身内からも畏怖されることのあるスペツナズは、一部の戦術人形たちにとっては羨望の対象となっていた…。
その中の一人であるSV-98は、スペツナズで9A91に次ぐ実力者とも言われるグローザに連れられてとある任務に出向いていた。
任務内容は護衛対象である某政府要人を狙うテロリストの抹殺…某国では政治絡みのいざこざでテロに対する十分な対策を取ることが出来ず、今回の政府要人の護衛も地元警察のみという脆弱さがあった。
そこで政府関係者はMSFを雇ったというわけであるが、MSFが雇われたことは地元警察には知らされていない…テロリストを抹殺したとしたらすぐに姿を消さなければならない。もしその存在が発覚した場合一切の助力はしないという条件を、MSFは多額の報酬と引き換えに請け負った。
必要最低限の人数にて、スナイパーをSV-98が務め、その援護と観測手をグローザが務める。
テロリストが警戒して護衛対象を狙ってこなければそれでよし、報酬はそれでもいただける。ただし護衛対象が命を落とせば報酬はなしだ。見つかれば非常にまずい状況に立たされる。
そんな緊張的な場面において、SV-98は極めて冷静であった。
息を乱さず、冷や汗一つ垂らさない彼女の落ち着いた様子を、グローザは高く評価する…護衛対象を狙う暗殺者を見つけだした時も、SV-98はグローザの指示に従い、迷わずその引き金を引いた…。
「はぁ……やっと帰って来れましたね」
「あら、緊張の糸が弛んだみたいね新人さん? でもよくやったわ、えらいわね」
マザーベースへ帰還した途端、SV-98は張り詰めていた緊張が解けて弛緩する。
任務時は片時も気を緩ませることは無いが、基地に戻ったとたん指先まで震えさせていた……だがそれでいいのだ。四六時中気を張り詰めさせていることは、ベテランの兵士でさえも困難なことだ。適宜気を休め、大事な場面において気持ちを素早く切りかえることが大切だ。
そういった部分も含めて、今回の任務ではグローザが彼女の素質を見極めるうえで観察していた。
「お疲れのようだけどついてきて新人さん。お楽しみが待ってるわ」
疲れた様子のSV-98に微笑みかけると、グローザは彼女を連れてある場所へと向かう。
宿舎を過ぎ、訓練施設を過ぎてたどり着いた先はマザーベースの司令部が置かれたプラットフォーム。研究開発プラットフォームと並んで警備が厳重なそこは、新人人形が気軽に入っていけるような場所ではない。実際、司令部に初めて足を踏み入れるSV-98はガチガチに緊張していた。
「かわいい反応するのね新人さん。でもそんなに緊張しないで、悪いようにはしないから」
緊張しっぱなしのSV-98に微笑みかけ、グローザは司令部の一室へと彼女を招き入れる。
室内にはスペツナズ部隊長の9A91の姿と、総司令官ビッグボスの姿があった…雲の上の存在と言えるような二人を前にしてSV-98は硬直、それでも咄嗟に敬礼をして見せたのは大したものだろう。
彼女の緊張を見てとった9A91とスネークは穏やかに笑いかけると、彼女をソファーに座らせて淹れたてのコーヒーを勧めるのだ。気さくに話しかける二人のおかげか、徐々にSV-98の緊張もほぐれていく…それを見て、スペツナズ隊長の9A91はグローザに声をかける。
「グローザ、どうでしたか?」
「合格よ、隊長さん。忍耐力、判断力、精神力いずれも高評価…戦闘能力についても伸びしろがある。自信をもって推薦できるわね」
「それは何よりです。SV-98、実は今回の任務でグローザにあなたの実力を見極めてもらいました。あなたは良い兵士のようですね、グローザが言うのだから間違いありません」
「あ、ありがとうございます…素直に、嬉しいです…!」
「そこで、是非とも私たちの部隊に入っていただけないでしょうか? あなたの狙撃能力の高さには見るべきものがあります、スペツナズにはあなたのような兵士が必要です」
それはSV-98にとって、願ってもいないことであった。
彼女は日頃からスペツナズに憧れて訓練を重ね、何度も部隊にアピールをしてきたつもりであった。それがついに念願かない、憧れの隊長から直々に勧誘を受けたのだ。断る理由など一つもなかった…無論、スペツナズの過酷な任務に関しては恐れを抱く部分もあるが、それを乗り越えて優秀な兵士としてMSFに認知してもらおうという気概があった。
「我が隊へようこそ、SV-98」
「光栄です、9A91隊長!」
握手を交わし、晴れてSV-98はスペツナズへの入隊が決まった。
その瞬間を待ちわびていたのか、それまで部屋のクローゼットに隠れていたヴィーフリとペチェネグが飛び出してきた。気配を殺して隠れていた二人の突然の登場にSV-98は呆気にとられていたが、そんな彼女を二人は捕まえて歓迎の意を示すのだ。
