METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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トルーパー隊を救出せよ!

 MSFでは独自の研究開発チームを有し、武器兵器その他装備品の開発に力を入れており、鹵獲した戦闘車両やこの世界の戦術人形を独自に解析して新兵器を造りだすと言う何気に一PMCとは思えない芸当をやってのける。

 その結果として戦車に匹敵する稼働数を誇る月光やその他無人兵器、一機だけではあるが米軍主力戦車マクスウェルの運用があげられる。これら開発された兵器のアップグレードも、チームの重要な任務の一つだ。

 そしてもう一つ、忘れてはならないのがMSFの戦力の中核的存在であるヘイブン・トルーパーだ。

 元々はエグゼが管轄下に置いていた鉄血の工場を接収し、オーガスプロトコルを切り離したうえで造りだされたほとんど鉄血人形と変わらない存在だったのが、MSFが独自の改良をくわえて今や別物の存在となっていた。

 

 一般的なトルーパーはその特徴的とも言える耐衝撃性に優れたヘルメットと強化服を装備している他、兵種によってはより防御力に優れたバトルドレスや柔軟性及び隠密性に長けるスニーキングスーツを装備する。MSFの方針として他の多くの戦術人形と同様、彼女たちは経験から学ぶことを重視され、MSF独自の人工知能を有する。

 MSFの先遣隊として度々戦地に派遣される彼女たちは時に大きな犠牲を生むこともあり、死傷率は大きい…が、幾多の困難と戦闘を経験したベテランのトルーパーは時にI.O.Pのエリート戦術人形をも超える戦闘能力を身につけるのだ。

 

 第一歩兵大隊を指揮するスプリングフィールドには、そう言った数々の激戦を生き抜き、優秀な兵士として成長したトルーパーが大隊隷下の2個中隊を指揮していた。

 冷静沈着にして部下からの信頼も厚い【キャプテン・レックス】、勇猛果敢で恐れ知らずな【キャプテン・ブルズアイ】の二人だ。二人はMSFがまだ今のような名声を手に入れる以前、ユーゴ紛争時から活躍し続ける古参のトルーパーであった。

 以前まではトルーパーの新兵教育はエグゼが担っていたが、負担軽減からそれは各大隊長に回され、今ではその下の中隊長クラスのトルーパーが新兵訓練を担う。

 前哨基地や他の訓練施設には実力を発揮したくてうずうずしている新兵たちが毎月のようにやって来ては、そこで上官の手によって一人前の兵士に鍛え上げられてから戦地に送られる…。

 

 

 

「お呼びですか、大隊長?」

 

 ある日のこと、キャプテン・レックスは上官であるスプリングフィールドに呼び出されて彼女の宿舎へと足を運ぶ。ヘルメットを外したレックスは他のトルーパーと全く一緒の顔立ちをしているが、眉からあごにかけて長い傷痕が刻み込まれている。

 その他にもレックスは髪を銀髪に染め蒼いメッシュを入れて個性を出しているが、ベテラントルーパーの中には身だしなみに気をつかって個性を出そうとしたり名前を身につけたりする者もいる…名前を持ったトルーパーは製造番号で呼ばれることを嫌う節があり、その場合不快感を見せる場合もあるのだ。

 

「レックス、新しい任務です。すぐに中隊を集めて欲しいのです」

 

「了解です、大隊長。それで、任務の内容は?」

 

「任務にあたっていたブルズアイが救援要請をしてきました。どうやらハイブリッドの奇襲を受けたようです」

 

「ブルズアイ、あいつには慎重に動くように言ったんですがね…分かりました大隊長、すぐに救援部隊を編成します」

 

「よろしくお願いしますレックス、私も一緒に行きます」

 

「心強い限りです、大隊長」

 

 微かに笑みを浮かべたレックスに対し、スプリングフィールドも微笑みかける。

 それからレックスはスプリングフィールドに続く形で宿舎を出ると、すぐ外で待機していた部下のトルーパーに指示を出して部隊を招集させる。

 

「それで、ブルズアイはまた何を? 確か奴に任された任務は偵察任務だけだったのでは?」

 

「確かにキャプテン・ブルズアイの任務は偵察でしたが、予想外の敵と遭遇しやむなく戦闘になったという連絡がありました」

 

「お言葉ですが大隊長…ヤツはその…好んで危険に飛び込んで行ったのでは?」

 

 レックスの指摘にスプリングフィールドも思うことはあるのだろう、困ったような表情を浮かべて腕を組む。

 

「考えられますね…助けた後はちょっと、お話をしなければなりません」

 

