リベルタの印象変わっちゃったらごめんなさい
「――――よし、準備はできたな。これでいいんだな、なにせ初めて扱う戦術人形だ」
「ええ。メンタルモデルの初期化及びオーガスプロトコルとの遮断は完了、これで気兼ねなく使えますよ」
「まあよくわかねえが……しかし、1.5世代の戦術人形か…」
「仕方ありません。兄弟機の【
薄暗い部屋の中で、メガネをかけた男性と屈強な身体つきの男が二人…二人の前にはテーブルの上に寝かされて、数本のケーブルが接続された戦術人形が一体いる。メガネをかけた男性が端末を操作してから少し経つと、テーブルの上に寝かされていた戦術人形がまぶたを開けた。
人形はゆっくりと上体を起こすと、自身の手や身体を見つめ、最後に二人の男たちに目を向けた。
「お目覚めか。今日からオレがお前の主人だ、期待させてもらうぜ【
第三次世界大戦、及び世界にコーラップス汚染が拡散した北蘭島事件の影響を南米諸国も受けたが、欧州やアジアに比べその程度は軽い方だ。ただし最大の貿易国であった北米の壊滅は、輸出入業に大打撃を与え、南米諸国はどこも貧困に苦しめられるようになった。
貧困と共に秩序の悪化が重なり、そんな環境の中で麻薬カルテルは暗躍する。
南米の高地で栽培されるコカの木から生成されるコカインの流通を取り仕切るカルテルは、それを国内や他国で売りさばき暴利をむさぼる…貧困に加え国内でまん延する麻薬中毒者たち。
事態を重く見た南米の政府が、カルテルを取り締まろうとするも、既にカルテルの勢いは止められるものではなかった。
かつて麻薬王と呼ばれたパブロ・エスコバルの死後、カルテルの本場はメキシコにあったが、最大の密輸国であったアメリカの滅亡にともなってメキシコのカルテルは衰退し、カルテルの本場は再び南米コロンビアへと戻って来た。
主にアンデスの山で密かに栽培されたコカの木から生み出されたコカインは、空路・海路・陸路でそれを欲する者のもとへと運ばれる。アメリカが滅亡した今、最大の顧客は欧州諸国だ。
南米よりも深刻なE.L.I.Dの被害にある欧州では、陰鬱とした時代にドラッグへと逃げる者が多い。麻薬中毒者が増えれば、それだけカルテルの利益も増えていくのだ。
アンヘル・ガルシア、元グアテマラ特殊部隊カイビレスの部隊長を務めていた人物で、祖国が第三次世界大戦による影響で荒廃して以降、南米に移住するようになった。ガルシアはそこで特殊部隊時代に培った戦闘技術を、コロンビアで活動する麻薬カルテルへと売り込み、カルテルの戦闘員として雇われるようになった。
彼はカルテルが繁栄と同時に増えていく脅威に対抗するため、
ビジネスで利益を上げることを快く思わない敵対するカルテルや、取り締まろうとする警官や軍隊、あるいは政治家に至るまで……時に静かに暗殺することもあれば、死体を高架橋につりさげたり道端に投げ捨てたりと残虐性を見せつけるのだ。
ガルシアの所有物となっている戦術人形、リベルタドールはそんな彼の付き人として、彼と共にカルテルから下される殺しの依頼を黙々と遂行し続ける。
その日のターゲットは、敵対する別なカルテルに所属する構成員たちだ。
バーで飲んでいた彼らに不意打ちをし、廃工場に拉致したのだ…ズタ袋を頭から被せられ、手足はパイプ椅子に縛りつけられている。
ガルシアが適当な構成員を殴りつけている間、リベルタは彼らのすぐそばで火を起こし、先端を鋭利に尖らせたバールと剪定ばさみ火で炙る。
ガルシアの拳は殴りつけた相手のものか自分の血なのか分からないほど真っ赤に濡れている。桶に汲んだ水で手についた血を洗い流すと、彼は散々殴られて真っ赤になった構成員のズタ袋をとってやる。鼻は曲がり、刃はへし折れ、目を開けないほど腫れあがってはいるがまだ息はあった。
何にせよ、会話ができる状態などではなかった。
そこでガルシアは、まだ拷問をしていない別な男のズタ袋を外す…頬にタトゥーの入ったその男は、ガルシアを見るなり暴言を吐き散らかす。
「クソッたれのチンピラが! オレたちに手を出して、タダで済むと思うなよ!」
「威勢のいい若造だな。気に入った」
ニヤリと笑みを浮かべたガルシアは、ブーツの先端で男の下あごを思い切り蹴り上げる。
パイプ椅子に拘束された男はまともに蹴りを受けて倒れる…歯を折られ、口から血を流す男の髪を鷲掴みにし、再度元の位置に戻す。
「くそが……痛めつけられても、オレは何もしゃべらねえぞ…!」
「バカが、てめぇの口を割るのが仕事じゃないんだよ……オレの雇い主は温厚な方だが、忍耐力にも限界がある。お前らがうちの
ガルシアに名を呼ばれたリベルタドールは熱せられて赤みを帯びたバールを手に、ガルシアが尋問する男へと近付いた。
「なんだ、女かよ……オレのものをしゃぶってくれるのかい?」
口では強がっているが、男の視線は熱せられたバールに釘付けとなっており、その目には恐怖が浮かんでいた。
リベルタは男の髪を鷲掴みにするとバールの先端を男の右目に定める。
「待て! やめろ、止めろッ……ま、ヒッ…ぃぎゃああぁぁっ!!!」
勢いよく突き刺したわけではなく、ゆっくりとバールの先端を男の目につき入れる…熱せられ、高熱を帯びたバールが男の眼球を焼き蒸気が上がる。男は悲鳴をあげ足をばたつかせるが、髪を鷲掴みにされていることで眼孔に突きいれられたバールを抜き取ることが出来ない。