「やったわね同志! これで私たち、晴れて同僚よ!」
「なあ、お前は酒は飲める口なのか? なあ?」
「え…? あ、あぁ…お酒は嗜む程度に…」
「こらこら二人とも、あまり新人さんを困らせるんじゃないの。お酒の強さは後でじっくりと、ね?」
「勿論だとも。さあ今夜は歓迎会を用意しているぞ! スペツナズの新たな戦友に乾杯だ!」
困惑するSV-98を捕まえた二人は、そのまま意気揚々とどこかへ行ってしまう。
気の早い仲間にはほとほと困ったものだが、新しい戦友というのは良いものだった。グローザはくすりと笑い、部屋を出ていこうとしたが9A91は呼び止める。
「グローザ、あなたにも一つお伝えすることがあります。司令官とも話して決めました」
「あらどうしたの? まさかこの間の非番で、冷蔵庫のお酒を空にしたことを今更追及するつもりじゃないわよねスネークさん?」
「ははは、そんなことじゃない。グローザ、お前は9A91の副官として常日頃よくやってくれているな。スペツナズが今日に至るまで任務を全うできたのには、副官である君の力が大きいだろう」
「褒めても何もでないわよスネークさん。まあ、光栄なことね…隊長さんは私の誇らしい隊長さんだもの、隊長さんのためなら例え火の中水の中よ」
「頼もしいですねグローザ。あなたの支えがあったらかこそ、今の私がいるのですよ。私の不足点はあなたが補ってくれた、あなたがいてくれたおかげで私は成長できた…部隊では上官と部下の関係ではありますが、私にとってグローザは姉のように思えてなりません…ありがとう」
「隊長さん……ダメよそんなこと急に言うのは。涙脆くなっちゃうわ」
おどけたように言って見せるグローザであったが、確かにその目は微かに潤んでいる。
スペツナズの部隊長として畏怖される9A91をすぐそばで支え、密かに大切な妹のように見守って来たグローザ…あえて公言はしていなかったが、二人はお互いに姉妹として認知し合っていた。
勇敢で、冷静沈着で、頼りになる姉のような存在…そんな彼女に日頃の感謝の気持ちを込めて、彼女へあの称号を授与するべきであると、9A91はビッグボスへと進言したのだった。
「9A91の強い推薦を考慮し、グローザ…君に【
司令官ビッグボスより、MSFで最高の名誉となる称号を冠した徽章が授けられる。
ナイフをくわえた狐をあしらった徽章をスネークが渡し、次いでFOXHOUNDのワッペンが9A91より手渡された。いきなりこのような名誉ある称号を授与されて困惑しているのか、グローザは手元と9A91を何度も見返していた。
先ほどのSV-98と同じような反応をしているグローザに、二人はくすりと笑った。
「グローザにならその徽章の重みが分かるはずです。ですが、グローザならその徽章を身につける資格があると思います」
「なんて言ったらいいのか…隊長さん、最高の称号が今私の手にあると思うと震えが止まらないわね……9A91、あなたは今までこんなにも重いものを背負ってきたのね」
「私一人ではありません。グローザ、あなたや隊のみんなのおかげです」
「そうね……そうだったわね……スネークさん、名誉ある称号に感謝するわ。これからもこの称号に相応しいだけの活躍を約束するわ…だからね、今後とも隊長さんともどもよろしくね」
グローザは背筋を伸ばし、誇らし気な表情で敬礼を向ける…9A91もまた同じように敬礼を返すと、お互いに見つめ合いながらはにかむのであった。
「あともう一つ、9A91の提案でな…いつまでも隊の名前が
「あらそうなのスネークさん? 別にスペツナズでも悪くないわ」
「これから部隊の規模を大きくしていこうということになりましてね。折角だから部隊名を決めることにしました」
「なるほどね…それで、どんな名前にするのかしら隊長さん?」
「我々の部隊に求められるのは、素早い行動力…すなわち迅速かつ俊敏な行動です。そこで俊敏の名を持つ猟犬にあやかり、【バルザーヤ部隊】と改名します」
「バルザーヤ……いい響きね、いいと思うわ隊長さん」
「はい。早速ですが、見込みのある人形を何人かオセロットさんに目をつけてもらいました…片っ端からフルトン回収しちゃいましょう」
「気が早いのね隊長さん…いいわ、行きましょう」
称号の授与も終え、スペツナズの新たな部隊名も決まったところで、部隊規模拡大のため二人は早速めぼしい人形の回収に向かうのであった。
9A91はお姉ちゃんと呼ぶことはありませんが、グローザをそういう風に見てました…グローザも同じようにね…。
さぁ、片っ端からロシア人形をとっつかまえるぞい!!
ちなみにバルザーヤというのは、ロシアン・ウルフハウンドことボルゾイのロシア語読みであり、女性形の呼び方ですね。