METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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ブラックライフルファミリー 前編

 蝶事件以後、民間軍事会社G&Kは人類の脅威となる鉄血に対処する活動を請け負ってその存在感を増していた。

 だがその後、新たな組織として台頭してきた国境なき軍隊(MSF)の存在や、欧州を蹂躙しつくした米軍侵攻部隊の影響からかグリフィンの仕事は最盛期に比較してその規模を縮小させていた。しかもグリフィンにとって存在意義に等しかった鉄血がどこか遠い、アフリカの方へ行ってしまったのだから仕事が少なくなってしまうのも仕方がない。

 今は元軍人であった経歴のクルーガーと軍とのコネによって、他社より贔屓にしてもらって仕事を得ているので、今すぐに衰退することは無いだろう。

 

 鉄血との戦いで最前線に立ち続けていたAR小隊のメンバーもまた、平和を謳歌しているわけではないが、以前ほどの忙しさはなくそれぞれのんびりと暮らしていた。M16は暇さえあれば酒を飲み、SOP2は常に新しい遊びを探究し、新メンバーのROは宿舎で本を読んで過ごす。

 だがそんな中で、隊長のM4はハッとして声をあげた。

 ほのぼのしていた中でいきなり奇声を上げたM4に、隊員たちの訝し気な視線が突き刺さる。

 

「これじゃあ、MSFでニートって呼ばれてたのと変わらないじゃないですか!!」

 

 思いだす…大嫌いな鉄血のクズ人形エグゼにニートニートとからかわれていた屈辱の日々を。M4は常日頃ニートを否定し、MSFにいた頃の自分の立場は、弱味を握られていたため仕方なくであり必要以上にMSFの業務を手伝うべきではないという主張を明確に示し続けていた。

 まあその弱味というのが、姉のM16の酒飲み代やその他もろもろの迷惑行為にともなう借金なのだが。

 その借金は返済し、無事グリフィンへ堂々帰還…米軍侵攻部隊を退け、これからもバリバリ仕事をこなして自らの存在理由を示してやろう。そう意気込みを見せていたのだが、最近はAR小隊にまわって来る任務は少ない。

 最近の仕事と言えば、16LABのペルシカにコーヒー豆買って来てと言われて買ってやった程度の仕事だ…要するに雑用しかやっていない。

 

 真面目で仕事熱心だと少なくとも自分はそう思うM4は、仕事が薄い状況を鑑み、上司であるヘリアンへ抗議をしに行った。

 

『AR小隊は死んじゃうとバックアップ取れない子ばっかだし、お前らの出撃コスト高いんだよこのやろう』

 

 若干ヘリアンが実際に言った言葉と相違があるが、だいたい似たようなことを言われたのである。

 だったらコストが上がらないように戦うと主張するM4であったが、AR小隊だけに構ってられないヘリアンは、強引にM4を執務室から叩きだす。

 

 

「まあまあ、暇なのは世の中平和な証拠だからいいじゃないか。リラックスして、一緒に飲もう」

 

「昼間からお酒なんて飲まないでくださいよ…戦いに出なくなった戦術人形に何の価値もないんですよ、分かっていますか姉さん?」

 

「確かに一理あるが、肩の力を抜きなよM4。まあ気持ちはわかる、グリフィンは今仕事が少ない状況だからね…仕事熱心なお前のために、求人票を持ってきてやったぞ」

 

「求人票って…私たち人形ですよ? まあ一応見てみますが…」

 

 姉をジト目で見つめつつ、求人票なるものを受け取った。

 内容は、よその民間軍事会社が戦術人形及び戦闘員を募集する内容の広告だ。人間だろうと人形だろうと問わず、能力のある者を評価しそれに見合った報酬を支払うとの条件が記載されている。その会社名は聞いたこともないような名前であったが、M4の目から見ても条件のいい内容だった。

 

「嘘かほんとか分からないですが、待遇が良さそうですね」

 

「だろ? お姉ちゃんに任せておけば何事もうまくいくってものさ…ささ、ここに隊長のサインをだな」

 

「まあいいですけど……ん?」

 

 M16が別に差し出した書類にサインをしようとする寸前、違和感に気付いたM4はペンを止める。書類の会社名が記載されている箇所をよく見れば、付箋のようなものが貼り付けられているではないか…おもむろに付箋を引っぺがしてみれば露わとなる、国境なき軍隊(MSF)の社名が。

 

「…………姉さん?」

 

「おっと、急用を思いだした」

 

「逃がしませんよ!?」

 

「ちっ…」

 

「今舌打ちしました? 妹の私に舌打ちしたんですか!? 最低です姉さん、そんな人だと思いませんでした!」

 

「まあ落ち着けよM4。ぶっちゃけMSFの生活もそう悪いもんじゃなかったろう? 美味い酒は飲めるし、ぐーたらしてても文句は言われないしさ」

 

「ええそうでしょうね! 嫌味とか文句は全部私にまわって来てましたからね! SOP2、こんな人見習っちゃダメよ!」

 

「え? でも私が借金返済してた時、M4も遊んでたよね?」

 

「…………急用を思いだしました」

 

 SOP2の一言で撃沈したM4。

 それはともかくとして、またMSFに戻るなど…第一にあの忌々しいエグゼに二度と会いたくない思いが強すぎるので却下だ。そんな彼女の思いが打ち砕かれることになろうとは、このときの彼女は夢にも思わなかっただろう…まあそれは別の話。

 AR小隊がギャーギャー騒いでいると、宿舎の扉が開かれる…やってきたのはペルシカだ。

 また雑用を押し付けられるのではと身構えるも、どうやら違った…いつになく真剣な表情でペルシカは言った。

 