バールの熱が下がり、肉を焼く音がおさまって来た頃にリベルタはバールをゆっくりと引き抜く……熱したバールで貫かれた眼球が張りつき、バールと共に眼孔から抜け出てくる…。
「ちくしょう……くそ、くそ! 殺してやる…ぶっ殺してやる…!」
「大した野郎だ、威勢がいいな……相当でかいタマ持ってんだろうな、おい」
やけくそになって悪態をつく男にほくそ笑み、ガルシアはおもむろに男のズボンを下ろし下着をナイフで斬り裂いて局部を露出させる。
「おっと、縮みあがってやがる……リベルタ、切り落とせ」
次なるガルシアの指示にリベルタドールは小さく頷いた。
手にしていたバールを投げ捨て、今度は同じように火であぶっていた剪定ばさみを手にった。失明していない左目でその姿を見た男は身を大きくよじって逃げようとするが、途中でバランスを崩し椅子ごと転倒した。
ガルシアが男の頭を踏みつけて押さえつけている間に、リベルタは熱せられた剪定ばさみで男の局部を切り落とした…。
叫び声をあげる男の前でガルシアは、切り落とされた性器を拾い上げ、叫び声をあげる男の口の中へとねじ込む。吐きだそうとするのを口に布を巻きつけて防ぎ、顎をおさえて無理矢理咀嚼させる。
「どうだ美味いかクソッたれ! お前の最後の晩餐だ、よく味わってくたばりな! アディオス、アミーゴ!」
男の額に向けてガルシアが拳銃弾を叩き込むことで、男の動きはようやく止まる。
額からどくどくと血を垂れ流す男を、リベルタはただじっと見つめていた。
「リベルタ、もう一人はバラバラにして3番ストリートのゴミ箱にでも捨てておけ。いいな?」
「…………」
「よし、いい子だ。次の仕事が終わったらプレゼントをくれてやる」
小さくうなずいたリベルタの髪を撫でつけ、ガルシアは残ったもう一人の処理を任せ立ち去っていった。
ガルシアを見送った後で、リベルタはそっと意識を失っている男の背後にまわると、頸椎をへし折って息の根を止める…それから、工具箱の中から鋸をとりだし、死体の処理を始めるのだった。
それから数十日後、いつも通りガルシアと共にカルテルの仕事にリベルタは従事する。
その日の仕事は一風変わったもので、カルテルから預けられた人間を別な場所まで運んで置いてくること……それも生きている人間をだ。
黒塗りのSUVの助手席に座るリベルタは、時折後部座席にいる少女に目を向ける。
手足を縛られ、口はガムテープで塞がれている…衣服は乱れ乱暴を受けた跡があった…。
「気になるか? こいつが何でこうなっているか?」
「………」
リベルタは返事もせず、頷きもせず、ただガルシアの方を向いた。
「こいつはカルテルの賄賂を受け取らなかった捜査官の娘だ。かわいそうにな、学校帰りに拉致されて…男たちに
この国のもう一つの闇は、警察や軍隊における汚職だ。
カルテルは稼いだ金で警察や政治家らを買収し、捜査を誤魔化してもらったり、犯罪をもみ消したり、敵対するカルテルを潰してもらったりしている。深刻な汚職は社会問題になっているが、この問題に対し政府は無策だった……中には賄賂を受け取らず、毅然とする者もいたが、そういった輩はカルテルにとって邪魔者の敵でしかない。
カルテルの脅威は本人だけでなく、その家族や親戚にまで及ぶことがある。
拉致された娘は、哀れにもカルテルに目をつけられることになってしまったのだ。
カルテルの要望通り、ガルシアはスラム街に差し掛かると車を停めて、後部座席の少女を抱え小汚いスラムの住人の前に置いていく。スラムは完全に法が及ばない無法地帯、必然的に犯罪率も高い……そんな環境に若い女が捨てられればどうなるかは、分かり切ったことだろう。
そんなことは、ガルシアにとってどうでもいい事だった。
カネさえ手に入ればそれでよかった。
ガルシアが運転する車はそのままアジトに戻ると思われたが、途中のペットショップで停まる。
ガルシアに招かれてリベルタは車を降り、彼の後に続いてペットショップへと入っていった……そこでガルシアは適当な犬を見つけると、その場で購入する。犬種はシェパードだったが、まだ子犬で愛くるしさが残る。その子犬をリベルタに手渡した。
「プレゼントだ。今日からその子犬を育てろ、いいパートナーだろ?」
子犬を預けられたリベルタはじっと子犬を見つめる。
若干力が入ってしまい子犬は苦しそうにもがく…それを注意されて力を弱めると、リベルタは子犬を胸に抱く。腕の中で子犬はキャンキャンと鳴き、リベルタの顔に近付いてぺろぺろと舐める。
「早速懐いたみたいだな。リベルタ、オレはちょっと用事があるからアジトまでは歩いて帰れ、いいな?」
リベルタが頷くと、ガルシアはそのまま車を走らせてどこかへと去っていく。
一人になったリベルタは子犬を見下ろす…指先を子犬の口元へと近付けると、一心不乱にその指を舐めた。
「キャン! キャンキャン!!」
「……………」
「キャンキャン! クゥーン…?」
「……………」
「キャンキャン!!」
「……………キャンキャン…」
リベルタはわずかに口元を歪め、子犬を大切に抱えながら帰路についた。
シカリオ時代のリベルタドール(白目)、過去編ですね…ただ書いてみたかっただけです
過去編に登場するアンヘル・ガルシアは、6章でわーちゃんたちにぶっ殺されたカルテルのボスですね。
ちなみに、冒頭で出た