METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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甘味を求めて…。

「ふぅ、そろそろ行くか。マスターさん、コーヒー美味しかったよ!」

 

「ありがとうございます。またいらしてくださいね」

 

 マザーベース内の一画に設けられたスプリングフィールドのカフェには、憩いの場を求めて今日もお客さんたちが訪れていた。彼女が淹れてくれるコーヒーを飲みながら、ジャズをBGMに穏やかな時間を過ごす…時々騒ぎ立てる輩もいないわけではないが、ここ最近は本来あるべきカフェの姿を取り戻しており、カフェのマスターのスプリングフィールドもそれに満足していた。

 

 お客さんを見送り、コーヒーカップを片付ける…。

 カフェへの来店は多い時もあれば少ない時もある、今日のところは後者だ。お客さんとして来る者がマザーベースで働くスタッフである以上、施設での業務が忙しくなれば自然と来客数は少なくなる。できればお客さんが多く訪れる日にカフェをオープンさせたいが、スプリングフィールドも普段は部隊の指揮をとっている以上難しいことであった。

 それでもお客さんのコーヒーを美味しいと言ってくれる声や、笑顔で語り合う姿を見てやりがいを感じていた……しかし、ここ最近はあることが気になっていた…。

 

 カフェで提供する食材を保管している冷蔵庫を開き備蓄を確認した彼女は、ここ最近少なくなってきた食材を見てため息を漏らす。

 

 

「どうしたんだスプリングフィールド、ため息なんかついてさ」

 

「あ、エイハヴさん」

 

 振り返った先でエイハヴを見たスプリングフィールドは、先ほどまでの物憂げな表情はどこへやら、柔らかな微笑みを浮かべた。エイハヴはいつもカウンターの右端2番目に座る、いつのころからか彼の特等席となっていた…それを意識してなのか、スプリングフィールドはその席の前に小さな花を置くようにしていた。

 いつものように、いつもの席に座るエイハヴに、彼が好むいつものコーヒー豆を挽いて提供する。 

 毎回同じコーヒーを飲んでいるはずなのに、エイハヴはいつも美味しそうに飲んでくれる…スプリングフィールドにとってそれが何よりも嬉しいことであった。

 

「それで、どうかしたのかい?」

 

 先ほどつい聞かれてしまったため息の理由を聞かれ、特に隠し立てするようなことでもないので素直に打ち明ける…。

 

「実は、お店で提供するためのお砂糖などが不足してきているんですよね…こんなご時世ですから、お砂糖やはちみつが手に入りにくいみたいで…」

 

「確かにな、アフリカの…ウロボロスの農園にはないのか?」

 

「いや、それがこっちの足元見てるのか法外な値段をつきつけられたみたいで……それに、今はエグゼの連隊やスペツナズ…あ、今はバルザーヤ部隊でしたね。それから研究開発班に資金が回されているので、こんな小さなカフェのわがままを聞いてもらうのは抵抗があって…」

 

「エグゼのやつ、また軍拡始めたみたいだからな…まあ、米軍残党の脅威も高まってるみたいだから仕方ないとは思うが。オレからミラーさんに相談をしてみようか?」

 

「いえ、そんな…わざわざ他の予算を削ってもらってまで解決してもらいたい問題ではありませんし…お客さんたちには申し訳ありませんが、少しの間メニューを減らそうかなと…」

 

 せっかく協力してくれようとするエイハヴには申し訳なかったが、スプリングフィールドは遠慮しようとした…。

 

 しかしそこでエイハヴが納得したとしても、納得しない輩がいる。

 それは、二人のそんな会話をこっそり聞いていたミス・トラブルメーカーのスコーピオンがである。天井の排気ダクトをこじ開けて颯爽と現れたスコーピオンに、それまで穏やかな雰囲気の中にいた二人は度肝を抜かされる。

 

「スコーピオン!? おまえ、なんてところから…!」

 

