の端から姿を現したスネークにすぐさま反応し銃口を向けるも、既にスネークは目の前まで接近しSOPⅡの銃身を掴んで狙いを逸らす。

 逆手に持ったナイフを彼女の首筋につきたてるも、SOPⅡは咄嗟に取りだしたナイフではじく。

 

 攻撃を防いでみせたことにSOPⅡは得意げに笑うが、そうしている間にスネークに足をかけられ転倒する。

 それでも素早い身のこなしで起き上がる彼女は、そのまま後方に跳んでスネークとの距離を離すと再び物陰に隠れてしまう。

 

「やるじゃんおじさん! お姉ちゃんたちを助ける前に殺しとかないと、後々面倒になりそうだね!」

 

 笑い声と共にそう言ってのけるSOPⅡであったが、あの短時間の接近戦でマガジンを抜き取られていたことには動揺していた。

 おまけにきちんと整備しているはずの銃であるのにもかかわらず、弾詰まりを起こしている。

 コッキングレバーを動かし強制的に弾を排莢させ、物陰から向こう側を覗き込む。

 既にさっきまでそこにいたスネークの姿はない。

 見失ったスネークの姿を探すが見える範囲にそれらしい気配はない、背後に回り込まれることを警戒しSOPⅡもその場を移動し廃墟の中へと身を隠す。

 

「ひひひ…かくれんぼかな? 鬼さんこっちだよー」

 

 小声でつぶやきつつ、しきりに目を動かしスネークの姿を探す。

 そうしていると、通りの反対側で物音が鳴り咄嗟にそちらに銃口を向けたとたん、背後から首を絞められ拘束される。

 銃を握る腕を抑えつけられ、首筋にはナイフを当てられている…少しでも動けば首を斬り裂くことだろう。

 

「かくれんぼは終わりだ」

 

「凄い、本当に気付かなかったよ…でも離してくれるかな、じゃないと…切り刻んじゃうよ!」

 

 抑えつけられていない腕でナイフを手に取るSOPⅡ、それにスネークは拘束したまま彼女を背後の壁に激突させる。

 顔面からぶつけられた彼女は一度倒れ痛そうに顔をさすり、唸り声をあげてスネークに襲い掛かる。

 だが引き金を引く前に愛銃をその手から奪われた挙句、銃口の先端でみぞおちを強く突かれSOPⅡは苦しそうに倒れ込む。

 

「うぅ…わたしの銃、返せ!」

 

 銃を奪われてしまえばそれまでだ、さっきまで使っていた銃を突きつけるスネークを睨み唸り声をあげることしかできない。

 

「しばらく眠っててもらうぞ」

 

 ホルスターから別な銃を取りだす。

 殺傷用ではない、対人形用の麻酔弾を装填した麻酔銃だがそんなことを知る由もないSOPⅡは冷や汗を垂らし恐々としている。

 怯えて見せる彼女に麻酔弾とは言え発砲するのは気が引ける思いであったが、仕方がない。

 だが、SOPⅡはさっきまでの怯えた表情をひっこめると笑みを浮かべてからかうように舌を出す。

 

「残念でしたおじさん、実を言うとわたし本体じゃないんだよね」

 

「なに…ダミー人形か!」

 

「ご名答! 本当のわたしは今おじさんのずっとずっと向こうにいるよ、おじさんの狙いがよく分からないけど、わたしたちの作戦勝ちだね!」

 

 いま目の前にいる彼女がダミー人形だというのなら、事態は相当マズい。

 スネークが相手をしている間AR小隊はその横をすり抜けてハンターを狙いに行ったはずだ。

 そこには先に向かわせたエグゼもいる、事情を知らない者が見ればエグゼを鉄血陣営の人形だと疑いもしないだろう…仮にエグゼを知るものがいたとして、MSF所属の人形がこの場にいることはとても都合が悪い。

 

「隙あり!」

 

 緊急事態に焦るスネークに、好機とみて飛びかかるが、ひらりと躱し後ろ襟を掴み、後頭部から地面に叩き付ける…先ほどよりも強い衝撃を受け、SOPⅡは目を回しピクリとも動かなくなる。