「そうしてください。恐れ知らずなのは良いことですが、少しお灸をすえないとつけあがりますからね……では大隊長、私はこれで。すぐに部隊を編成します」

 

「よろしくお願いします。情報では敵に装甲兵器もあるとのことですので、対装甲用の装備もぬかりなく」

 

「Yes, ma'am」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃棄された鉄血工場、欧州に残存する米軍残党の戦力、コーラップス液とそれを代謝するメタリックアーキアの複雑な融合によって偶発的に誕生した【ハイブリッド】と呼ばれる敵対勢力。人間にはコーラップス液による汚染を広め、人形には電子ウイルスを感染させることが可能な極めて危険な存在だ。

 ハイブリッドは基本的に群れを形成して徘徊するだけだが、時に人間社会に近付き被害をもたらす…今のところ軍やPMCの活動により一応封じ込められているが、基本的に地下に潜伏するハイブリッドを殲滅することは難しい。

 ましてやハイブリッドを構成するのは高性能な米軍戦術人形や装甲兵器であり、高度な戦術をとらなくても脅威となる…。

 

 そして気掛かりなのは、先日UMP45が遭遇した未知のハイエンドモデルたち…ハイブリッドの闊歩する領域内で遺物を運搬し、不可解な行動を起こす彼女たちをUMP45は今でも調査している。

 

 今回のキャプテン・ブルズアイの偵察任務は、それに関連するものであった。

 

 

 ブルズアイの残した最後の座標にヘリを着陸させ、スプリングフィールドとレックス率いる救助隊は周囲に展開する。

 

「ブルズアイ、こちらレックス。聞こえるか、応答せよ」

 

 周囲に気を配りつつ、レックスはブルズアイに連絡を呼びかける…返事は直ぐに返ってきたが、真っ先に聞こえてきたのは銃声や爆音などの戦闘音であった。

 

『やっと来たかレックス、悪いがさっさと迎えに来てくれ。敵さんがうようよいるんだ!』

 

「ブルズアイ、無鉄砲な奴め! 今どこにいる、座標を送れ!」

 

『エリア19-E、ポイント637だ! クソ、悪いが留まってもいられないんでな! 移動させてもらう!』

 

「すぐに迎えに行く! くたばるんじゃないぞ!」

 

 悪態をこぼすブルズアイとの通信を切ったレックスにすぐさま指示を出し、スプリングフィールドは部隊を移動させる。荒れ果てた大地を駆け抜け、途中遭遇する小規模な感染者たちの群れにも遭遇するが、これまでに何度も交戦経験のあるスプリングフィールドとレックスには大した脅威ではない。

 群れの中にELIDの変異体が存在していれば話は別であったが、幸いにも変異体はおらず、感染者たちを殲滅させて彼女たちはブルズアイが敵と交戦するエリアに飛び込んで行った。

 

「ブルズアイ、ブルズアイ! 救援に来ましたよ!」

 

『大隊長!? まさか大隊長がお越しになるとは…!』

 

「お説教は後です!現在地を教えなさい!」

 

『了解、シグナルを送ります!』

 

 送られてきたシグナルの位置情報からスプリングフィールドはブルズアイがいるであろうビルの廃墟を見やる。

 ビルの廃墟には激しい銃撃と砲撃が撃ちこまれ、ビルの上階からブルズアイ率いる部隊が懸命な反撃を行っているのが見える。

 スプリングフィールドとレックスは敵の背後に素早く迂回するべく路地裏を駆け抜ける。

 強化服による身体強化をなされているトルーパーたちは建物を跳び越え、真っ直ぐに突き抜けていき、狙い通りビルを狙うハイブリッドたちの背後をとった。敵の編成は軽歩兵が占め、重装戦術人形ジャガーノートが2体ほど確認できた。

 

「よし、やつらに目にもの見せてやれ!」

 

 レックスの指示でロケットランチャーを装備したトルーパーが配置につき、彼女の合図と共に一斉に敵のジャガーノートへとロケット弾が撃ちこまれる。無防備な背後にロケット弾の一撃を受けたジャガーノートは一瞬で撃破され、奇襲に気付いた他の歩兵たちもレックスらの攻撃によってほとんど一方的に撃破されていく。

 しかしまだ脅威は消えていない…ビル一階部分の入り口付近には、中へ入り込もうとする感染者の群れがおり、その中にはひと際大きな体躯のELIDの姿があった。

 

「厄介ですね、どうしますか大隊長?」

 

「見たところ変異の初期段階…強敵ではありますが、倒すことは可能なはずです!」

 

「了解、聞いたなお前たち! あのデカブツをぶっ潰すぞ!」

 