「あたしはどこにでもいるの! 話は聞かせてもらったよスプリングフィールド……なるほど、甘味となる食材がないからメニューを減らそうというわけか……ギルティ、それはギルティだよスプリングフィールド!! カフェはみんなの憩いの場、そこのメニューを減らそうだなんて!」

 

「カフェをたまり場にして飲んだくれてる人が、憩いの場なんてよく言えますね」

 

「それはしゃーないじゃん、ここ以外で飲むとストップかけてくれる人いないんだからさ~。グローザとか9A91を止められるの、スプリングフィールドしかいないんだよ~?」

 

「あのですね…?」

 

 そこらで飲むと際限なく飲み続け、最悪の場合はお酒はおろか消毒用アルコールや塗装用アルコール、アフターシェーブローションに至るまで飲み尽くす勢いの輩共。カフェで飲んでればスプリングフィールドがストップをかけてくれる…そんなことを言われて、スプリングフィールドは珍しく額に青筋を浮かべる。

 笑顔で怒気を放つスプリングフィールドと対峙してへらへらしていられるのは、おそらくスコーピオンだけだろう。

 

「甘味の補給に関してはあたしにアイデアがあるよ二人とも!」

 

「ほほう、何か名案があるのか?」

 

「エイハブさん、あまり本気にしない方がいいですよ?」

 

「まあまあスプリングフィールド。今回はいいアイデアなんだからちゃんと聞きなよ」

 

「はぁ…分かりました。言っておきますが、買い付けようとしても難しいですよ?」

 

「うんうん、分かってるよ」

 

「MSFの予算を削ってまで手に入れようとも思っていませんからね?」

 

「うむ、そうでしょうね」

 

「どこかのお店から盗んでくるのもいけませんからね?」

 

「それはもちろんだよ」

 

「よろしい。ではスコーピオン、あなたは一体どうやって甘味料を手に入れようというのですか?」

 

「えっとね……手に入りにくいなら、自分たちで採取して来たらいいじゃない?」

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、いうわけでやってきました北米大陸カナダへ」

 

「このノリ、以前にもどこかで見た気が…」

 

 MSFの前哨基地近くでは春の訪れによる暖かさが感じられていたが、北米カナダはいまだ冬の寒さが残る厳しい気候であった。

 スコーピオンはいつものあの格好に毛糸の手袋をしているだけであるが、まともな神経であるスプリングフィールドは寒さに震えていた。そんな彼女を見かねて、一緒についてきたエイハヴが、予備で持参したコートを一枚その肩にかけてあげる。

 ガンガン雪原を突き進むスコーピオンの後を、二人は一緒に並びついて行く…。

 

「大丈夫か? 滑りやすいから足下に気を付けるんだ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「こらこらー、なーに自然にいちゃついてんのさ。デートに来たんじゃないんだよ?」

 

「いきなり引っ張って来て何を言ってるんですか! スコーピオン、あなたがどうしてぴんぴんしているのか不思議です…氷点下20℃の極寒ですよ?」

 

「なっははは! 誰もあたしの熱い情熱を冷ますことは出来ないのだ!」

 

「もういいです。ところで、カナダには何を目的に?」

 

「カナダと言ったら、ほらあれ……メープルシロップの原産地じゃん? 見つけたらとり放題だよね!」

 

 そう、スコーピオンがここカナダを目的地としたのはメープルシロップを生み出すための、サトウカエデが群生することを知っていたからである。毎度極地に引っ張って行かれるのはいい加減勘弁して貰いたかったが、メープルシロップを甘味料として取り扱ったことのなかったスプリングフィールドは、ようやく気が乗り始めてきた。

 しかしカナダは位置的に、あの旧アメリカ合衆国と国境を隣接する場所だ。

 今のところ汚染や敵勢力の危険は確認できていないが、それでも警戒を怠るわけにはいかない…エイハヴがスコーピオンの思いつきに同行したのも、二人を心配してのことだった。

 