 彼女から奪った銃をその場に捨て、スネークは急いでエグゼの向かった基地へと走りだす…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全身を血で汚した姿で、エグゼは遮蔽物に身をひそめ残りの弾をマガジンに詰めしこむ。

 近接戦主体のエグゼはあまり多くの弾薬は持ち歩かない、今回のような戦闘を目的としていない任務でならなおさらだ…。

 残る残弾はマガジン一つ分と、半端に弾が入ったマガジンが一つのみ。

 マガジンを装填し拳銃のスライドを引き、遮蔽物を乗り越えた瞬間銃弾が彼女を狙う。

 

 両手に拳銃を持ったハンターの銃撃を身をかがめて避けつつ、エグゼもなんとか撃ち返す。

 一発がハンターの肩に命中し怯んだが、すぐに持ち直す。

 残りの弾の全てを撃ち尽くしたが、ハンターの方はどうだ…?

 頭を出せばすぐに撃ち抜かれる状況で不用意に覗き込めないが、相手に弾が残っていたとして隠れていればいつかは仕留められる。

 幸いエグゼには高周波ブレードがある。

 意を決し、遮蔽物を乗り越えたエグゼにすぐさま銃撃するハンター。

 

 ハンターの二丁拳銃から放たれる無数の弾を、エグゼは防弾コートを盾にして強引に突破する。

 いくつかの弾をコートを突き破りエグゼの身体を傷つけるが、そんなことには構わずハンターへ一気に接近し身をひるがえし、片方の拳銃をブレードで破壊する。

 

「まだだッ!」

 

 残ったもう一つの拳銃の残弾をありったけエグゼに叩き込む。

 至近距離から放たれた弾丸の高い貫通力でコートは容易く撃ち抜かれるが、それに頼らず、弾丸を見切りブレードで斬りはらう。

 弾を撃ち尽くしたハンターは拳銃を手放すと、両手にナイフを構えエグゼに挑む。

 エグゼのブレードとハンターの二振りのナイフが接触するたびに火花を散らせる。

 

 パワーで優るエグゼに対し、ハンターは手数で攻め立てる。

 二つのナイフの他、ジャケットに差した小型ナイフを投げつけ、素早い動きと手数の多さで翻弄していた…ブレードをナイフで受け止め、もう一本のナイフをエグゼの肩に深々と突き入れる。

 

「チッ…痛ぇだろがコラ!」

 

 肩に突き刺したナイフごとハンターの手を掴み、彼女の額めがけ頭突きをする。

 怯むハンターに再度石頭をぶつけ、三度ぶつけようとしたところでハンターの回し蹴りを受け大きく後ずさる。

 下段、中段、上段とハンターの蹴りがエグゼを襲い強烈なハイキックが側頭部を撃ち抜きエグゼはたまらず片膝をつく…最後にハンターが跳び蹴りを放とうとジャンプしたところで、エグゼは自身の身体を弾丸のようにして肩からハンターの腹部にぶつかりに行った。

 

 倒れ込んだハンターにマウントポジションをとり、拳を振り下ろす。

 エグゼの拳が振り下ろされる度もはやどちらのものか分からない血が飛び散り、二人を真っ赤に染める。

 大きく振り上げたエグゼの拳が振り下ろされる瞬間、首を動かして拳を避けた彼女はエグゼの腕に小型のナイフを突き刺し、顔を蹴り上げて突き放す。

 

 立ち上がり睨みあう二人の身体はもうボロボロだ。

 それでもなお、二人は闘うことを止めない。

 

 

「よお…思いださねえかハンター? オレとお前で悪さして、代理人にぶっ飛ばされたときも…こんな酷い格好だったよな…」

 

「ああ、そうだな…あれ以来代理人を怒らせないようとしている…あの時は確か、お前が悪戯でトイレを破壊して通信施設を水浸しにしたんだったな…」

 

「ハハ、笑えるぜ…代理人の犯人探し、デストロイヤーのガキが黙ってれば隠し通せたのによ…」

 

