MSFの優秀な兵士に与えられるFOXHOUNDの称号を持つWA2000と、彼女が率いる小隊メンバーは常日頃から厳しい訓練を行い、小隊に下される任務も必然的に他の部隊と比べて過酷なものが多い。広大なフィールドでのコンバット・トラッキング、敵地潜入及び長距離偵察任務、紛争調停地帯の監視活動など…似たような任務の性質を持つ部隊は同じくFOXHOUNDの称号を持つ9A91率いるスペツナズがある。
日々の厳しい訓練のおかげで小隊メンバーは過酷な任務を見事達成できている。
元傭兵のカラビーナ、元南米麻薬カルテル
まあ厳しい訓練と過酷な任務に明け暮れていればいくら戦術人形とはいえ心身ともに疲れが来るというもの。
小隊長のWA2000は隊員たちの健康状態を鑑みて、適宜に休憩を与えるのだ。
普段は厳格なWA2000も、休みの過ごし方までは口出しはしない、あくまで他人に迷惑をかけなければではあるが。
休みを貰ったカラビーナは愛銃の手入れをしたりクラシックを聴いたり、リベルタは何をするわけでもなくただぼうっと海岸線を見ていたり……79式はというと、みんなが起きている時間帯まで惰眠を貪っているのであった。前日の任務で、山岳地帯での長距離偵察を遂行したことで身体はくたくた、割と早い時間に寝たというのにまだ起きない。
プラットフォームの保守点検作業による騒音で目を覚ました79式は欠伸を一つかくと、ふかふかのベッドの上でネコのように背を反らしながら大きく伸びをする。
「ふぅ……よく寝ましたね…」
カーテンを開いてみれば太陽はほとんど真上にまで昇っており、昼近くまで寝てしまったことが分かる。数日の休みをいただいたのだ、一日くらいはこうしてのんびり寝るのもいいだろう。それからベッドの上の毛布を丁寧にたたみ、パジャマを脱いでいつもの服装に着替える。
ふと、髪の毛がふわふわしているような気がした79式は、カチューシャをつける前に寝癖を直そうと手鏡を手に取った――――。
「いやぁぁぁぁあああああ!!!」
79式の起床が遅いのでちょっと様子を見に行こうとしていたWA2000は、79式の部屋の前に来た瞬間に大きな叫び声を聞いて驚く。叫び声は間違いなく79式の部屋の中から聞こえてきた、尋常ではない悲鳴を耳にしたWA2000はすぐさま扉を叩いて79式の名を呼ぶが反応はない。
電子キーで閉ざされた宿舎のドアはカードキーを差し込むか、内側から開くしか方法はない。
79式の悲鳴と扉を叩く音を聞いたのか、カラビーナとリベルタもやってくる…応答しない79式に業を煮やしたWA2000はすぐさまリベルタに扉を破壊するよう指示、小さく頷いたリベルタは、力任せに扉を殴りつけて穴を開けると強引に扉を引き裂いた。
「79式!? どうしたの!?」
急いで部屋の中に入ったWA2000、悲鳴をあげた79式はベッドの上で頭を押さえこんで涙目になりながらWA2000を見つめていた。
「センパ~イ……どうしましょう…!」
「な、なにがあったの…?」
「こ、これ……なんなんですかー…?」
ゆっくりと79式は頭を押さえていた手をどける……すると、79式の手に押さえられていた奇妙なケモノのような耳がぴょんと跳ね上がった。
「―――――朝起きたら、耳が生えていた……ってこと?」
「はいぃ……なんなんですかぁ、これ…?」
「うーん……」
あの後場所をWA2000の部屋に移し、混乱状態にあった79式をひとまず落ち着かせる。
後で気付いたことだが、生えていたのは耳だけでなく腰の辺りから尻尾も生えていることに気付く。最初はドッキリでも仕掛けているのかと疑ったが、どうやらそうではないらしい。
「えっと、本来の耳はちゃんとあるのよね…?」
「はい、ここに」
髪をかき上げてちゃんとした位置に耳があることを明かす。
目の前にありながら半信半疑のWA2000はそっと頭の上に生えたケモミミを指でつついてみる、するとケモミミは反応し、くすぐったそうにピクピクさせていた。
