格闘技大会でFALによってぶちのめされた挙句、FALの専用戦車を砲塔が回らない駆逐戦車もどきへと改造したこのペナルティを受け、なおかつお気に入りのサイドテールの髪型を今後一切禁止という厳しい罰を与えられたアーキテクト…みんなの癒しであるアーキテクトの散々な扱いを目の当たりにしたMSFスタッフたちは、アーキテクトに課せられた罰を撤回するようFALに求めるのだが、そのすべてが返り討ちにあってしまった。
結局、ストレートロングな髪形のアーキテクトも可愛いよねっということでスタッフたちは諦めた。
「ふへぇ…疲れたよぉ……やっと砲塔直したよぉ…」
「そもそもあんたが余計な改造しなければこんなことにはならないのよ?」
「いや、だってFALったら前にヤークトティーガーかっこいいよね~なんて言ってたからさ。もしかしたら駆逐戦車の方が好きなのかなって?」
「確かに言ったけど、駆逐戦車なんて時代遅れの骨董品でしょ? 真に受けるんじゃないの」
どうやらFALのことを少しなりとも考えた上での珍改造だったらしいようで、結果はともかくそれなりに想っての行動ということで少しばかりアーキテクトへの当たりを弱めることとする。それはさておき、これでようやく愛車のマクスウェル戦車は元通りになったわけであるが、主砲まで元のレールガンに戻されているのには納得がいかなかった。
マクスウェル主力戦車の本来の兵装は高威力のレーザーキャノンであり、その爆発的な火力によって幾多の正規軍兵器を餌食にしてきた。先日の、巨大モンスターに対するとどめの一撃にもなった程の威力であったが、その時は一度限りの砲撃で砲身がダメになってしまう致命的な欠陥があった。
新兵器開発に余念がないアーキテクトの事だから、この欠陥も改良してくれるかと思えば、まさかの元の兵装に戻すという…アーキテクトらしくない保守的な改装に文句を言おうとすると、彼女は慌てたように弁明をするのだった。
「言い訳を聞こうかしら?」
「言い訳というか、これはマジなんだけどさ! あの時のレーザーキャノンで砲身が一発でダメになるっていうのは私も予想外だったんだよ! あの時は急ごしらえで試射試験なしで送っちゃったけど、理論上は問題ないはずだったんだってば!」
「あらそう。なら欠陥が分かったんなら改良の余地はあるわよね? なんか問題あるの?」
「大問題だよ。FALは凄く運が良かったんだよ……一歩間違えれば、あのレーザーキャノンを撃った時、戦車が爆発して死んでたんだから」
「は? なにそれ?」
アーキテクトが述べた予想の斜め上を行く言葉に、FALは困惑する。
あの時、大型モンスターを仕留めた砲撃の後ですぐに主砲がダメになったことに気付いたFALは即座に戦車の稼働を止めた。一見戦車は無傷に思えたが、その後の調べでレーザーキャノンの膨大な熱量を処理する冷却装置までもが故障していたらしい。もしも何らかの理由で冷却装置が上手く動作していなかったり、無理に主砲を撃とうとしたら……膨大なエネルギーを処理できずオーバーヒートを起こし、大爆発をしていたという。
「それで、レールガンに戻したわけね。でも改良のための研究はしてたのよね?」
「勿論だよ、そこは誓うよ。でも全然見当がつかなくてさ…FALとわーちゃんが持ち帰ったマクスウェルのデータを調べても、全然意味不明でさ。車体は再現できても、兵装が再現できないんだよ……それに、いくら改良のためとはいえ"崩壊液"をマザーベースで扱うのは怖いよ」
「ちょっと待って、崩壊液ですって? もしかして、マクスウェルの動力って…」
「うん、レーザーキャノンのあのエネルギーを生み出しているのは崩壊液の力なんだ。これが滅茶苦茶不安定でさ…でも米軍の戦車はこの崩壊液を完璧にコントロールして、なおかつ安定してばかすかレーザーキャノンを撃てるんだ。あんな技術は見たことないよ…いくら何でも、あれを再現しろっていうのは難しいよ」
「なるほどね……その事って、他の誰かにも言ったの?」
「うん。研究開発班のみんなと、オセロットには。あと、45も聞いてきたから教えたよ?」
「45が? どうしてあいつが?」
「うーん、そこまでは分からないけど……なんだかアメリカについての情報を片っ端から調べてるみたいだよ?」
「そう、分かったわ。ありがとうね…もういいわ」
「いいの? じゃあ髪型も元に戻して――――」
「キャラ被るからそれはダメ」
「えぇ……」
結局、アーキテクトは元の髪型に戻すことは許されず、ブーブー文句を言いながらFALの格納庫を出ていった。
愛車の兵装が元に戻ってしまったのはがっかりだが、よく考えてみればレールガンの主砲だって現状MSFが開発できる兵装の中ではトップクラスの火力を持つし、正規軍の装甲兵器を破壊できるポテンシャルを秘めている。必要以上に求めるのはあまり良くないし、危険をおかしてまですることではないだろうと判断した。