「そうだな、それからなぜかわたしもとばっちりを受けてお仕置きされた……お前といるといつもトラブルに巻き込まれるな…!」

 

 ハンターが走りだし、逆手に持ったナイフを振るう。

 ブレードを手にナイフを防ぐが、蹴られた衝撃でブレードはエグゼの手を離れる…咄嗟にエグゼは先ほどハンターに突き刺されたままだったナイフを引き抜き寸でのところで防ぐ。

 

「だいたいお前の尻ぬぐいはいつも私だった…! いいところだけ持って行って、面倒事はいつもわたしに押し付けてきたな!」

 

「お前がやりたそうにしてるからだろ! おう、お前が夢想家と一緒になってオレをはめたの知ってるんだからな!?」

 

「なんのことだ!?」

 

「エイプリルフールだからって嘘は何でも許されるって言うから、代理人に嘘ついて小遣いせびったらばれてぶちのめされたんだぞ!」

 

「下手な嘘をつくお前が悪い!」

 

 いつしかふたりの言葉は不毛な口論となるが、同時に互いの命を全力で奪いに行く苛烈な戦闘も継続されている。

 お互い互角の力量だからこそ、全力をもって闘いあえる。

 それまで無かった経験に二人は楽しさすら感じ、笑みを浮かべていた。

 

「お前はわたしのペット人形を壊した!」

「オレが楽しみにしていたアイスを冷蔵庫から盗ったのはお前だろう!」

「いたずらでわたしの部屋のカギにろうそくを流し込んだな!」

「真冬の基地で鍵を閉めてオレを締め出しやがって!」

 

 思いつく限りの恨み言を叫び、ナイフを振り、拳をぶつけあう。

 笑いながら昔を懐かしみ全力で殺しあう姿は他の誰かが見れば異常なものに見えることだろう、だがそこには誰もいない、今二人はかつてないほど理解し合いお互いを認め合っていた。

 

 ああ懐かしい、こんなにも無邪気になったのはいつ振りだろうか…。

 いつまでもこうしていたい、決着をつけてしまうことがとても興ざめに思えてしまう。

 

 だが…。

 

 

「楽しいよ処刑人、やはりお前はわたしのかけがえのない友人だ。だからこそ、もう決着をつけよう…」

 

「そうだなハンター…決着の時だ」

 

 互いにナイフを構え笑いあう。

 決して望んだ結末ではないがこうするしかないのだ。

 どちらかが生き、どちらかが死ぬ、それが戦場の摂理なのだから。

 

 しばしの沈黙ののち、エグゼは地面を抉るほどの踏み込みと共に駆け出し、ハンターが迎え撃つ。

 

 互いの刃が激突し、二人の影が重なり合う…。

 抱き合うような体勢で互いに密着している。

 迎え撃ったハンターのナイフが、彼女の手から落ち、力を無くしたようにその身体をエグゼに持たれかける。

 

 

「処刑人…お前…」

 

「悪いな、ハンター……こうするしか、オレには出来ない…お前は殺せない」

 

 

 ハンターの胸を貫いたのは鋭利なナイフではなく、エグゼの拳であった。

 ナイフがハンターの胸を抉る寸前では刃を持ち変えていたのだ…。

 

 崩れ落ちるハンターをそっと抱きかかえ、抱き寄せる。

 そんなエグゼを睨むように見上げるハンターの頬に、数滴の雫が落ちる…。

 唇を噛み締め、涙をこぼすエグゼを見たハンターはのどまで出かかった拒絶の言葉を押しとどめる。

 

「お前を殺せるわけねえだろ…何年一緒にやって来たと思ってんだ…! お前は、オレのかけがえのない……お前を殺すくらいならオレは自分の命を絶つ…!」

 

「処刑人…」

 

「分かってくれよハンター…オレはお前を失いたくない……また一緒にいたいだけなんだよ! それっておかしいことかよ!?」

 