 まあ、その後もこれといった脅威もなく、サトウカエデが群生する森を見つけた一行。

 1リットルのメープルシロップを作りだすためには、およそ40リットルもの樹液が必要だ。一本の木からとれる樹液の量はだいたい40~80と言われており、人の管理を外れたこの森では採取するのは難しくない。しかし問題は、大量の樹液をどう持ち帰るのか…まあこれについては、スコーピオンの連隊副官権限で駆り出された月光たちに樹液の詰まったタンクを括りつけて解決だ。

 数日かけて樹液を相当数採集した一行…極寒の中で数日過ごすことは戦術人形にとっても過酷だ、少なくともスプリングフィールドの顔には疲労の色が見えていた。

 

「よーし、これにてサトウカエデの樹液採取は完了だね! みんなお疲れさま!」

 

「はい…お疲れさまです…」

 

 スコーピオンだけ来る前より元気がいいのは気のせいだろうか?

 

 そんなことを思いながら帰路につこうとした時だった。

 森の中に大きな獣の咆哮が響き渡る…森の奥からぬっと姿を現したのは、大きな体躯をほこる巨熊であった。

 

「ヤバい…グリズリーだ!」

 

 北米の生態系の頂点に君臨するグリズリーの出現にエイハヴは動揺する。

 一応自衛のための銃は持参していたが、あれだけの巨熊を倒すほどの威力はない…スプリングフィールドもまた、戦闘を想定していなかったために、弾薬は装填されている5発しかなかった。スコーピオンが扱う弾薬も、グリズリーを仕留めるのには威力が不足している…。

 グリズリーから二人をかばうように立つエイハヴであったが、なんとスコーピオンがのこのこグリズリーへと近付いていったではないか!

 

「おやまあ、【グリズリー】ったら、ちょっと見ない間にたくましくなっちゃって~」

 

「バカー! じゃなかった、スコーピオン!? 何してるんですか!?」

 

「なにって…これグリズリーでしょう?」

 

「グリズリーはグリズリーでも、戦術人形じゃなくて野生動物のグリズリーです! それから猛獣なんです! 危ないから戻って来てください!」

 

「大丈夫だよ、グリズリーはいい子だから。ね?」

 

「ガオオオォォォッ!!」

 

「ほえ?」

 

 後ろ脚で立ち上がったグリズリーは、次の瞬間、そのハンマーのような手で目の前のスコーピオンを殴りつけた。

 猛獣のパワーは戦術人形をも容易く引き裂いてしまう、そんなものをまともにくらってしまったらいくらスコーピオンでも……と思っていたらスコーピオンは即座に復活、頭からだらだら血を流しているようだが、何故か生きている。

 そればかりか、無謀にもグリズリーに対しアッパーカットを放ちグリズリーを怯ませる。

 

「野生のグリズリーだかなんだか知らないけど、クマがサソリに勝てると思うなー!」

 

「グガオッ!」

 

「ぶへっ!?」

 

 再び殴られたスコーピオンは勢いよく木に叩き付けられた…だが何故かまだ生きている!

 

 頭に血を上らせたスコーピオンは勢いよくグリズリーに向かって走って行き、グリズリーの鼻っ面へ自慢の石頭を叩きつける。痛そうによろめくグリズリーの後ろ脚を即座に引っ張って体勢を崩し、力任せにグリズリーの尻を蹴り上げた。

 ひと際大きな声で悲鳴をあげたグリズリー。

 だがスコーピオンの暴走は止まらない…グリズリーの片脚をがっしりと掴むとジャイアントスイングで振り回し、勢いよく木に叩き付けた

 

「どうだまいったかグリズリー!!」

 

「クゥーン……」

 

 ボコボコにされて完全に戦意喪失したグリズリーは足を引きずりながらその場から逃げようとするが、スコーピオンは行く手を遮ると、グリズリーの巨体にフルトンを括りつけた。展開したフルトンは巨熊を容易く浮遊させ、そのまま遥か空の彼方へと打ちあげていった…。

 

 




やったね、MSF初のグリズリーをフルトン回収したぜ!

え? グリズリー違いだって?
細かいことは気にするな!
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