「感覚は、あるみたいね」
「はい…なんか、触られるとくすぐったいです」
「摩訶不思議ね。何か身に覚えはないの79式?」
「はい、カラビーナさん。昨日はすぐに寝て、起きたのもさっきですから」
「…謎だ」
「ひとまず、原因が分かるまでみんなには内緒にしておきましょう。79式も、あんまりじろじろ見られたくないでしょ?」
「はい、そうですね…」
頭に生えたケモミミを隠すために帽子を被せてあげる…だが尻尾を隠すのは難航する。ちょっとした尻尾くらいだったら何とかなっただろうが、79式に生えている尻尾はやたらとモフモフしており隠しきることは難しい。
どうしたらいいかモフモフの尻尾を触りながら一同考える……が、そのうちモフモフ尻尾を触っていると妙に気持ちがいいので触りまくる。もちろん79式にとってはたまったものではない。
顔を真っ赤にする79式に慌てて謝り、一応の対策として79式にロングコートを貸してボタンを全て閉めて尻尾が隠れるようにした。
「困ったわね、ストレンジラブに診てもらうしかないのかしら?」
「うぅ、何とかしてくださいセンパイ…」
うるうるとした瞳で助けを請いつつ、尻尾を揺らしケモミミをたたむ79式…そんな姿を目の当たりにするWA2000の理性が削り取られていってしまう。かろうじて部下の前で無様な姿を見せられないという思いが勝りなんとか踏みとどまる。
ひとまず専門家の意見でも聞きに行こうというカラビーナの提案により、みんなで研究開発班のところへ行こうということになる。帽子をかぶり直し、ロングコートを着てこっそりと研究開発班のところへと向かおうとする。
しかし、誰にも会わずに目的地に行こうと考えた時に限って誰かに遭遇するというもの…遭遇したのは厄介なことにエグゼだ。中でもエグゼとは犬猿の仲であるWA2000は露骨に嫌な表情を浮かべ、向こうもそんな彼女を見れば目をつけてくる。
「なんだお前ら揃いも揃って。あん? んだよ79式その格好は…見るからに不審者じゃねえか」
「アンタには関係ないでしょう。それより私たちが長距離偵察で入手した情報はアンタも把握してるんでしょうね?」
「ああ報告は聞いたよ。ったく、あの程度の長距離偵察なんてうちの連隊隷下の小隊でもできるっつーの。みんなお前らのこと過大評価し過ぎなんだよな」
「アンタが私たちをどう思ってるかなんてどうでもいいわ。ただ周りは評価しているし、それだけの仕事はしてるつもりよ」
「まあ、なんだっていいけどよ……で、79式はなんでそんな怪しい格好してんだ?」
「くっ、しつこい…!」
いつもならここでエグゼがムキになってケンカ別れするパターンなのだが、エグゼは帽子を被ってロングコートを羽織る79式がどうしても気になるようす。下手に誤魔化そうとしてもおそらく無意味、エグゼは妙に感が鋭い時があるのだ。
どうするか悩んだ末に、カラビーナの提案でいっそ正直に打ち明けようということになる……WA2000とエグゼは仲が悪いが、少なくとも仲間を蔑ろにしたりするような奴ではないという信頼があった。
「エグゼ、先に言っておくけど絶対に驚かないでね」
「おう」
「それから大声を出したり騒いだりしないで」
「ああ」
「本当だからね? 絶対に驚いたり大声出したりしないで」
「しつけえな。なんなんだよ?」
エグゼがうんざりした様子で舌打ちをする。
それからWA2000に促されて、79式はロングコートのボタンを外し帽子をとる…すると、それまで隠れていたケモミミと尻尾が露わとなった。
即座にみんなでエグゼの顔色を窺ったが、エグゼは大した反応を見せなかった。ホッと安堵するのも束の間、エグゼは黙って79式の尻尾とケモミミをじっくり観察…79式の頭に生えたケモミミを引っ張ると、79式は痛そうに声をあげた。
ふむ、と頷きエグゼは何やら思案する。
そして次の瞬間、すっと息を吸い込んだのを見逃さなかったWA2000は、素早くタックルを仕掛けてエグゼを床に押し倒す。