 涙をこぼし嗚咽するエグゼに向き直り、しばらく戸惑っていた様子のハンターであったがやがて彼女の肩をそっと抱き寄せ包み込む。

 腕の中ですすり泣くエグゼをまだハンターは困惑した様子で見つめていたが、彼女の心の中のわだかまりは少しずつ消えていく。

 

「悪かったな処刑人…お前も、辛かったよな…」

 

「当たり前だボケ…!」

 

「フッ、その口の悪い言葉もお前らしいな…」

 

 泣きながら暴言を吐くエグゼの後ろ髪をそっと撫でる。

 彼女の気持ちが落ち着くまでそうしてあげたかったが、そこは戦場…いつまでもそうしてはいられない。

 そっとエグゼを立たせると、エグゼもまた泣き顔を袖で拭う。

 

 

「今更わたしもお前を殺す気は無くなったよ…」

 

「おう…ならオレと一緒に来い」

 

「それは飛躍し過ぎだろう。鉄血のみんなは裏切れん」

 

「裏切りじゃない、一時的に離れるだけさ。いずれ他のみんなも仲間に引き込んじまえばいいんだ」

 

「呆れた奴だな、そんな簡単にできると思うのか?」

 

「やる前に出来ないっていう奴があるかよ。だけど一人じゃ厳しい、ハンター…お前がそばにいてくれれば心強いんだ。一緒に来てくれよ」

 

 差し出されたエグゼの手を、ハンターは素直に握り返さなかった。

 彼女なりに鉄血への恩義の心があるのだろう、いくらエグゼと再び心を通わせたからと言ってもそう簡単に決められるものではない。

 あごに手を当てて思案しつつハンターはエグゼを見つめる……。

 

 めちゃくちゃ笑顔である。

 まるで断られる可能性など微塵も考慮していないかのような無邪気な笑顔だ。

 

「全くお前は、昔から世話が焼ける…」

 

「お前は昔から世話好きだったな」

 

 

 昔と変わらないその姿を懐かしさを感じるとともに、先ほどまで殺しあいをしていたというのにその態度の変わりように呆れ果てる。

 だが、そんな自分も同類かとハンターは自嘲する。

 

「いいだろう処刑人、手を貸してやろう。代理人には…あいつが一番怖いな」

 

「出たとこ勝負さ」

 

 

 相変わらずの能天気ぶりに思わず笑みがこぼれる。

 二人は笑いあい、約束の握手を交わそうと手を差し伸べ合う。

 

 

 そんな時、静かだったその場に乾いた銃声が響き渡り、ハンターの身体が大きくぐらついた。

 目を見開くエグゼの顔に、ハンターの吐血した血が降り注ぐ…。

 

 咄嗟に手を伸ばそうとしたエグゼを突き飛ばした次の瞬間、ハンターの身体を無数の弾丸が撃ち抜く。

 全身を撃ち抜かれたハンターは力なく崩れ落ちていった…。

 

 

「おい、ハンター…? 嘘だよな、冗談きついぞ…」

 

 そっとハンターに近寄り抱き起す。

 エグゼの呼びかけにハンターはゆっくりと目を動かし、彼女の目を真っ直ぐに見つめる…震える手をそっとエグゼの頬に伸ばそうとしている。

 ハンターの手を握ろうと手を合わせようとしたが、ハンターの腕は力なく落ち、その瞳から生気が消えていく…。

 

 

「ハンター…くっ…!」

 

 まだ温かい彼女の身体を強く抱きしめる。

 言いようのない深い悲しみがエグゼの心を埋めていく…。

 

 

 足音がした。

 三人分の足音が近づいてくる…。

 

 

「よくも…よくも……クズ共がッ…!」

 

 心を埋めた哀しみが、どす黒い感情へと変わっていく…。

 哀しみは怒りに、怒りは憎しみへと…。

 激しい感情の変化に頭痛を催し、頭をおさえる…その痛みが憎悪を増長させ、エグゼの精神を黒く染めていく。

 

 

「AR小隊……! よくもハンターをッ! 殺してやるぞ…虫けらどもがッ!」

 

 

 




悪に堕ちる。復讐のために。

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