「さてと、なにしようかしら?」
格納庫をぐるりと見回し、自分専用の戦車たちを眺める。
マクスウェル主力戦車は納車されたばかりだし、ロマンを詰め仕込んだ豆戦車のふぁるタンクもこの間メンテナンスをしたばかり、あとは凍土で凍りついていたT-34戦車がある…100年以上経っているのに、氷を溶かしたら動いたのだから驚きだ。さすがソ連が生んだ鬼戦車は違う。
それはさておき、やることもなくなったFALが格納庫を出て行く……晴天の空、暖かな春のそよ風がなんとも心地よく、深呼吸をして大きく身体を伸ばす。
「うへへ、いい眺めだねぇ」
「あぁん?」
ふと、真下を見ればテディ軍曹がスケベなまなざしを送っているのに気付き、即座にかかと落としを仕掛けるも彼はひらりと身を躱す。クマのぬいぐるみになってもデルタ・フォースのスキルは失っていないということか…まあ、FALにちょっかいをかけようとするとVectorが現れ、無慈悲な鉄拳が飛んでくる。
それすらも避けて見せたテディ軍曹に、Vectorはおもわず舌打ちをした。
「まあ落ち着きなさいVector。ただのテディベアよ」
「まったく、おいらのプリティボディを見てメロメロにならないのは君らだけだよ…わーちゃんなんてキャーキャ言いながらハグしてくれるのに」
どこぞの上官と違って、MSF生活をエンジョイしているテディ軍曹である。
黙っていれば愛らしいテディベア、それが短い足でモフモフ歩いているのを見ればかわいいもの好きな女の子、特にWA2000などはメロメロになってしまうのも分からなくはない。毎晩代わる代わる、戦術人形たちに抱き枕がわりにされているというのは本当だろうか?
余談だが、FALも流行に乗ってテディ軍曹をベッドに連れ込んで眠ったらしいが、FALのあまりの寝相の悪さにテディ軍曹は逃げだしたという。
「それで、クマのぬいぐるみが何してるわけ?」
「最近、大尉はM14ちゃんに構いっきりで全然相手にしてくれないからさ。昼間は暇なんだよな、訓練教えてあげようにもテディベアの身体じゃねえ?」
「そう言えばM14ったら、大尉からおさがりのライフル貰って大喜びしてたわね。あの人、冷酷そうに見えて意外とそういうことできるのね?」
「確かに。あいつ、いつ裏切るか分からないから油断できないし」
「おいおい、色々あったのは認めるけど、みんな大尉を悪く言い過ぎだって。根は悪い人じゃないんだ、ほんとだよ?」
「まあなんだっていいけどさ。ところでテディ軍曹、あんた兵器には詳しいの?」
「パンジャンドラムとか好きです」
「冗談はその身体だけにしなさい。ちょっとマクスウェル戦車の開発で行き詰っててさ…」
テディ軍曹のジョークをはねのけた上で、FALはあまり期待せずに先ほどから頭を悩ませるマクスウェル戦車に使われている技術について尋ねてみる。が、返答はやはり本人も分からないとのこと…まあ彼は軍人ではあるが、兵器のノウハウにまでは精通していないのだから仕方がない。
「米軍脅威の技術力が簡単に解析されちゃ困るよ。協力してあげてもいいけど、そっち方面は疎いからな……夜の手ほどきについては教えてあげられるけど~?」
「死ね」
Vectorの素早い蹴りを容易く避けるテディ軍曹は、Vectorも入って来れないコンテナの隙間に入り込んで高らかに笑う。以前無理に追いかけたFALがコンテナの間に身体が挟まって恥をかいたのは、今でも大きな語り草となっている。
「ムカつくねアンタ…」
「悔しかったらここまで追いかけておいで! まあ君らではおいらのミニマムボディに対抗できないだろうけど!」
「み~つけた~!」
「はっ、この声は…!?」
コンテナの間に隠れていたテディ軍曹は、背後からかけられた声におそるおそる振りかえる。
それは暗がりの奥で怪しく目を光らせつつ、やって来た……無邪気ゆえに加減が効かない恐るべきちびっこ、最凶の戦術人形であるエグゼの愛娘ヴェルが、獰猛な笑みを浮かべたままやって来た。
逃げようとしたテディ軍曹をがしっと掴み、無理無理外まで引っ張って行く……身体が引っ掛かって綿がはみ出てもお構いなしだ。
「テディ! いっしょにどろあそびするぞ!」
「泥遊びだって!? やめろ、泥はなかなか落ちないんだぞ!? 誰か、助け……FALちゃん、Vectorちゃんお助け~!」
「因果応報だ、くそクマ」
「残念、テディベアは恋愛対象にならないのよね」
「辛辣ッッ!! 大尉~助けてー!!」
後から集まって来たFiveーseven、カルカノ姉妹、C-MSらちびっこ軍団も合流。テディ軍曹は引っ張られながら、無事泥の中にぶち込まれた…。
まあ、この後わーちゃんが洗ってくれるから…(笑)
ちょっとずつ、ちょっとずつ、米軍の謎を増やして解き明かしていきましょう…。