「急なことで動揺すると思うけど……行方不明だったAR-15の目撃情報が報告されたわ。彼女を捜しに向かってちょうだい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 AR小隊の隊員であるAR-15が消息不明になってからずいぶんと経っていたが、M4を含めAR小隊の隊員たちが彼女のことを忘れたことなど片時もなかった。AR小隊が、MSFと鉄血勢力と衝突した無人地帯(ノーマンズランド)での出来事の少し前、鉄血のアルケミストによる攻撃でAR-15は戦死…彼女の死が確認されたわけではないが、規定によりそう結論づけられたのだった。

 だが、ある情報筋によってAR-15に酷似した人物が目撃されたとの報告が16LABのペルシカに届けられたのだ。

 

 信頼性は低い……AR-15が行方不明となり、そして死亡認定されてから時間が経ち過ぎている。だがM4は、AR小隊の隊員たちはペルシカの報告を聞いてすぐに、彼女が目撃されたという町にまで向かっていた。

 

 目撃された場所は彼女が戦死したとされるS08地区から遠い場所、都会の喧騒から隔絶された山間の長閑な町であった。グリフィンの管轄下にないその場所に立ち入るにあたり、少しの手続きを経た上で訪れたAR小隊は、まず町の住人たちに聞きこみを行った。 

 AR-15の写真を手に聞きこみを行えば、すぐに確かな証言を得られることが出来た。

 

「ああこの子なら知ってるよ。うちの雑貨屋に時々来るんだ。礼儀正しくていい子だよ…名前は確か、アンナといったか」

 

「アンナ? えっと、この人はどこに住んでいるのですか?」

 

「詳しい場所は分からないけど、町の外の小さな農場でフランコって爺さんと二人暮らししてたはずだ。ところで、お嬢さんはどうしてこの子を?」

 

「えっと、彼女の友だちでして…」

 

 店主の問いかけを適当にはぐらかし、M4はすぐにみんなを集めると得られた情報からAR-15がいる場所を割り当て、すぐさまその場所へと向かうのだった。

 町を離れ、緩やかな丘陵地帯にある農場へと向かう。

 草原に放牧されている牛を横目に丘の上に立つ家屋を目指し歩みを進めていると、家の中から一人の少女が出てくるのが見えた……薄桃色の髪を揺らしながら庭に歩いていく少女を見たM4は咄嗟に走りだし、M16や他のみんなもその後を追いかけていく。

 

 丘の頂上に立つ家屋まで全力で走って行ったM4は、仕切りの柵で立ち止まる…家の庭で洗濯物を干す少女の姿は、あの日離れ離れになったAR-15に間違いはなかった。服装が違い雰囲気も変わっているが、その横顔は確かに彼女と同じ…見間違えるはずなどなかった。

 柵の外で立ち尽くすM4に気付いたらしい、彼女は少し驚いた表情を浮かべると小さく会釈してきた。

 

「あ、こんにちは。あの、何かご用ですか?」

 

 彼女の言葉に違和感を感じながらも、M4は仕切りを開き庭の中へと足を踏み入れる…自分を真っ直ぐに見つめながら向かってくるM4に、彼女は困惑していた。彼女の目の前まで来ると、M4は声を絞り出す。

 

「AR-15、生きてたのね……」

 

「あ、あの……どちら様ですか?」

 

「何を言っているのAR-15? 私のことを忘れたの? ほら、M16姉さんやSOP2もいます」

 

「失礼ですが、人違いでは…? 私はアンナという名で――――」

 

「ふざけないでAR-15! どれだけあなたの事を捜したと思ってるの!? 生きてたならどうして連絡をしてくれなかったの、AR-15!」

 

「ちょっ、止めてください! いきなり来て何なんですかあなたは!?」

 

 しらを切る少女に業を煮やしたM4は彼女の両肩を掴んで怒鳴りつける。

 だが少女はM4のことなど知らないと言いきる……庭の騒ぎを聞いてか、家の玄関が開かれて義手と義足をつけた老人が一人杖を突きながら姿を現した。その姿を見て固まったM4を、少女は突き飛ばし、老人の隣にまで走っていく。

 

「アンナ、どうしたんだい?」

 

「おじいちゃん、この人変なの! いきなり来てわけの分からないこと言って来て…!」

 

「待ってAR-15、本当に私のことが分からないの!? ふざけているのならいい加減にして!」

 

「いい加減にするのはあなたの方よ! 私はあなたの事なんか知らないんだから! これ以上付きまとってくるなら、警察を呼びますよ!?」

 

「違う、AR-15…私は、本当に…!」

 

「止せM4」

 

 突き飛ばされたM4はなおも呼びかけるが、姉のM16がそれを遮り、老人の方へと向いた。

 

「ご老人、いきなりの訪問大変申し訳ない。だが話したいことがあるんだ、後日落ち着いてもう一度話しあえる機会を設けていただけないだろうか?」

 

 なるべく事を荒立たせないよう、M16は老人に対し語りかけると彼は小さくうなずいた。

 それを見てM16は目を伏せて礼を伝え、呆然とするM4を立たせて農場を去っていく。

 

 

「なんなのあの人たち……おじいちゃん、警察に相談しましょ?」

 

「アンナ、家に入ってなさい…大丈夫だから」

 

「うん。でも、洗濯物が干し終えてないわ……はぁ、折角いい天気で気持ちが良かったのに…」

 

 ため息をこぼし、半端だった洗濯物を干していく少女……老人は丘を下っていくAR小隊を、どこか物憂げな表情で見つめていた。




以前から予告していたAR-15復活回


記憶を失くしていると思われる彼女に一体何があったのか…。

ちょっとしんみりする話の予定です

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