 レックスは部下を鼓舞し、今しがた殲滅したばかりのハイブリッド達の残骸を踏み越えて感染者たちの背後から攻撃を仕掛けた。多くの感染者は奇襲攻撃によって殺すことは出来たが、変異体は唸り声をあげてスプリングフィールドらへと向き直る。

 振り向いた変異体にロケット弾が直撃し、爆発によって変異体の大きな身体が傾くが倒しきれず、大きな咆哮をあげて突っ込んでくる。

 

 ELID変異体は銃撃をものともせずにトルーパーの一人を捕まえると、いとも簡単に身体を引き千切る。

 硬質化した肌に小口径の弾丸では歯が立たず、レックスらは距離をとって攻撃する……しかし変異体の咆哮によって周囲から引き寄せられた感染者がレックスらに襲い掛かる。廃墟のあちこちから姿を現す感染者たちに気をとられたトルーパーの何人かが、変異体の投げ飛ばしてきた瓦礫に押し潰されて殺される。

 

「怯むな! ロケット弾を集中的にあびせなさい!」

 

 スプリングフィールドが前方に出て変異体へ銃撃、その注意を引きつけている間にロケットランチャーを装備したトルーパーらが位置につき、変異体へと多数のロケット弾を命中させた。さしもの変異体も何発ものロケット弾を受ければ無事では済まず、ついにその巨体が崩れ落ちた。

 その後のこった感染者たちを駆逐し、ようやくエリア一帯に静けさが取り戻された。

 

「やりましたね、大隊長…」

 

「皆さんの努力のおかげです…それにしてもやはりELIDは恐ろしい…」

 

「私も同じ気持ちです、大隊長…」

 

 

 その場で一息ついていると、突然上階からガラスが叩き割られる音が鳴り、次の瞬間、彼女たちの目の前に感染者が墜落してきた。スプリングフィールドとレックスが揃って上を見上げれば、ビルの上階からキャプテン・ブルズアイとその部下が見下ろしている姿があった。

 

 

「大隊長! 救援感謝します!」

 

「ブルズアイ! 貴様さっさと降りて来い、話すことが山ほどあるぞ!」

 

 

 拳を振り上げながらレックスがそう怒鳴りつけると、ブルズアイはビルの内部に姿を消した…そこから待つこと数分、ようやくブルズアイが姿を見せたが、彼女の後に続く負傷したトルーパーたちを見た時、レックスの怒りは消えていく。

 

「何があったんだブルズアイ?」

 

「きっとあたしが敵に突っ込んでったと思ってたんだろうが、そうじゃない。奴らの数は予想以上に多い、安全なルートのほとんどが危険エリアに変わっている…データを更新しなきゃならない」

 

「それは、厄介だな…」

 

「まったくだよ……大隊長、ご迷惑をおかけして申し訳ない。生き残ったのは、これだけです」

 

「いいえ、気に病む必要はありません。あなたの無事が確認できて何よりです」

 

「感謝します、大隊長……レックス、折角だから帰ったら酒をおごってくれ」

 

「ふざけるな、お前がおごれ」

 

 この期に及んで軽口を叩くブルズアイの肩を軽く殴り、レックスは迎えのヘリが来る間周囲の警戒にあたるのだった…。




おひさ~

今回はモブキャラのヘイブン・トルーパーにネームドキャラを登場させて見たよ!
だいぶ、というかもろにクローン・ウォーズの影響を受けちゃってますねw
しゃーない


というわけで軽い紹介を


・キャプテン・レックス
ユーゴ戦役から活動するベテラントルーパーの一人で、スプリングフィールドの優秀な部下として中隊を率いる。
冷静沈着であるが情に厚く、部下や仲間たちから慕われている他、優れたリーダーシップによって数々の戦いを勝利に導いてきた。
上官であるスプリングフィールドやエグゼを尊敬しており、命令には忠実だが、自らの意見を出すこともある。
素顔は他のトルーパーと一緒だが、眉から頬にかけて傷痕があり、肩まで伸ばした銀髪に蒼いメッシュを入れている。


・キャプテン・ブルズアイ
レックス同様ユーゴ戦役から活動するベテラントルーパーの一人。
レックスとは反対に勇猛果敢、好戦的な性格をしておりスプリングフィールド率いる第一歩兵大隊の突撃部隊を自称している。
重装甲のバトルドレスと威力の高い重火器を好む。
よくスプリングフィールドやレックスにその攻撃的な性格を心配されるが、命令違反などは決してしない。
戦闘に勝利するたび自分のヘルメットに印を刻む癖がある。
ブルズアイは個性を出すために、首筋に猛牛のタトゥーを入れており、髪を赤く染めている。

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