「いってぇな、なにすんだコラ!」
「アンタ絶対今叫ぼうとしたでしょ!? 驚いたり大声出したりするなって言ったわよね!?」
「うるせえ! なんだあのケモミミと尻尾は! なんかに寄生されてんじゃねえのか!?」
「知らないわよ!」
暴れるエグゼを3人がかりで押さえつけ、これ以上騒ぎが大きくなる前にエグゼを捕まえたまま来た道を引き帰し、再びWA2000の部屋へと戻る。部屋に戻る頃には、エグゼも暴れるのを止めて、79式を不思議そうに観察していた。
先ほど行った79式との問答をエグゼも繰り返すが、やはり言うことは同じだ…朝起きたらこうなっていた、と。
「ったくよ、人騒がせな奴だぜ…どうするんだそれ?」
「わ、分かりませんよ…」
「でも結構かわいいからもうこのままでもいいのでは?」
「ちょ、何を言うんですかカラビーナさん! 嫌ですよこんな変な耳!!」
「まったくだ。得体の知れないケモミミが生えてたらおっかなくてしょうがねえ」
「あら、そうとも言えないわよエグゼ?」
「あぁん?」
カラビーナの奇妙な物言いに、エグゼはジト目で見つめる。
「ケモミミはある種、殿方を狂わせる奇妙な魅力があるのです。殿方は誰しもケモノに惹きつかれるというもの…スネーク様もケモノが大好きです」
「なん…だと…?」
「スネーク様も男です。ケモミミを備えた相手を見ればその理性を狂わせ、きっと食べてしまいたいと思うはず…! エグゼ、スネーク様を積極的にさせるのはきっとケモミミに違いありませんわ!」
「そうか! その手があったか! よっしゃ! 確か倉庫の奥の方にネコミミカチューシャがあったはず…へっへへ、待ってるぜスネーク!」
カラビーナに言いくるめられたエグゼは妄想を浮かべながら勢いよく部屋を跳び出していくのであった。
他人の話を聞こうとしないエグゼをこうもうまく言いくるめられたカラビーナは大したものだが、その言いくるめた内容の滑稽さにはため息がこぼれてしまう。それに対し、カラビーナは心外だと言わんばかりの様子。
「あら、間違ったことは言ってませんわ。スネーク様はケモノならなんでも食べようとするでしょう? ウサギだろうがコウモリだろうがヤギだろうが」
「イヌとネコは食べたことがないって言ってたけどね」
「それはそうと、マイスターもいっそケモミミをつけてみては?」
「なんで私がつけなきゃいけないのよ!」
「何故って、オセロット様のために決まってるじゃないですか。マイスターがネコミミをつけたあかつきには、きっとオセロット様の野獣の本性が垣間見れるはずですわ…! ちょうどここにネコミミがあります、さぁ、つけるのです! リベルタ、マイスターを押さえつけなさい!」
「リベルタ、あんたそんなことしたら後でどうなるか分かってるでしょうね!?」
「隊長がネコミミつけたらかわいいとおもう」
「リベルタ!? ちょっ、やめなさい、コラ! やめっ―――」
カラビーナとリベルタの二人がかりにはさすがのWA2000も逃げられず、哀れにもネコミミを取りつけられてしまう。その後79式と並んでツーショット写真をとられ、その写真は消されないようカラビーナの記憶容量に大切に保存されてしまうのであった…。
「あっははは~! 実験は上手くいったねストレンジラブ博士!」
「あぁ! 戦術人形オールケモミミ計画の偉大なる第一歩だな、アーキテクト!」
「にっししし、あたしのアイデアの賜物だってことも忘れないでよね!」
「もちろんだよスコピッピ! みんなのケモミミ写真集を編集して、例の運び屋さんに……おや、誰か来たようだ」
WA2000「怒らないから素直に言ってごらん?」
アーキテクト「反省はしている、後悔はしていない」
ストレンジラブ「自制心より好奇心が勝った」
スコピッピ「それでもあたしはやっていない」(逃亡)
スキンガチャの結果を見て浮かんだネタ。
SDケモミミ人形見てるとこう…しあわせになるよね(語彙力崩壊)